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-件のコメント

[C33] おーえんおーえんっ

すみません、コメントするとこわけわかんなくなりました(オイ
そして此処にもコメントを・・・(ぁ

えーいつもいつも(?)雪奈さんの小説を楽しく読ませてもらっています。
正直尊敬、凄いです。
私はまだまだですね。未熟者だ。
それでも雪奈さんは満足いってないのなら(いってたらさーせん)もっと頑張ってください。それなりに応援しますッ!!!!!!!!!
変な感想で激マジさーせんです。m(_ _)m
  • 2008-01-20
  • 投稿者 : 結城
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[C34]

お疲れサンっす~♪♪
何か自分は変態属性のみですねww
期待してますw

[C35]

こんばんは~?

『Abbildung erwarteten kunftigen』には僕も参加させてもらってるわけですが圧倒されっぱなしです。
其は約束されし紅の騎士などのバトルもすごいですし勉強させてもらってますww

あと18時間がんばです。

それでは失礼しました~。
  • 2008-01-20
  • 投稿者 : 羽
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[C37]

お疲れ様ですm(__)m
其は約束されし紅の騎士のとこは某英霊が思い浮かび   (・∀・)ニヤニヤしてしまいましたw

これはもう俺もキャラ作って参加させてもらうしか!!と思ってキャラを作ったら・・・・・・強すぎる(・∀・A;
ということで自分の性格ならこうなるかな・・と修正いれたら・・・・・なのは世界じゃ最弱じゃ?ってレベルになりました(・∀・A;

ということで今度メールでキャラ案送りますねーw
  • 2008-01-23
  • 投稿者 : 道@剣製王
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[C39]

お疲れさまです。
幽霧かっこいいですね、自分もかっこよくなりたいですよwww
すーぱー弥刀タイム期待してます!!頑張ってください
  • 2008-01-28
  • 投稿者 : 弥刀(笑
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[T9] フェイトTハラオウン/フェイトTハラオウン

フェイトTハラオウンについて悩みを解決するには、まずはフェイトTハラオウンについての正しい知識が必要です。そこで、フェイトTハラオウンについての情報を集めました! フェイトTハラオウンについて調べて、フェイトTハラオウンに関する悩みを解決しちゃいまし...
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ギャルゲーテイストSS 008.『定期検診』

こんばんは。雪奈・長月です。
数日後にテストがあるのに、SSを書くという命知らずです。
まあ。そんな事はどうでも良いとして、やっと書き上げました。
ギャルゲーテイストSS『Abbildung erwarteten kunftigen』
008.『定期検診』が出来ました。
本当は先週の局ラジまでには完成させたいと考えておりましたが、度重なる用事によって今週の局ラジまでには完成させる事が出来ました。
では、どうぞよろしくお願いいたします。
今回はおまけもついています(何故かおまけの方が長いですが)。




008.『定期検診』


 幽霧とアルフィトルテはいつものように諜報部の部署に入った。
「おはようございます」
「おはよう」
 諜報部の部隊長代行をしている鉈が挨拶を返す。
 珍しく部隊長である雪奈から返事が返ってこないので不思議に思う幽霧。
 何気なく、鉈に尋ねてみる。
「部隊長代行」
「ん?なんだ?」
 鉈はコーヒーを飲みながら幽霧に反応する。
 幽霧は鉈に聞いた。
「長月部隊長。どこに行ったのでしょうか?」
「んあ?確か、訓練校で戦闘訓練の相手と講義。調査依頼で陸上警備98部隊の所に行くといってたな~」
 部隊長自身が出張に行く事は珍しいので幽霧も驚いた。
 そして、雪奈の講義と戦闘の相手をする訓練生の身を案じずにはいられなかった。
 何故なら幽霧がまだ入局していなかった時も、雪奈は容赦ない訓練をしていたのだから。
 背中におもりを担がされ、手足にはリストアンカーをつけられ、路上を走らさせられた事もあった。
 それもかなり楽しそうに撲殺器具を振り回す長月部隊長に追いかけられながら
 あの頃があったのだから、今こうしてちゃんと生きていられるのだろうと幽霧はしみじみとそう思った。
「そういえば、幽霧。部隊長からお前に頼まれていたものがあった」
 鉈はデスクの引き出しから真新しい紙を取り出した。
 渡された幽霧はその真新しい紙に印刷された内容を読む。
 それはデバイスの定期検診についてであった。
 アルフィトルテをインテリジェンスデバイスに切り替えたのは最近なので、定期検診に呼び出される理由がいまいち分からない幽霧は首を傾げる。
 鉈は新しいコーヒーをカップに入れながら言う。
「お前のアルフィトルテは人型になれるインテリジェンスデバイスだろ?
 だから、微調整の為に定期検診に呼ばれるんじゃないのか?」
 そういわれてやっと、幽霧も納得した。
 鉈は本日三杯目のコーヒーを啜りながら幽霧に言う。
「今日はひとまず、お前はアルフィトルテを定期検診に出してこい。
 今のところは諜報任務で窮地に陥っている奴はいないから。もし、そんな奴が出たらちゃんと連絡する」
「分かりました」
 幽霧は頷く。そしてしゃがむ事でアルフィトルテと視線を合わせ、定期検診について分かり易く説明した。
「雫さんがアルフィトルテの身体におかしい所が無いか確かめる為においでって」
「分かった。」
 アルフィトルテが納得したのを見ると、幽霧も安心して立つ。
「では。行って来ます。部隊長代行」
「すまないが、これも持っていってくれないか?」
 鉈は懐のホルスターに入れている鉈専用の鋏型デバイス「ブレイドシザー」を幽霧に渡す。
「俺はスケジュールと情報の管理でメンテナンスに出せずじまいだから、代わりに開発部の奴らによろしく伝えてくれ」
「了解いたしました」
 幽霧は鉈から「ブレイドシザー」を受け取り、アルフィトルテと共に開発部の部署へと移動する。



「いらっしゃいませ」
 開発部で開発部主任の雫が出迎える。
 何故か雫の首には医者が使う様な聴診器が掛けられている。
 いつも着ている男性物の黒いスーツスーツと白衣に相まって、診療室にいる女医のようであった。
「雫さん。部隊長代行からデバイスのメンテナンスから頼まれました」
 幽霧は鉈に渡された「ブレイドシザー」を雫に渡す。
「はい。確かに受け取りました。」
 雫は幽霧から「ブレイドシザー」を受け取る。
 そして女医のような風貌をした雫が膝を折ってしゃがみ、アルフィトルテに話し掛ける。
「今日はよろしくね」
 そう言って雫はアルフィトルテに笑顔を見せる。
 雫がいつもの雰囲気と違って見えるからか、アルフィトルテは幽霧の服にしがみつく。
「アルフィトルテ?」
 見たことの無いアルフィトルテの仕草に幽霧は首を傾げる。
 何故かアルフィトルテの目には涙が溢れていた。
「やぁ………」
 アルフィトルテは幽霧の服を握り締める。
「どうしましょうか………?」
 流石の雫も困惑する。
 幽霧も服を掴みながら泣きそうになっているアルフィトルテを見下ろしながら困惑する。
「………すみませんが、自分もアルフィトルテの検診に付き添ってよろしいでしょうか?」
 幽霧は目に涙を溜めながら服にしがみ付くアルフィトルテを見て、少し困った顔で雫に尋ねる。
「……分かりました」
 雫も少し困惑しながらも幽霧の提案を受け入れた。



「アインさんもデバイスだったのですか」
「ええ」
 アルフィトルテを膝を乗せながら驚く幽霧に、クロノ・ハラオウン提督の秘書をしているアインは頷く。
 幽霧とアルフィトルテが順番を待っていた時の事。
 周囲を見回すと二人はアインの姿を見つけた。
「こんにちは」
 使用しているデバイスの検診を待っているのかと思い、幽霧はアインに話し掛ける。
 そして、現在に至る。
「まさか、ハラオウン提督の秘書をしているアインさんがデバイスであるとは思っていませんでした」
「そうですか。一時期は噂になっていたのですが」
 本当に知らなかった幽霧の率直な意見にアインは首を傾げる。
 同じ諜報部に所属している拷問班の神威・紅月が「いつかハラオウン提督の秘書をしているアインを襲ってみたいなぁ~」と何故か自分に漏らしていた事を覚えていたからだ。
 それもあって、幽霧はアインが人間かと思っていた。
 しかしよくよく考えると、神威は人間っぽい姿であれば何でも襲うようなセクハラ魔であった。
 神威の言葉を基準にしていた自身が恥ずかしくなって頭を抱える幽霧。
 自分自身を戒めている幽霧にアインが話し掛ける。
「幽霧さん」
「なんでしょうか?」
 アインの声で我に帰り、幽霧は振り向く。
「私にアルフィトルテさんを抱かせてもらえませんか?」
「? 別にいいですが」
 幽霧はアルフィトルテを持ち上げる。
 持ち上げられたアルフィトルテがちょっと不安そうな顔をした。
「どうぞ」
 そう言って、幽霧はアインにアルフィトルテを渡す。
「ありがとうございます」
 アインはアルフィトルテを抱きかかえる。そして、向かい合う形で太ももに乗せた。
 きょとんとするアルフィトルテ。
 いつものように表情は変えず、アインはアルフィトルテの身体に触れる。
 肌で触れた時点で何かに気付いたらしく、アインは呟く。
「やっぱりこの子でしたか………」
「この子って……?」
 その一言に幽霧は首を傾げる。
 アインは幽霧に言う。
「幽霧さんのアルフィトルテさんは私と同じ機構で創られているという事です」

