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-件のコメント

[C153]

ちょ、黒いです!
なんて言いますかトラウマになりそうなものばかりが多くてR指定が入るんじゃないかとひやひやしましたw
でも涼香さんも無茶しますね~ww
普通の人が入ったなら確実に精神崩壊しますよ……
特に白いのが出てきた辺りはきついですね…・・・
  • 2008-09-22
  • 投稿者 : 羽
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[C154]

全体的に密度が濃い、良い内容でした
とても読み応えがありました、最後までどんな終わり方をするのだろうと考えさせられる感じ...
最後の幽霧と紅い女性とのユニゾンも謎を残す意味深なフラグにも見えてしまいました
雪奈さん、お疲れ様です
  • 2008-09-23
  • 投稿者 : 恭也
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「涼香様への残暑見舞いver.2」後編

こんばんは。雪奈・長月です。

今夜は日曜日。
現在、涼香様の時空管理局ラジオ進行中!
自身の身体をご自愛ください。

というかまず先に私自身の精神をご自愛しないといけないですかね・・・・・

うん。先週から後編と銘打っちゃったので必死です。
この一週間を「涼香様への残暑見舞いver.2」の後編に尽くしてきました。
ちゃんとしたフィナーレを迎えれることを祈る限りです。
さて、コメント返しの時間です。





コメント返し⑨
「雪奈様の言った「ツェチェリカとしての~」が、気になりますよー
 真実がわかるまで私なりに考えてみます、とゆうか妄想?」
 ・妄想? 色々と読み直してください。もしかしたら新しい発見があるかもしれませんよ。

  作者である私に「○○ならないように○○して欲しい」や「○○に○○して欲しい」というコメントがあればありがたいです。
  中にはある期限までに何かに気づくコメントが必要な場合があります。一定人数が気づかないという事でシナリオが変わる時がありますからね・・・・・・・


では、問題の本編。
「涼香様への残暑見舞いver.2」後編に入ります







「涼香様への残暑見舞いver.2」 後編

 ギンガのはいている下駄が快い音を立てる。
 二人は夏祭りの会場までのんびりと歩いていた。
 楽しそうに腕を振りながらギンガは呟いた。
「……楽しみですね。夏祭り」
「そうですね」
 妙にウキウキしているギンガを微笑ましそうに見る涼香。その顔は微かに申し訳なさを感じているようにも見えた。
「涼香さん?」
 ギンガにもその気持ちが伝わったのだろう。急に立ち止まってしまう。
 立ち止まったギンガの手を離す涼香。そして頭を下げた。
「ごめんなさい……ギンガさん。その……振り回してしまうだけで、一緒にいられなくて……」
 頭を下げる涼香へ歩み寄ったギンガはそのまま涼香の腕を抱きしめた。
 驚く涼香にギンガは優しく微笑みながら言った。
「思い出は今から作ればいいのですから……ゆっくりと……」
 ギンガは顔を赤らめてうつむく。ちょっと、恥ずかしかったようだ。
 涼香もいきなりの告白で少し顔を赤くする。
 そのまま二人は顔を赤らめたまま、黙って歩いた。
 無言で歩く涼香とギンガの周囲で聞こえるのは下駄の音だけであった。



 ギンガが涼香の腕に抱きついた状態で会場の一部である繁華街に着く。
 今夜は夏祭りの最終日だからか、二日前に来た時より屋台が多かった。
 抱きつかれている状態に慣れたのか、涼香は平然とした顔でギンガに尋ねる。
「今日は何から行きますか?」
「この前はお好み焼きを食べたので……あっ! あそこのりんごアメとかどうですか!」
 涼香から腕を解き、りんごアメの屋台に走っていくギンガ。
 走っていく後姿を眺めながら涼香もゆっくりとついて行く。
「すみませ~ん。りんごアメを一つお願いします」
「あいよ!」
 くたびれたシャツを着、額にタオルを巻いた男は威勢の良い声をあげる。そして発泡スチロールに刺さった棒付きのりんごアメを抜く。
「まいどありぃ」
 勘定を払ったギンガに男はニヤリと笑い、涼香の方も向いて親指を立てた。
 親指を立てる男に涼香は少し照れくさそうに笑顔を浮かべた。
 そのまま二人は周囲の屋台を眺めながら歩く。
「涼香さん。このりんごアメ、甘くて美味しいですよ」
 ギンガは涼香にかじっていたりんごアメを差し出す。
 食べろと言うことだろうと思った涼香はりんごアメをかじる。確かにギンガの言う通り、それは甘くて美味しかった。
 ちょうど涼香がかじった部分に唇を寄せるギンガ。
「ん……これで間接キスですね」
 片腕を涼香の腕に絡ませながらギンガは楽しそうに唇をほころばせた。
 涼香は楽しげに笑うギンガから紅潮した顔をそらした。



「この前も食べましたが、綿飴とかどうですか?」
「またですか。でも……悪くはないですね」
 涼香は小さく笑い、ギンガと共に近くの屋台へと歩く。
「すみません。綿飴一つ下さい。」
「あいよ! ん……どっかで見た事があるような……」
 じっとギンガを見つめる綿飴屋のオヤジ。
 涼香も綿飴屋のオヤジをどこかで見たような気がした。
 笑顔を浮かべながらギンガは綿飴屋のオヤジに言い放つ。
「きっと気のせいですよ」
「がっはははははは! 俺についに年か~!」
 ギンガの発言に、綿飴屋のオヤジは豪快に笑う。
「よし! お嬢ちゃんは綺麗だから大きいやつを作ってやろう」
「ありがとうございます」
 豪快に笑う綿飴屋のオヤジにギンガは微笑みながら礼を言う。
「はっはっ! 綺麗なお嬢ちゃんにサービスさせてくれたって良いだろうがぁ」
 そう言って綿飴屋のオヤジは人の頭大位はありそうな綿飴をギンガに差し出す。
 何故か綿飴屋のオヤジは屋台から通りに回り、後ろから涼香の首に腕を回しながら囁いた。
「お兄ちゃん。器量も心も良い嬢ちゃんを持ったな。絶対にお嬢ちゃんの手を離さずに、大事にしろよ」
 涼香は綿飴屋のオヤジに笑いかける。
「絶対に手を離しませんよ。離すとしたら……私が死ぬときですよ」
「はっはっはっ! 良い答えじゃないか! それでこそ漢だ。お兄ちゃん!」
 その言葉に感激したのか、綿飴屋のオヤジは笑いながら豪快に涼香の背中を叩く。
 背中を叩かれる涼香の顔は少し痛そうだ。
 涼香とギンガは綿飴屋のオヤジに見送られて、綿飴の屋台から離れた。
「……涼香さん」
 綿飴屋のオヤジに叩かれた背中を撫でる涼香に、ギンガが話しかける。
「いてて・・・・・何ですか?」
「あ~ん」
 ギンガは綿飴を大きくちぎって、涼香の口の前に差し出す。
 涼香は少し恥ずかしいが、口を開ける。
 ギンガは涼香の口の中に大きくちぎった綿飴を入れる。
 口の中で綿飴が甘く溶ける。
「どうですか?涼香さん。美味しいですか?」
「やっぱり甘いですね」
 口に広がる甘さに幸せそうな顔をする涼香。
 ギンガはそんな涼香を見て、微笑んだ。



 ギンガは自身の人差し指をじっと見ていた。
 正確には、若干の湿り気を帯びている部分を。
「……」
 しばし人差し指を見つめ、ややあってから緩々と持ち上げるようにして顔の高さまで掲げる。
 さっきまでこの人差し指がどこに触れていたのか、それが頭の中で急流のように渦巻いていく。
 この人差し指をさっきまで涼香の口に突っ込んでいた。
 その感触も体温も鮮明に覚えている。
 ギンガは身体の芯が疼いてくるのを感じた。
 同時に心臓の鼓動も早くなっていく。
 ギンガは微かに湿り気のある指を見ながら思う。
 どんな事があってもやっぱり涼香が好きで好きでしょうがない。
 数分前に涼香の口に突っ込んだ指を自分の唇に当てる。
 それも、さっきまで涼香が咥えていた人差し指。
 これってやっぱり関節キスになるのかなとギンガは考えた。
 そしてギンガは一人、顔を赤らめて笑う。その顔はとても幸せそうだ。
「……ギンガさん?」
 クスクス笑うギンガを不思議そうに見る涼香。
 そんな涼香を可愛いとギンガは思った。
「ふふ……何でもありません!」



「そろそろ、お腹が空きましたね。」
 涼香のお腹が、はにゃ~んと鳴く。それはもはや、人間の腹の音じゃなかった。
「そうですね。」
 ギンガのお腹も、きゅうぅと可愛い音を鳴らす。
「じゃあ、あのお店に入りますか。」
 涼香が指差したお店は『居酒屋「覇道軒」』。
「……」
 看板に書かれた名前に硬直する涼香。
 まさか『居酒屋「覇道軒」』がここにもあるとは思わなかったからだ。
「……入りましょうか」
「はい……そうですね」
 とりあえず、二人は「覇道軒」に入る。
 店の中は名前とは反して、中華飯店みたいな感じだった。
 ここも何故か虎の敷物ならぬ、パンダの敷物があったが。
 メニュー表に書かれた料理名も相変わらず意味の分からないものが多かった。
 ひとまず焼鳥とお茶漬けを注文する。
 数分後には注文した料理が運ばれてきた。
 涼香は一瞬、目の前の料理が手抜きかインスタントではないかと考えてしまった。
 頼んだお茶漬けは混ぜ混みご飯とつゆが別々であった。
 店員の説明によると、混ぜ込みご飯をある程度楽しんだ後にダシを取ったつゆでお茶漬けにするらしい。
 二人は焼き鳥を食べながら、その混ぜ込みご飯を食べてみる。
 たけのこと雑穀が混ざったご飯はとても美味しかった。
 焼き鳥も絶妙な火加減と塩加減で美味しい。
「美味しいですね」
 涼香は頬にご飯粒をつけながら言う。
「ほっぺにご飯がついてますよ」
 苦笑しながらギンガは顔を寄せた。
 急に顔を寄せてきたギンガに涼香は硬直する。
 そしてギンガは涼香の頬についた米を舐め取った。
 涼香はおろか、周囲にいた店員たちや客たちもギンガの行動で硬直した。
 一気に全員の視点が二人へ集中した。
「……そろそろ出ましょうか」
「そっ……そうですね」



