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[C152]

雪奈様の言った「ツェチェリカとしての~」が、気になりますよー
真実がわかるまで私なりに考えてみます、とゆうか妄想?
感想です、甘あまです、涼香さんとぎんがさんはやっぱり相思相愛で
二人がヒロインとヒーローなんですね。微笑ましい限りです

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「涼香様への残暑見舞いver.2」中編

こんばんは。雪奈・長月です。

今夜は日曜日。
現在、涼香様の時空管理局ラジオ進行中!
自身の身体をご自愛ください。

というかまず先に私自身の精神をご自愛しないといけないですかね・・・・・

今回は「涼香様への残暑見舞いver.2」の中編です。
理由はやっぱり間を空けるのが嫌だったからです。
エロシーンについては後編にあたるシーンを全部書き終えてからの投票結果で検討します。
中編も中編でそれなりに長いですけどね。

さて、コメント返しの時間です。





コメント返し⑧
「前回の幽霧とナタネの会話が物語に関係してくるということは分かってました」
 ・それでそれがどう関わってくるかはほとんど分かるとは思います。
  作者である私に○○ならないように○○して欲しいというコメントがあればありがたいです。
  流石にこれもとある期限までに一定人数が気づかないとシナリオが変わりますからね・・・・・・・

「周りの方々は二人の反応をみて酒の肴にしてますねw  もちろんあの人も・・・かな??」
 ・あなたのいう「あの人」は私には分かりかねますが、私の考える『あの人』は楽しんでいると思います。また別の「あの人」は何かを祈っていると思います。

では、問題の本編。
「涼香様への残暑見舞いver.2」中編に入ります







「涼香様への残暑見舞いver.2」 中編

「はぁ……ギンガさん。どこに行ったのでしょうか……」
 足を止めずに涼香は呟く。
 身体能力を魔法ブーストと自己ブーストの両方で底上げしていても、涼香はいまだにギンガを見つけることが出来なかった。
 向こうから歩いてくる二つの人影を見つけた。
 涼香は人影の方へ走り、話しかける。
「はぁ……す……すみません。こっちに紫色の髪をした女の人が走ってきませんでしたか?」
「来ませんでしたが……あれ? 涼香さん?」
 そこにいたのは幽霧と雫であった。
 雫は荒い息を吐く涼香に雫は静かに問いた。
「どうしたんですか? 大切な物を無くしてしまった子供みたいな顔をして」
「ちょっと……ギンガさんと喧嘩してしまって……」
「お話……聞きましょうか?」
 涼香は雫に離し始める。
 話を聞き終えた雫は隣で待機している幽霧に言った。
「霞」
「……何でしょうか?」
「鼻から闘魂抽入して下さい」
 それは涼香をを私刑にしろという事。
 しかし幽霧は躊躇い等全く無く、その指示に応じた。
「ヤー」
 幽霧の姿が一瞬にして消える。
 まるでその者に名付けられた名前と同じように。
 幽霊の様に不気味に。霧の様に希薄に。霞の様に儚く。
 涼香が最初に感じたのは鈍痛。
 認識したときには既に遅い。
 頬と歯茎には鈍い痛みを感じ、涼香の身体は吹き飛んでいた。
 何故、自身が飛んでいるのか分からなかった。
 拳撃によって吹き飛んだ涼香を幽霧が更に追う。
 幽霧の片手には紅い物が巻かれている。
 いつもは無表情でいる事が多い幽霧の知る者なら驚いたことだろう。
 追跡する幽霧の顔には笑みが浮かんでいる。
 それはまるで獲物を狩る為に歯を剥いた肉食動物。
 幽霧は愉悦に満ちた笑みを見せる。
 この獣に捕まってしまったら終わりだと、涼香の生存本能が警鐘を発した。
 しかし生存本能が警鐘を発するのは遅すぎたと言える。
 強引に涼香の服を掴む幽霧。そして勢いを無視した一本背負い。
 一瞬だけ無重力空間にいるような感覚を涼香は味わった。
 涼香の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられる。
 地に叩きつけられる前に涼香が見たのは、沢山の星が瞬く夜空であった。
 涼香は背中に鈍い痛みを覚える。
 受け身も取れないまま地面に叩きつけられたせいで背中を打ったのだろう。
 身体の至る所が悲鳴を上げている。痛みで動かす事すら出来ない。
「涼香さん」
 頭上で雫の声が聞こえた
「涼香さんはギンガさんが好きですか?」
「はい」
 直球な問いに涼香は直球に答えた
「それでも、綺麗な女性に迫られたら目が行きますか?」
 今度は恐ろしく切れのいい変化球のような問い。下手な韜晦は利かない。
 下手な韜晦をした瞬間、幽霧によって半殺しにされるだろう。
「……はい」
 打ちひしがれる思いで、涼香は頷く。やっぱり嘘はつけない。
 雫は大きな溜息をつく。
「それが男性の性なのでしょうね。仕方ないと言えば仕方ない事なのですが……」
 涼香は何も言うことが出来なかった。
「では……涼香さんに一つだけちょっとしたアドバイスを」
 その顔は怒っているとかそんなのじゃなく、凄く真摯で厳粛な表情だった。
「ギンガさんは強い方だと思います。理性では男性の性を理解しています。それでもギンガさんは女の子なのです。強いように見えても、理性的であるように思えても、かよわい女性なのです」
 その言葉は意味深過ぎて、涼香には意味を完全に把握する事が出来なかった。
 しかし涼香の目の前にいる女性が女心について言っている事だけは分かる事が出来た。
「涼香さん。女性にとって男性のその性は、とても不安でとてもとても哀しいものなのです。理性ではギンガさんも涼香さんを理解してもいます。この事がさして怒るべき事でもないとも判っています。ただ、女性ですから哀しいのです」
 雫の言葉はとてつもなく重かった
「ギンガさんが涼香さんに求めているのは、謝罪でも、言い訳でもありません」
 再び溜め息をつく。涼香の気は更に重くなる。
「そもそも……哀しんでいる女の子を放って置いて良いのですか? しかもその女の子は貴方が大好きで、貴方もその女の子が大好きなのでしょう?」
 片目をつぶり、雫は意味深な笑みを涼香に向ける。
 その仕草は諜報部の長月部隊長を彷彿とさせた。
「……速く行って下さい」
 幽霧は涼香に促す。さっきの猛攻が嘘であったかのようだ。
 硬い地面から起き上がる涼香。
 最初に殴られた頬以外は全く痛くなかった。
 どうやら手加減されていたようだ。
 いきなり出された命令に対して躊躇無く動くのも凄いが、その中で支障が出ない程度に手加減もしている事も凄いと言えた。
「じゃあ……行って来ます」
「行ってらっしゃいませ。涼香さんに幸運が訪れますように」
 雫は着ている服の裾を摘んで軽く頭を下げ、幽霧は涼香に敬礼をした。
 涼香は二人に活を入れられ、再びギンガを探し始めた。



「うっ……えっ……くっ……」
 その頃。ギンガは泣きながら海岸のそばにある道を歩いていた。
 目からは大粒の涙が止まる事無くこぼれ、目の周りは擦りすぎで赤くなっている。
 ジンナイに言われなくてもギンガは涼香が悪くない事は分かっていた。
 涼香は時空管理局ラジオのメインパーソナリティー。老若男女に人気がある。
 熱狂的な女性ファンがいきなり涼香にキスする事位、涼香の恋人として想定の範囲内。
 しかし思考ではそう思っていても、心の中ではすごく切ない。
 自分だけを見て欲しい。自分だけに優しくして欲しい。
 その願いは叶えられないという事も分かっていた。
 しかし願わずにはいられない。
 なんて自身は嫉妬深いのだろうとギンガは自嘲する。
 そして悲しみが込み上げてきた。
「くっ……はがっ……」
 ついに声すら出なくなる。出るのは悲しみと嗚咽のみ。
 ギンガはそれでも泣きながら歩いていた。