「私もなのですが………この姿を保つ為に魔力を消費しているのです」
 太ももに乗ったアルフィトルテに腕を回しながら言うアイン。
 幽霧も数日しか経っていないが、この状態だと魔力を消費する事を知っていた。
 アインは話を続ける。
「だから、私とアルフィトルテさんには特殊な機関が積まれているんです」
「特殊な機関………ですか?」
「ええ」
 首を傾げる幽霧にアインは頷く。
「その機関は、物質を魔力に変換する効果を持つそうです」
「………」
 顔には出さないが驚く幽霧。
 アインの言う「特殊な機関」についてある噂を聞いた事があったからだ。
 どこの部署かは不明だが、特殊な兵器を所有しているという噂が一時期あったのだ。
 核よりクリーンで、「J.S.事件」のAMFよりたちが悪い兵器。
 そんな兵器があったら時空管理局自体が崩壊するだろう。もしそれが存在し、使われたら確実に。
 今、アインが言った「特殊な機関」もその噂の一つとして存在している。
 でも今はそんな兵器は無いという事が確定した。なぜなら、そんな兵器があったという証拠は無いからだ。
 管理局全体で調査したが、そんな兵器は発見されなかった。
 頭に昔の噂についてよぎる幽霧に対し、アインは話を続ける。
「だから、アルフィトルテさんはリインフォースとは違う意味で私の妹になるようです」
「へえ。そうなんですか」
 幽霧は驚く。
 アルフィトルテはアインを見て首を傾げる。
「アインさん………お姉ちゃん?」
「そういうことになりますね」
 アインは微かに笑う。
 その時、デバイスの検診をしている部屋の戸が開き雫が顔を出す。
「すみません。幽霧さん。頼みたい事があるのですが…………よろしいでしょうか?」
 立ち上がろうとする幽霧の服をアルフィトルテが掴む。
「アルフィトルテ?」
 幽霧の服を掴みながらアルフィトルテは言う。
「行っちゃ………やぁ」
 やっぱり、アルフィトルテは幽霧がいないと不安らしい。
「アインさん。アルフィトルテを頼みます」
 服を掴んでいるアルフィトルテの手を手でこじ開ける幽霧。
 そして戸から顔を出している雫の方に進む。
「分かりました」
 アインは歩いていく幽霧の背中を見ながら頼みを了承した。
 アルフィトルテは幽霧の服をもう一度掴もうと足掻くが全て空を切る。
「雫・鏡月開発部主任。頼み事は何でしょうか?」
 戸から顔を出している雫に尋ねる幽霧。
 雫は少し申し訳なさそうな顔で言った。
「私が担当する方の中でまだ来てない方がいるのですみませんが、連れてきて貰
えませんか?」
「分かりました」
 幽霧はいつもしている仕事より比較的、安全な依頼だったので安心した。
「幽霧さんに連れてきて欲しいのは、「ナタネ」と言う名前の方です。
 無限書庫にいますので、無限書庫の職員に聞けば分かるかと」
「了解」
 幽霧は頷いた。
 デバイスの検査と修理のために忙しなく動く開発局員たちに押されたりしなが
らも、幽霧は局員を腕で掻き分けて出入り口まで歩く。
 開発部の部署を出た時点で既に疲れていたが、無限書庫へのトランスポートまで歩みは止めない。
 出来るだけ早足で管理局の廊下を歩き、トランスポートにたどり着く。
 トランスポートにたどり着いてやっと、幽霧は一息ついた。

 幽霧はトランスポートを使用して、無限書庫に近い位置まで移動する。
 無限書庫が無重力空間であるためか、入口までに二枚の扉があった。
 雫の言う「ナタネ」を探して、幽霧は無限書庫の入口をくぐる。
 入口をくぐると目の前には、数え切れない位の本とその本を収める本棚という光景が広がっていた。
 幽霧はその光景に驚きながらも「ナタネ」を探し始める。
「ん?」
 無限書庫の司書長をしているユーノ・スクライアが幽霧の存在に気付く。そして幽霧の方に近づいていった。
 本来なら雫のいう「ナタネ」について無限書庫の司書に尋ねるべきだが、近寄りがたい空気を醸し出しているので迂闊に話しかけることを躊躇ってしまう。
 どうしたものかと悩む幽霧の肩を誰かが叩く。
「幽霧?」
「ユーノ・スクライア無限書庫司書長」
 幽霧の背後にはユーノがいた。
 ユーノは幽霧に尋ねる。
「探し物?」
「ええ。雫開発部主任の頼みで「ナタネ」という名前の方を探しいます」
 ユーノは「ナタネ」という名前を聞いた途端、そこだけ時間が止まったかの様に硬直する。
 硬直するユーノに幽霧は首を傾げた。
「ユーノ・スクライア無限書庫司書長?」
 幽霧は時間が止まったかの様に硬直するユーノの顔をのぞき込む。
 顔をのぞき込まれたユーノは我に返る。同時に顔の部分に血が集まっていき、紅潮する。
 何故なら、ユーノと幽霧の顔の距離がキス寸前まで近づいていたからだ。
 時々、女性と見間違えられる時があるユーノ。
 しかし、初対面で女性と勘違いされなかった時が無く、一部の男性局員には女性局員の制服にすり替えられ、諜報部の潜入調査では女装を命じられない時が無い幽霧よりは遙かに良いだろう。
 ユーノは確かに理性では幽霧が少年だと分かっているが、本能は幽霧を男装している少女と認識してしまう。
 その上、キス寸前の状態なのでユーノの心拍数は上がり、顔は湯気が出るほど赤い。
「ユーノ司書長」
 ほとんどキス寸前の二人に少女が近づき、ユーノに話しかける。
 ユーノの背筋に電気のような物が走り、弾かれたかの様に幽霧から退いた。
 少女の方を見て、幽霧は驚く。
「ノイン…………」
「書類整理は終わりました」
 ノインと呼ばれた少女は幽霧の存在に気づいていないかのような感じでユーノに報告をする。
「ご苦労様。久世ノインシュヴァン副司書長」
 報告を受けたユーノは書類を受け取り、ノインに言った。
「すまないけど、幽霧の探し物を手伝ってあげてくれませんか?」
「了解いたしました」
 ユーノの頼みにノインは了承する。
「じゃあ。僕は仕事に戻るよ。」
 ユーノは二人に背を向けて仕事に戻る。
「お久しぶりです。ノイン。」
 幽霧はノインの方を向き、全く表情を変えないで機械のように言った。
「久しぶりね。霞。」
 ノインの方は微かに笑みを浮かべる。
 しかしそれは一瞬のことで、ノインは冷ややかな目つきで幽霧に尋ねる。
「貴方は一体、何をお探しですか?幽霧霞三等陸士」
「開発部の雫・鏡月主任からの依頼で「ナタネ」という名前の方を探しに来まし
た」
 ノインは幽霊の口から「ナタネ」の名前が出た瞬間、上司であるユーノが頼んできた理由が分かった。
 軽く溜め息をつき、幽霧に背を向ける。
「こちらです。」
 幽霊とノインは無限書庫の深くに侵入する。
「そういえば」
 ノインに案内されながら、幽霧は思い出したかのように言う。
「なに?」
 幽霧の方に顔を向けるノイン。
「無限書庫の司書をしていたんですね。
 ノインの成績なら、陸上警備の特別捜査官をしているような気がしたのですが」
「私は階級が三等陸士で魔導師ランクがAの陸戦魔導師という霞の方がおかしいと思います」
 深くに侵入しながらノインは切り返す。
 階級と資格について言われると、幽霧も困ってしまう。
 二人は黙って、無限書庫の深部へと侵入していく。
「確かに霞の言うとおりに、特別捜査官の道はあった。」
 いきなり、ノインが口を開く。
「でも、私は選ばなかった。
 何故なら、今会いに行く「ナタネ」さんに憧れて、私は無限書庫への配属を希望したから」
 幽霧は黙ってノインの話に耳を傾ける。
 そのまま話は続く。
「まだ私と幽霧が時空管理局に入局する前、雪奈さんに連れられて遊びに来たときに私が無限書庫で遭難した事があったでしょ?
 実はその時にナタネさんが私を助けてくれたの。まあ、助けたと言っても、道を教えてくれただけなんだけどね」
 その時の事を思い出したらしく、ノインは口元を緩ませて苦笑する。
「だから、その時に決心したの。
 ナタネさんみたいな人になりたいって」
 急にノインが止まった。
 幽霧は急に止まれず、本棚を掴むことによって止まる。
「ここです。」
 ノインは苦笑していたさっきと打って変わって事務的な口調になっていた。
 そこは神話を取り扱う棚であった。幽霧はノインの後についていく。
 しばらくすると本棚の側で動いている影を見つけた。
 幽霧はそこで動いているのが雫の言う「ナタネ」という人なのかなと思った。
「んぁ。首筋なんか舐めないで……ひゃうっ!」
「弥刀。女の子みたいな声を出しちゃって……可愛い…」
 聞こえてきた声は幽霧にとって聞き覚えのある声であったので、硬直する。
 ノインに至っては呆れて口を開けている。
 それでも二人は前へ進む。
 幽霧はその影に向かって、呆れたかのように言う。
「何をしていらっしゃるでしょうか?弥刀二等陸士。久世萌夜さん」
 そこにいたのは自然環境保護隊所属の弥刀二等陸士と無限書庫に所属する久世萌夜だった。
「…幽霧……空気……読もうよ…もう……」
 萌夜は弥刀の首筋を舐めながら言う。舐めるのに夢中で、幽霧とノインを見ていない。
 幽霧は背筋に寒気を感じながら、萌夜たちこそ空気を読むべきだと思った。
 隣にいるノインが長月部隊長とはかなり劣るが黒い笑顔を浮かべているし、禍々しい殺気の塊が近付いてきている。
 ノインは肩に掛けている長方形の箱を下ろし、黒い笑顔で萌夜に言う。
「萌夜。覚悟はいいですか……?」
 けだるそうに萌夜はノインたちの方を見る。
 そしてノインの足下に浮かんでいる長方形の箱を見た。
「ひぃ!」
 ここでやっと萌夜は空気を読んだ。しかしもう遅い。
「起きなさい……『グレイヴ・オブ・クラウン』!
 其の鉄腕で我が敵に絡みつき、我が王国の中に引き吊り込め。」
 長方形の箱が大きくなり、人一人が入れそうな棺と化す。
 棺の蓋が開く。中から魔力で構築された大量の鎖が蛇の様に這い出た。
 鎖は蛇の様に萌夜の四肢に絡み付く。
「ひゃうっ!」
 四肢を這いずる鎖の冷たさと縛り上げられる感覚に声を出す萌夜。
 大量の鎖は萌夜の四肢に絡み付き、這いずり回り、雁字搦めに縛り上げた。
 雁字搦めに縛り上げられた萌夜はノインの『グレイヴ・オブ・クラウン』に引き吊り込まれる。
 萌夜は『グレイヴ・オブ・クラウン』に引き吊り込まれないように足掻くが、徐々に引き吊り込まれていく。
 完璧に萌夜が引き吊り込まれてやっと、『グレイヴ・オブ・クラウン』の蓋が閉じられる。
 蓋が閉じられた『グレイヴ・オブ・クラウン』は小さくなっていき、再び長方形の箱に戻る。
「私は仕事をサボって人を襲っている色ボケの愚姉を調教し直さないといけません。
 ナタネさんなら、この奥にいます。では、私はこれで」
 長方形の箱に戻った『グレイヴ・オブ・クラウン』のストラップを肩に掛け、上に戻って行った。
「……………」
 弥刀と幽霧はノインの去った跡を呆然としながら見送る。
「相変わらず……萌夜を捕まえるノインの手際が良いね……」
 ポツリと弥刀は言う。
「久しぶりに見た自分にとっては、更に上達している気がしますが…………」
 ノインが去った跡を見ながら幽霧は呟くように返す。
 そして、弥刀を見て少し呆れたように言った。
「そろそろ着直した方が良いですよ」
 さっきまで萌夜に襲われていた所為で、弥刀は裸に近い位はだけていた。
 幽霧に言われてやっと、弥刀は着直す。
 迫り来る殺気を感じなら着直した弥刀に幽霧は言う。
「弥刀さん………逃げて下さい」
「え?」
 いきなりそんな事を言う幽霧に弥刀は首を傾げた。
 しかし、そんな間も禍々しい殺気の塊が近付いてくる。
 何かを諦めたかのように幽霧は瞼を閉じて溜め息をつく。
 幽霧の行動に弥刀は更に首を傾げる。
 迫り来る禍々しい殺気の塊の気配を感じながら幽霧は諦めたかのように言った