 勘定を払い、慌てて『居酒屋「覇道軒」』を出た二人。
「ギンガさん!」
「だって……ほっぺにご飯粒をつけた涼香さんが可愛かったんですもの」
 頬を紅潮させながら微笑むギンガに涼香は何も言えなくなる。
 ギンガは硬直する涼香の手を引きながら屋台へ向かう。
「デザートにチョコバナナはどうですか?」
「私は……いいです……胸というか……お腹一杯です……」
 そこで涼香から手を放し、ギンガはチョコバナナの屋台へ走っていく。 
 走っていくギンガの背中を見ながら涼香は呟いた。
「あの顔でそれは……反則ですよ……」
 しばらくしてからギンガは買ったチョコバナナを持って戻ってきた。
 そのチョコバナナはとても大きくて、ちょっと艶っぽい黒の光沢があった。
「それ……何ですか?」
「? チョコバナナですが?」
 涼香はそんな大きくて光沢のある黒いチョコバナナは有り得ないだろうと思った。
 それ以前にそのチョコバナナがどこかの成人雑誌で見るようなやばい物体に見えた。
 チョコバナナの屋台を見ると、店主らしき女性が凄く頑張りましたと言う様な良い笑顔を浮かべていた。
 本気で涼香は黒くて光沢のあるチョコバナナを作る屋台の人を尊敬しそうになった。
「ん……意外と食べにくいです……」
 チョコバナナを口いっぱいにほおばるギンガ。
 その姿は涼香の脳裏に夜の情事風景を思い出させた。
 よだれをまき散らしてよがり狂う白い肢体。
 いきり立った性欲を煽るような卑猥な水音。
 脳みそに溶けてしまうような甘い嬌声。
 灼熱を思わせるような熱。
 そして涼香の腕の中で甘い声を上げながら悶える恋人。
 涼香は鼻の奥で何かが破れた感覚と自身の下半身の一部が熱くなっていくのを感じた。
「……涼香さん?」
 奇妙な動きを見せる涼香を不審に思ったのだろう。ギンガが涼香に話しかけた。
 コーティングしていたチョコレートが溶けたのだろう。
 ギンガの口の周りはチョコレートでベタベタになっていた。
「だっ……大丈夫です」
 鼻を押さえながら涼香は答える。しかしその妄想は減速するどころか加速していく。
 きっと涼香の脳裏には溶けたチョコレートの代わりに白い液体でベタベタに犯されているギンガの顔が浮かんでいるのだろう。
「本当に大丈夫なんですか?」
 不信感は拭えていないギンガは更に詰め寄る。
 ついに涼香とギンガの身体が密着した。
 存在を出張している下半身の硬い感触でギンガはやっと気づく。
 そしてギンガは涼香にしただれかかりながら耳もとで囁いた。
「……りょうかさんの……えっち」



「……」
「……」
 涼香とギンガは目の前の光景に唖然としていた。
 雪奈から渡された紙片に書かれた場所へと来た二人。
 目の前には、長蛇の列があった。
 人気の屋台という理由で長蛇の列が出来ているのは分かる。 
「あんっ♪」
 しかし、屋台の中からそんな悩ましげな声が絶えず聞こえてくるのは何故だろうか。
 向こうから聞こえてくる声と雪奈の思惑に涼香とギンガの額から嫌な冷や汗が止まる事無く流れる。
 かなり前のお化け屋敷と言い、今回と言い、あの腹黒い仕掛け人は何を狙っているのだろうかと二人は思った。
「とりあえず……並びましょうか」
「……そうですね」
 とりあえず、二人は列の最後尾に並ぶ。
 並んでから約三十分後
 二人はどうにか屋台の入り口まで来ていた。
「ふっ……あん♪ らめぇ……」
 相変わらず屋台からはうるさい位の阿鼻叫喚が聞こえる。
 いや、むしろさっきよりまずい感じになっていた。
 入り口では雪奈が受付をしていた。
「こんばんは。ちゃんと来て下さったようですね」
 格好は数時間前と同じように群青色の甚平を着用していた。
 顔には笑みが浮かんでいるが、目は全く笑っていない。
 その身体から放たれる空気も尋常ではなかった。
 明らかにろくでもない事を考えているようにしか思えない。
「これ……一体、何なのですか?」
 今でも悩ましげな声しか聞こえない屋台を見ながら涼香は訊ねる。
 雪奈は黒い笑顔を浮かべながら答えた。
「諜報部局員の個人スキルと開発部・技術部のスペックを結集したビックリハウス『ハッピーワールド』です!」
「らめえぇぇぇぇぇ!」
 拳を握りながら語る雪奈。それと一緒に何かが絶頂へ達したような悩ましい声が聞こえてきた。
「ちなみにこのビックリハウス……正午から開始しているのですが、まだクリアした方がいないそうです♪」
「めちゃくちゃ危ないじゃないですか!」
 今も目は笑っていないが良い笑顔を浮かべる雪奈に涼香は突っ込みを入れた。
「まぁまぁ、入って下さい♪」
「ちょっ!」
「雪奈さん!?」
 二人を屋台の中に押し込む雪奈。
 そして涼香とギンガは『ハッピーワールド』の中へ入っていった。
「ふふふ……あなた達はクリア出来るでしょうか?」



 屋台『ハッピーワールド』の中は前後が分からないくらい真っ暗であった。
 分かるのはお互いの息遣いのみ。
 隣にいるギンガは涼香に小さく言った。
「涼香さん……手…握って……いいですか……?」
 その声からも不安そうな気持ちが伝わってきた。
 涼香は何も言わず、ギンガの手を握る。その手は柔らかくて温かい。
「涼香さん……手、繋いでて下さいね。離しちゃやですよ?」
 ギンガの心細そうな声で言った。
「分かってますよ。じゃあ、行きましょうか。」
 涼香は手を強く握った。ギンガも握り返した。
 かなり前にも似た事があったような気がすると涼香は思った。
 そして二人は暗闇を歩きだした。
 二人もしばらく歩いて目が慣れてきたらしく、見えるようになってきた。
 同時に阿鼻叫喚が様々な所から聞こえてきた。
 そのつんざくような叫びで耳が痛くなってしまいそうであった。
 外で聞こえてきた悩ましげな甘い声とは大違いだ。
 歩いている内に二人は墓場らしきところに出た。
 室内であるはずなのに生暖かい風が吹いている。
 いきなり向こうから何かが飛来し、涼香の顔にぶつかる。ちょっと、ヌルッとしていた。
 突然の事に涼香は悲鳴を上げそうになったが、ギンガの手を引いて歩いていく。
 またナニカが飛来してきた。
 涼香はそれにかぶりついた。
 その物体は歯ごたえがあり、プルルンとしていた。
 どうやら、こんにゃくだったようだ。
 二人はまた、歩き出した。



「涼香さん……何食べているんですか?」
「ん?飛来してきたこんにゃく」
 なにやら口を動かしている涼香にギンガは尋ねる。
「お腹を壊しますよ」
 こんにゃくを食べている涼香に溜め息をつくギンガ。
「大丈夫です」
 口にあるこんにゃくを咀嚼しながら楽しそうに握っている手を振る涼香。
 涼香はそう言うが、ギンガはおなかを壊さないかが心配であった。
 しかし、同時にさっきまで渦巻いていた不安が少し無くなっていた。
 しばらく墓場を歩いていると突然、前の地面が盛り上がる。
 そして、
「ぶるわぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!」
 ジェイソンのお面をかぶった男が現れた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 いきなり出てきて、接近してきた男に叫ぶギンガ。
 一瞬にして理性が吹き飛び、迫り来る男を排除しなければならないという本能だけが残る。
 そしてその結果、ギンガは男に飛び膝蹴りを叩き込んだ。それも器用に涼香の手を握ったままでだ。
 ギンガに飛び膝蹴りをされた男は奇妙な断末魔を残し、放物線を描きながら墓場の影に落ちた。
 しかしそれに全く気づかずに叫びながら走るギンガ。
 涼香はギンガに引っ張られながらも、飛び膝蹴りされた男に同情した。



 まるでBGMのように聞こえてくる阿鼻叫喚には歩いているうちに馴れたが、二人の鼓動は止まるどころか高鳴りっぱなしであった。
 ゾンビに扮した脅かし役のスタッフにも熱意やプライドがあるらしく、容赦なく襲ってきた。
 いきなり背後から追いかけてきたり、地面から這い出てきたりと、どこから襲ってくるか分からない恐怖と襲って来た時の驚きで心肺停止してもおかしくなかった。
 広報部という仕事上でお化け屋敷などのアトラクションを入る事も多かったが、この『ハッピーワールド』を超える物は無かっただろうと涼香は思う。
 これを沢山の人が来る遊園地やイベントでこれがあったら、間違いなく有名になるであろう。
 恐怖で観客を問答無用に心肺停止させ、暗所恐怖症に陥らせてしまうのではないかと思える程の強烈なトラウマを刻み込むお化け屋敷として。
 ギンガも恐怖を我慢しているらしく、涼香の手をぎゅっと握り締めていた。
 ゾンビらしきものに出会うたびにギンガが精一杯の力で握り締めてくるのだが、その嬉しさを上回る恐怖が涼香たちに襲い掛かる。
 どこからとも無く現れてきては叫び声を上げながら抱きついてくるゾンビや、背後からほっぺを突っついてくるお茶目なお化けもいた。
 途中で白い服の女性にも出会ったが、雰囲気からして人間のものではなかった。
 もしかして、あの腹黒仕掛け人はこの中に幽霊すら呼び込んでいるのではないかと涼香は思った。
 何故か血を垂れ流した看護婦らしきゾンビもおり、その身体からは消毒薬らしき臭いが漂う。
 青年が手を血まみれにしながら腐った生首を持ってフラフラしている姿もあり、その手からはさびた鉄の臭いと腐敗臭がした。
 彼氏が彼女を放り投げて逃走するさまを二人は何度も目撃する事になった。
 そしてシクシク泣きながら彼女が彼氏を引きずりながら歩いて来る姿も目撃した。
「うぎゃあああああああああああああああ!!」
 他にも余りの恐怖で鼓膜が破れてしまいそうな大声を上げながら一緒にいる男の子を振り回して、ゾンビたちをなぎ倒す女の子もいた。
「でゅをおおおおおおおおおおおおおおお!」
 その時は盛大にゾンビやお化けたちと衝突する男の子の断末魔に似た叫びが響いていた。
「サーセン! サーセン! もう許して下さい!」
 そして何故か大声で謝罪するスタッフの声が協奏曲のように響いた。
 恐怖の余りに暴れだす人もいるらしく、叫び声と一緒に二人の背後で「ガフッ」とか、「えっ!?」とか、「グハッ!」 とか、スタッフ自体が驚くような声が聞こえて来る。
 流石のそれらには二人も脅かし役のスタッフに同情してしまう。
 気絶する人も少なくなく、ゾンビが担架をもって運ぶ姿があった。
 その姿はシュールでもあったが、同時にある種の恐怖心を感じた。
 『ハッピーワールド』の中は文字通り一種のカオス空間であった。
 奥まで来た二人の目の前にあったのは二つの扉。
 二つある扉の中央に一枚のプレートがはめ込まれていた。
 そのプレートには一人でお通り下さいと書いてある。
「どうしましょうか?」
 ギンガは涼香の手を握る力を強め、囁くような小さな声で答えた。
「涼香さんと離れるの…は……ゃ…です……」
 うつむいているせいで表情は分からないが、手の震えからギンガが怖がっている事だけは分かった。
 軽く苦笑しながらも隣にいるギンガの手を握る力を強める涼香。
「りょ…うか……さん…?」
 涼香の行動に少し驚くギンガ。
 片方の扉の方に歩き、扉を押し開けながら涼香は答えた。
「バラバラは嫌なのでしょう?」
 そしてギンガの手を引きながら涼香は扉の中に入る。