 ぷ~るるるるる……るるるるるるる~

 その時、向こう側から小さな点が見えると同時にチャルメラの音が聞こえた。
 その点と音は少しずつ大きくなっていく。
「あれ? ギンガさん? こんな所で何をしているのですか?」
 現れたのはチャルメラを吹きながら屋台を引く雪奈の姿であった。
 屋台の暖簾にはしっかりと居酒屋「苺壱枝」という文字が入っている。
「雪奈さん……雪奈さあぁぁぁぁん!!」
 ギンガは泣きながら雪奈にすがりつく。
「うわっぷ。どうしたんですか……ギンガさん。迷子になった子供の様に泣きじゃくって」
「雪奈さん……雪奈さん……」
 少し困った顔をしながらギンガの後頭部を撫でる雪奈。
 このままでは埒が明かないと思ったのか、雪奈は屋台を引きながら歩き出す。
 ギンガも雪奈についていく。
 人気の少ない公園の前に屋台を止める雪奈。
 屋台の中に仕込まれた長椅子を展開し、そこにギンガを座らせて尋ねる。
「一体、何があったのですか?」
「それは……」
 やはり話しづらいらしく、どもるギンガ。
「ん~。これ位が良いかな」
 雪奈は棚から一本の酒を抜き、グラスに注ぐ。
 レモン色の液体をギンガに差し出す。
「柑橘系の果実で作ったお酒です。ささ、いっぱいどうぞ」
「……いただきます」
 グラスのお酒を飲むギンガ。柑橘系の酸味が口いっぱいに広がる。
「さ~て。話して貰いましょうか?」
 ギンガはグラスに視線を落としながらポツリポツリ語り始めた。
 涼香に近づいてくる女性に嫉妬の気持ちが湧いてしまう事。
 その嫉妬の矛先を涼香に向けてしまう事。
 ついさっき、涼香に平手打ちしてしまった事。
「私……どうすれば良いのでしょうか……?」
「ふむ……」
 話を聞き終えた雪奈は判断を下す。
「簡単な事だよ。他人なんか気にすることが出来ないくらい、涼香さんに熱烈なアプローチをすれば良いんだよ」
「でも……」
 雪奈の言葉に同意する事を躊躇うギンガ。
 羞恥心というのもギンガにあるから頷けないのもあるだろう。
 しかしそれ以上に強烈なアプローチをする事で涼香に嫌われるかもしれないという恐怖があるのだろう。
 その時。誰かが居酒屋「苺壱絵」の暖簾をくぐる。
「邪魔するな。雪奈」
 入ってきた女性は純粋に紅いと形容するしかない容姿をしていた。
 夜の闇に隠される事無く浮かび上がるような紅い髪。
 鮮血をそのまま固めて出来たような真紅の瞳。
 ひどく純粋で力強く、そして何よりも美しい紅。
 髪や瞳に対して肌は鮮烈と感じる程に白く、その肢体が描き出す曲線は妖艶と形容するしかない。
 豊満痩躯な身体を包むのは髪や瞳と同じ紅のドレス。
 まるでどこかのパーティから抜け出したような感じであった。
 雪奈は真紅の女性に笑顔を浮かべる。
「ツェチェリカとしての貴女は久しぶりですね」
 そう言って雪奈はグラスに透明な液体を注ぎ、女性に差し出す。
「ほぅ。『Alors s'il vous plait me remplit par vous comme m'etreindre私を抱き締めて、あなたの愛で私を満たしてください』か……私の好きな銘柄じゃないか」
 グラスの中身を煽るツェチェリカ。
 そして空いたグラスを置き、息を深く吐き出しながら呟く。
「……やっぱりこれは恋の味がするな」
「私もこのお酒は大好きですね。確か、あの二人に贈った酒もそれでしたね」
 雪奈は空いたグラスに再び同じお酒を注ぐ。
「……で。隣で泣きそうになっている奴は何なんだ?」
 ギンガを眺めながらツェチェリカは雪奈に尋ねる。
 雪奈はグラスを磨きながら苦笑する。
「近づいてくる人たちに笑顔で接する恋人に苛立ちを感じて平手打ちをしたのは良いけど、後々考えたら悲しくなったんですよ」
 ギンガの方を向くツェチェリカ。
 ツェチェリカはギンガを諭すように言った。
「それでもお前はそんな奴でも好きなったのだろう?」
「……はい」
 その問いにゆっくりと静かに頷くギンガ。
 ツェチェリカは口元に笑みを浮かべながらアドバイスをした。
「なら簡単だ。こちらしか見れないようにアプローチし続ければ良い」
「……でも」
 涼香に嫌われる事に恐怖して、ツェチェリカの進言に躊躇うような仕草を見せるギンガ。
 グラスを磨きながら笑う雪奈。その笑顔は妙に黒い。
「ギンガさんは涼香さんの事しか考えられないくらい、大好きなんでしょ? なら涼香さんが四六時中、ギンガさんしか考えられないようにメロメロしなさい」
 更にけしかけるようにツェチェリカは言った。
「恋する者は強いのだぞ? 私が知る中では、大切な奴を手に入れる為に命まで賭けた奴がいた」
 グラスの『Alors s'il vous plait me remplit par vous comme m'etreindre私を抱き締めて、あなたの愛で私を満たしてください』を揺らしながら思い出すように呟く。
 何故かその顔は少し寂しげであった。
 アルフィトルテの顔を見つめるギンガ。
 その顔に何か同調してしまう所があったのだろう。
 雪奈は『Alors s'il vous plait me remplit par vous comme m'etreindre私を抱き締めて、あなたの愛で私を満たしてください』を注いだグラスをギンガに差し出す。
「……どうぞ」
「いただきます」
 ギンガは『Alors s'il vous plait me remplit par vous comme m'etreindre私を抱き締めて、あなたの愛で私を満たしてください』を口に含む。
 アルコール特有の舌が痺れる感じとフルーティな味が口いっぱいに広がった。
「確かにこれは……恋の味ですね」
 口に広がる甘さを感じながらギンガは呟く。
 雪奈はギンガに優しく微笑む。
「うん。そう。これはずっと人の想いを繋ぎ続けた恋の酒。ギンガさんのお父さんであるゲンヤさんとお母さんであるクイントさんも愛したお酒といったら……君は信じる?」
「ええ……」
 悪戯っぽく笑う雪奈の言葉に頷くギンガ。
 しかしまだ涼香と顔を合わせるには躊躇いがあるらしく、まだ元気が無い。
 ギンガの憂いを絶つように二人は言った。
「お前とそいつの絆はまだ切れていない。まだ間に合うさ」
 ツェチェリカはグラスに残る酒を口に含む。
「ギンガさんもこの酒とこの人の言葉を信じてくれないかな?」
 憂いが見えるギンガの両手を掴んで雪奈は微笑みかける。
「……分かりました。頑張ってみます」
 ギンガはノロノロと立つ。
「お代はいりません。その代わり……」
「分かりました」
 雪奈とアルフィトルテはギンガに手を振って見送る。
 ギンガはぎこちなく微笑みながら居酒屋『苺壱枝』を後にした。
「ありがとうございます。アルフィトルテ」
 冷水の入ったグラスを差し出す雪奈。
「気にするな。お前にはいつも世話になっているからな」
 アルフィトルテと呼ばれた女性――アルフィトルテ・ツェチェリカはお冷を飲みながら返す。
 雪奈は微笑みながらグラスを磨く。
 いきなり歌が聞こえた。
「?」
 その歌声に二人は顔を上げる。
「歌ですね」
「……歌、だな」
 徐々に近づいてくる声に真剣な顔をしながら二人はグラスを置いた。
 聞こえてくるのは綺麗な歌であった。
 自身のデバイスを握りながら雪奈は言った。
「……魅了効果つきのね」
 雪奈は声のする方へ歩き出す。
「アルフィトルテはそこにいて下さい」
「ああ。分かった」
 再びお冷を口に含むアルフィトルテ。
 いつでもデバイスを展開できるような状態で雪奈は闇にまぎれる。
 しばらく歩いた雪奈は歌の主と接触した。
「貴女がこの歌の主ですか」
 そこにいたのは一人の少女であった。
 夜の海を思わせる群青色の瞳に、雪のような真っ白な髪と肌。
 白い肌の上に纏うのは同じ白色のワンピース。
「はい。綺麗なお姉さま」
 少女は突然、雪奈の前で歌い始める。
 その歌は全ての生物を虜にする魔性の歌。
 目の前にいる女性の精神も支配できる。少女はそう思ったのだろう。
 しかし少女の確信はただの幻想であった。
 雪奈の姿が一瞬にして消える。
 次の瞬間、少女の頭を衝撃が貫いた。
 攻撃を喰らったと認識したときは既に死線ギリギリの位置に立たされていた。
 何故なら少女の首筋に巨大な鎌の刃が当てられていたのだから。
「精神力の弱い人なら支配できるけど、精神の強い人にはただの酔っぱらいの戯言だよ」
 雪奈の蒼い眼が少女を射抜く。
「そうだな」
 バリアジャケットを纏ったアルフィトルテが少女の背後から答える。
 突き出したその手は少女の後頭部に向けられ、真紅の魔法陣が展開されていた。
 少女が不審な動きをした瞬間、背後から魔法を叩き込む気であろう。
「アルフィトルテ。いたのですか」
「念には念をと言った所だな」
 魔法陣を展開している手を下ろさずに答えるアルフィトルテ。
「この状態だと、私も吹き飛ぶのですが」
「お前なら発動と同時に結界を展開する事くらい出来るだろう?」
 文句を言う雪奈にアルフィトルテはニヤリと笑う。
 雪奈はアルフィトルテの言葉に苦笑いした。
「まぁ。しようと思ったら出来なくもないけど……アルフィトルテのほとんど零距離砲撃は辛い物があるんですよ……」
「ふむ……そうなのか?」
「そうですよ~」
「あの~」
 いつの間にか蚊帳の外にされている少女が口を開いた。
 少女の声で最初の目的を思い出す雪奈とアルフィトルテ。
「ごめん。忘れてました」
「すまない。私もだ」
「そんなぁ……」
 二人の言葉に少女は落胆し、肩を落とす。
「……で。貴女は何者ですか?」
「私は……」
 正体を口に出そうとする少女だが、それを口に出そうとしない。
 何かを思い出したアルフィトルテは少女に尋ねる。
「もしかして、この街で有名な『嘆きの歌姫』じゃないのか?」
 『嘆きの歌姫』と呼ばれた少女は驚いたような顔をする。
 まるで正体が悟られるとは思っていなかったというような顔であった。
 雪奈は『嘆きの歌姫』を上から下までじっくりと観察し、驚いたような顔で小さく呟いた。
「この世界にも精霊種っていたんですね……」
「精霊種?」
 アルフィトルテは雪奈の言葉に首を傾げた。
「いや。こっちの話……なら、その能力にも納得できますね」
「それでお前はここで何をしている?」
 警戒を解こうとせず、手に魔法陣を展開しながら問い詰めるアルフィトルテ。
「悲しみの匂いに引き寄せられたのですわ」
 首筋に鎌の刃を当てられ、背後で魔法陣が展開されている状態で『嘆きの歌姫』は答えた。
 その言葉に思い当たる節のある二人は一瞬だけ苦虫を潰した様な顔をした。
 どうやらギンガの悲しみが『嘆きの歌姫』を呼び寄せた原因らしい。
 二人はここで展開していた武装を解除し、『嘆きの歌姫』に答えた。
「貴女が探している悲しみは私たちが無くしました」
「果たして……そうなのかしら?」
 目を細めながら尋ねる『嘆きの歌姫』。
 その意味深長な発言に二人は怪訝そうな顔をする。
 『嘆きの歌姫』は二人を眺めながら瞼を閉じた。
「まぁ。良いですわ。私はこれで失礼します」
 言い終わるか終わらないかのうちに少女は姿を消す。
 少女のいた場所には液体を落としたような湿り跡だけが残されていた。
 残された二人は無言で地面に残った湿り跡に目を落とした。
「あの言葉が正しければ、あいつはまだ悩んでいるのだろうな」
「私たちが出来るのはここまでです。まあ、後は涼香さんとギンガさんの問題です。そこまで手を出すのは野暮というものです」
 ここではない遠くを見ながら答える雪奈。
 雪奈の言葉にアルフィトルテも納得するしかない。
 二人が出来る事は涼香とギンガの仲が元通りになる事を祈るだけ。
 そして星の輝く夜空を見上げながら雪奈は呟いた。
「ここが正念場ですよ。涼香さん……」