「ごめんなさい。既に手遅れでした」
 禍々しい殺気の塊が弥刀たちの元に降り立ち、笑顔で笑った。
「弥・刀・さ・ぁ・~・ん・♪」
 そこにいたのは弥刀と同じ自然環境保護隊に所属する結城優衣だった。
 優衣は幽霧の脇をすり抜け、弥刀の前に立つ。
「こんなところで何をしているのですか?」
「結城さん…………」
 流石にはっきりと仕事をサボって萌夜に会いに行ったと言えず、どもる弥刀。
 優衣は片手で弥刀の首を掴み上げた。
「ぐえっ……」
 弥刀の口から酸素が押し出される。
「私が質問しているのです」
 冷ややかな目で優衣は冷たい声で読み上げるような口調で言う。
 弥刀はサボりだと口が裂けても言えないのもあるが、優衣に首を掴まれている所為で喋れない。
「無言と言うことは、サボりでよろしいでしょうか?」
 優衣は首を掴んでいる弥刀を見ながら尋ねる。
 呼吸困難に陥りかけているが、弥刀は必死に頷く。
「そうですか…………」
 必死に頷く弥刀を優衣は虫けらの様に見る。
 首を掴みながら優衣は言う。
「仕事なんかサボらないで下さいよ…………分かってますか?」
 優衣の目には表現がない。表現があるとしたら、口元に笑みが浮かんでいるくらい。
 止めるべきかもしれないが、弥刀に非があるようなので幽霧は事態が収まるまで傍観する。
「反省していますか?」
 弥刀の首を掴みながら冷ややかな目で優衣は尋ねる。
 呼吸困難に陥りかけているが、弥刀は必死に頷く。
「本当にですか?」
 弥刀の首を掴む手に力を入れながら首を傾げる。
 そろそろ酸素不足で意識朦朧としてきた弥刀はさっきより弱々しく頷いた。
「反省しているようには見えませんね」
 優衣は指輪型で待機する「コウライ」をはめた拳を握る。
 そして、弥刀の顔面に目指して拳を叩き込む。
 優衣の拳が弥刀の顔に命中する瞬間に指輪型で待機している「コウライ」からバルディッシュ特有の巨大な刃が迫り出す。
「あーっ!」
 弥刀は顔面を「コウライ」で横一刀両断される危機を感じ、本気であらん限りの声で叫んだ。
 「コウライ」の刃が弥刀の顔に触れるギリギリで止まる。
「反省できましたか?」
 弥刀の顔面に刃が出ている待機状態の「コウライ」を突きつけながら尋ねる。
 全身から水分という水分を流しながら、壊れたバネ人形のように弥刀は頷く。
「分かりました」
 優衣はアッサリと手を離す。そして弥刀に背を向けた。
 いきなり手を離されたことで咳き込む弥刀。どうにか立ち上がり、優衣についていこうとする。
 予想していたより大事にならなかったので、幽霧も一安心した。
 優衣は弥刀の方に振り向き、尋ねる。
「そういえば……仕事をサボってまで誰に逢いに行かれたのですか?」
 何も考えていない弥刀は即答した。
「萌夜にです」
 弥刀の即答に優衣は立ち止まった。そして、瞼を閉じる。
 再び開かれたときには目に表情がなく、目が死んでいた。
 何も知らない弥刀は突然立ち止まった優衣に首を傾げる。
 次の瞬間、優衣が弥刀の方に振り向く。
 それと同時に弥刀は再び優衣に首を掴まれ、片手で無限書庫の本棚に叩きつけられた。
「ぐぶっ………」
 手の握力によって再び首を絞められ、背中を本棚に叩きつけられて弥刀の口から変な声が吐き出される。
「私………言いましたよね………?」
 優衣は首を掴んでいる手を本棚に押し付けることで首を締め上げながら言う。
「あの売女には………近づいちゃ駄目だっ……て……」
 弥刀の首は更に閉め上げられる。
「なにをきいていたんですか………………?」
 弥刀の首を掴んでいない方の拳を握る。
 そして弥刀の腹部に握った拳を叩きつけた。
「がふっ」
「弥刀さんの事……心配して……言っている……のですよ………私」
 弥刀の腹部に拳を叩き込んでいく。
「何で………何で………何で分かってくれないのですか…………」
 繰り返し繰り返し拳を弥刀の腹部に叩き込んでいく。
「何で………何で………何で分かってくれないのですか?」
 優衣が拳を叩き込んでいく度に弥刀の身体が跳ねる。
「私が弥刀さんの事をよく知っているのに………」
 そう言って、優衣は弥刀の身体に顔を埋める。
 弥刀の汗の匂いと萌夜の臭いがした。
「ん……あの売女の臭いが…する………」
 優衣は掴んでいた手を離す。首を掴まれていた弥刀の身体が崩れ落ちる。
 崩れ落ちた弥刀の身体を抱き留める優衣。
 優衣は弥刀の服のボタンを一つずつ外していく。
 ボタンを外すと、蚊に刺されたような赤い痕がたくさんあった。それはまさしく、弥刀は萌夜の物だと証明するキスマーク。
 おびただしい数のキスマークを見て、優衣は小さく呟いた。
「消毒しなくちゃ………」
 耳たぶを甘噛みしながら舌先でなぶる。
 優衣に耳たぶをなぶられている弥刀の頬が微かに紅潮し始めた。
 徐々に優衣は舌先を下へと下げていく。
 わざと、弥刀の首筋をゆっくりと這わせる。
 首筋をゆっくりと這われた弥刀の身体がビクンっと震える。
「消毒してるだけなのに………弥刀さんの……びくびくしてる…………」
 優衣は萌夜が作っていったキスマークを吸い上げる。
 弥刀の身体がまた震えた。
 多少潤んだ目で優衣は笑う。
「ビクッとしちゃって……可愛い…………」
 優衣は弥刀の肌に舌を這わせながら、萌夜の付けたキスマークを吸い上げていく。
 そして、更にキスマークを増やしていった。
 優衣は弥刀の身体に付けられたおびただしい数のキスマークを見て呟いた。
「私はこんなに弥刀さんの事を想っているのに…………」
 幽霧はその光景を見て思った。
 恋する人は凄まじいと。
 そして、「恋は盲目」と「恋は病」という言葉の意味を納得した。
「すみませんが……」
 優衣は刺激しないように幽霧は丁寧に言った。
「弥刀さんが完璧に………オチていらっしゃりますが………」
 幽霧の言うとおり弥刀は完璧にオチており、白目を向きながら口元からは涎が垂れている。
 優衣は涎を垂らしている弥刀の口元をハンカチで拭き、幽霧に笑顔で平然と言う。
「良いんです。私はこれで失礼します」
 そう言って、優衣は完璧にオチている弥刀の服のボタンをしめていく。
 そして、満足そうに弥刀を抱きかかえて行ってしまった。



 妹のノインに拉致されていった萌夜。優衣にオトされて連れて行かれた弥刀。
 二人が連れて行かれた後を見送った幽霧はノインに言われたとおり、奥へと進んでいく。
 奥に進むごとに周囲は暗くなっていく。暗くなっていくと同時に寒気を感じ始めた。
 周囲が見えなくなるほど暗くなり、時間の感覚がより掴みにくくなる。
 それでも幽霧は先を進む。
 普通の人ならそろそろノインを疑って引き返すのだが、曲がりなりにもノインの幼なじみである幽霧は前に進む。
 何故なら、彼女は小さい頃からどんな事があろうとも真実しか口に出さないからだ。
「ん?」
 奥で橙の灯りが見えた。橙の灯りを目指して幽霧は進む。
 どの位の時間が経っただろうか。幽霧は光源に辿り着く。 そこには光源だと思われるランタンが置かれ、側には女性が本棚によしかかりながら読書をしていた。
 血が通っていないかのような白い肌。
 本物の銀で作ったかのような白銀の髪。
 少し幼さが残る肢体を包むは喪服を模したかのような黒い服。
 無表情で無機質な顔つきから、知的で冷たいような感じがする。
 幽霧は目の前にいる彼女が人間でない様な気がした。
 何故なら、人間にしては気配という物が無さ過ぎたからだ。
 気配を消せる人は何人もいるが、目の前の女性は気配自体が無い。
 女性は本に目を通しながら静かに言った。
「何かご用でしょうか?」
「雫・鏡月開発部主任に頼まれてナタネさんを探しに来ました。
 ナタネさんでよろしいでしょうか?」
 女性は本に目を通しながら、幽霧の問いに頷く。
 幽霧はひとまず、ナタネを見つけた安堵で胸をなで下ろす。
「すみ…………」
「お断りします」
 ナタネは顔を上げ、間髪を入れないで切り捨てる。
 顔には出さないもの、幽霧は言う前に切り捨てられたことに驚く。
 新たなる本を手に取り、目を通しながらナタネは言う。
「私は死ぬまで、無限書庫から出るつもりはありません」
 そう言って、ナタネは再び本を読み始める。
 幽霧は一筋縄ではいかないなと思いながらナタネが本を読み終えるのを待つ。
 仕事上、待つことには慣れているので、全く苦ではなかった。
 とりあえず、無駄な体力を使わないように瞼を閉じる。
 本の頁がめくられる音だけが幽霧の耳朶を叩く。
 ゆっくりと時間だけが過ぎていった。
 突然本の頁をめくる音がしなくなる。
 幽霧は瞼を開く。
 何故かナタネが顔を起こし、幽霧を見ていた。
「なんでしょうか?」
 幽霧は不思議に思い、ナタネに尋ねる。
「あなたは変な人です」
「他の方にもよく言われます。」
 ナタネの言葉に全く動じず、平然と返した。
「いえ。今までの方は私を無理矢理にでも無限書庫から出そうとしていたので」
 ナタネは視線を本に戻し、静かに言う。
「そうですか」
 再び幽霧は瞼を閉じる。
 読書をしながらナタネは小さく呟く。
「しかし、そんな事はもう起こらなくなります」
 ナタネの意味深な呟きに幽霧は疑問を感じ、閉じていた瞼を開く。
 そして目の前の光景に驚いた。
 ナタネの片手が煙を上げるように消えていっていたからだ。
 慌てて幽霧はナタネに駆け寄る。
「ナタネさん。開発部に…………」
「いいんです」
 きっぱりと幽霧の意見を切り捨てるナタネ。
「身体が消滅するのが私の願いです。
 消えるべきだったのに完全に消えきれなかったあの時から今まで、それだけを願いました。
 やっと願いが叶う…………やっと死んだマスターに………逢える…………」
 そう言うナタネの顔は全ての苦しみから解放された様な安らかな顔をしていた。
 ナタネがそんな事を言っている間にも徐々にナタネの身体は消えていく。
 幽霧は消えていくナタネを見ながら昔のことを思い出していた。
 紅い世界で何も出来なかった自分。
 阿鼻叫喚を上げながら紅い世界に溶けていくモノたち。
 紅い世界に突き刺さる数え切れない程の墓標。
 幽霧は自問自答する。
 今も自分は何も出来ないのか。
 そう考えると幽霧の胸に怒りに似た熱い何かがこみ上げてきた。
 答えは否。
 幽霧は身体の消え行くナタネの胸に手を当て、歌うように言った。
「其は石眼の楯……アイギス!」
 呪文が幽霧の口から紡ぎ出された瞬間、手が当てられている部分から石化していく。
 石化したことにより、消滅するスピードが減速した。
 幽霧は石化したナタネを担ぎ、開発部へと急ぐ。
 少し行儀が悪いが、無限書庫の本棚を蹴りながら急上昇する。
「幽霧霞三等陸士。ナタネさんは…………」
「失礼します!」
 挨拶も疎かに幽霧はぶつかるように出口の扉を開けて無限書庫から出た。
 無重力空間から重力が存在する空間に出たことで、幽霧は筋肉が収縮している事に気づいた。
 しかし、ナタネを背負って全力で走る。
 廊下には移動中の局員や整備員がいたが、幽霧の気迫に気圧されて道をあけた。
 目の前には、転送開始まで五秒前の大型トランスポート。
 幽霧はナタネを背負ったまま、大型トランスポートにスライディングで突っ込む。
 スライディングで背負ったナタネを含めて全身が滑り込んだ瞬間、転送が開始される。
「ふぅ。」
 幽霧は間一髪で大型トランスポートに入れたので、ひとまず一息つく。
 まだ白目をむいてオチている弥刀を抱きかかえてトランスポートに乗っていた優衣は驚きで唖然としていた。