 何故か扉の中には上へと上る階段があった。
 外から見た時は普通のこじんまりとした屋台であったので、二人は妙な違和感を感じた。
 数分ぐらい登ってやっと視界が開ける。
 目の前にはさっきと同じく墓場のような場所が広がっていた。
 今でも手をぎゅっと握っているギンガを見る涼香。そしてギンガの姿に仰天する。
 なんと隣にいたギンガの身体が九歳ぐらいになっていたからだ。
 身体が縮んだせいで着ている浴衣が落ちる事も涼香は危惧していたのだが、その心配は必要なったらしくきちんと縮んだ身体にも合っていた。
 その上、頭の上に犬耳が生え、ピョコピョコと動いている。
 犬耳がついて小さくなったギンガは涼香を見上げながら驚いたように呟く。
「ふぇ……涼香さんが大きいです」
「ギンガさんが小さくなったのですよ!」
 いくら犬耳がついて縮んだギンガが可愛いとはいえ、涼香はその天然さに突っ込みを入れずにはいられなかった。
「ふえぇぇぇぇぇ!」
 自身の身体に起きた異常に気がついていなかったらしく、驚いたような声を出すギンガ。
 どうやら自分が縮んだのではなく、涼香が大きくなったと思っていたようだ。
「ココで立ち止まっても仕方が無いので、前に進みましょうか」
「そうですね……」
 つないでいた手を放し、涼香の右腕を抱き締めるギンガ。
 抱き込まれた腕から未発達であるが、ギンガの柔らかい身体の感触が感じられた。 
 その状態で歩いている為、布越しにギンガのまだちょっと未発達な部分が涼香の手に押し付けられているわけで。

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 涼香はどうにか自分自身のマズい思考を抑えようとしているが、心臓の鼓動は止まるところを知らない。
 そんな涼香を知ってか知らずか、嬉しそうに涼香の右腕を抱きしめるギンガ。そして涼香の手を自身の股の間に挟み込んだ。
 徐々に涼香の指がギンガの熱を感じられる位置へと導かれていく。
「くぅん・・・・・」
 歩きながらギンガは太ももを擦り合わせ、涼香の指を奥へ奥へと飲み込んでいく。
「くっ!あっ・・・うっ!・・・・あぁっ!」
 指先に熱くてヌルっとしたギンガの感触を感じた涼香。嫌な予感に額から汗が噴き出し始める。
 歩く時の振動でギンガの股に挟まれた手が浴衣の布地を擦る。指先に感じる小さな突起は分かってしまうくらいに固い。
 ギンガは涼香の腕に頭を押し付ける。規則正しい吐息と、口からこぼれるよだれで涼香の腕が熱くなる。
「ん……あぅ……くっ…はぁ……」
 その刹那、ギンガの手に力がこもった。涼香の指に股を擦りつけた瞬間、指を飲み込んでいた柔肉が小刻みに収縮を繰り返す。
 ついには荒い息を吐きながら抱き締めている涼香の腕にもたれかかった。
 さっきまであった嫌な予感が確信に変わった。
 涼香は思った。ああ、やってしまったと。
 もはや何をしてしまったかは、あえて口に出すような必要も無かった。
 これがギンガの着ている浴衣の持ち主である雪奈にバレたら、ろくでもない事になる事は確かだろうと涼香は考える。
 涼香はギンガがもたれかかっている状態で歩きながらある事を思った。
 目の前に深い穴があったら、今すぐにでも入って身を隠したいと。
 次の瞬間、ギンガの抱きついている右腕が引っ張られるような感覚を覚える。
 右腕を今も抱き締めているギンガの方を見た瞬間、涼香はギョッとした。
 何故なら右側には大きな穴が開いており、そこから触手らしき物体が這い出ていたからだ。
 そしてその触手がギンガを穴に引きずり込まんと触手を絡めてくる。
「……」
 ありえない光景に涼香は一瞬だけ思考が停止した。
 しかしその間にも触手はギンガを引きずり込まんと、その身を絡ませて穴へ戻ろうとする。
「きゃぁぁぁぁ! りょぉぉぉぉぉかさぁぁぁんっ!」
 叫び声で涼香は我に返り、絡み付いている触手ごとギンガを抱きかかえて走り出す。
 触手も一度捕まえた獲物を逃がす気は全く無いらしく新たな触手を涼香にも絡ませながら穴に引きずり込もうとする。
 涼香は絡みついた触手を強引に引き千切り、逃げるように走った。
 触手は筋状の物を引き千切るような嫌な音を立てながら切れ、粘液のように粘り気のある体液を撒き散らす。
 体液を撒き散らしながらもそれは二人を捕まえようと向かってきた。
 そのたびに涼香は触手を引き千切ったり、魔法で触手を吹き飛ばしたりと迎撃を行う。
 まるでいたちごっこのような逃走劇が何度も繰り返されたが、どうにか二人は触手から逃げる事は成功した。
 いつの間にか二人の身体は粘液まみれになっていた。
 涼香は抱きかかえていたギンガを降ろし、懐からハンカチを取り出す。衣服は粘液まみれであったが、懐に入っているハンカチは無事であった。
 しゃがみこむ事で視点を合わせ、ハンカチでギンガの顔を拭く涼香。
 ハンカチに粘液がついたが、涼香は気にしなかった。
「はい。これで大丈夫ですよ」
「りょ…ぅ…がざん……ふえぇぇぇえん……」
 今になって恐怖が来たらしく、涼香に抱きつくギンガ。
 額を涼香の肩口に押し付け、せきが切れたかのように泣き出した。
「あらら……」
 ギンガの脇の下に手を入れ、そっと抱き上げる涼香。それを待ちわびていたかのように、ギンガは涼香の肩に頭を乗せ、両手を首に回す。
 今は紅葉のように小さいギンガの手が涼香の粘液まみれな服をギュッと握った。
 涼香はギンガの背中を優しく撫でるが、泣き止む様子はない。
 ひとまず涼香はポケットからティッシュを取り出し、鼻をかませる。
「えへへ……」
 鼻をかんで貰って無邪気に笑うギンガ。泣いていたからか、泣き笑いにしか見えない。
 子供っぽいギンガの笑顔に涼香は顔を紅潮させる。そして少し残念そうにギンガを下ろした。
「落ち着きましたか?」
「はい……」
 泣き出したのが恥ずかしかったらしく、今は顔を赤らめながら俯いている。
 涼香は俯いているギンガを気遣い、それについては何も言わなかった。
 微笑みながら涼香はギンガに手を差し出して言った。
「じゃあ、行きましょうか」
「……はい」
 意味の分からない所から出てきた触手の一件から涼香とギンガはずっと無言を貫いていた。
 何故ならお互いの格好を見るのが気まずくて、目を合わす事すら出来ないからだ。
 ギンガは触手の粘液や汗のついた浴衣が肌に張り付いて妙に扇情的な格好になっているし、涼香も粘膜まみれの上に服がはだけていた。
 お互いの格好が気になって何度も見てしまう二人。それは仕方ないとも言えるだろう。
「あの…涼香さん……」
 先に口を開いたのはギンガであった。顔は羞恥か何かで耳まで赤かった。
「なっ……なんでしょうか?」
 いきなり話しかけられるとは思っていなかったらしく、涼香の声は上ずっている。
 少し間を置いてからギンガは小さい声で言った。
「じっと見つめないで下さい。あの…恥ずかしいです……」
 そう言ってギンガは涼香から顔を背ける。
 涼香の中で中が熱くなった。そして自身の理性を保つのは無理だと思った。
 さっきの行動と言い、今の格好と言い、ギンガのする事全てが涼香の情欲を激しく揺さぶった。
 溜まりに溜まった情欲の勢いに身を任せて涼香がギンガを襲うとしたそのとき。
「らぐぅ…あぅ……んっ…ようっ…からだが……あつぃよぉ…」」
 悩ましげな声と布ずれする音が墓石の影から聞こえてきた。
 男の声と艶混じりな女の嬌声。絶頂を示す悲鳴が途切れ、そしてまた再び、くぐもった喘ぎに連鎖する。他に聞こえるのは肉同士がぶつかり合う音。
 そして混沌とした匂いが空間を包む。やたらと甘ったるく、それでいて鼻の奥がつんと痺れるような奇妙な臭気が二人のところまで流れてくる。
 感覚的に涼香も何かわかった。この匂いは人を無条件で狂わせてしまう匂いだ。
 野次馬根性で墓石の影からカップルたちの情事を見る涼香とギンガ。
 しかし見えるのは男の上で女性がトランポリンに乗っているように上下する姿。
 暗さでよく見えないが、くぐもった声と粘り気のある液体を混ぜ合わせるような音は良く聞こえた。
 影の動きや粘質な音から察するに、女性が男の上にまたがりながら濃厚なディープキスをしているのだろう。
 ギンガが涼香の服の袖を掴む。その息は妙に荒い。
 涼香もその場の空気や臭いに引き込まれ、本能のままに動きそうになる。
「俺がお前の身体を冷ましてやるよ……」
 妙に聞き覚えのある男の一言で涼香は我に返る。そして身体を乗り出した。
 そしてため息を吐きながらその男女に尋ねた。
「何してんですか……? 神楽さん……クロエさん…」
「あぅ……らぐぅ?」
 今も男にまたがる女性。蔵那クロエはいきなりの事にきょとんたした顔をする。
 神楽と呼ばれた男は少し気まずそうな顔をした。
「涼香……何でお前がこんなとこにいるんだ。というか……隣にいるのは誰だ? まさか……」
 冷たい目で涼香を見る神楽。どうやら隣にいる犬耳少女がギンガである事に気づいていないようだ。
「涼香さんのペド~」
「違いま……ぶふぅっ!」
 弁解しようとする涼香だが、クロエの姿を見た瞬間に噴いた。
 なんとクロエが着ているのは紺色の水着。いわゆるスクール水着であった。身体中が何かで濡れていたり、白いものがついているのは気のせいなのだろうか。
 有り得ない格好に涼香とギンガは冷や汗しか出てこない。
「こんばんは……神楽さん。私……ギンガ・ナカジマですが…」
「ギンガさん!? という事は…クロエと同じという事か」
 妙に納得したような仕草を取る神楽。
「どういう事ですか?」
「んぁ。ココに来る時に扉をくぐっただろ? そこでこうなったんだ」
 神楽の言葉に納得はしたが、神楽や自身に変化が余りない事に涼香は疑問を感じた。
 しかしその答えを神楽が持っているとは思えない。
「……じゃあ、私が教えてあげましょうか?」
「!?」
 いきなりかけられた声に四人は驚く。
「こんばんは~♪」
 そこには何故か身体が半透明に透けている雪奈の姿があった。
「雪奈さん!?」
「今は思念体だけどね」
 今もなお驚いている四人に対し、雪奈は楽しそうにニヤニヤと笑っている。
 ギンガは黒い笑顔を浮かべる雪奈に尋ねた。
「それはどういう事なんでしょうか……?」
 笑顔の状態で口を三日月のような形に引き裂きながら目を細める雪奈。
 宙に浮きながら足を組み、楽しそうに回答した。
「簡単だよ♪ 君たちの姿は君たちの願望なんだから~」
「はい?」
 雪奈の意味深長な発言に四人は首を傾げる事しか出来ない。
 首を傾げる四人に、流石に雪奈もため息をつきながら説明を始めた。
「この階層での最初のドッキリはパートナーに自身の臨む姿をさせるんだよ」
 四人を指差しながら雪奈は更に説明を重ねる。
「神楽さんの願望の姿をクロエがして、クロエさんの願望の姿を神楽さんがしている。そして涼香さんの願望の姿をギンガさんがして、ギンガさんの願望の姿を涼香さんがしているのですよ」
 それでも意味が分からないらしく、不思議そうな顔をする四人。
 今度はケタケタと笑いながら雪奈は答えた。
「ギンガさんが犬耳少女になっているのは涼香さんの願望で、クロエさんがスク水なのは神楽さんの願望さっ☆」
「なっ……なんだってっ!」
 予想だにしなかった衝撃の事実に驚く涼香と神楽。
 雪奈はギンガとクロエを見ながら目を細める。
「ん~。なるほど、なるほど……ギンガさんとクロエさんは今の涼香さんと神楽さんが好きなんですね~♪」
「うなっ……」
「らっ…らぐぅ……」
 目を細めながら楽しそうに笑う雪奈。
 その言葉に顔を赤らめながらうつむくギンガとクロエ。
「制限時間ですね。じゃあね~☆」
 雪奈はそう言うと身体が霧のように薄くなって消えた。
「……」
 四人はしばらく唖然としながら雪奈の居た跡を見ていた。
「とっ…とりあえず…私たちはいきますね……」
「ああ……」
 ギンガは涼香の服を掴んで歩いていく。
 未だに雪奈の言葉による衝撃から抜け出せていない神楽は涼香とギンガをそのまま見送った。
 神楽とクロエの二人と別れてからも涼香とギンガは無言であった。
 雪奈から聞かされた話の後ならばなおさらというものであろう。
 ギンガがしている今の姿は涼香の願望なのだから。
「……ギンガさ…」
 涼香が話しかけようとした瞬間、
「うぐわあぁぁぁぁ!!」
 耳がつんざくような奇怪な阿鼻叫喚がその場を満たした。
「一体、何ぐわっ!」
「はい……? うわっ!」
 目の前に広がる光景に涼香とギンガはギョッとした。
 何故か人の首が地面に埋まっていた。その首は一つや二つではなく、約四メートルわたってごぼう畑ならぬ人首畑が広がっていた。
 その有り得ない光景に涼香とギンガは言葉に詰まってしまう。
 涼香は埋められるスタッフも大変なのだなとしみじみ考えていた。
 次に進む為にはこの生首畑を通らないといけないだろう。しかしその生首畑は足の踏み場も無い。
「ギンガさん。少し失礼しますね」
「ふぇ? きゃあっ!」
 いきなりギンガの背面から腕を回して胴を掴むと共に、膝の下に差し入れた腕で足を支える涼香。
 ギンガは慌てて涼香の首に腕を回す。
 それの正式名称は横抱きと呼ばれるが、俗世間ではお姫様抱っこと呼ばれる姿勢であった。
「りょっ! 涼香さん!?」
 動揺するギンガ。まさかいきなりお姫様抱っこを涼香にされるとは思っても見なかったようだ。
 安定感を増す為に涼香とギンガの密着している事により、羞恥心が煽られているようだ。
 涼香はギンガに軽く微笑みながらゆっくりと後ろに下がっていく。
 生首畑から十メートルぐらいの距離を取ってからギンガに囁いた。
「ちゃんと掴まっていて下さいね……天乃羽衣…神楽式」
 光が涼香の身体を包み込み、黒と白のスウェットスーツへと変わる。
 両肩や腰の辺りに小型の飛行ユニットらしきエンジンとスラスターが左右に装備され、両腕や両足は機械で武装されていた。
 言われたとおりにギンガは涼香の首に回した腕に力を入れる。
 涼香はギンガをお姫様抱っこしながら走り出し、生首畑の一歩手前で跳躍した。
 跳躍と同時にエンジンが稼動し、スラスターから魔力が放出される。
 放出された魔力を推進力にして宙を飛び、生首畑を越えた。
 着地する寸前で重力制御魔法を使用する事によって無事に着地する。
「すみません。いきなり変な事をしてしまって」
 そう言って『天乃羽衣神楽式』を解除し、ギンガを降ろそうとする涼香。
 しかしギンガは涼香の服を掴んで離そうとしない。
「ギンガさん?」
「…や……」
 涼香の服を掴みながら子供っぽく駄々をこねるギンガ。
 そんなギンガに涼香は軽く苦笑しながらもそのまま奥へと進む。
 優しい気遣いが嬉しいらしく、ギンガはまるで猫のように涼香の胸板を頬擦りをした。
 奥にはまたもや大きな扉があった。今度は一つしかなく、その扉は開け放たれていた。
 涼香はギンガをお姫様抱っこしながら扉の奥にある緩やかな階段を上り始めた。