 ギンガは夜の暗い道をとぼとぼと歩きながらホテルへと向かっていた。
 頭を占めているのは涼香の事。
 やはり涼香の頬をひっぱたいた事がギンガの中で尾を引いていた。
「はぁ……」
 ギンガは重いため息をつく。
 雪奈とツェチェリカには頑張ると頷いてしまったが、まだ頑張れる自信は無かった。
 そうこうしている内にギンガはホテルについてしまった。
 ホテルのドアに力を入れようとしたその時。
「ギンガさん!」
 背後から声を掛けられるギンガ。
 それはギンガが一番会いづらい人。
 涼香の声であった。
 確かめるために振り向こうとしたが、ギンガは振り向く事は出来なかった。
 何故なら後ろから涼香に抱きしめられていたから。
「っ! 離し……」
「離しません」
 涼香は抱きしめる力を強める。
 密着しているせいでお互いの鼓動が聞こえた。
 心臓はお互いの考えを表すように早鐘を打つ。
 どちらも口を開く事も話す事も出来ない。
 ただ時間だけが過ぎていく。
 緊張で口が渇き、荒い息が吐き出される。
 しかし相手から伝わる心音に二人は一種の安心感を感じていた。
「……好きです」
 先に沈黙を破ったのは涼香だった。
「嘘つき」
 ギンガは涼香の言葉を一言で切り捨てた。
 柳眉が切れ上がり、上目遣いで睨みつけるような顔は凄まじい迫力のとても怖い表情であった。
 そうなる事を既に想定していたらしく、涼香は更なる言葉を紡ぐ。
「確かに綺麗な人には目は行ってしまいますが……大切な人はギンガさんだけです」
 その言葉にギンガは息が止まるのを感じた。
「本当ですよ?」
 涼香はぎこちなく笑いながら言う。その顔には微かに笑みが浮かんでいる。
「じゃあ……約束して下さい。絶対に浮気しないって」
「はい」
「他の女の人に目を向けないで下さい」
「はい」
「私の料理以外はあまり食べないで下さい」
「……はい。」
 ギンガはここで言葉を区切り、間を持たす。
 言いにくいことでもあるのだろうか。
 しばらくして、ギンガは口を開く。
「……最後に……私をずっと好きでいて下さい……」
「分かりました。」
 涼香は言い終わるか終わらないかのうちに即答した。
「じゃあ、証拠を見せて下さい」
「証拠?」
 ギンガは頬をリンゴのように真っ赤にする。
 そして、言った。
「私にキスして下さい」
「……分かりました」
 柔らかな音を立てて、ギンガが涼香に身を委ねる。後ろへ押し倒さんばかりに思いっきり体重をかけてくる、地に足は着いているが、そっちにはちっとも体重は掛かっていないだろう。
 ただ、それでも今の涼香にはギンガは軽かった。とても可愛らしほど軽かった。
 顔を寄せてくるギンガに涼香も顔を寄せる。
 そして二人の唇が触れた。
 一瞬だけ触れるだけのキスではあったが、ギンガは満足げに微笑んだ。
「じゃあ……部屋に戻りましょうか」
「……はい」




 涼香が『ミッドチルダナイトステーション』。略して『みどすて』の特別企画で生中継中。今日は朝から夕方まで続くらしい。
 間違いなく、放送が終わったらすぐに広報部局員全員が倒れるだろう。
 その頃。ギンガはあるカフェテリアに来ていた。
 カフェテリアのテラスで冷えたカフェオレを飲んでいた。
 そこで重厚なスーツケースを持った人がギンガに声をかける。
「おはようございます。ギンガ・ナカジマさん」
「あっ。おはようございます。幽霧さん」
 幽霧と呼ばれた人は椅子を引き、ギンガの正面に座る。
 そしてスーツケースを机に置いた幽霧は口元を軽く緩めた。
 まず先に幽霧は二人が仲直りできた事を祝福した。 
「とりあえず……仲直り出来て良かったですね」
「……うん。ありがとう」
 頷くギンガであるが、何故か元気が無かった。
 淡々とした口調で幽霧は尋ねた。
「もしかしてまだ涼香さんを信用できていませんか?」
「!?」
 図星であったらしく、ギンガは驚くような顔を幽霧に見せる。
 幽霧はじっとギンガを見る。その目は心の奥まで見透かすようであった。
 本当に心まで読まれてしまいそうな気がしたギンガは幽霧から視線を離す。
 視線を逸らすギンガに手をそっと乗せる幽霧。
 ギンガはそれによって幽霧の方へ向いてしまう。
 向いた途端、ギンガは深く澄んだ幽霧の瞳に吸い込まれてしまう。
「『命短し、恋せよ。乙女』――強い想いを持つ人はとても強いのですよ。諦めてはいけません」
 ギンガは幽霧の言葉と仕草に再び驚いた顔をする。
「どうしましたか?」
 驚いたような顔をするギンガに幽霧は首を傾げた。
「いえ……昨日、ツェチェリカという方にも似た事を言われたので……」
「そうでしたか……」
 ギンガの説明に幽霧は納得する。
 幽霧の顔に浮かぶ表情にギンガはまた驚く。
 何故かいつもならば無表情な幽霧が苦笑するかのような顔をしていたからだ。
 そして幽霧はスーツケースを開き、中に入った紫色の石を差し出す。
「お借りしていたブリッツキャリバーをお返しいたします」
「出来たの?」
「はい。ギンガさんのご要望通りに仕上がりました」
 営業用の艶っぽい笑みではなく、爽やかな笑顔で幽霧は答える。
 ギンガは帰ってきた『ブリッツキャリバー』を胸に抱きながら呟く。
「良かった……これで涼香さんに守られているだけの存在じゃない」
 幽霧はギンガを見ながらポツリと口に出した。
「お二人はお互いに同じ事を考えているのですね……」
「え……?」
 ギンガは幽霧の口から出た言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「そのままの意味です」
 淡々と読み上げるように幽霧は説明した。
「自分が『天乃羽衣神楽式』の拡張を頼まれた時、涼香さんが同じ事を言っていたのですよ。「これでギンガさんと対等に並んで歩く事が出来ます……」って。ようは……」
 無表情が普通の状態である幽霧が珍しく、平等に人を温かさで包み込むような微笑みを浮かべながら答えた。
「お互いに相手の事を想い合っているのに、相手の気持ちを分かっていないと言う事です」