 トランスポートから出ると、幽霧は開発部目指して走り出す。
「あなたは………」
 アイギスの効果が薄れてきたらしく、ナタネが口を開く。
「喋らないで下さい。アイギスで身体の崩壊を抑えているだけなので、動いたら崩壊が始まります。」
 幽霧の忠告に全く構わず、話し始める。
「あなたはノインの言うとおり、私と同じ。他人の為にしか動けない空っぽで虚ろな死屍の骸。
 でも何故、あなたが私を助けるか分からない。」
 ナタネは幽霧に背負われながら不思議そうに呟く。
 幽霧はナタネを背負いながら返す。
「何も出来ないという事が嫌だという事です」
 そう言って、幽霧は走るスピードを速めた。
 ナタネは幽霧の背中に身体を預ける。



「幽霧くん?」
 開発部の部署までもう少しの位置で幽霧はなのはに声をかけられる。
 幽霧は背中のナタネの身体が微かに震えたのを感じた。
 ナタネはなのはの知り合いのなのだろうか。
 そんな事よりも幽霧は『アイギス』で殆ど石化させて進行を抑えているとはいえ、ナタネの身体が崩壊しないか心配だった。
「どうしたの?」
 首を傾げるなのは。
「いえ。なんでもありません。」
 なのはにナタネの事は悟られないように無表情で返す。
 幽霧は二人がどんな関係を持ってるかは知らないが、誰にも優しいなのはの事だから心配すると思ったからだ。
「そっか。なら大丈夫だね。」
 ポーカーフェイスを保とうとする幽霧に対し、微笑むなのは。
 何事もなく、事は収まると幽霧も思った。
 しかし、幽霧の予想は大きく外れる。
 すれ違うとした時、石化していたナタネの腕が落ちた。
 石化したナタネの腕が廊下の床を跳ねる。廊下に大きな音が響く。
 なのはも大きな音に気付き、幽霧のほうを見る。
 そして見てしまった。
 崩壊寸前のナタネの姿を。
 石化してるにもかかわらず肌には無数のヒビが入り、そのヒビから魔力が漏れ出していた。
 その痛々しい姿を見て、なのはは叫ぶ。
「…………ナタネちゃん!」
 なのはの声に全く反応しないナタネ。
「幽霧くん…………どういう事?」
「…………」
 幽霧はなのはに睨みつけられる。しかし、緊急事態な今は答える暇はない。
「こたえて!」
 なのはは幽霧の背中に叫ぶ。
 幽霧は瞼を閉じる。
 瞼を開けたとき、幽霧の目は死んだ魚のような目をしていた。
 幽霧の変化に気づかないなのはは叫ぶ。
「こたえて!」
 それに対し、幽霧は冷たく一言だけ言い放った。
「高町なのは一等空尉」
 なのはは背筋に寒気が走った。聞いたことがないくらい冷たい声からだ。
 ゆっくりと上半身だけなのはの方に向く幽霧。
 幽霧の目に恐怖感を感じるなのは。
 その目は死んだ魚のような目をしている。
 なのはは今まで、そんな目をする人を見た事が無かった。
「ナタネさんの身体が崩壊しかけている理由は分かりません」
 まるで機械のような事務的な冷たい声で幽霧はなのはに告げる。
「開発部で検査して貰う為にアイギスで進行を抑えています。
 自分はなのはさんとナタネさんに何があったかも知りませんし、ナタネさんに出会ったのは今日が初めてです。では」
 淡々と幽霧は事務的に告げる。
 ナタネを担いだまま、幽霧は落ちたナタネの腕を器用に拾い上げた。
 そして、幽霧は開発部に走り出す。
 ナタネを担ぐ幽霧との距離を詰めようと追おうとするなのは。しかし、その距離を詰める事は出来ない。
 幽霧の視線に射抜かれて上手く動けないというのもある。
 しかし、原因はそこだけではない。
 ナタネがぎこちなく振り向いた時の目がなのはを拒絶していた。
 その目は言っていた。近付かないで欲しいと。
 まるで、自分に近付かない事を懇願しているようであった。
 なのははナタネを担ぐ幽霧を追う事を止め、腕をダランと下ろす。
 なのはの目はとても切なそうであった。
 顔には全く出さないが、ぎこちなく振り向いたナタネは切なそうな目をするなのはを苦しそうに見る。
 走る幽霧は唇を噛んでいた。
 結果的になのはを突き放した事に二人は心に小さな痛みを感じた。
 それでも、幽霧は歩みを止めなかった。



 幽霧は汗だくになりながらも開発部の部署に辿り着く。
 ナタネを担いでいる為、行儀が悪いが足で蹴り開ける。
「すみません!雫・鏡月開発部主任はいらっしゃいますか!」
 扉の周辺で作業をする開発局員の少女は幽霧を見る。
「鏡月主任は…………」
 少女の言葉が途切れる。そして、一瞬にして赤くなった。
 汗で湿った制服や茶色の髪が幽霧の肌に張り付いて、妙に色っぽかったからだ。
「………まだ第零工房で検診中です。」
「ありがとうございます!」
 幽霧は人を押し退けながら雫が診察をしている第零工房に近づく。
 第零工房に辿り着くと、幽霧は扉を蹴り開けた。
「雫さん!ナタネさん………」
 幽霧の言葉が尻すぼみになる。
 第零工房ではまさしく、検診が行われていた。
 検診の為か、上半身裸のアインとアルフィトルテ。
 アインはアルフィトルテを膝の上に乗せている。
 雫は聴診器をアルフィトルテの胸部に当てていた。
「……………」
 硬直する幽霧。
 確かに諜報の仕事で性行為途中の現場に突入した経験は幽霧にもある。
 でもそれは覚悟を持って突入した場合の話だ。
 何の覚悟もなく、突発的にこんな現場に出会えば幽霧も困る。
 顔には出さないが、内心は焦っている幽霧。
 アルフィトルテは羞恥心がまだ発達していないのか、きょとんとしている。
 しかしアインは頬を微かに赤くしている。アルフィトルテのおかげで胸が隠れているのが唯一の救いだろう。
 雫は幽霧のほうを見て呆れたような顔をしていた。
「失礼いたしました!!」
 幽霧は勢い良く扉を閉める。その時に石化しているナタネを落としそうになった。
 とりあえず、事が終わるまで待つ事にする。
「どうしましたか。幽霧さん。」
 扉から雫が平然と顔を出す。
 幽霧は石化したナタネをチラリと見せる。
 石化したナタネを一瞥し、雫は事の状況を把握した。
「はぁ……分かりました。陽さん辺りに工房を空けて貰って来て下さい。
 多分、開発部の入り口にいると思います。すみませんが、この状態のままで」
 そう言って、雫は扉の中に引っ込む。
 幽霧は石化したナタネを心配しながら、出入り口へと歩く。
「陽さんで………よろしいでしょうか?」
 出入り口で作業をしている少女が顔を上げる。
「鏡月主任には会えましたか?」
「えっと………工房を空けて貰うように言われたのですが」
 幽霧は気まずそうに言った。
 陽と呼ばれた少女は工房の空き具合を見に行く。
 空き具合を見て来た陽は幽霧に空室の場所を告げる。
「第壱拾陸工房をお使い下さい。鏡月主任には私が伝えておきます」
「ありがとうございます」
 幽霧は石化したナタネを背負って、第壱拾陸工房に移動する。




 幽霧は石化したナタネを診察台に横たわらせる。そして雫を待つ。
「あなたは何故、私を死なせてくれないのですか」
 ナタネは工房の天井を見ながら口を開く。
「絶対に救えない命以外は足掻くべきだと思うからです。」
 工房の壁によしかかりながら幽霧は返す。
「世界を壊せなかった私に残っているものなど、何一つありません。」
「いえ。」
 幽霧はナタネの呟きを切り捨てる。
「ナタネさんが過去に何をしたかは知りません。しかし、世界を壊したとしても壊せない物ってあると思いますよ」
「例えば?」
 ナタネはぎこちなく幽霧を見る。
 いざ言うとなると照れくさいらしく、途切れ途切れになりながら答えた。
「絆や……縁……でしょうかね…」
「詭弁です」
 ナタネは幽霧の言葉を一言で切り捨てた。
「……『魂と心に仲間を。そして、背中には己の信念を』………幽霧さんの言うセリフもあながち、間違ってはいないと思いますよ」
 雫が第壱拾陸工房に入ってきた。
「鏡月主任。」
「予想が的中しましたね」
 診察台のナタネを見て、雫は呟く。
 今もなお、ナタネの身体からは魔力が抜けてきている。
「長期間の間、メンテナンスを怠った結果でしょうね。稼動不良が起き、身体の構成組織が崩壊が起きてます。
 ナタネさんの事ですから、緩慢な自殺をする為に敢えてそうしていたようですね。」
 雫は冷静沈着かつ的確に観察を行い、予想と診断結果を述べた。
「幽霧さんが『アイギス』で石化していなかったら、既に消滅していましたね。
 後は私が治療を行います。幽霧さんは工房から退室し、退室後に『アイギス』を解除して下さい。」
 幽霧に対し、雫は退室を促す。
 黙礼をし、幽霧は第壱拾陸工房から退室する。
 扉が閉まってから約五秒後に『アイギス』が解除され、ナタネの首から下が霧散した。
 ナタネの身体を構成していた魔力が漂う中、雫は一言だけ小さく呟く。
「……『贋作創造者』オリジナルフェイカー…………」