 三階の床には紅い布に金の縁取りがされたじゅうたんが敷かれ、壁には豪奢な装飾がされていた。まるでお城の中に居るような場所であった。
「綺麗な所ですね……」
「はい。そうですね」
 ギンガと涼香は三階の美しさに驚く。
 だから二人はまだ気づいてもいなかった。壁にゾンビががずるりと出てきて、後ろから襲い掛かろうと迫ってくるのを。
「!」
 いつのまにか元の身長に戻ったギンガが背後から襲ってくるゾンビを見た。
「涼香さん!」
 ギンガの声に涼香は気づき、お姫様抱っこした状態で走り出す。
 次々と壁からゾンビがわらわらと出てきては涼香たちを追う。
 しかし涼香も捕まる気は無いらしく、ギンガをお姫様抱っこした状態でわらわらと増えるゾンビから逃走を図る。
「はぁ……はぁ…」
 走りながら荒い息を吐く涼香。
 元々、お姫様抱っこというものは長距離の運搬には向かず、一時的に持ち上げるための抱きかかえ方である。
 涼香は二階から今までずっとギンガを抱きかかえて走っていたのだ。身体に少なからず負担がかかってもおかしくない。
 ゾンビたちは涼香たちを捕まえて殺そうとしているかのように、腐った肉を床に落としながら追いかけてきた。
 口からは言葉にならない叫び声と糸を引く位の粘り気がある体液が吐き出すゾンビたち。
 涼香はどんな状況に立たされているかはいまいち分からなかったが、足を動かし続けないといけない事だけは分かった。
 止まる事は死を意味する。だから速度を落とす事も止まる事は許されない。呼んで字の如く、一生懸命。命を賭けた鬼ごっこ。
 全身の皮膚と精神をヤスリで削り、血管の中を巡る血を燃え滾らせる。
 身体の隅々まで隈なく煽動する。心臓が破裂しそうなくらい早鐘を打つ。
 頭の中が真っ白になり、まるで全身をやすりで削られているような感じ。
 既に涼香に頭はランナーズハイになり、一種の高揚感まで感じていた。