「はぁ……」
 ギンガは浜辺で深いため息をつく。
 昼間は涼香たちの方に戻らずに無作為に歩いて、最後に辿り着いたのは浜辺であった。
 そろそろお祭りの方に人が集まり始めたのだろう。浜辺にはほとんどギンガしかいない。
 吹き抜けた潮風で身体や頭に出来た爪痕に染みて、その傷跡が少し痛かった。
 涼香は笑顔で許してくれたが、ギンガにはまだ自責の念があった。
 のしかかる罪悪感に目の前がゆっくりと回転し始める。
 ギンガは身体に爪を立て、歯を食いしばった。
 次の瞬間には両手で自身の頭をかきむしりはじめる。
 紫紺の長い髪が指に絡まり、少しずつ砂浜に落ちる。
 固まった血の塊が指と爪の間に挟まって黒くなっていく。
 身体から湧き上がるのは自身で自身を壊したいという衝動と自身への嫌悪感。
「うぅ……うううううううっ!」
 目から涙が溢れ、声は泣き声に変わる。
 遂には動物が上げるような唸り声に変わった。
 そして徐々にギンガの精神が病んでいく。
 緩慢であるが少しずつ、ギンガの精神が狂っていく。
「……その悲しみ……消して差し上げましょうか?」



「お疲れ様でした~」
 どうにか今日の生放送も終了となり、涼香はため息をつく。
 そして出来た時間を全てギンガと過ごす為にギンガを探し始める。
 疲れて部屋で寝ているのだろうと思って部屋に戻るが、ギンガの姿はない。
 涼香はホテル『レイヴンテイル』の敷地内から出て、ギンガを探し始める。
 ギンガも一人の女性だから一人でフラフラしていてもおかしくない。
 しかし涼香の胸にはなんとも居えない不安があった。
 今すぐギンガの元に行かなければ、後悔してしまう様なそんな不安が。
 そこに屋台を引いた雪奈が通りかかる。
「雪奈さん! ギンガさんを知りませんか!」
「たぶん、浜辺に居ると思いますよ」
 涼香の気迫に多少押されながらも雪奈は答えた。
「ありがとうございます!」
 涼香はギンガがいるとされる浜辺へと走ろうとした。
 しかし急いでいる涼香をあえて雪奈は呼び止める。
「ちょっと待って」
「?」
 首を傾げる涼香。
「速く行ってあげたほうが良いですよ」
 そう言って雪奈は涼香の肩に触れる事で魔力を注ぎ込む。
「はい!」
 涼香は『天乃羽衣神楽式』を展開。
 同時に魔法によるブーストと自己ブーストの両方を発動。
 クラウチングスタートで浜辺へと走り出した。
 走っていった涼香の後姿を見つめながら雪奈は敬礼した。



「えっ……?」
 ギンガの背後にいたのは一人の少女であった。
 夜の海を思わせる群青色の瞳に、雪の白を思わせるような真っ白な髪と肌。
 白い肌の上に纏うのは同じ白色のワンピース。
 少女こそヴィルトヴァッサーの伝説として語り継がれ、昨日の夜に雪奈とアルフィトルテが接触した『嘆きの歌姫』であった。
 群青色の瞳がギンガを覗き込んでいる。
「その悲しみが辛いのでしょう? なら、私が消して差し上げますわ」
 ギンガの頬に触れながら『嘆きの歌姫』は囁く。徐々にギンガの目が蕩けていく。
 彼女の歌は全ての生物を虜にする魔性の歌。その声も例外では無かった。
 心の隙間に『嘆きの歌姫』の言葉が優しく溶けていく。
 まるでそれは人間の運命をもてあそぶ悪魔のような甘い囁き。
「一緒に居るのが辛いのなら、その人から離れて私と暮らしましょう」
 『嘆きの歌姫』の言葉にギンガはゆっくりと頷いた。
 その目には既に感情という物が消えていた。
 心の底から蕩け切ってしまったギンガの唇に彼女の唇が触れようとしたその時。
 浜辺に青年の叫び声が響く。
「ギンガさん!」
 青年の叫び声でギンガは我に返り、声のする方を見る。
 そこにいたのは『天乃羽衣神楽式』を纏った涼香であった。
 魔力を極限まで纏っているデバイスに注いで全速力で走ったからか、額から大粒の汗が流れている。
「……涼……香……さん……」
 両手で口を押さえるギンガ。その目から再び涙が流れた。
「貴方がこの人の想い人ですか……」
「ギンガさんを離して下さい」
 『嘆きの歌姫』に叫ぶ涼香。
 返事の代わりに圧縮された水の塊が飛んできた。
 避ける事も防ぐ事も出来なかった涼香はその水弾をまともに喰らった。
「かっ……はっ……」
 膝を突く涼香に『嘆きの歌姫』は侮蔑の表情を浮かべながら言った。
「貴方がこの人を悲しめた癖にこうも抜け抜けとほざけますわ」
 そう言って『嘆きの歌姫』が指を鳴らした途端、水の弾が幾つも生み出される。
 水の弾は膝を突いて動けない涼香の身体に撃ちつけられる。
 しかしそこで涼香は片腕で飛んでくる水弾から顔を防いだ。
 涼香は片目をつぶりながら『嘆きの歌姫』をにらみつける。
「……そうですわ……」
 『嘆きの歌姫』は上品な淑女のように微笑みながら提案した。
「この子の代わりに貴方が私の物になってくれるのなら、この子は返してあげますわ」
「え……」
 ギンガは『嘆きの歌姫』の提案に驚いた。
「貴方がこの人を悲しませている。なら、貴方がこの人の前から消えれば良いのですわ。それに……割と好みなので」
 『嘆きの歌姫』は顔を赤らめながら楽しそうに笑った。
 その提案にギンガは恐怖に似た何かを感じた。そして涼香が頷かないことを願った。
 しかし涼香の答えはギンガの願いを裏切った。
「分かりました」
 涼香はあっさりと『天乃羽衣神楽式』を解除し、少女に歩み寄る。
「ギンガさんを離して下さい」
「貴方が私の物になるまでは駄目ですわ」
 少女は歩み寄ってくる涼香を見て、妖艶に微笑む。
 涼香は少女の前に立ち、言った。
「約束です。離して下さい」
「その前に誓いのキスを下さいまし」
 少女は涼香に唇を寄せる。
 その中でギンガは叫ぶ。
「涼香さんなんか……涼香さんなんか……大っ嫌いです!」
「貴女は嘘つきですね。ギンガさん」
 最後に涼香はくすりと笑った。
 そして、涼香と少女の唇が重なった。
 唇が離れた時、涼香の目からは光が無くなっていた。
「涼香さん……」
「……」
 ギンガが声をかけても涼香は一言も発さない。
 微笑みながら少女はギンガに言った。
「真に残念ながらこの方はもう、貴女の物ではなく私の物でございます。さぁ……行きましょう」
 涼香は少女に連れられて海に入っていく。
「うっ! くっ……涼香さん!」
 ギンガの叫びにチラリと背後を振り向く涼香。
 しかしその口からギンガの名を紡がれる事は無かった。
「行きましょう。涼香様」
「!」
 涼香にキスをした少女に驚くギンガ。
 ギンガはキスを嫌がる事を期待をした。
 そのすがるようなギンガの期待も無駄に終わってしまう。
 少女の口付けに涼香は嫌がるような様子を見せなかった。
 むしろ、嬉しそうな笑顔を少女に向けた。
 涼香の笑顔に少女も唇をほころばせながら微笑む。
 ギンガはここでやっと悟ってしまった。