 幽霧は雫から退室を促され、第壱拾陸工房から出て来た。
 そして、工房の扉を閉めると同時に『アイギス』を解除する。
「ふぅ………」
 幽霧は壁によしかかりながら一息つく。
 そして、アルフィトルテとアインのいる第零工房へと足を運ぶ。
 入り口を通ると幽霧は陽に声をかけられた。
「ちゃんと鏡月主任には伝えましたよ!」
「はい。ありがとうございました」
 幽霧は陽に会釈し、第零工房へと行く。
「ちょっと君」
 アルフィトルテとアインがいる第零工房へと行く途中、幽霧は局員に声をかけられる。
 幽霧は呼ばれた方へ歩いていく。
 そこには、紫色の髪をした白衣の青年がいた。
「なんでしょうか?」
 幽霧は白衣の青年に近付き、話し掛ける。
「すまないが、そこの書類を取ってかね」
 青年は目も止まらない速度でキーボードを叩きながら言う。
 どうやら、デバイスのプログラミングを入れているらしい。
 幽霧は側にある書類を青年の目に見えるところに置く。
 差し出された書類を一瞥し、新たなるプログラミングを入力する。
 プログラミングが終わったらしく、青年は手を止めて幽霧のほうを見る。
 そして、近くにあったコーヒーメイカーのコーヒーをカップに注ぐ。
「飲みたまえ」
「すみません」
 幽霧は青年に渡されたカップのコーヒーを飲む。
「いや。ウーノが出張でいないから助かった」
 デスクの引き出しから「クアヴィンヴィン」とラベルが貼られた瓶を取り出し
、中身の液体を煽る。
 幽霧は青年の口から聞き覚えのある単語を聞いた。
「ウーノ………もしかして、貴方がジェイル・スカリエッティですか?」
「ああ」
 幽霧の目の前にいる紫の髪をした青年ジェイル・スカリエッティは頷いた。
 スカリエッティは口元から垂れている「クアヴィンヴィン」を白衣の袖で拭い、幽霧を見て笑う。
「私は君を良く知っているよ。幽霧霞」
「はい?」
 自分について知っている人がいるとは思わなかったので、顔には全く出さないが驚く幽霧。
 スカリエッティはニヤリと笑う。
「開発部では自力で「アルフィトルテ」を創った『開発部の隠れたエース』で有名だが、私はコッチの事実に注目しているがね。『首都防衛に所属していた三等陸士』幽霧霞三等陸士」
「たった一年ですよ」
 無表情で感情の無い声で答える幽霧。
 スカリエッティは無表情の幽霧を見ながら楽しそうに笑う。
「でも、所属していた事には変わりないと思うのだが………
 すまない。時間を取らせてしまったね」
「では。失礼します。ジェイル・スカリエッティ開発員」
 幽霧はコーヒーを飲み干し、第零工房へと歩く。



 第零工房に辿り着くと、幽霧は扉を軽くノックした。
「幽霧です」
「どうぞ」
 アインの了解で、幽霧は第零工房に入る。
 工房に入った途端、幽霧は足に何かがぶつかったのを感じた。
 下を見るとアルフィトルテが幽霧の足に抱きついていた。まるで、幽霧にすがりつくかのように。
「アルフィトルテ?」
 幽霧の声にアルフィトルテは顔を上げる。
「ママぁ………」
 アルフィトルテの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
 濡れているあたりから、隊服が涙と鼻水まみれであることが分かった。
「幽霧さん」
 アインは幽霧に話しかけた。
「アルフィトルテは幽霧さんがいなくても泣かずに検診を受けましたよ。
 今はちょっと緊張が緩んで泣いてますが…………ちゃんと抱きしめてあげて下さい。」
 アインに言われなくても何をすべきかは幽霧も分かっていた。
 幽霧はアルフィトルテの脇の下に手を入れ、そっと抱き上げる。それを待ちわびていたかのように、アルフィトルテは幽霧の方に頭を乗せ、両手を首に回す。
 紅葉のように小さなアルフィトルテの手が幽霧の服をギュッと握った。
「頑張ったね。アルフィトルテ。」
 背中を優しく叩きながら、幽霧は褒める。
 額を幽霧の肩に押しつけて、アルフィトルテは堰が切れたかのように大声で泣き始めた。
 困りながらも、幽霧はアルフィトルテの背中を優しく撫でる。
 しかし、まだ泣き止む様子はない。
 幽霧は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている隊服のポケットからティッシュを取り出し、鼻をかませる。
「えへへ………」
 鼻をかんで貰ったアルフィトルテは無邪気に笑う。泣いていたからか、泣き笑いにしか見えない。
 幽霧は抱き上げながら、泣き笑いするアルフィトルテを見て苦笑した。
 アインはそんな光景をある意味羨ましそうに、そして微笑ましそうに眺めていた。





では、おまけです。
おまけはいまだ完成しないお年玉SSです。





〈数日前〉
 幽霧霞は思った。
 何故、自分はこんな服を着る羽目になったのだろうかと。
 民間との交流を深めるために、諜報部部隊長の雪奈・長月一等陸佐が提案。
 上層部もそれを承認。管理局の局員が大晦日と正月に店を開く事になった。
 でも何故、自分が○を着る事になるのだろうか?
 幽霧は自分が着ている○を見ながら考える。
「」
 服の出来具合を見に来た×が見に来た。
 ×は○を着ている幽霧を見て、感嘆の声を上げる。
「」
 幽霧は苦虫を潰したような顔をする。
「そんな事、言わないで下さいよ。」
 ×は困った顔をする幽霧を見て笑う。
「」
「うぅ………」
 幽霧は○の裾を強く掴む。
「こんばんは。×さん。幽霧も似合ってるね。」
 ○を縫っていた雪奈が顔を上げる。その笑顔は異様に爽やかだ。
 雪奈を含む諜報部の数名は服を縫っていた。
 縫っている何名の目は殆ど、死んだ魚の様な目をしている。でも、手だけは精密かつ丁寧に動いている。
「それにしても、凄いね~♪」
 雪奈は服を縫う手は止めず、○を着た幽霧を見ながら楽しそうに言う。
「殆ど全部の部署から、幽霧の貸し出しのオファーが来るなんて。」
「そりゃあ。そうですよ。長月部隊長。」
 手早くかつ丁寧に服を縫い上げていく狂木二等陸士が言う。趣味は服を作る事という狂木の顔は、至福そのものであった。
「男性用の服を着せて良し!女性用の服を着せて良し!その上、ちゃんと働いてくれる。
 集客に持ってこいじゃないですか。」
 狂木は熱っぽく語るが、既に服を何着も縫い終えている。
「という事だから、頑張ってね。」
 雪奈は縫う手を止め、幽霧の肩を叩く。
 幽霧はため息をつく。
「」
 ため息をつく幽霧の隣で、×が幽霧を励ました。



〈大晦日まで後、十分前〉
 蔵那クロエはラジオのスタジオへと歩いていた。
 今夜は大晦日の0時00分からラジオを開始するらしい。なので、クロエはスタジオへと急ぐ。
「おはようございます。」
 クロエはスタジオに入る。
 ほとんどの人が目をキラキラさせている。まるで悪戯を計画し、実行する前の子供の様だった。
「よろしくお願いします。涼香さん。」
「はい。頑張りましょう。クロエさん。」
 涼香は笑顔で挨拶を返す。
 テーブルに置かれたタイムテーブルの紙を見て、クロエは絶句した。正確には、そのタイムテーブルの紙に書かれた企画名を見て絶句した。
 企画の名は、「48時間ラジオ」。大晦日の0分00分から開始し、元旦の24時00分に終了。存分に死ねる。
 絶句しているのはクロエだけで、他の人たちは楽しそうな顔をしている。
 ということは、クロエ以外は全員が知っていたという事だ。
「頑張りましょうね。クロエさん。」
 涼香はクロエの肩を叩く。
 クロエの肩が震える。そして、叫んだ。
「企画者……………誰だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」



〈大晦日の朝 諜報部ver〉
 大晦日の早朝にも関わらず、諜報部は熱気で満たされていた。
 雪奈は開発部と諜報部の局員を一人残らず集め、挨拶を始める。
「雫の開発部。そして、私の指揮する諜報部……………おはようございます。」
「おはようございます。」
 全員が雪奈に挨拶する。
 雪奈は挨拶を続ける。
「ついに、大晦日の朝が来ました。皆さん。頑張りましょう。」
「はい!」
 足並み揃え、雪奈に言う。
「……………う~ん。生ぬるい。」
 雪奈は深呼吸する。そして、叫ぶ。
「ついにこの日が来ました!大晦日!
 48時間、フルに働け!寝たきゃ床で寝ろ!栄養はキチンと取れ!軍医の診療室で正月を迎えたくなかったら倒れるな!以上!」
「Yes Sir!」
 雪奈の掛け声に全員が足並みを揃え、凄く自然に敬礼を行う。
「解散!」

「おっす。幽霧♪それにアルフィトルテちゃん♪」
 幽霧とアルフィトルテがスケジュール表を見ていると、諜報部の拷問班である
紅月神威が幽霧の肩を叩く。
「あっ。紅月神威二等陸士。」
「スケジュール表見とるん?うわっ。ハードスケジュールやね。空白部分が無いやん…………」
 神威は幽霧のスケジュール表を見ながら言う。
「まあ。貸し出しのオファーも多いみたいですから。
 長月部隊長の話だと、行っても行かなくてもどっちでも良いそうですが…………報酬は弾んで貰えるらしいので。」
「私は、【甘味処「華蝶風月」】の方で仕事や……………
 嗚呼。はやてさんの生脚。嗚呼。はやてさんの可愛いお尻………」
 諜報部の拷問班ではなく、両刀遣いのセクハラ局員と化している神威。手つきがかなりマズい。神威が女性なのが唯一の救いか。
「幽霧とアルフィトルテちゃんも大好きやけどな。」
 そう言って、後ろから幽霧とアルフィトルテに抱きつく。腕はちゃっかり、二人の胸部に触れている。
「そういやあ。幽霧。」
 神威は二人の胸部を揉みしごきながら尋ねる。
「幽霧って、女の子やったっけ?」
 幽霧は神威の問いに答える。
「開発部の雫主任が作った偽物です。でも、触感が本物の女性の胸に似ているとか。」
「まだまだ、本物のおっぱいには程遠い。本物のおっぱいちゅのはな……………おっと。もうこんな時間や。幽霧も頑張って来いや。」
 時間は既に、集合時間の間際だった。神威は慌てて、担当の場所へと走る。
「じゃあ。行こうか。アルフィトルテ。」
「うん。」
 幽霧とアルフィトルテも歩き出す。まず先は、寒天様率いる首都防衛部隊のお店【中華「覇道軒」】



〈大晦日の朝 レンver〉
 レン・ジオレンスはいつもの様に、仕事場に出勤した。違うのは仕事場が時空
航行部隊の部署ではなく、【イタリアンレストラン「光の女神(てんし)」】というお店である事くらい。
「おはようございます。」
 レンは【光の女神】の扉を開ける。中から出来たての建物特有の木の匂いがした。
 その中でギャルソン姿のフェイトが店内の点検をしていた。
「おはようございます。レンさん。」
 フェイトは笑顔で挨拶を返す。
 窓から差す朝日でより綺麗に見えるフェイトの笑顔にレンは見惚れる。
 ギャルソン姿も妙に見合っているので、更に綺麗に見えた。
「レンさん。どうしましたか?」
 フェイトは首を傾げる。その仕草も可愛い。
 レンは我に返り、フェイトに言う。
「ギャルソンの姿………似合ってますよ。」
「そう?ありがとう。レンさん。
 実は、諜報部の長月部隊長に選んでもらったんですよ。」
 レンは諜報部の長月部隊長に感謝の敬礼を心の中で行った。
 点検が終わったらしく、フェイトはレンに言う。
「レンさんも早く着替えて来て下さい。
 私は竈に火を入れてきます。」
 そう言って、キッチンへと入っていくフェイト。
 まだもう少し見て居たかったような気がした。
 でも、それと同時に今から元旦終了まで頑張れそうな気がした。