 何度も角を曲がる事で涼香たちはゾンビの大群を撒く事に成功する。
 恐怖からの開放感によって涼香の身体から力が抜け、その場に片膝をつく。
「はははっ……疲れちゃいました」
「あの……重かったでしょうか?」
 涼香の腕から降りたギンガが少しおどおどしながら訊ねる。
 自分のせいでこうなったのではないかと思ったのだろう。ギンガの顔からは申し訳なさそうな感じがした。
 しかしギンガの予想とは裏腹に涼香は苦笑し、少し震えながらも手を伸ばす。
「重くなんか無いですよ? むしろ……」
 申し訳なさそうな顔をするギンガの頭を乗せる。
「ギンガさんならいくらでもしてあげますよ」
 疲れているはずなのに涼香は笑顔でギンガの頭を撫でながら答える。
 何のためらいも無く頭を撫でながら恥ずかしいセリフを吐く涼香に頬を紅潮させる。
 二人がそんな甘ったるい空気をかもし出している中、どこからともなくエンジンの音が聞こえて来た。音からして大型のバイクだろう。
 バイクのライトで徐々に姿が見えてくる。
 ライトの向こうに居たのは一人のライダーだった。
 漆黒のライダースーツの上に詰襟タイプで妙に丈の長いコートを着ている。
 何故かどこかの応援団がするような白いたすきがけもしていた。
 違和感がありすぎる衣装であったが、更に奇妙である点があった。
 それはそのライダーに頭が無い事だ。首の部分からはさびた鉄のにおいがする液体が噴水のように噴出している。
 あれは俗に言う首無しライダーという亡霊なのかもしれない。
 首無しライダーが道のど真ん中につっこんでくる。まるで二人をひき殺そうとしているかのように。
 ギンガは身の危険を感じたらしく、動けない涼香に体当たりをする。
「ごぶっ……」
 涼香はギンガの体当たりで壁に背中を叩きつけられる。背中に鈍い痛みが来た。
 首なしライダーのバイクは二人の横を通り過ぎてそのまま奥へと走り去った。
「涼香さん……?」
 壁に背中をぶつけたのが痛かったらしく、涼香は目を強く閉じていた。
 目を開いた涼香は目と鼻の先にあるギンガの顔にどきりとした。
 ほとんど身体が密着しているからか、ギンガの身体する甘い匂いが涼香の鼻腔をくすぐった。
 涼香は胸板に当たっているギンガの胸にも意識は行っていたが、目はギンガの赤くて瑞々しい唇に釘付けだった。
 顔を起こせばギンガの唇と触れ合うような距離。
 そんな状態の中、
「おにいちゃんたち……たのしそうだね」
 いきなり男の子の声が聞こえた。
 まるでいきなりそこに現れたかのような雰囲気であったために驚く二人。
 まるで男の子が幽霊の様に不気味で、霧の様に希薄で、月にかかる朧の様に曖昧な感じがしたからだ。
 涼香はギンガを押しのけて身体を起こそうとする。
 次の瞬間、悲劇は起きた。
 天井に奇妙な穴が開き、そこから大きくて白っぽい謎の生命体が落ちてきた。
 その生命体は涼香が今までに見た生物と大幅に異なる姿をしていた。
 身体は芋虫の頭に人間の上半身を無理やりくっつけたような姿で、目や鼻・耳などの器官は無く、あるのは無数の穴と口だけであった。
 いきなり背後から男の子の肩を掴み、その頭にかぶりついた。
 割れ砕ける頭蓋の音。周囲にぶちまけられる肉片。噴水の様に噴出する血液。
 脳が露出し、神経が繋がった眼球がだらしなく落ちて揺れている。  ギンガの髪と涼香の顔に真っ赤なペイントがなされた。
 既に頭蓋骨は無く、赤い肉と脳が露出していた。
 謎の生命体が口を動かすたびに、男の子の身体がビクビクと痙攣する。
「涼香さ……」
 起き上がって振り向こうとするギンガ。
「見ちゃ駄目です!」
 ギンガの後頭部に腕を回し、自身の胸に押し付けた。
 脳裏に焼け付く悪夢のような光景を見るのは自分だけで良いと涼香は思った。
 今、胸板に顔を押し付けさせているギンガには見せてはいけない。
 きっとその残酷過ぎる悪夢のような光景に心が壊れてしまうだろうから。
 ギンガが腕の中で暴れるのを感じたが、異生物の食事が終わるまでは緩めてはいけなかった。
 異生物が男の子の頭を捕食し終えた時。めきり、と何かが軋む音がした。
 涼香の見ている前で、男の子の身体が爆ぜ割れた。
 赤い血しぶきと共に人間を構築している部品が周囲にばら撒かれる。
 流石に涼香の背中に寒気と恐怖が這いずる様に上ってきたが、腕の力だけは緩めない。
 白い異生物は口の中で何かを噛み砕きながら涼香たちが歩いてきた道の方へ進んでいった。
「……」
 余りにも悲惨な光景に涼香は声一つ出せなかった。
「苦しいです……涼香さん」
 胸板に顔を押し付けさせられているギンガは苦しいらしく、涼香の胸を叩く。
 涼香も放したいのは山々であったが、今のこの状況をギンガに見せるわけには行かなかった。
「すみませんが、しばらく目をつぶっていてくれませんか? ちょっと……凄いことになっているので」
「? 分かりました……」
 意味が分からないようだが、強くまぶたを閉じながらギンガは立ち上がる。
 立ち上がった涼香はギンガの手を取り、優しく誘導する。瞼を閉じているギンガを気遣ってゆっくりと歩く涼香。
 ギンガはまるで歩き始めの幼児であるかのような危なっかしい歩き方で恐る恐る涼香についていく。
 曲がり角を曲がった所で涼香はギンガに声をかける。
「もう良いですよ」
「……あれ…何なのでしょうか……?」
 瞼を開いたギンガが指を指した先には足が落ちていた。
 これで大丈夫だと思っていた涼香は唖然とする。
 ついさっきの惨劇の事を考え、恐る恐る足に近づいてみる涼香。
 足が落ちている床の周辺は血液か何かでどす黒くなり、腐敗臭が漂っている。
 そして軽くその足に触れて見た涼香は驚くことしか出来なかった。
 作り物だと思っていた足は微かに温かく、人間の肌と同じ柔らかさと弾力性があった。
 今度こそ涼香の頭から血の気が引いた。ココに落ちているのはまさしく人間の足。
「りょっ…涼香さ……」
 ギンガが涼香に話かけようとしたその時。
 いきなり床を突き破って両腕が生え、涼香の両足首をがっしりと掴んだ。
「のわぁ!」
 涼香の両足首を掴んだその腕は床へずるずると引きずり込もうとする。
「――っ! りょおぉぉぉかさんっ!」
 ギンガは床へ引きずり込まれそうになっている涼香を羽交い絞めにする。
 背中に当てられているギンガの胸の柔らかに恍惚とする涼香だが、今は引きずり込もうとする腕の方が問題であった。
 約十分ぐらいその引っ張り合いが続いただろうか。腕も涼香を放そうとしないが、ギンガも放す気が無かった。
 ギンガも苛立ち始めたのだろう。涼香の足首を掴む謎の腕に蹴りをいれ始めた。
 流石に蹴りを叩き込まれるのはきついらしく、謎の腕もひるみ始めた。
 ギンガが渾身の力で蹴りを叩き込んでやっと、涼香の足を掴んでいた腕が引っ込んだ。
 力が抜けたかのように座り込む涼香の背中から身体を離し、心配そうにギンガは訊ねる。
「大丈夫ですか?」
「あいたた……足を強く掴まれたみたいです…」
 謎の腕に足に掴まれた涼香の足首にはくっきりとあざが出来ていた。
 ギンガはしゃがみこみ、じっと涼香の足を見つめる。そして驚くべき行動に出た。
 なんと涼香の足にに口を寄せ、足についたあざを舐め始めた。
「えっ…あっ…ぎっ、ギギギギ…ギンガさん!?」
 涼香の声にかなりの動揺が混じる。しかしギンガは全く気にする様子は無く、一生懸命に涼香の足を舐めている。
 そんな姿に涼香は一種の背徳感を感じた。同時に心の奥で性欲が鎌をもたげた。徐々に涼香の吐く息が荒くなっていき、のどが渇いていく。
 ギンガも同じ事を思っているらしく、熱くて荒い吐息が涼香の足にかかり、舐める姿も徐々に色っぽくなっていく。
「……っ! 何してんですか。ギンガさん!」
 理性の限界に達したのか、両肩を押すことでギンガの身体を起こさせる涼香。
「えっ? こういう類いは舐めると治るんじゃないのですか? ちょっと恥ずかしいですが……」
 羞恥を表すようにギンガの頬は赤い。みずみずしい唇の狭間からぺろりと赤い舌先が出され、微かに濡れた瞳でじっと見つめてくる様はとても艶かしい。
「とっ! とりあえず行きましょうか!」
 わずかに残っている理性を保つ為か、ギンガから顔をそらしながら提案する涼香。
「んっ……そうですね」
 ギンガは何故か残念そうな口ぶりで奥へと歩き出した。
 歩いていったギンガを追って急いで立ち上がる涼香。
 涼香は『ハッピーワールド』に入った事を少し後悔していた。
 見るだけならばどこかの城の内部を思わせる三階を歩くのは楽しいかもしれないが、いきなり出てくる悪戯や光景がスプラッター過ぎて怖い。
 これは本気で人の心にトラウマを作りそうなアトラクションだと涼香は考える。
「ねぇ。涼香さん……何か聞こえませんか?」
 さっきからずっと不機嫌そうに黙っていたギンガが口を開く。
 ナニカが高速で動く変な音が聞こえた。

 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシ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 口に鋭く研がれた出刃包丁をくわえた女性たち。それも、ブリッジした状態の。
 よくよく見ればそれは。
「はい!?」
「なんで……」
 現れた女性たちの顔に驚くギンガと涼香。
 何故なら二人の方に向かってくる女性たちの顔全てがギンガの顔であったからだ。
 顔が似ているとかの話ではなく、ギンガの顔そのものであった。
 しかしその顔たちは怪しげな笑顔を浮かべ、目は逝ってしまっている。
 女性たちはブリッジの状態で二人に歩み寄る。その動作に恐怖を通り越して、生命の危機を感じた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「なあぁぁぁぁぁぁぁあ」
 流石に有り得ない上に認めたくない光景に、涼香だけではなくギンガ本人までもが叫んだ。
 そして、ギンガと同じ顔をする女性たちから逃走を図った。
 女性たちもブリッジのまま追いかける。
 涼香とギンガはギンガと同じ顔をしている女性たちから逃走を開始してから既に十五分ぐらいが経過していた。
 何度も角を曲がって女性たちを撒こうとする二人なのだが、追いかけてくる女性たちの数は減るどころか徐々に増えていく。
 十人か二十人ならば強行突破という選択肢も存在したのかもしれないが、追いかけてくる女性の数は既に四桁ぐらいは居そうであった。
 ビックリハウスで死ぬというのは有り得ない事であるが、涼香はココで死をも覚悟した。
「涼香さん! こんな所に扉があります!」
 ギンガの言葉で扉に気づく涼香。その扉を蹴破る勢いで滑り込むように入った。
 そしてギンガも一緒に入った事を確認すると一気に扉を閉める。
 ドスっ、という重い音と同時に閉めた扉から包丁の切っ先が幾つも生えた。
 ひとまずギンガのドッペルゲンガーらしき女性たちから逃げ出せた事に胸をなでおろす二人。
 二人は周囲を見回す。入った部屋の中にあったのは引き戸タイプの押入れのみ。
 何気なくギンガは押入れの戸を開けた。
「ココ……通れますよ」
「あっ。本当ですね」
 涼香のいう通り、下段に人間一人が通れそうな通路があった。
「じゃあ行きますよ」
 ギンガは四つんばいなってその通路に入っていく。
「ギンガさん。待って下さい!」
 涼香もギンガを追って押入れの中に入る。そこで不意に横を見てしまった。
 四肢や首の間接がありえない方向に曲がった女が横に詰まっていた。
その人はじっと涼香を見つめている。
「なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 想像だにしなかった光景に涼香は大声で叫んだ。
「涼香さん!?」
「早く前に進んで下さい!」
 いきなり聞こえた涼香の声に振り向くギンガであったが、すぐに顔を戻して前を進む。
 関節が有り得ない方向に曲がった女はその四肢を無理に動かしながら涼香に迫る。
「なぶわぁ!」
 迫ってくる女から逃げる為に涼香はギンガの入って行った通路を急いで進む。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
 涼香を襲おうとしていた女も素早く四肢を動かしながら追いかけてくる。
 涙目になりながらも涼香は前へ前へと進む。そこで涼香の鼻先に何かがつく。
「ひゃうっ♪」
 いきなりギンガの口から妙に艶かしい嬌声が出た。
 ジメッと濡れた布を挟んで感じる柔らかさ。動くたびに分かるヌルッと滑るような感触は、今の状況では思いのほか不快だった。出来ればあの触手の体液がまだついていただけだと思いたい。
 鼻先に当たる小さくて硬い突起で涼香は何に顔を埋めているか分かってしまった。きっとギンガのお尻であろう。いや、ギンガが四つんばいでこの状態ならば、ほとんどギンガの股に顔を埋めているのと同じような状況だ。
「ん――!」
「あっ、はぅ…涼香さんが……喋ろうとするたびに…当たって……」
 前にはギンガの股で、後ろは関節が変な方向に曲がった女。涼香には逃げ場が無い。
「ギンガさん! 出口はまだですか!」
「まだです!」
 この瞬間にも関節の曲がった人は二人へ向かってくる。
「ア―――っ!」
「あんっ♪」
 遂に関節が有り得ない方向に曲がった女は涼香に追いつき、身体をぶつけて来た。女のひじが軽く涼香の肛門に突き刺さった。
 女は涼香を前に出そうとグイグイ押すせいで、鼻先がギンガの熱を感じられる位置に押し付けられる。
 涼香とギンガは背後で関節が奇妙な方向に曲がっている女に押されているせいで無理やり押される状態になる。
 肛門にひじを押し込まれていく涼香の叫びと鼻先で熱い部分を擦られるギンガの甘い声が通路の中で反響して大きく響いた。
 そんな状態がどのくらい続いただろうか。今も絶叫と嬌声の二重奏が奏でられている真っ暗の通路に光が射した。
「ぎゃふっ!!」
「あふんっ♪」
 女によって涼香とギンガは通路からとある一室に押し出された。そこにあったのは二人が女に追いかけられた通路。そして三枚の扉だけであった。
 涼香は自身の尻を撫で、ギンガは色っぽい息を吐きながら股の間に触れるギンガ。
「どうにかココまで来ましたね」
「んっ……そうですね」
 部屋にある扉の一つに向かう涼香。
 そこにもビックリトラップが仕掛けられていた。
 パクンっ、という音と共に天井についた扉が開き、そこから何かが落ちて来た。それは目隠しをされ、首にロープを巻かれた男。
 ロープがピンと張られた衝撃で男の身体が跳ねる。同時に首の骨が折れたような音がした。
 衝撃的な光景にギンガは口を押さえ、涼香は口を引きつらせた。
 首の骨が折れたのに死に切れなかったのか、男は両手で首を絞めているロープを切ろうとしているかのようにかきむしる。しかしロープには、ほころびの一つも出来ない。
 それどころか首を傷つけていくだけであった。ロープが巻き付いている部分や首から血が流れ始める。
「止めて……止めて下さい……」
 ギンガが男の足を抱きしめて懇願するも、男は首をかきむしり続ける。
 そして頚動脈の部分まで傷つけたのだろう。首から真紅の水を噴出し、赤い部屋へと変えた。
 かきむしった所に出来た傷が自重で傷を広げていき、ついに首から下が床へ無様に落ちる。
「きゃああああああああああ!!」
 赤い部屋にギンガの絶叫が響き渡る。
 このビックリハウスは間違いなくトラウマになると涼香は思った。
「うっ…くっ…りょうかぁさん……」
「……行きましょう」
 涼香はそう言って目の前にある扉の取っ手に触れる。
 扉の取っ手に触れた途端、三階に存在する最終ビックリトラップが牙を剥いた。
 扉の真上にある天井にある小さな扉が開き、銀色の物体が落下する。

 ぐわぁ~ん!