 もう、涼香は自分に笑顔を向ける事は無くなってしまったのだと。

 悟ってしまった瞬間、ギンガの身体から力が抜けた。
 そして砂浜に膝をついてしまう。
 強く砂浜の砂を握りながらギンガはもう一度呼んだ。
「……涼香さん」
 今度はギンガに見向きすらしなかった。
「さぁ……行きましょう。涼香様」
 少女は涼香の耳元で囁く。
 ギンガを置いて、二人は海へと歩いていった。
 ゆっくりと涼香と少女の身体が夜の海に沈んでいく。
 そして二人は海の中に消えた。
 浜辺にはギンガ一人が残される。
「ふぇ……えぇぇぇぇぇぇっ……」
 ギンガの目から大粒の涙がこぼれる。
 涼香に見捨てられてしまった。ギンガはそんなことしか思い浮かばなかった。
 砂浜の砂を強く掴み、歯を強くかみ締める。
 しかし涙と圧し掛かっている喪失感は止まらない。
 涙の湿った跡が点々と砂浜に出来る。

「大切な物なら命を賭けて取り戻すのですよ」

 何故か雪奈の言葉がギンガの脳裏をよぎった。
 涙が溢れる両目をこするギンガ。
 そしてギンガは何も考えずに海に飛び込んだ。
 ギンガのデバイスである『ブリッツキャリバー』が主の意思を汲み取り、オートで起動すると同時に新たなる形態を展開した。
〈Form……Struggle……Start deploying〉
 『ブリッツキャリバー』が発動を告げると同時にギンガは光に包まれる。
 首から下が赤に近い黒と紫紺のボディスーツで包まれ、両足の『ブリッツキャリバー』はローラースケートの形状から太ももギリギリまである群青色のニーソックスに変わっている。『リボルバーナックル』も左手を包む形態から左肩までを包む西洋鎧の様な形状に変わっていた。
 そして青みがかった髪は紫紺のリボンによって一つに纏められる。
 同時にある魔法が使用者であるギンガの詠唱を省略して発動される。
 『ブリッツキャリバー』の新形態『フォルムストラグル』
 その形態こそが、開発部の開発員ではなく諜報部の幽霧に依頼したモノの正体であった。
 入水時に出来た泡の弾ける感触が消えた時、ギンガが見たものは暗くて深い闇であった。
 二人に追いつきたいギンガの願いを叶える為に『ブリッツキャリバー』はある魔法を発動させる。
〈Axel Booster〉
 踵から圧縮された魔力が爆発するように放出される。その爆発を推進力に『嘆きの歌姫』に連れて行かれた涼香を追う。
 目の前には二人の姿が見えたがあっちもスピードが速いのか、既に点のような状態になっている。
 きっと気を抜いてしまえばすぐに涼香たちを見失ってしまうであろう。
「……ブリッツキャリバー」
〈Yes,Master. Wing Blades〉
 ギンガの声に従って『ブリッツキャリバー』は〈ウィングブレード〉を発動。
 ニーソックスのような形態に変わった『ブリッツキャリバー』が太ももから踵にかけてのハッチを左右の縦二列に開口し、魔力を放出する。その形態はまるでギンガの足自体が翼に変わってしまったようであった。
 水中を切り裂くように涼香たちを追いかける。
 追いかけてくるギンガの方を見た『嘆きの歌姫』は手を離す。
 同時に渦が球体状に発生し、涼香を閉じ込める監獄となる。
「涼香さ……」
 渦を巻く球体へ進むギンガの前に『嘆きの歌姫』が立ちふさがる。
 『嘆きの歌姫』は涼香が閉じこまれている球体の前で両手を広げながら口を動かす。
「貴女はこれで悲しみから開放されるのですよ?」
 何故か水の中でありながらもその声は良く聞こえた。
 確かに涼香がギンガの前から居なくなれば、悲しみは消えるだろう。
 しかしその後のギンガに残るのは更なる「罪悪感」と「喪失感」だけ。
 きっとこのまま涼香を行かしてしまえば、ギンガは自分自身を許せなくなって自ら命を絶つだろう。
 ギンガは身体が縮んでいくような感じを味わいながらも答えた。
「私は私だけを見てくれない事は悲しいよ……でも、そう思える位……私はこの人が好きなんです! だから……私に涼香さんを返して!」
「嫌ですわ」
 あっさりと『嘆きの歌姫』はギンガに言い放った。
「貴女は涼香様に近づいてくる人に嫉妬するばかりで……涼香様を振り向かせる努力をしなかったでしょう?」
 そう言って指を鳴らす『嘆きの歌姫』。
 『嘆きの歌姫』を中心に海水が渦を巻きはじめる。渦はまるで槍の様にギンガへ襲い掛かる。
 水中だと思えない速度でその渦をかわすギンガ。
 渦は海中の岩に突き刺さり、岩ごと抉り取った。
 軽々と避けたギンガを『嘆きの歌姫』は睨みつける。
「私はそれを含めて涼香さんに謝りたいのです。そこを退いて下さい」
「なら……私を倒して行って下さいませ」
 ギンガは『嘆きの歌姫』に接近。
 〈ウィングブレード〉を発動した状態で蹴りを入れる。
 しかし『嘆きの歌姫』は片腕で〈ウィングブレード〉を発動状態の『ブリッツキャリバー』を受け止めた。
 ギョッとするギンガに『嘆きの歌姫』は冷ややかな目で見つめる。
「ここは私の領域ですわ」
 ギンガに指をさす『嘆きの歌姫』。
 『嘆きの歌姫』がさした指先を中心に水球がいくつも発生。
 渦を作りながら水球は回転し、ギンガへと迫る。
 ギンガは水球を避ける。避けたと思っていた。
「ぐっ……ふ……」
 しかし水球はギンガの腹部に突き刺さる。
 『嘆きの歌姫』は腕を横に振った。
「ならば……私の領域で貴女に勝ち目はありませんわ?」
 少女の背後に幾つもの槍が出現する。
 その槍はギンガの身体を挽肉にせんと渦を発生させながら回転し始める。
 しかしギンガは口を歪めて笑った。
「何がおかしいですの?」
 遂にギンガが狂気で頭がおかしくなったのかと『嘆きの歌姫』は首を傾げる。
「一つ……良い事を教えてあげます」
「何かしら? 遺言なら聞いてあげてよ?」
 『嘆きの歌姫』はギンガに再び指をさす。
「……恋する乙女は最強なんですよ?」
 ギンガは足元に魔法陣を展開。
 足元に浮かび上がるように展開された魔法陣はミッドチルダ式でもベルカ式でも無い独特な形状をしていた。
「涼香さんは……返して頂きます」
 返事の代わりにギンガへ槍が飛んでいく。
 まるでギンガは讃美歌を謳う様に呪文を紡いだ。
其は鎧にして布When the armor is being addressed cloth
 その言葉が紡がれると同時にギンガの身体に魔法陣らしき紋様が浮かび上がっていく。
 一瞬だけ何かが身体の中を這いずり回るような感覚をギンガは感じた。
其は全て難から御子を守る者All thou fire to protect people from God's Son
 ギンガは激しく打つ心臓の音を聞いた。
 荒れ狂う激流のように身体の中を流れる血潮はマグマのように熱い。
それが故に御子の守護者That's because the guardians of God's Son
 徐々に精神が研ぎ澄まされていく代わりに身体やリンカーコアが炎の様に燃え滾っていく。
 しかしギンガの詠唱をしている間に『嘆きの歌姫』の放った槍が身体に突き刺さった。
 少女は笑みを浮かべる。そして次の瞬間には驚きに変わった。
 槍の突き刺さったギンガが消えたのだ。
 まるで霧の様に希薄に。霞の様に儚く。
 頬と歯茎には鈍い痛みを感じ、身体はいつの間にか吹き飛んでいた。
 殴られた『嘆きの歌姫』は何が起きているか全く分からなかった。
 実はギンガが一瞬にして間合いを詰め、その拳が『嘆きの歌姫』の頬を捉えたのだ。