〈大晦日の朝 はやてver〉
「おはよう。皆さん。」
 【甘味処「華蝶風月」】で八神はやてが部下の局員全員を集め、挨拶を始めた。
 今日のはやては、藍色の着物に白いエプロンという和風給仕風の出で立ちであった。
 はやては言う。
「ついに来たで。大晦日の朝や。私も頑張るから、みんな。怪我とか倒れたりせえへんで、頑張ってな。
 なお。売り上げの上位三位まで、賞金が送られる。一位は、総額百万や。一位になったあかつきには、全員で焼き肉を食べに行こうな。私からは以上や。」
「うおぉぉぉぉ!!」
「きゃあぁぁぁ!!」
 男性局員も女性局員も一気団結する。



〈大晦日の朝 首都防衛部隊ver〉
「おはようございます。寒天一等陸尉。」
「久しぶりだな。幽霧…………って。」
 寒天は幽霧を見た瞬間、くわえていた煙草をポロッと落とす。そして尋ねる。
「幽霧………お前まさか……ついに性転換を………」
 幽霧は自分の身体を見る。そして、笑いながら寒天に言う。
「これは、雫主任の作った偽物ですよ。」
「ちっ。紛らわしい。」
 ジッポライターで煙草に火をつける寒天。
 寒天の使っているジッポライターを見て、今度は幽霧が驚く。
「そのジッポライター………まだ使っていたんですね。」
「まぁな。このライターには俺の女神様が彫ってあるんだからな。」
 寒天はジッポライターの蓋を勢い良く閉じる。金属と金属がぶつかり合う音が響く。
「さて。そろそろ、【中華「覇道軒」】開店だ。サッサと服に着替えろ幽霧。」
「ヤーヴォール」

「お前等に良い知らせだ。」
 幽霧が着替えている間、寒天は全員を集める。
「たった一時間であるが、俺達の優秀な同胞である幽霧霞が手伝いに来た。
 俺達はその優しさを無駄にする訳にはいかねぇ。お前等。しっかり働け。以上だ。」
 寒天の話が終わると、首都防衛部隊の局員は足並みを揃える。そして、言う。
「ヤヴォール!」

 【中華「覇道軒」】のユニフォームに着替えた幽霧がシグナムに挨拶をする。
「おはようございます。シグナムさん。一時間ですが、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく頼む。」
 軽く頭を下げるシグナム。
 幽霧はシグナムのユニフォームを見ながら呟く。
「シグナムさんも同じデザインなんですね。」
 シグナムのユニフォームは白いインナーに紅いエプロンドレス。足首まである
紅いスカートには片方だけ太ももの付け根の位置までスリットが入り、黒いガーターストとオーバーニーソックス。そして、黒い下着がスリットから少し見えている。それに対し、幽霧のユニフォームは白いインナーに黒いエプロンドレス。ロングスカートには片方にだけスリットが入っており、スリットから白いガーターベルトとオーバーニーソックス。そして、白い下着が見えた。
「一つ聞くが………胸と下着はどうしたのだ?」
 シグナムは幽霧の胸と下着について指摘する。
 幽霧の胸はまるで女性の様に膨らみ、下着は明らかに女物だったからだ。
「胸は、雫主任特製の偽物です。下着は………ユニフォームのデザインの関係で購入してきました。」
 下着については恥ずかしいらしく、頬を赤らめて、俯きながら両手を握る幽霧。その顔と仕草はまるで、本物の女の子のようだった。
 女の子みたいな幽霧の顔とその仕草に、指摘したシグナムも恥ずかしくなって
きた。
「とっ……とりあえずだ………よろしく頼む。」
 手を差し出すシグナム。
「はっ……はい………」
 幽霧は握手に応じた。微かに笑顔を浮かべて。
 その幽霧の微かな笑顔でシグナムが更に顔を赤らめたのは言うまでもない。



〈大晦日の朝 なのはver〉
 【喫茶「白桜雪」】でなのはとヴィアフが開店前に話をしている。二人とも、白いワイシャツに黒いエプロンドレスを重ね着し、レースの付いたカチューシャと腰にエプロンをつけるという普通のウェイトレス姿だ。
 肩の部分は膨らまされ、割と動き安いデザインとなっている。
「頑張りましょうね。ヴィアさん。」
 なのははとても楽しそうに笑顔で笑う。
 ヴィアフは少し長めのスカートを掴みながら言う。
「このスカート長いねェ……大体、アタシはスカート自体苦手なんだけど。くっそ、誰だよ、こんな長いの希望した奴はッ」
「まあまあ。抑えて下さい。
 ほら。もうすぐ開店ですよ。笑顔。笑顔。」
 なのはがそう言うが、ヴィアフは機嫌が悪いらしくムッとしている。
「でも、可愛いと思いますよ。この衣装もヴィアさんも。」
「ーーーっ!」
 なのはの言葉にヴィアフの顔が赤くなる。まるで、ヴィアフの髪と同じくらい。
「……………そろそろ時間だ。ドジるんじゃないよ。」
「はい。」
 照れ隠しなのか、顔をそらすヴィアフ。そんなヴィアフになのはは笑顔で笑った。



〈大晦日の朝 査察部ver〉
 査察部が企画した【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】では、査察部の部隊長が査察部の局員を集め、演説じみた挨拶を始める。
「遂にこの日が来た。男女問わず、頑張ってくれ。
 お祭り関係には厄介な諜報部が出店しないが、他にも厄介な部署はある。決して、気を抜かないように。
 私はキッチンで裏方として頑張りたいと思う。接客をする局員は売り上げを稼げるように頑張ってくれ。以上だ。」

「ヴィアさん。」
 解散直後、ヴェロッサがフリルの多いメイド服を着たヴィアッリに話し掛ける。
 ヴィアッリはかなり嫌な顔をする。
「なんでしょうか?ヴェロッサ=アコース査察官。」
 その目は汚物を見る様な目であった。
「つれないな。ヴィアさん。同じ査察部の局員でしょう?」
 ヴェロッサはヴィアッリの腰に腕を回す。手はヴィアッリの腹部にあてる。
「五月蠅いです。ガチホモのネギ頭。」
「ぐぼぉ。」
 ヴィアッリはヴェロッサの水月に目掛けて、肘を叩き込む。
 水月に肘を叩き込まれた事によって、ヴェロッサの肺から空気が押し出される。
「さようなら。ガチホモ。」
 ヴェロッサを置いて歩き去ろうとするヴィアッリ。
 しかし、ヴェロッサも頑張る。
「それでも、僕は君も好きだあぁ。」
 言い切ると同時に某怪盗顔負けのダイブを行う。
 ヴィアッリは華麗に迎撃する。空中で高速の域でヴェロッサの身体に蹴りを入れまくり、ヴェロッサの身体を浮かす。
 そして、華麗に回し蹴り。その時、ヴィアッリのスカートの中から黒い下着がチラリと見えた。
「黒……………」
「このド変態が!」
 ヴィアッリの蹴りは綺麗にヴェロッサの顔に突き刺さる。
「しばらく床でも舐めてろ。」
 床に這いつくばるヴェロッサは痙攣しながらも呻く。
「それでも君はうつく……………げほっ!」
 問答無用で這いつくばるヴェロッサの背中に踵落としを叩き込む。
「尻の穴にネギを突っ込むぞ。ガチホモ野郎。」
 そう言って、ヴェロッサの尻に蹴りを入れる。ヴィアッリの履いた靴のつま先がヴェロッサの肛門に突き刺さる。
「あっお~う!」
 ヴェロッサはヴィアッリの蹴りに恍惚とした顔をする。
 そんなヴェロッサに嫌悪感を感じながらヴィアッリは歩いていった。



〈大晦日の朝 環境保護隊ver〉
「弥刀さん………」
「ん?どうしたのですか。エリオ君。」
 弥刀はエリオを見る。
 エリオは弥刀に尋ねた。
「なんで僕……メイド服を着ているのでしょうか………?」
「さぁ~?」
 弥刀も首を傾げる。
 タント・弥刀・ヒツジの三名は洗いたてだが、普通にいつもの制服を着ている。
 しかし、エリオだけがメイド服であった。
 白いシャツに赤みがかかった黒のミニスカート。シャツの上にはエリオの髪の色に似た紅いエプロンドレス。脱ごうにも腰にはキツくコルセットがされており、脱ぐことも出来ない。
「まあ。ミラたちが頼んだからね………」
 シチューを混ぜているタントは苦笑いをしているが、口元は緩んでいる。
「諦めが肝心だぉ。」
 ヒツジはヒツジ汁を作りながら言う。
「そんなぁ。」
 エリオは半分、泣きそうになる。
 正直、泣きそうになりながらスカートを握り締めるエリオに釘付けになる男性局員三名。
「エリオくうぅぅぅん!」
 向こうから着替えたキャロたちが歩いてくる。
「遅かったね。」
 タントは白いシャツに茶色のカーディガンを羽織り、下は茶色のタイトスカートという出で立ちのミラに言う。
 ミラは頭を掻きながら言う。
「いやね。胸部がキツいってルーテシアが言ったから直して貰っていたら、遅くなった。うん。胸が育つのは羨ましいよ……………うん。」
 最初は明るかったが、胸が話題に入ると乾いた笑顔と化した。
「まあ。きっと、ミラの胸も………」
「育つ訳ないでしょ!この馬鹿タント!」
 タントはミラを慰める気で言ったのだが、逆効果でしっかりと握られた拳で左頬を殴られる。その上、裏拳なので更に痛い。
 弥刀とヒツジはタントに同情した。
 そんな事を後目に、キャロとルーテシアはエリオに話し掛ける。
「えへへ。エリオくん。私と同じだね。」
「エリオ……可愛い………」
「うん………そうだね………ありがとう…………」
 まだ仕事を行っていないが、エリオの目は既に死んでいる。
 タントを殴り飛ばしたミラがエリオたちの方に寄ってくる。まだ、すこし鬱憤が収まっていなさそうな顔だ。
「あら。エリオ。可愛くなったじゃない。うん。私の見立て通り♪」
 エリオを見て、満足げに微笑むミラ。
 不満そうにエリオはミラに言う。
「やっぱり、僕はこれをずっと着ていなければならないのでしょうか?」
「うん。」
 断言するミラ。
 ミラの断言にエリオはヘコむ。
 そんなエリオを見て、ミラは言う。
「エリオ。幽霧くんは君より凄まじい格好をしていても平然としているよ。」
 一枚の写真を見せるミラ。
 エリオはその写真を見た。そして、鼻血を噴出した。
「エリオくん!?」
 キャロはエリオの鼻からとめどめなく流れる鼻血を止める為に丸めたティッシュをエリオの鼻に詰めた。
 しかし、血は止まらない。ティッシュは徐々に赤くなり、ついには赤いティッシュから滴り落ちる。
 ミラはその光景を見て呟いた。
「あっちゃあ。刺激が強すぎたか。」
 ミラが見せた写真。それは【中華「覇道軒」】の女性用ユニフォームを着た幽霧とシグナムの写真だった。