 鈍い音を立ててその銀色の物体が涼香の頭に落下する。
「つぅ~!」
 涼香は頭を押さえながらしゃがみ込み、今も音を立てている物体を見る。
 それはまさしくタライであった。
「……大丈夫ですか?」
 どうにか無残な光景から立ち直ったギンガがしゃがみ込んでいる涼香に立ち直る。
「ちょっと……タライが…」
 ギンガもしゃがみ込み、涼香の頭を撫で始める。
 少し驚いたように顔を上げた涼香はある一点に釘付けになる。
 それは―――浴衣でより強調されているギンガの豊満な胸。
 帯で腰を締めている為に旨や尻がより強調され、ちらりと見えるギンガの白い肌が涼香の性欲を煽った。
「ぎんが……さん?」
「たんこぶは無いみたいですね……じゃあ、行きましょうか?」
 ギンガは立ち上がり、血まみれになった扉の取っ手に手をかけた。



 階段を登る事で『ハッピーワールド』の四階にたどりつく二人。
 何故か四階は一階から三階までとは違い、ただの大広間になっていた。
 そこにいたのは―――布をくわえながら包丁らしき刃物を綿で叩きいている一人の女性。
 茶色の髪を肩の辺りで切り揃え、首には黒いリボンが巻かれている。身体つきからして十代後半のような感じがするのだが、顔つきからは大人びた雰囲気がある。
 着ているのは赤い布地に金色の縁取りや刺繍がなされたチャイナドレスで、そこから伸びた長い脚はなんと裸足であった。
「やっぱり最後は貴女ですか……斬神ユキさん」
 涼香の声でチャイナドレスの女性はやっと二人の存在に気づく。
 さっきまで手入れしていたと思われる刃物を腰につけた革製品らしきホルダーに納めて立ち上がる。
「お久しぶりです…涼香さん。ギンガさん」
 二人を見ている黒の瞳には愉悦が感じられた。
 じっと見つめながら斬神に涼香は言った。
「ココに来るまでのアトラクションも十分に怖かったですが、それほどでもないですね……死の恐怖を感じさせる貴女に比べたら……ね」
「私など…まだまだです……」
 斬神は涼香の賛美に似た言葉を謙遜で返す。
 前に会った時とと比べて、斬神から殺気という物が全く感じられない事にいぶかしげながらもギンガは訊ねた。
「今回の勝利条件は何ですか?」
「簡単です……」
 右の五指を横へ伸ばし、斬神は答えた。
「十分間…私の寸止めに…気絶しないで…耐え切れたら……お二人の……勝ち」
 腰につけた革のホルダーから刃物を抜く斬神。抜かれたのは一本の黒い包丁であった。黒い以外は何の変哲も無い肉切り包丁であるはずなのだが、その刃はまるで鮮血を求める妖刀のように艶かしく濡れて見えた。
「しかし…貴方たちに容赦するのは……無粋なようですね……」
 両手をだらりと垂らし、氷のように冷たい目で二人を見つめる斬神。見た物全てを切り裂いてしまうような鋭さがあり、まるで存在自体が刃物であるかのように思えた。
 少しでも気を抜いたら、斬神の握っているあの黒い包丁で無残に惨殺されてしまいそうだ。
 異様な迫力に涼香とギンガは自身のデバイスを展開する。
「天乃羽衣神楽式……起動」
「……ブリッツキャリバー」
〈Yes,Master. Form Struggle……Start deploying〉
 デバイスが起動を告げると同時に二人の姿は光に包まれる。
 涼香は黒と白のスウェットスーツを着ている事までは変わらないが、今回は膝までの丈があるロングコートを羽織っていた。
 ギンガは首から下が赤に近い黒と紫紺のボディスーツで包まれ、『ブリッツキャリバー』はローラースケートの形状から太ももギリギリまである群青色のニーソックスに変わっている。『リボルバーナックル』も左手を包む形態から左肩までを保護する西洋鎧の様な形状に変わる。そして青みがかった髪は紫紺のリボンによって一つに纏められていた。
 二人のバリアジャケットやデバイスの形態は違っているが、一つだけ共通点があった。
 それは―――
「あの子のカスタマイズですか……油断は出来ない…です」
 斬神は感嘆するように呟く。
 二人の首から下に魔法陣らしき特殊な紋章が浮かび上がっていた。
 幽霧によってバリアジャケット自体に魔法を特殊な加工で封入され、デバイスを起動すると同時にその魔法が起動する様にカスタマイズされていたのだ。。
 封入された魔法は、とある伝説で謳われる道具の名前であり、自在に扱えるのは製作者である幽霧しかない魔法―――聖鎧布。
「全力…とまではいけませんが…『天断つ死線デッドエンド・ライナー』……斬神ユキ……行かせて……頂きます……」
 言う方が早かったのか。
 それとも動く方が早かったのか。
 涼香とギンガはどっちが早かったのか分からない。流れるような踏み込みで距離を一瞬にして詰める。それに続いて包丁を持つ斬神の腕が微かに震える。
「!」
 涼香は一瞬のことに驚く事しか出来ない。何故なら斬られた事に気づく前に涼香の頬に線が引かれていたからだ。
 それはまるで定規を当てたのごとく綺麗な一文字。
 包丁を手元に返す刃で右肩から左のわき腹にかけて斜めに斬られる前に涼香は咄嗟に後退。同時に頬に引かれた一文字が開き、一瞬だけ血が噴水のように噴き出す。
 逆にギンガは左腕の『リボルバーナックル』を振り上げ、斬神に殴りかかる。
 それを斬神は頭を下げる事で回避。後ろに飛び退くのと殆ど同時進行で居合い抜きのごとく包丁を持つ手を左から右へ横に振った。
 バリアジャケットを切り裂き、ギンガの腹部に薄く切れ目が入った。
「……」
 唖然とするギンガ。まさかバリアジャケットを包丁で切られるとは思っても見なかっただろう。
 その上、聖鎧布の魔法が編みこまれている状態で切り裂かれたのだ。
 斬神の行った行為の結果に驚くのも無理は無い。
「まだ……一分も…かかっていない……と…思います……」
 血振りをする為に包丁を振る斬神。
 ギンガは魔力で切り裂かれたバリアジャケットを修復し、〈ウィングブレード〉を発動。
 ニーソックスのような形態に変わった『ブリッツキャリバー』が太ももから踵にかけてのハッチを左右の縦二列に開口し、魔力を放出する。 〈ウィングブレード〉を発動した状態で回し蹴りを放つ。その威力は斬神の頭すら吹き飛ばしかねない程であった。
 十分にスピードがついた『ブリッツキャリバー』の爪先が迫り来る状況に対し、斬神は身体全体を使った蹴りでそれを弾き飛ばす。
 『ブリッツキャリバー』を弾き飛ばす為に使用した足を踏み込んで軸足にする。そして隙を狙って攻撃を仕掛けてきた涼香の頭に残った片足で後ろ回し蹴りを叩き込む。そのまま斬神は包丁を握った腕を振り上げ、斜めに振り下ろした。
 包丁の刃は涼香の羽織っているコートだけではなくウェットスーツすら切り裂いたが、肌までは傷つけてはいなかった。
 蹴り飛ばされた上に正面から斬撃を受けた涼香は壁の側まで転がっていった。
「加減は……この…くらい……ですかね……?」
 手を何度か握りなおしながら斬神は呟く。
 その時、ギンガの澄んだ声が聞こえた。
「ディバイン……」
 いつのまにか魔力球が生成され、『リボルバーナックル』のスピナーがカートリッジロードを行う。
「バスタぁぁぁぁっ!」
 左手の『リボルバーナックル』を魔力球に叩きつけるギンガ。魔力球から魔力の奔流が放出され、斬神を飲み込んだ。
 〈ディバインバスター〉の衝撃によって大広間に粉塵が巻き上がる。
 ギンガは数秒前に斬りつけられた涼香の方に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「はい……何とか」
 二人は巻き上がった粉塵を方を見つめる。
 ほとんど奇襲という形で〈ディバインバスター〉を叩き込んだのは良いのだが、斬神が魔導師で無い事だけではなく加減をするのも忘れていた。
 その結果、下手をすれば斬神が死んでいてもおかしくない。
 粉塵が晴れた時。
「けほっ…けほっ……久しぶりに死ぬかと思いました」
 そこには赤色のチャイナドレスが少し焦げている事以外は全く別状の無い斬神がいた。いや。よく見れば、斬神の目がいつの間にか黒色から金色に変わっていた。
 ちらりと斬神は砂時計を見る。
「後七分ですね」
 涼香とギンガは斬神の言葉に気が重くなる。ここまで戦ってたった三分しか経っていないと言う事は、命のやり取りみたいな事を七分間もしないといけない事になる。
 こんな状態でまだ余裕があるかのように隙を見せた二人を斬神は逃さなかった。
 音一つ出さずに斬神は接近し、鞭を振るうかのように包丁を左から右にわざとらしく大振りに一閃する。
 生命の危機を感じた涼香とギンガはバックステップで退く。それによって勢いに引きずられ、斬神の右腕が後ろへ行く。
 しかし斬神は回避された事による失敗を次の攻撃へと転化する。
 右の方へ捻った腰を戻す時の勢い。肩と腕の力。
 その二つを十分に利用した突きをギンガの脇腹に叩き込んだ。
「ぐぶっ……」
 後ろに退いたおかげで威力を幾分か殺す事が出来た。しかし包丁の切っ先はバリアジャケットを突き破り、ギンガを突き刺さった。
 斬神が包丁を引き抜いた途端、ギンガの腹部から血が止まる事無く溢れ出す。
「ギンガさん!」
 咄嗟に涼香が治癒魔法をかける事でギンガの腹部に出来た傷の表面だけを塞ぐ。
「ありがとうございます!」
「同時に行きますよ!」
 二人は魔力を高め、拳の前面に硬質のフィールドを形成。
 そして左右から同時にそのフィールドごと衝撃を斬神に撃ち込んだ。
 次の瞬間、二人の目の前で驚くべき事が起こる。
 なんと斬神はわざと包丁を床に落とし、左右の手で二人の〈ナックルバンカー〉を掴んでいた。
 そして、ぐるり、と二人の手を軸に逆上がりでもするかのように跳ね上がって一回転し、青年は涼香とギンガの背後を取る。
 まるでサーカスのピエロか映画のスタントマンのようであった。
 斬神はそのままギンガの側頭部にめがけて大げさに見えるくらいの大きな蹴りを放つ。曲がりなりにも妹にシューティングアーツを教えるギンガはそれを避ける。しかし避けた所にさっきと避けた足が今度は逆向きに返ってきた。
 咄嗟にギンガは両腕で防御したが勢いを殺しきれず、床に叩きつけられる。
 斬神はココでギンガに迫撃する振りをして包丁を拾い、背後から襲ってくる涼香に攻撃を仕掛ける。
 振り返ると同時進行で居合い抜きのごとく包丁を持つ手を左から右へ横一文字に振り抜いた。
 その動きは繊細にして豪放。機敏にして静謐。華麗にして残酷。包丁には刀の様な鋭さがあり、振り抜いた腕は弓の様な美しい放物線を描く。
 斬神の放った一閃は涼香の喉をかすめ、定規を当てたのごとく綺麗な一文字の切れ目が入った。
 しかしそんな程度で涼香もひるまず、〈聖鎧布〉で防御力を底上げした拳を斬神に叩きつけようとする。
 さらに斬神は距離を詰める。その細い腕が、涼香の動体視力を超える速度で伸びた。
 涼香の拳は斬神の頬に抉り込むように入った。
 その代わり。
「つぅ……」
 脇に感じる痛みに涼香は呻く。
 包丁は涼香の羽織っていたロングコートの袖口から脇の付け根まで綺麗に切り裂き、その先が脇に突き刺さった。
 拳を叩き込まれた状態で斬神は涼香の方を向き、包丁を一気に引き抜いた。
 その痛みで意識がそれた涼香に斬神は更なる攻撃を入れる。
 まるで指揮者のように握った包丁を振るう。まるでバリアジャケットが紙のように切り裂かれていく。同時に涼香の腕に切り傷を刻んでいく。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 どうにか立ち上がったギンガが背中を向けている斬神に拳を叩きつけようとする。
 ナックルスピナーで発生した衝撃波を纏わせた拳を叩きつけられたなら、チャイナドレスしか着ていない斬神にはきっとひとたまりは無いであろう。
 しかし斬神はそれを見越していたかのように振り向いて微笑んだ。そして衝撃波を纏った拳で手が傷つく事をいとわずに掴んだ。
 ギョッとするギンガ。次の瞬間、腕に痛みが走る。斬神は掴んで握ったギンガを勢い良く捻ったからだ。その左腕からはベキベキと、いやな音を立て始めた。
 片腕が壊されていく感覚を感じながらもギンガは歯を食いしばり、無事な方の片腕で斬神を殴ろうとする。
 しかし斬神は頭を低くする事でギンガの拳をかわしたが、その代わりに涼香が喰らった。
 その隙に斬神は二人の間から抜け出し、ギンガの背中に渾身の回し蹴りを叩き込む事で二人を吹き飛ばす。
 床に倒れた二人を見ながら包丁を腰のホルダーに入れ、斬神は言った。
「まだ時間はありますよ?」
 その言葉を聞いた二人はよろけながらも立ち上がる。悔しいらしく、強く歯噛みしている。
 斬神はわざとらしく手で挑発する。
 二人の思考が一致したらしく、アイコンタクトも取らずに斬神へと動く。
 ゆっくりと斬神も動く。
 対峙していた位置から中心にあたる場所で二人と斬神は交差する。
 涼香とギンガは拳だけではなく、足も繰り出した。
 シンクロしたかのように左右から繰り出してくる二人の攻撃を四肢を駆使してさばく。
 二人―――涼香とギンガの攻撃は綺麗に同調していた。
 微塵のずれも無く、その動きには一種の美しさもあった。
 流石の斬神もさばき切れなくなったらしく、後ろ向きに倒れこんだ。
 しかし倒れたところで床に接している腰を支点にし、両足を鎌のように操り、二人の足首を薙ぎ払った。
 足首を薙ぎ払われた涼香とギンガは体勢を立て直すことが出来ずに倒れこむ。
 斬神は二人がだらしなく伸ばしている拳を正面から手のひらで受け止めた。
 手のひらには全くの衝撃もなく、ただ単純に受け止めたとしか思えない。
「あぅ……」
 そのまま斬神は腕を引き、涼香とギンガを地面に叩きつけた。
 そして斬神はその反動で起き上がった。
 腰のホルダーに収めた包丁を再び抜く。
 包丁を涼香の首筋に。五指を伸ばした左手をギンガの首筋に向けた。
「……降参です」
 そう言わないと頚動脈を包丁で切られるような気がする涼香は弱々しく斬神に告げた。
 しかし、斬神の口から出た言葉は違った。
「あなた達の……勝ちです」
 斬神の視線の先にはタイマーがあり、既に十分が過ぎていた。
「はぁ……」
 涼香はため息をつく。
「勝った……勝ったんですよ! 涼香さん!」
 斬神に片腕を壊された痛みで少し顔をしかめているものの、ギンガは嬉しそうであった。
 ここまで踏ん張った甲斐があったと、涼香はギンガの笑顔を見ながら思った。
 しかしそこで斬神が口を挟んだ。
「喜ぶのは……良いの……ですが……」
 涼香の前に『チートイグニッションオメガ』とラベリングされたビンが差し出される。
「これを……飲んで…ください。あなた……に…はまだ……やらない……といけない事が……あります」
 涼香は悲鳴を上げている身体に鞭を打って、そのビンの液体を飲み干す。口の中に甘みと鼻を突き抜けるような爽やかな感じが広がる。徐々に身体も温かくなってきた。そして徐々に身体が温かくなっていき、リンカーコアも熱を持ち始めた。
「……はぐっ……うっ。くっ……」
 リンカーコアのある胸部を押える涼香。
 顔や身体が熱で朱に染まっていく。しかし熱は上がっていく。意味も無くリンカーコアが熱を持つ事はこれまでに一度も無かった。原因が分からないまま、リンカーコアの熱は急速に冷めていった。
 身体はまだ少し火照っているが、妙な爽快感がある。まるで長年、身体を蝕んでいた疲労や損傷が払拭された様な感じだ。
「立て……ますか……?」
「大丈夫です。むしろ、さっきより身体が軽いです」
 斬神の問いに頷く涼香。
「じゃあ…あちらに……」
 指差された先には一つの扉があった。涼香はその扉の方へと歩いていく。ギンガもついて行こうとするのだが、痛みで顔をしかめている。
 どこからか救急箱を取り出した斬神が涼香に言った。
「ギンガ……さんの…治療をします……先に行って……下さい」
 涼香はギンガの方へと戻り、紫紺の髪を優しく撫でながら言った。
「先に行ってます……また、後で」
「……はい」
 頷くギンガを見届けてから涼香は扉へと歩いて行った。