 少女の前に再び現れたギンガの首から下が魔法陣らしき特殊な紋章におおわれていた。
 ギンガの首から下に浮かぶ魔法陣らしき特殊な紋章こそ、ギンガが幽霧に頼んだ理由であった。
 実はバリアジャケット自体にとある魔法が特殊な加工で封入されており、デバイスを起動すると同時にその魔法が起動する様になっている。
 魔法をデバイスやバリアジャケット自体に封入する技術も今はまだその理論を発表した幽霧にしか出来ず、ギンガのバリアジャケットに封入された魔法も幽霧にしか扱えなかった。
 とある伝説で謳われる道具の名前であり、その魔法の銘をギンガは静かに呟いた。
「……聖鎧布St. cloth armor
 再び距離を詰めたギンガの掌底が『嘆きの歌姫』の顎を突き上げた。
 きっとこの少女は何故、自分自身が上を見ているかわからなかった。
 顎を突き上げられた『嘆きの歌姫』は身体ごと上に突き上げられる。
 そのままギンガは片足で、少女の水月を狙って蹴り込む。
 水中の所為で威力が殺されたが、『嘆きの歌姫』の肺に溜まった酸素が押し出された。
 鈍く入ったギンガの蹴撃で『嘆きの歌姫』の身体が軽く跳ねる。
 そして止めと言わんがばかりに『嘆きの歌姫』の側頭部目掛けて、ギンガは回し蹴りを放った。
 少女の側頭部に衝撃が走り、周辺に生えていた岩に衝突する。
「ふぅ……」
 深く息を吐き出すギンガ。その吐息は泡となって出てきた。
 そのままギンガは涼香の閉じ込められている球体の方へ進む。
「――――――!」
 しかしそれはある一つの音によって遮られる。
 それは雪奈とアルフィトルテが『嘆きの歌姫』と接触したときに聞かされた歌であった。
 歌声は神の歌声としか思えないようなくらいに美しく、ずっと聞いていたいという衝動に駆られてしまうようであった。
 聞いている物の心の隙間に優しく入っていき、その優しさと美しさで全ての生物を虜にしてしまうような魔性の歌。
 ギンガは何かに耐えるように片手で顔を押さえつけながら指に力を入れる。
 『嘆きの歌姫』はニヤリと笑い、ギンガに指を向けた。そしてギンガが歌に抵抗しているその隙を縫うように水弾が何発も飛んできた。
 その水弾をギンガは腕で薙ぎ払うが、何発かは身体に着弾する。
「ブリッツキャリバー」
〈Yes,Master〉
 ギンガは『嘆きの歌姫』を睨みながら自身のデバイスの名を呼んだ。
 『リボルバーナックル』のシリンダーが回転し、カートリッジロードを行う。
 紫色の魔法陣が展開され、『リボルバーナックル』のシリンダーが回転する速度を徐々に上げていく。
 シリンダーの回転が渦を生み、ギンガの腕が渦におおわれる。
 ギンガは呟く様に魔法の呪文を紡ぎだす。
「我の前に幾千の戦場あり。我は汝の為にその身を振るう」
 身体に魔力制御による負荷が来たのか、ギンガの口から出た血が海水に溶けた。
 しかしギンガは魔力の集束と濃縮し、その魔法を制御する事を止めない。
「汝との約束を守る為に我は汝の敵を掃討せん」
 更にその術式はギンガの身体を蹂躙し、圧搾し、全身の魔力を引きずり出す。
 ギンガの腕が冬の湖を思わせる蒼色に光り輝く。
「……其は約束の結晶」
〈Axel Booster〉
 詠唱が完了するのと同時に『ブリッツキャリバー』の踵部分から圧縮された魔力が爆発するように放出される。
 そして一直線に『嘆きの歌姫』へ接近する。
 蒼い光を放ちながら『嘆きの歌姫』へと向かう様は流星を思わせた。
 『嘆きの歌姫』はさっきのダメージがあるのか、動く事が出来なかった。
「エクス……キャリバあぁぁぁぁー!」
 ギンガの蒼く輝く『リボルバーナックル』が『嘆きの歌姫』の胸に手首まで沈み込んだ。
 そして『嘆きの歌姫』の身体にギンガの魔力が注ぎ込まれ、一気に爆発した。
 『嘆きの歌姫』の口から血が吐き出され、海水に溶けていく。
 少し申し訳ない顔をしながらギンガは涼香の囚われている球体へと向かう。
 その時、ギンガは気づいていなかった。
 血を吐いた『嘆きの歌姫』の口に笑みが浮かんだのを。
 球体に触れた途端、ギンガの纏っているバリアジャケットやデバイスにひびが入った。
「!?」
 同時に高い音と共に海の中が振動し、周囲にあった岩が砕け散った。
 声のする方を見ると『嘆きの歌姫』が口を開き、何かを叫んでした。
 まるでその声に共振するかのようにバリアジャケットやデバイスが振動し始め、ひびが入っていく。
 ギンガは気づいた。この少女は自身のデバイスとバリアジャケットを破壊しにかかったのだと。
 そしてこのままだと涼香を助けるどころか、自身も死んでしまうだろう。
 覚悟を決めたギンガは使用を封印していた魔法を発動する。
「ブリッツキャリバー。オーバードライヴ」
〈Yes,Master〉
 マスターであるギンガの指示に従い、『ブリッツキャリバー』がオーバードライヴ起動の為に『リボルバーナックル』と連動でカートリッジロード。
 左腕全体を覆っていた『リボルバーナックル』が消えると同時に『ブリッツキャリバー』の形態がまた変形する。
 足首からふくらはぎにかけて巨大なローラーが装備され、膝の辺りにリボルバー機構の部品が装備された。
 ギンガの『ブリッツキャリバー』に装備されたシリンダーとローラーが勢い良く回転を開始し、大きな渦を作り出す。
 シリンダーが高速回転する。回転するシリンダーから海中に漂う魔力が吸収される。
 徐々に、足の付け根ぐらいまで紫色に染まっていく。それと比例して、シリンダーの回転する勢いが増していった。
 時間が経ち、『ブリッツキャリバー』に魔力が集束していくごとに回転する速度も渦も大きくなっていく。
 『嘆きの歌姫』は擦れた声で言った。
「貴女がこの人を信じられなくなったらきっと……また同じ事が起きるでしょう」
「起きないですよ」
 ギンガは静かに答えた。
「何故です?」
「だって……涼香さんが私しか見れないようにメロメロにするんですから」
 それはギンガ自身が出した心からの答えであった。
「天蓋一蹴!」
 ギンガは足を後ろに振り上げ、一気に鞭の様に足をしならせながら横から半円を描くように正面へ蹴りこんだ。
 一連の動きは繊細にして豪放。機敏にして静謐。華麗にして残酷。蹴撃なのに刀の様な鋭さがあり、蹴撃なのに弓の様な美しい放物線を描く。 
 その蹴撃はギンガの蹴りの軌道上にあった海水を全て前方に押し出すほどの威力を孕んだ衝撃波を放つ。
 衝撃波は『嘆きの歌姫』を紙の様に吹き飛ばし、涼香の囚われている球体を破壊した。
 水球が破壊された事とギンガの「天蓋一蹴」によって発生した衝撃波で涼香の身体が流されていく。
〈Wing Blades〉
 『ブリッツキャリバー』は再び〈ウィングブレード〉を発動。
 太ももから踵にかけてのハッチを左右の縦二列に開口し、魔力を放出する。
 「天蓋一蹴」で発生した激流の中を切り裂きながらギンガは涼香を追う。
 しかし激流で涼香の身体を掴む事が難しい。
〈Axel Booster〉
 太ももから踵にかけて開口していたハッチの縦二列から、圧縮された魔力が爆発するように放出される。
 そしてその爆発を推進力にギンガは涼香に追いついた。
 酸欠で気絶しているのか、涼香の顔は青白い。
 ギンガは涼香の頬を両手で挟む。そして唇を塞ぎながら息を吹き込んだ。
 同時にギンガの思考は暗闇に落ちて溶け、バリアジャケットから着ていた服に戻った。