 環境保護隊で最年少局員である結城優衣はタントに同情している弥刀に服を見て貰う為に走る。
「弥刀さ……………きゃあっ!」
 走った所為でスカートが引っかかって、転びそうになる。
 弥刀は優衣の悲鳴に反応し、瞬時に優衣に駆け寄る。そして、優衣を受け止める。
「大丈夫?」
「はい………」
 優衣は頬を赤らめながら頷く。弥刀に優衣は尋ねる。
「えっと……………どうでしょうか?」
「ん?可愛いと思いますよ。優衣さん。」
 笑顔でそう答える弥刀。萌夜という恋人がいるのに、他の女性に笑顔を向けるのはマズいのではないだろうか。
 しかし、その一言で優衣の顔は真っ赤に染まる。
 エリオの鼻血について心配しながら、弥刀と優衣を見ていたミラは呟く。
「萌夜さんの予想的中。さて、萌夜さんに連絡しないと。」
 ミラはそう言って、電話をかける。
 相手は勿論、弥刀の恋人である久世萌夜。



〈大晦日 8時50分〉
「え~。広報部所属の蔵那クロエが8時50分をお知らせします。」
 放送スタジオでは、クロエがラジオの放送をしていた。
 涼香は広報部全員の為に稲荷寿司を作っていた。既に幾つかの机には稲荷寿司が大量に乗った皿が置かれている。
「開店時間まで後10分です。先走って、開店しないようにご注意下さい。
 え~。今、お便りが届きました。送り主は、自然保護隊の局員。PN.ヒツジさんからのお便りです。
 おはようございます。ヒツジです。今日は遂に大晦日ですね。オイラの所属する環境保護隊はアツアツのスープとシチューを売るよ。出来れば、オイラの作るヒツジ汁を食べに来て欲しいですだお。では、蔵那さん。頑張ってね。
 暖かいメッセージありがとうございます。私もしばらくは頑張れそうです。」
 クロエはヒツジのお便りを読み終える。そしてマイクが拾えないくらい小さな
声で呟く。
「ヒツジ汁が食べたい………」
 蔵那がそう呟いたのはちょうど、9時。
 時空管理局の局員の長い36時間が始まった。

「蔵那さん。」
「はい?」
 三角斤に割烹着の涼香がクロエに呼びかける。クロエは涼香の方を見る。
「あ~ん。」
 クロエの口に作った稲荷寿司を入れる涼香。甘く煮られた薄あげの味が口一杯に広がる。
 中にはちらし寿司が入っていた。
 涼香はクロエに言う。
「私たちも頑張りましょうね。」
「……………はい。」



〈【中華「覇道軒」】 9時10分〉
 首都防衛部隊の運営する【中華「覇道軒」】はまだ9時10分であるにも関わらず、忙しく働いていた。
 かき入れ時は正午や夕方など、食事の時間になると全員が考えていた。
 しかし意外もデザート系の軽いメニューより、普通に食事で食べるようなメニューを頼む人が多かった。
「すみません。五番テーブルが、チンジャオロース・ギョウザ・ラーメン・ニクマンです。」
 幽霧は調理場にオーダーを伝える。
「あいよっ!」
 調理場の担当は汗を流しながら料理を作る。

「お待たせした。麻婆茄子と麻婆豆腐だ。」
 シグナムが届けに行ったテーブルの男と子供はシグナムの胸を食い入るように
凝視する。
 シグナムはその男と子供の視線が凄く恥ずかしいが我慢して、笑顔を浮かべる。
「何見てんの!」
 しまいには、男の妻が男に平手打ちをした。子供が男を平手打ちした母親にビビった。

「ちんじゃおろぉうすです。」
 アルフィトルテの届けに行ったテーブルには初老の老紳士が座っていた。
「お手伝いなんて、偉いねぇ。」
 老紳士はアルフィトルテの頭を撫でながら、手に飴玉を握らせる。
「ありがとう………」
「どういたしまして。頑張るんだよ。」 お礼を言うアルフィトルテに老紳士は微笑んだ。

「お待たせしました。杏仁豆腐です。」
 鷹斗は中年の女性たちのいるテーブルに杏仁豆腐を出しに行く。
「ありがとうね。あら。いい男前。」
「ありがとうございます。」
 鷹斗は笑みを崩さず、女性たちに杏仁豆腐を出す。
「出来れば、名前を聞いて宜しいかしら?」
 女性の一人が尋ねる。
 鷹斗は笑顔で答えた。
「葵葉鷹斗と言います。」
「あら。男前は名前も格好良いのね。」
 そう言って、女性は笑う。
「お褒めいただき、光栄です。」
 そう言って、鷹斗は女性たちに笑顔を向ける。
 その笑顔に女性たちはおちた。

「ギョウザ定食と北京ダックだ。」
 寒天はオーダーされた料理を持っていく。
 持っていった先のテーブルに座っていたのは、女性だった。
「ありがとうねぇ。あらお兄さん。良い男ねぇ。食・べ・ち・ゃ・い・た・い♪

 否。オカマだった。
 寒天は思った。幽霧があんなのになったら困るなと。
 ある意味で頭が痛くなったが、とりあえず、寒天はオーダーされた料理を机に置く。
「では、ごゆっくり。」
 精一杯の笑顔で去ろうとする寒天にオカマの一人が呼び止める。
「すみません。ちょっと良いですか?」
 その人は隣にいたのがオカマでなければ、女性だと錯覚してしまうような人だった。
 幽霧が大きくなったら、こんな人になるのではないかと寒天は思った。
 その人は幽霧を指差して尋ねる。
「あの子。男の子ですよね。」
 寒天は驚く。女装している幽霧を見て、一回で性別を看破したからだ。
 驚く寒天にその人は笑いながら言う。
「だって、私と同じですもの。」
 寒天はこの人が幽霧と同類だということで納得した。
 その時。
「きゃっ!」
 店内で誰かの声がした。
 寒天は声のする方を見る。そこには、幽霧がいた。
 予想はしていたが、こんなに早く起こるとは思わなかった。
 寒天は現場へ急ぐ。

 そこには、酔っ払いに絡まれている幽霧がいた。
「ぐっ、ぐへへ!めんこい嬢ちゃんやないか。」
 酔っ払いらしき人が幽霧の尻を触っている。
 寒天は酔っ払いに言う。
「お客様。他のお客様に………」
「うるせぇ!」
「そうか……………」
 寒天は懐に手を入れる。そして、拳銃を抜いて言う。
「他のお客様のご迷惑になりますので、お引き取り下さい。それとも……………ここでダンスマナーを教えてやろうか。」
 青ざめる酔っ払い。慌てて、お金を置いて走っていく。
「そんな根性で女をひっかけんじゃねぇ。全く……………」
 寒天は少し怒りながら拳銃を収める。
「ありがとうございました。」
 幽霧は寒天に礼を言う。
「まあ。気にするな。」
 そう言って、寒天はジッポライターでタバコに火をつけた。
 見ていた客や局員は惜しげもない拍手を寒天に送った。



〈陸士部隊 10時13分〉
「フェイルさん。本当にこの格好でするのですか?」
 幽霧は陸士部隊のフェイル・スプリッドに尋ねる。
「ええ。」
 フェイルは笑いながら言う。
 幽霧が手渡されたのは、どこかのカジノで働く女性が着るようなバニースーツ。
 確かに幽霧は女装をしたら女性にしか見えないが、バニースーツはマズいのではないだろうか?
「大丈夫です。メイクはギンガさんがしてくれるので。」
 そう言って笑うフェイルの隣には、楽しそうに笑うギンガが。
 幽霧はバニースーツを着る。

「おはよう。陸士部隊部隊長のゲンヤ・ナカジマだ。」
 ゲンヤが壇上に立ち、挨拶を始める。
「私ども陸士部隊は皆さんが楽しんで貰えるように、イベントを企画させていただいた。
 まず最初のイベントは…………「鬼ごっこ」だ。」
「はい。説明します。」
 フェイルがアナウンスを入れる。
「ルールは簡単。皆さんには、ターゲットである「ウサギ」を捕まえて貰います。」
 幽霧はゲンヤの背後から顔を出す。
 民間人の周りから声が上がる。
 フェイルは説明を続ける。
「このターゲットを捕まえたら、賞金10万と……………ターゲットの人権を一日だけプレゼント♪」
「「なにいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
 民間人と局員だけではなく、幽霧まで驚きの声を上げる。そんな話は全く聞いていなかったからだ。
「では、10時30分から開始します。
 参加する方は、保険料込みで1000をお願いします。」
 その瞬間、受付には人が殺到した。

「さぁ。ターゲットが逃げます。皆さんは5分後に追いかけて下さい。」
 アナウンスが入る。
 幽霧は走るためにクラウチングスタートの姿勢を取る。民間人の視線が尻に行こうとも気にしない。
 スタート1分前で幽霧の隣で誰かがクラウチングスタートをとる。
 幽霧は隣を見ると、そこにはワタルの姿があった。
「何をしているのですか?」
「ギンガさんに頼まれたんだよ。お前をアシストしてやれって。」
 幽霧の問いにワタルは面倒くさそうな声で答える。
「はぁ………なる程。」
 ワタルの言葉に納得する幽霧。そしてギンガへの感謝で胸が一杯になる。
 スタート開始まで30秒前。ワタルは幽霧に宣誓した。
「お前が逃げ切れたら………俺はギンガさんにデートを申し込む。」
 これはある意味で決意の表れだが、ある意味では死亡フラグだ。
 幽霧は自身の人権が大丈夫か心配になった。
「よーい………」

 どごおぉぉぉぉぉぉおん!!