 斬神ユキと戦闘をした場所の扉にある階段を登って五階へとたどり着いた涼香。そこにあったのは円状の巨大なステージであった。
 そのステージに謎の二人組みが立っていた。
 一人は赤い浴衣を身にまとい、狐のお面をかぶった人。
 茶色の髪の毛を肩の辺りで切り揃えられている。狐のお面をかぶっているせいで顔や目の色は分からないが、なんともいえない不気味さがあった。
 まるで人里に迷い込んだ狐の妖怪のようであった。
 もう一人は純粋に紅いと形容するしかない容姿の女性。
 夜の闇に隠される事無く浮かび上がるような紅い髪。鮮血をそのまま固めて出来たような真紅の瞳。ひどく純粋で力強く、そして何よりも美しい紅。
 髪や瞳に対して肌は鮮烈と感じる程に白く、その肢体が描き出す曲線は妖艶と形容するしかない。豊満痩躯な身体を包むのは髪や瞳と同じ紅のドレス。まるでどこかのパーティから抜け出したような感じであった。
「ご苦労様でした。涼香さん」
 顔を隠している狐のお面を外すと、そこにいたのは幽霧であった。
 しかし隣にいるのが誰であるかは涼香は分からない。
 幽霧は更に話を続ける。
「ここは最終地点の一歩手前です」
「その最終地点へ行く為に私は何をすれば良いのかな?」
「簡単です」
 再び狐のお面を顔につける幽霧。右手を横へ突き出す。
 紅い女性は無言で左手を突き出し、幽霧の右手と手のひらを合わせる。
「自分たちを倒せば良いのです」
 幽霧と真紅の女性はまるで讃美歌を謳う様に呪文を紡いだ。
「「ユニゾン……イン」」
 合わせた手のひらを起点としてお互いの身体が混ざり合っていき、一つの形を取り始める。
 最終的に真紅の髪を持つ少女となる。真紅の浴衣が完全に成熟していない肢体を包み、顔を狐のお面が隠していた。
 涼香もステージに降り、専用デバイスである『天乃羽衣神楽式』を展開する。黒と白のスウェットスーツの上に膝までの丈があるロングコートを羽織る。
「「いきましょうか」」
「そうですね」
 戦いの開始を告げるようにお互いのバリアジャケットに魔法陣のような紋章が浮かび上がる。
 先手を打ったのは幽霧。流れるような踏み込みで距離を一瞬にして詰める。同時に魔法の詠唱を開始する。
「其は鎧にして布。其は全て難から御子を守る者。それが故に御子の守護者………聖鎧布」
 幽霧の足元に鮮血のような真紅の魔方陣が展開される。
「ぐぶっ……」
 涼香の口から体内の呼気が強制的に押し出された。詠唱した〈聖鎧布〉が発動すると同時に幽霧が力任せな一撃を叩き込んだからだ。
 しかし涼香もそう易々と倒れるわけにはいかず、腹部の痛みに耐えながら幽霧の後頭部に蹴りを叩き込む。片腕でガードする事は出来ても、少女の身体では支えきれないのだろう。微かに幽霧の身体に傾く。
 攻撃のひまを与えない為か、涼香は蹴りを連続で叩き込む。長い足が鞭や弓のようにしなり、幽霧を倒すために襲い掛かる。下段、中段、上段と立て続けに来る蹴りを幽霧は俊敏な動きで回避。
 幽霧を潰す為に涼香の右足が跳ね上がる。咄嗟に幽霧は両腕を交差させてそれを受けるが、蹴りの衝撃で微かに浮いた。
 そして再び涼香は蹴りを連続で放つ。
 その動きは繊細さがあるのに豪放さが感じられた。激しく機敏であるのに、静謐さがあった。動きは華麗なのだが、残酷さがあった。蹴りであるのに槍の様な鋭さがあり、足技なのに鞭や弓の様な美しい放物線を描く。
 バランスを崩さずに連続で蹴りを放つ涼香の技量に幽霧が適わないと思われた。
 しかし、それは幽霧の口から紡がれたある一つの呪文によって形勢が逆転する。
「汝は剣。幾千の敵を斬り裂く者。我が勝利は汝の剣と共に……其は断絶する騎士」
 幽霧がその呪文を紡いだ途端、涼香は見えない斬撃に襲われる。その斬撃は見る見る内に涼香のバリアジャケットに傷を入れていく。
 見えない斬撃が消滅した時には幽霧の姿は無くなっていた。名前の通り、霞のように。
「いきます」
 無機質過ぎる幽霧の声が涼香の耳朶を叩くのと同時進行で、腰に腕が回される。
「えっ………?」
 涼香の視界が逆さになる。
 幽霧が行おうとしているそれはへそで投げるバックドロップ。
 次の瞬間には頭に鈍い痛みが来た。視界が激しく揺れる。
 頭に来た衝撃に悶える涼香に幽霧から容赦無い攻撃が叩き込まれる。
「汝は弓。幾千の敵を射殺す者。我が名誉は汝の弓と共に……其は射抜く騎士」
 幽霧の周りに真紅のスフィアがいくつも生まれる。その数は三十以上はあった。頭の痛みに悶える涼香に向けて、幽霧は腕を振り下ろした。スフィア一つにつき十発の魔弾が撃ち出される。
 痛みから涼香が立ち直った時には幽霧が〈其は射抜く騎士〉を発動した後であった。
 真紅の魔弾で蹂躙され、涼香の身体が紙の様に弾き飛ばされる。
 無慈悲な幽霧の攻撃にどうしようも出来ない涼香。
 よろけながらも立ち上がる涼香に幽霧は言った。
「……涼香さん。貴方の想いはこんな物なんですか?」
「幽霧く……」
 その時、四階と五階を結ぶ階段から大きな音がした。
「涼香さん!」
 扉から現れたのはギンガの姿であった。その顔にはガーゼや絆創膏が張られ、四肢には湿布やギブスがついている。
「大切な人の前で証明して下さい。涼香さん……ギンガさんへの想いを」
 右手をかざす幽霧。その手には魔法陣が浮かんでいる。
 軽くまぶたを閉じる涼香。瞼を開いた時には顔に苦笑いのような表情が浮かんでいる。
「そんな事を言われたら……痛くても頑張らないといけないじゃないですか……」
 突き出した涼香の手の前に魔力球が中心に一つ。その周りに六つ生成される。
 幽霧は苦笑する。そして最終奥義とも言える魔法を起動させる。