 柔らかいものを押し付けられる感触で涼香は覚醒した。
 目の前に広がったのは水の中でたゆんでいる紫紺の髪とギンガの顔。
 海水を吸った服はとても重かった。
 状況を確認する前に涼香は足を動かし、海面へと上昇する。
「ぷはっ!」
 涼香は海から顔を出す。
 その腕の中にはぐったりとしたギンガがいた。
 顔から血の気が無くなってしまったのではないかと思えるほど青白く、身体は死んでいるかのように冷たくなっていた。
 必死で涼香はギンガを抱きかかえたまま涼香は浜辺へと泳ぐ。
 涼香はギンガを浜辺に寝かせ、軽く頬を叩く。
「大丈夫ですか?」
 しかし反応が無い。
 意識が無いのであれば、人工呼吸しか方法は無い。
 まず片方の手で額を押さえ、もう一方の人差し指と中指で顎を上に持ち上げる。
「ごめんなさい……」
 人工呼吸とはいえ何か罪悪感があるのか涼香は軽く謝り、片手でギンガの鼻を摘みながら口に息を吹き込む。
 涼香は重ねた両手をギンガの胸に乗せ、何度も胸を圧迫する。
 五回か六回ぐらい繰り返した後にギンガは息を吹き返し、海水を吐き出した。
 ゆっくりとギンガはまぶたを開く。
「涼香さん!」
 ギンガは目の前にいる青年の姿を認めた途端、涼香を抱きしめた。
「ちょっ! ギンガさん!?」
「良かった……」
「痛いっ! 痛いです!」
 抱きしめるギンガの力が強すぎたのか、涼香は悲鳴を上げる。
 涼香の悲鳴に気づいたギンガは腕の力を緩めた。
「あ……ごめんなさい……」
 退いたギンガの頭に血がついている事に気づいた涼香は手を伸ばす。
「あらら……頭を強くかきむしったのですね……」
 苦笑しながらギンガの髪を撫でる涼香。手に血が付着し、指に紫紺の毛が絡みつく。
 身体を大きく震わせ、涼香から退くギンガ。
 驚く涼香にギンガはか細い声で答えた。
「私……涼香さんにそうして貰う資格……ないです……」
 そしてギンガの目からは涙が溢れ始める。
 ギンガは涙を拭おうと腕を動かすが、涙は止まる事は無い。
 軽く考えるような仕草をとった涼香はいきなりギンガを抱きしめた。
「りょ……涼香さん?」
 いきなりの事に驚くギンガ。
 涼香は震えるギンガの身体を抱きながら答えた。
「私はギンガさんを抱きしめたいから抱きしめているんです」
「うっ……くっ……ごめんなさい」
 ギンガは涼香の胸に顔を埋めながら呟いた。
「何でギンガさんが謝るのですか? 私がギンガさんを安心させる事が出来なかったからですよ」
 涼香は優しくギンガを背中を叩きながら言った。
 しかしギンガが泣き止む様子は無い。
 苦笑する涼香。いきなりギンガから身体を離した。
 ギンガの目に怯えに似た感情が浮かぶ。
 そのまま涼香はギンガの唇を塞いだ。
 いきなりキスされたギンガの顔は一瞬から怯えから驚愕の表情に変わる。
 そのキスは海の塩で少ししょっぱかった。
「……落ち着きましたか?」
「……はい」
 微笑む涼香にギンガは顔を赤らめながら頷いた。
「今回の事はギンガさんを不安にさせた事が原因です。そして……私を信用してくれなかったギンガさんも悪いです」
 そう言って涼香はギンガの額と自身の額をくっつける。
 涼香の顔が近くにある事でギンガは更に頬を赤らめた。
「だから私も悪いですし、ギンガさんも悪かったんです。だから……自分自身を責めないで下さい」
「はい……」
 真剣な涼香の表情にギンガは刻々と頷いた。
「さて、ホテルに戻りましょうか」
 立ち上がる涼香。その裾をギンガが摘む。
「私が好きなら……」
 顔まで赤くしながらギンガは言葉を詰まらせる。
 涼香は黙ってギンガが喋るのを待つ。
「キス……してくれませんか?」
「喜んで」
 しゃがむ事でギンガと視線を合わせる涼香。
 そっとギンガの頬を撫でる。
 ギンガの顔は月の光に反射して、肌が輝いて見えた。
 そして涼香はゆっくりとギンガに顔を近づけ、その唇に自身の唇を重ねた。



「ふぅ……」
 涼香は深く息を吐き出す。隣ではギンガが肩に頭を乗せながら眠っていた。
 『嘆きの歌姫』にキスされてから涼香は記憶がないが、いつの間にか深夜になっていた。
 そしてホテル『レイヴンテイル』が閉まっている時刻だろう。
 二人はしょうがなく浜辺で夜が明けるのを待っているのだ。
 隣のギンガは疲れたのだろう。その寝顔は心なしか安らかであった。
 涼香は安らかな顔をするギンガに引き寄せられる。
 その時、誰かが水から上がったような音がした。
 海から上がってきたのは一人の少女。
 夜の海を思わせる群青色の瞳に、雪の白を思わせるような真っ白な髪と肌。
 白い肌の上に纏うのは同じ白色のワンピース。
 髪と服には海水が滴り、群青色の瞳が涼香とギンガを見ていた。
「再び出会う事が出来て光栄ですわ」
 少女はワンピースの裾を摘み、優雅に挨拶した。
 涼香の目の前にいたのは先刻に涼香を誘拐し、ギンガと戦った『嘆きの歌姫』であった。
「君は……」
「全く……散々ですわ」
 吐き捨てるように言う『嘆きの歌姫』の姿は何故かボロボロであった。
 声も何故か擦れているし、服の所々がボロボロになっている。しかしその目は涼香を見ていた。
「この人の悲しみは貴方が生み出したもの。分かってますよね?」
「はい」
 『嘆きの歌姫』の真摯な目に涼香は頷いた。
「なら、私からはこれでおしまい御座いますわ。大切な人と末永く」
 少女はそれだけを言い残して身体は徐々に透明になって消えた。
 涼香は呆然としながらその光景を見ていた。
「はぁ……」
 深く息を吐く涼香。徐々に涼香の身体から力が抜けていった。
 そして涼香もそのまま暗闇の中に落ちていった。



「お~い」
 涼香は誰かに頬を軽く叩かれる事で目が覚めた。目を開けると、そこにいたのは甚平を着た雪奈の姿であった。
 朝まで眠ってしまったらしく、目の前には朝日が射していた。
「こんな朝っぱらから何をしているのですか……? 逢引かい? それとも青姦かい?」
 雪奈の言葉に涼香は噴いた。
「ぶっ! 違います!」
「そうですか」
 冗談で言ったわけではないらしく、雪奈は何故か残念そうな顔をしていた。
 早朝からろくでもない質問をされるとは思わなかったらしく、涼香の顔が引きつっていた。
 そして雪奈は氷のように蒼い目を細め、悪戯っぽく笑いながら別の質問をした。
「……じゃあ、悪い魔女に連れて行かれた王子様を女騎士が救いに向かっていたという感じかな?」
「!?」
 まるで見透かすように言う雪奈に涼香は驚くしかない。
 口から出たのは抽象的な例えであったが、それは一部始終を見ていたような言い方であった。
 涼香は未知の恐怖が背中から這い上がって来るような感覚を感じた。
「まぁ……そんな訳はないっか。どこかの御伽噺じゃあるまいしね~」
 雪奈の方から視線をそらしてケタケタ笑う。
「寝てないのなら早く帰りなよ~♪ 今夜は夏祭りの最終日なんだから~」
 笑顔で涼香の肩に頭を乗せるギンガを抱き上げる雪奈。そして立ち上がった涼香の両腕に乗せた。
 その状態はいわゆるお姫様だっこ。
「……そうします」
 涼香は『天乃羽衣神楽式』を展開し、ギンガを起こさないようにホテル『レイヴンテイル』へ走り出した。
 ホテル内に入るとつかつかとフロントを横切り、つま先蹴りでボタンを押してエレベーターに乗る。
 相当疲れていたのだろう。腕の中にいるギンガの起きる気配はなかった。
 片手でギンガの身体を支えながら涼香はカードキーを通して解錠した。
 中に入るとギンガをゆっくりとベッドに下ろし、涼香はベッドに背中を預けながら座りこむと同時に眠りへ落ちていった。



「ん……」
 ギンガはゆっくりとまぶたを開く。目の前に見えたのは真っ白な天井。
 すでに夕方らしく、壁や天井は夕日で燈色に染まっていた。
 ベランダの扉があけっぱなしであったらしく、カーテンが風に揺れている。
「ここは……」
「起きたみたいだね」
 身体を起こしたギンガに甚平を着た女性が笑いかける。
「……雪奈さん」
 そこにいたのは、諜報部の部隊長を務めている雪奈・長月の姿であった。
 部屋の中についている風呂場の方から水色のワンピースを着た一人の少女が現れる。
「長月部隊長。命令通りお風呂を入れてきました」
 ギンガは目の前にいる少女を見ながら唖然とした。
「幽霧……くん……」
「おはようございます。ギンガさん」
 ワンピース姿で幽霧は優雅に背を曲げる。まるで執事か従者のようであった。
 雪奈は意味深長な笑顔を浮かべながらギンガに進言した。
「とりあえずお風呂入ってきたらどうですか?」
「あっ……はい。そうします」
 風呂がに入ったギンガは衣服きれいに畳んで、かごに入れる。
 服を脱ぐ事によって雪の様に真っ白な肌が露わになる。
 下着もすぐに脱いで、きつくタオルを巻く。
 そしてギンガは引き戸を開けて風呂場へ入る。
 風呂は意外と広く、泡の出るジャグジーになっていた。
 そばにつけてあったシャワーで海水を流す。温かさと水が身体を滑る感触がとても気持ち良い。
 タオルをほどいたギンガはゆっくりとお湯に身体を沈めていく。
 一瞬、指先にじわりと焼けたような熱さと痺れが感じられた。しかしそれはすぐに消え失せ、湯に肩まで入れた頃には心地よさだけが残っていた。
 湯気が上に立ちのぼり、夕日に反射して燈色に輝いているように見えた。
「はぁ……」
  身体から徐々に力が抜けていく感覚に恍惚とした表情を浮かべたかと思うとすぐにギンガはため息をつく。
 そのため息はすごく重かった。



 ギンガが浴室から戻ると籠の中身が変わっていた。
 白いワンピースとオレンジ色の下着が入っていたはずなのに、今は白い布状なものと黒い下着と同じ黒色のスリップが入っていた。
「雪奈さん……」
 犯人が分かっているギンガは顔を赤らめながら下着をはき、その白い布に袖を通す。
 そして袖を通したギンガは驚く。
「これ……」
 雪奈がワンピースの代わりに入れたのは白い布地に赤い金魚が入った浴衣であった。
 ギンガは帯を巻いて風呂場から出る。
 風呂場から出た浴衣のギンガに雪奈は読んでいた本から顔をあげ、ニヤリと笑う。
「よく似合ってるよ」
 意味深長な笑顔を浮かべる雪奈にギンガは顔を赤らめる。
 その顔を赤らめたままギンガは幽霧に声をかけた。
「幽霧くん」
「何でしょうか?」
 話しかけられるとは思っていなかったらしく、首を傾げながらギンガを見る幽霧。その仕草はまるで女の子のように可愛らしかった。
 ギンガは少し困ったような顔をしながら頼み込んだ。
「フォルムストラグルの微調整……頼めないかな?」
「今からでしょうか? 折角、綺麗な浴衣を着ていらっしゃるのに……」
 ギンガが着直す手間や浴衣にしわがつく事を心配しているらしく、幽霧は困惑するような表情を浮かべる。
 苦笑いをしながらギンガは更に頼み込んだ。
「ごめんね。頼まれてくれないかな?」
 そんなギンガの頼みに幽霧はまぶたを閉じ、軽くため息をつきながら答えた。
「……分かりました」
「ん~。私は読書に勤しませて貰うかな」
 雪奈は読んでいた本を再び視線を落とした。
 浴衣の帯を解くギンガ。するりと浴衣が落ち、黒の下着と同色のスリップが露わとなる。
 そして『ブリッツキャリバー』を展開し、〈フォルムストラグル〉を起動する。
 首から下が赤に近い黒と紫紺のボディスーツで包まれ、『ブリッツキャリバー』はローラースケートの形状から太ももギリギリまである群青色のニーソックスに変わっている。『リボルバーナックル』も左手を包む形態から左肩までを保護する西洋鎧の様な形状に変わる。
 青みがかった髪は紫紺のリボンによって一つに纏められていた。
「じゃあ……お願いします」
「分かりました。じゃあ、そこの椅子に座って下さい」
 幽霧はトランクのような箱を自身の手元に転送し、整備用の道具を取り出す。
 椅子にギンガを座らせ、群青色のニーソックスに形が変わった『ブリッツキャリバー』から整備を開始する。
 ドライバー状の特殊な道具で機構を分解しながら幽霧は訊ねる。
「ほとんどテストも無しで使用した感じになったようですが、どうでしたか?」
「ちょっとぴっちりしてて……恥ずかしいかな」
 調整とはいえ整備をしている幽霧に見られているのも恥ずかしいらしく、ギンガは顔を赤らめていた。
「元々、ギンガさんの『ブリッツキャリバー』はスピード重視ですから。更にスピードを上げる時は空気抵抗もある程度までは無くさないといけないです」
 カチャカチャと音を立てながらサイズの調整を行う幽霧はそう返した。
「そっか……」
 ギンガは調整を行う幽霧の茶色い頭を眺めながらそう呟いた。
 幽霧は頭を下げた状態でいきなり、ギンガに問いかけた。
「想いの力は強いでしょう?」
 突然の問いに驚くギンガ。しかしゆっくりと頷いた。
「強く抱かれた人の想いには力が宿るのですよ。恋もその一つです」
 幽霧はゆっくりと顔を上げて、ギンガに微笑む。
「きっと……ギンガさんの想いは純粋で綺麗なんでしょうね」
 その微笑みはとても穏やかな物であった。



「ん……」
 ゆっくりとまぶたを開く涼香の目の前に広がっていたのは白い天井。どうやら、天井を見上げた状態で寝てしまっていたようだ。
「おはようございます。涼香さん」
 ギンガを見た涼香は息を呑んだ。
「? どうかしましたか?」
 息を呑みながら硬直する涼香に首を傾げるギンガ。
 何故なら、浴衣を着たギンガがとても可愛かったからだ。
 白と水色の布地に赤い金魚が裾や袖部分に描いてある一般的な浴衣だった。
 しかしギンガが着ると可愛らしいと涼香は思った。
 布地の色や柄がギンガの髪の色と良くマッチしている。
 浴衣の布地も持ち投げている肢体の形に涼香はドキリとした。
 今回は、ギンガに聞かれる前に涼香が先に言った。
「浴衣姿も可愛いですよ。ギンガさん」
「ありがとうございます」
 ギンガは顔を赤らめながら嬉しそうな笑みを見せる。よほど、嬉しかったようだ。
「あらら……私たちの存在に気づいてないのかな? 甘いねぇ~♪」
「そうですね」
 雪奈と幽霧の声に驚く涼香。
 何故なら、声をかけられる今この時まで二人の気配を察知できなかったからだ。
 瞬間移動してきた様にも見えないし、転移魔法を発動した痕跡も無い。
 まるで世界から出たり入ったりしているような雰囲気。
 何も言わず、良い笑顔で微笑ましそうに涼香とギンガを見る二人。
「あっ。そういえば、そろそろ祭りが始まりますね」
 恥ずかしさを紛らわせる為にか、話を変えようとする涼香。
「そ……そっ! そういえばっ! そうですね」
 雪奈と幽霧の良い笑顔に耐え切れなくなったのか、ギンガは頬を紅潮させながら涼香の意見に同意する。
 幽霧は口元の両端だけを引っ張ったかのような笑顔を浮かべ、雪奈は口元をニヤリとさせながら黒い笑顔を浮かべた。
「じゃあ、行ってらっしゃいませ。ご両人」
 雪奈は楽しそうに親指を上げて、二人の前に突き出した。
 二人は顔を赤らめ、恥ずかしげに、そして少し嬉しそうに俯く。
 そんな二人に雪奈と幽霧は面白げに微笑んだ。
「私と幽霧は仕込みの方に行きますね。これをあげるからちゃんと来る様に。でわ、そういう事で」
 涼香に細長い紙片を渡した途端、二人の姿が一瞬で消えた。
 話によると、空間と空間の間を省略しながら移動するらしい。
 相変わらず、色々と慌てているときに役立ちそうな魔法だ。
 雪奈たちが消えた跡を見届けてから、涼香は笑顔で言った。
「……その、そろそろ、行きましょうか。ギンガさん」
「そうですね」
 ギンガは涼香に頷く。そして涼香の手に指を絡めた。

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1件のコメント

[C152]

雪奈様の言った「ツェチェリカとしての~」が、気になりますよー
真実がわかるまで私なりに考えてみます、とゆうか妄想?
感想です、甘あまです、涼香さんとぎんがさんはやっぱり相思相愛で
二人がヒロインとヒーローなんですね。微笑ましい限りです

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