「其は呪いの魔弾。汝は死の呪いすら喰らう者。我は汝という呪いを持って我が怨敵を穿つ。全てに終焉を告げる黒の福音にして、壱の始まりを告げる白の福音」
 幽霧の手のひらに白と黒が交じり合った球体が生まれる。その大きさはなんと、一戸建ての住宅ぐらいあった。
「煌めく白夜と暗き闇夜の狭間にありし悠久の黄昏。その中に黄金の月と白銀の太陽は見えるか」
 白と黒の魔力球に無数の亀裂が入り、内側へと飲み込まれていく。徐々に球体が小さくなっていく。
「其は全てを貫く極星。あらゆる世界に存在する精霊の魂にして、永遠の護り手。それが故に世界最古の英雄となりし者」
 幽霧の腕に魔方陣のような紋章が浮かび上がる。 徐々に、肩の付け根ぐらいまで紅い紋章で埋まっていく。
 身体が魔力の収束によって悲鳴を上げた。 一瞬だけ魔法陣が揺らぎ、幽霧の身体に変調が起こる。 皮膚と肉の間に異物を押し込んだような痛みと違和感が脳内に伝達される。
「其は全てを穿つ月の雫。無限の闇を漂う者にして、冥府の棺。それが故に夜の王となりし者」
 手の平に核とし、周囲の魔力も吸収していく。
 球体は高速回転しながら、撃ち出されるのを待つ。
「其は全てを灼く紅陽。全てを照らす光にして、終焉の劫炎。それが故に天の覇者となりし者」
 更にその術式は幽霧の身体を蹂躙し、圧搾し、全身の魔力を引きずり出し、圧縮が繰り返された球体に収束した。
「其は幾千。幾万の始まりと終わりを束ね、世界を穿つ一閃を放つ」
 強制的な圧縮の上に無理な収束を行っているせいでエネルギーが急速に高まり、直視を拒みたくなるような強い光を発し始める。
「万有の魔王すら撃ち抜く英雄の魔弾にして―――幾千の神を葬る神の御剣―――」
 幽霧の最終奥義である魔法は急速に回転しながら発動を待つ。



 ある種の恐怖を感じながらも涼香は魔法を起動させる。
「我の前に幾千の戦場あり。我は汝の為にその身を振るう」
 中心の球体を周りに浮かんでいた魔力球が高速回転を開始する。
「汝との約束を守る為に我は汝の敵を掃討せん」
 更にその術式は涼香の身体を蹂躙し、圧搾し、全身の魔力を引きずり出す。
 周囲で高速回転する球体の中心にある魔力球が冬の湖を思わせる蒼色に光り輝く。
「……其は約束の結晶」

 今ココにお互いの最終奥義とも言える魔法が展開される。

アルテアリア・イクスシュヴェリアド神剣
 砲身とする為に展開した力場を長大な筒状に変形させ、強い光を放ちながら高速回転する球体を開放する幽霧。
 指向性を持たされた魔力の奔流が、発動時に発生した余剰熱量と圧力と共に撃ち出される。

「エクスキャリバあぁぁぁぁぁぁぁ!」
 涼香は足を後ろに振り上げ、一気に鞭の様に足をしならせながら横から半円を描くように光り輝く蒼色の球体へ蹴りこんだ。
 一連の動きは繊細にして豪放。機敏にして静謐。華麗にして残酷。蹴撃なのに刀の様な鋭さがあり、蹴撃なのに弓の様な美しい放物線を描く。
 蒼色に光り輝く魔力球は圧縮された魔力の奔流と共に、軌道上にあった空気を全て前方に押し出すほどの威力を孕んだ衝撃波を放つ。

 二つの魔力が中心点でぶつかり、大規模な魔力爆発が起こる。
 幽霧は力場を展開している事により事なきを得たが、涼香は爆風に飛ばされてリングの外に落ちようとしていた。
「涼香さん!」
 ギンガは今も暴風が起きている中のステージに飛び込み、リングの外に落ちようとしている涼香を抱きしめた。そしてギンガも涼香と一緒にリングへ落ちて行った。
 一気に魔力を消費したせいで放心状態になっていた涼香はしばらく経ってから、自身がギンガに抱き締められている事に気づいた。
「あれ……? ギンガさん?」
「涼香さん! 大丈夫なんですか」
 ギンガは涼香を抱きしめた状態で訊ねてきた。
「とりあえず……大丈夫です」
「良かった……」
 安心したかのように涼香を抱きしめるギンガ。
 下に何があるかは知らないが、涼香は落下している事は感覚で分かった。そしてギンガの為に今の危機から脱しないといけない事も。
 身体に残っている魔力と周囲の魔力をかき集め、バリアジャケットに注ぎ込む。光が涼香の身体を包み込み、黒と白のスウェットスーツへと変わる。
 両肩や腰の辺りに小型の飛行ユニットらしきエンジンとスラスターが左右に装備され、両腕や両足は機械で武装されていた。
 エンジンが少ない魔力で稼動し、スラスターから魔力が放出される。放出された魔力を推進力にして上に飛び上がる。
 ステージでは今もユニゾン状態の幽霧が待っていた。
「おかえりなさいませ」
「あっ……はい」
 どうにかステージに着地した涼香は挨拶を返し、幽霧に訊ねた。
「この場合は…どうなるのですか?」
「涼香様たちの勝ちで良いですよ。自分たちはギンガさんに対する涼香さんの想いが分かっただけで十分なので」
 幽霧の言葉に涼香とギンガは顔を真っ赤にする。
 そんな二人を楽しそうに眺めながら幽霧は背後にある扉を示した。
「次が最終地点です」



 最終地点である六階では雫が正座で二人を待っていた。
「こんばんは。お二人様」
 何故か着ているのは男物の黒いスーツと白衣ではなく、何故か巫女装束。
 雫は二人の視線を察し、巫女装束の説明を開始する。
「祭りの三日間はこの神社の巫女をするように、合宿でココを来る時から町長に頼まれたのです」
「そうなんですか……凄く似合ってますよ」
「お褒め頂き光栄ですが……その口はギンガさんの為に取って置いて下さい」
 涼香の賞賛を雫は良い笑顔で返す。その言葉でギンガの頭から湯気が出るくらい赤くなる。
「そろそろ、目的を果たさないといけませんね」
 立ち上がる雫。涼香とギンガは首を傾げる。
「この町で祀られてのは、恋愛の神様。恋人たち祝福し、失恋した人の悲しみを癒す神です」
 涼香とギンガは雫の言葉に驚く。雫が言っているのはきっと、『嘆きの歌姫』だろう。
「最終日は恋人たちを一組だけ招いて、その二人の前で舞を奉納するのが慣わしなのです」
 二人を座らせ、雫は玉串を持って祭壇の前に立つ。
 雫の手があがり、指先が撥ねた。
 手に持った玉串が清水のしずくをこぼす。
 踏み切りは強く。
 巫女装束のたもとがひるがえる。
 その衣の先まで、凛とした雰囲気を宿す。
「―――」
 いつの間にか握られていた神楽鈴が鳴る。
 祝詞ばかりか、その音色すら鮮やかに重なった。
 そこにはただ純粋に泣きたくなるような舞があった。
 余りに美しすぎて、何もかも忘れさせてしまう舞があった。
 月光の下を、雫の白い足袋が跳ねる。
 ただひたすらに舞い踊る。
「―――」
 断ち切るような祝詞と共に神楽鈴が続いた。
 そこで奉納の舞は終わった。
 終わってからもしばらく固まっていた雫がゆっくりと身体を二人の方に向ける。
「これで後は……お二方にして貰うだけですね」
「え? 何をですか?」
 突然の事に驚く涼香とギンガ。
 雪のように白い肌に朱を指し、雫は二人に答えた。
「接吻です」
「せっぷ……ぶふっ!」
 雫の言葉に噴く涼香。
 いきなり目の前でキスをしろと言われたら誰でも驚くであろう。
「昔は床を共にする事までしていたらしいのですが、最近は略式で接吻になったそうです」
 きょとんとした顔で雫はあっさりと答えた。
 更に噴く二人。床を共にするというのは性干渉。それは巫女に自分たちの性行為の現場を見せるのが慣わしというだ。
「それに比べれば、接吻はまだ恥ずかしくないと思います。私に見られながらというのも恥ずかしいかもしれませんが、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げる雫。それを見た二人は恐縮するしかない。
「涼香さん……私は良いですよ…その……キス」
 ギンガは両手を握り、じっと涼香を見つめてくる。
 そうなると涼香はどうしようもない。
「……分かりました」
 そっと瞼を閉じたギンガの両肩を掴む涼香。唇はかすかに濡れていて、妙に艶かしい。長いまつげもかすかに震えている。
 涼香は瞼を閉じてそっと顔を寄せた。
 そしてギンガの唇をついばむようなキスを落とした。




 『涼香様への残暑見舞いver.2』(了)















スペシャルサンクス

 高町恭也様
 道@剣製王レクス様
 XLONOS様
 涼香様
 ジンナイ様
 ケイン・ディルフォード様
 ラグナ六区様
 からすのしっぽ様
 神楽優人様
 こっとん様
 こまみ様
 その他。生贄になった方々



 『交換戯言日誌』は『魔法少女ろりこっとん プロジェクト』。通称「ろりこっとんプロ」を応援しています
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2件のコメント

[C153]

ちょ、黒いです!
なんて言いますかトラウマになりそうなものばかりが多くてR指定が入るんじゃないかとひやひやしましたw
でも涼香さんも無茶しますね~ww
普通の人が入ったなら確実に精神崩壊しますよ……
特に白いのが出てきた辺りはきついですね…・・・
  • 2008-09-22
  • 投稿者 : 羽
  • URL
  • 編集

[C154]

全体的に密度が濃い、良い内容でした
とても読み応えがありました、最後までどんな終わり方をするのだろうと考えさせられる感じ...
最後の幽霧と紅い女性とのユニゾンも謎を残す意味深なフラグにも見えてしまいました
雪奈さん、お疲れ様です
  • 2008-09-23
  • 投稿者 : 恭也
  • URL
  • 編集

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Author:雪奈
「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
物語の続きを作るのもまた……
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