 開始のピストルがなる前に、砲撃を撃った様な音が響く。まるで、鼓膜が破れるような盛大な音であった。
 同時に粉塵が上がる。
 粉塵が晴れたとき、そこには幽霧とワタルの姿はなかった。
 あるのはまるでそこだけ隕石が落下したような奇妙なヘコミ跡だけ。
 前方を見ると、粉塵が上がっている。どうやら、ピストルが鳴るとほぼ同時にダッシュをしたらしい。
 合図をする局員も茫然自失していたが、我に返って慌ててピストルを鳴らす。
「スタート!」
 民間人や局員も走り出す。
 幽霧を捕まえるために……………

 幽霧とワタルは道路を爆走していた。
「一応は撒けたようですね。」
 後ろを見ながら走る幽霧。
「ハハハ、決してあんたたちは追い付けないさ!今の俺に速さで勝とうなんざよ!行くぞ、これが俺の速さだ!」
「格好つけるのは良いですが、自分と併走している状態で言うセリフじゃないですよ。」
 笑いながら叫ぶワタルに幽霧は突っ込む。
 その言葉でワタルの言動は更に豹変する。
「俺が遅い?俺がスロゥリィー!?」
「遅くないですよ。」
 幽霧がそう言って突っ込んでも、ワタルは聞いていない。
「冗談じゃねぇぇぇぇ!」
 ワタルは更にスピードを上げる。
「おっとっと……………」
 幽霧もスピードを更に上げ、ワタルに合わせる。
 スピードを合わせる幽霧にワタルは感嘆する。
「お前は何で俺と同じ速さで走れるんだよっ!」
「まあ。慣れてますから。」
 幽霧は頬を掻き、走りながら苦笑する。
「重りが大量に入ったリュックサックやリストアンカーなどの重りをつけて走らさせられた事があったので。それもかなり楽しそうに撲殺器具を振り回す長月部隊長に追いかけられながら。」
 幽霧はのんびりと言うが中身は結構、凄まじい事を言っているような気がするのは気のせいだろうか。
 ワタルはまだスピードを出せるが、幽霧の持久力とある一種の同情でスピード
を一定にする。
「……………お前も結構、苦労しているんだな。」
「まあ……………慣れましたから。」
 幽霧はいかにも普通の様な感じに言う。そして後ろを振り向く。
 そろそろ幽霧たちに追いついたようだ。背後は人の波。
「アルフィトルテ。後何分?」
「2630秒だよ。」
 拳銃形態としてホルスターに収まっているアルフィトルテが幽霧の問いに答える。
「確か、魔法で妨害するのはアリだよな?」
 ワタルは幽霧に聞く。
「ええ。」
 幽霧はアルフィトルテを抜き、アスファルトに撃つ。
 そしてしばらく走り、着弾点へと引きつける。
「アイギス・イクスペンシィヴ」
 幽霧は指を鳴らす。
 着弾点を中心に巨大な魔法陣が展開し、魔法陣内にいる人たちを一瞬にして石化させた。
「お前………結構、えげつねえな…………」
 ワタルは石化した人たちや石化した人たちが邪魔で前に進めない人たちを見ながら言った。
 幽霧はワタルに言う。
「流石に自分の身が危ないので。」
 後ろを向かず前だけを見て走る幽霧。
 ある意味で自己の貞操も掛かっているので必死だ。
「幽霧さん。ワタルさん。」
 突然、上から声が掛かる。
 二人は上を見上げた。
 そこには『ブリッツキャリバー』を履いたギンガが『ウィングロード』を展開させて走っていた。
 何故か着ているのはバリアジャケットではなく、陸士部隊の隊服。
 ギンガは二人に尋ねる。
「後、39分ですが大丈夫ですか?」
「ええ。」
「まだまだ大丈夫です。」
 走りながら答える二人。
 ギンガはひとまず安心する。ギンガも商品については知らなかったが、責任は感じていたからだ。
 幽霧はギンガに言う。
「まあ。良いですが、ギンガ捜査官。」
「ん?何?」
 突然、幽霧が話しかけてきたので驚くギンガ。
「下着………見えてますよ。」
「!?」
 バリアジャケットではなく、陸士部隊の隊服を着ている所為でスカートから下着が見えているのだ。
 ギンガは慌てて、スカートを押さえる。
 幽霧は更に言った。
「そしてさっきからワタル二等空尉がさっきから気まずそうな顔をしています。」
 ワタルの方を見るギンガ。確かに気まずそうな顔で視線を逸らしている。しかし、鼻からは血が少し出ている。
 幽霧の指摘にギンガは肩を震わせる。かなりマズいかもしれない。
「ワタルさんの……………」
 ギンガは『ウィングロード』の上を走行中にも関わらず、『ブリッツキャリバー』でワタルを蹴り飛ばした。
「ばかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「黒……………」
 ワタルが言った最後の言葉は………ギンガの下着の色だった。
 幽霧はどうなったかはあえて気にせず、ただ逃げるために足を動かし続ける。

「嗚呼。怒ったギンガさんの顔もお美しい。」
 ワタルは至福そうな顔で言う。『ブリッツキャリバー』で蹴られた顔には大きなアザが出来ている。
「顔……治しましょうよ………」
 幽霧はワタルに言う。
 ワタルは幽霧の言葉を笑いながら否定する。
「ンフフ………幽霧。よく覚えておけ。
 女性から貰った傷は良い男の勲章だぜ。」
「……………」
 正直その顔で言われると良い男というより、フラれっぱなしの無様な男にしか見えない。
 幽霧はワタルの顔を見ながらそう思った。
 そんな事を考えると突然、真横で鈴の音がする。
 幽霧とワタルは真横を見る。そこには紋付きの着物と袴を着た金髪の白人が。
「……………」
 ワタルは言葉を失った。
 自転車に乗っており、荷台に括り付けられた箱には「セントヘレナベーカリー」と書かれていた。
 白人は幽霧に尋ねる。
「幽霧。パンハ好キカイ?」
「こんにちは。ナオンさん。売れ行きはどうですか?」
 ナオンと呼ばれた白人は答えた。
「うん。マアマアネ。幽霧ヲ追イカケテイル人ハ買ッテくれるよ。」
 そう言って、ナオンは幽霧にチョココロネを渡す。
「食べろ。元気デル。そこでワタシを不審ナ目で見てる人モ」
 ナオンはワタルにフランスパンを渡す。
「ソンじゃあネ。」
 ナオンは愛車の「ポナポルト・エロイカ号」のペダルを高速で漕ぎ、スピードを上げる。そして去っていく。
「さて………ワタル二等空尉。後もう……………」
 幽霧は隣を見る。そこには、ワタルの姿はない。前方を見ると、ワタルがナオ
ンを追いかけていた。
「どっか行くのは勝手だが、俺の前を走るんじゃねぇ!」
 フランスパンをかじりながらナオンを追いかけるワタル。完璧にスイッチが入ってしまっている。
 幽霧では、スイッチの入っているワタルとナオンのスピードには追いつけない。
「はぁ。」
 溜め息をつく幽霧。アルフィトルテを地面に撃つ。
「パラライズ・バインド。」
 そう呟いた後、その場から逃走する。
 何も知らず、仕掛けてある魔法陣を踏んだ全員が身体の痺れで硬直した。
 路地裏を駆使して逃げようとする幽霧に幽霧を捕まえようとする民間人が前方から現れる。
 幽霧は躊躇など全くせず、その民間人に突っ込む。そして地面に威力の強い弾を撃つことで身体を飛ばし、捕まえようとする人の上で月面宙返り。
 綺麗に着地して、逃走する。
 捕まえようとした人は唖然としていた。
「後、何分?」
 幽霧はアルフィトルテに聞く。
「後、790秒だよ。」
 後もう少しだ。
「いたぞっ!」
 また見つかってしまった。
 幽霧は走る。
 走っていると目の前に人が現る。後ろに逃げようとすると後ろにも。
 前後からジリジリと詰め寄られる。
 幽霧は横の壁を蹴り上がり、アルフィトルテで地面を撃つ。勢いで壁の上に乗る。
 そして、魔法を発動した。
「シュヴァルツシルト」
 広範囲に魔法陣が広がり、100人単位で人を巻き込む。
 魔法陣に乗っている人たちには100キロの質量がのしかかる。
 その間に幽霧は壁の上を走って逃走した。

 幽霧は鬼ごっこのスタート地点に戻る。後10秒。
 その時。
「おらぁ!ワイの100万!」
 脇から人が現れる。まだ、参加者を振り切れていなかったらしい。
 捕まえようとする少年の腕を、上に力強く飛ぶことでよける。
 そして、着地した。
 同時に時間終了の合図が鳴った。

 幽霧はバニースーツから陸士部隊の隊衣に着替え、挨拶をする為に本部に戻る。
 そこで、幽霧はギンガとワタルを見つけた。何故か、ワタルが地面に正座させられていた。
「私。言いましたよね?幽霧くんのアシストを頼みますって。」
「はい………」
 ワタルはうなだれている。
 更にギンガは続ける。
「それなのに、うつつを抜かして………幽霧くんが逃げ切れたから良いですが、ワタルさん。」
「はい。」
「幽霧くんが逃げ切れたらデートする約束は無効と言う事で。」
 そう言って、ギンガはワタルの前から去って行った。
 幽霧はワタルの自業自得だと分かっていても、同情するしかなかった。



〈電車内 10時15分〉
 満員電車の電車内。
 二人の女性が不快感を感じながら、電車内に乗っていた。
 背後では男たちが女性たちの身体に触れている。
 お尻。胸。ところ構わず触っている。
 男たちは二人に言う。
「スキャンダルなんて起こしたくないだろう?」
 「スキャンダル」という言葉は彼女たちにとって、悪夢の言葉。
その言葉を出されたら彼女たちは手が出せない。
「んふふ……………」
 青年の一人は笑いながら彼女たちのスカートに手を入れる。
 他の青年は彼女たちの服の裾から胸部に手を入れた。
 布越しに股間を擦り始める。
「あっ……んっ……………」
「くっ…………いやっ…………」
 艶のある声が彼女たちの口から漏れる。
 下卑た笑いを浮かべる青年。それに対し、彼女たちの目には涙が浮かぶ。
 声も出せない。
 大胆不敵に痴漢行為に及ぶ青年たち。それを止めない乗客。涙を堪える彼女たち。
 世界はどこまで非情なのだろうか?

 満員電車の中でもぞもぞと動く複数の影。
 一人は長細いバックを担いだ少年。
 一人は少しツリ目の少女。
 一人はサングラスをかけた男。
「親父。春夏姉。ちょっと、今から別行動取らして貰うわ。」
 一緒に動いていた人たちに断りを入れ、少年は痴漢たちのそばに行く。
 そして、痴漢の背後でその場を傍観する。
 しばらく話を聞いていて、少し曖昧だが話は分かった。
 とりあえず、痴漢されている女性たちには一種の弱みがある。
 痴漢している青年たちはその弱みを使って、痴漢に及んでいると言う事。
 少年は結論を出す。
 今、こいつ等のしている事は『漢』のする事じゃない。
 ならばする事はただ一つ。
 痴漢されている女性たちを助ける。
「何やってんや………この腐れ外道共!!」
 少年は目の前にいる青年二人の首を片手で後ろから掴む。
「!?」
 首筋に激痛を感じ、痴漢行為を止める青年。
 少年は、手に少しずつ力を入れていく。
「な………何すんだ?」
 首を力強く掴まれた青年は途切れ途切れになりながら言う。
「ん?ワイはあんさんたちの首を掴んどるだけやぁ~♪あんさんたちこそ何やっとるん?」
 少年は首を掴んだ青年を持ち上げながら言う。
 今まで、浮かれながら痴漢行為をしていた青年たちは少年を見て背中に寒気を感じた。
 その寒気で青年たちは女性たちに触るのを止める。
 女性たちは停車していないのに痴漢行為が止まった事に安心感を感じながらも、後ろを向く。
 少年は尋ねる。
「何やっとんや?あ・ん・さ・ん・た・ちぃぃぃぃぃぃ♪」
 メリメリメリ……………
 両手の指に力を入れる少年。遂に爪まで食い込ませ始めた。
「痛たたたたたたたたた!!」
 掴まれている青年は痛みで悲鳴を上げる。
 少年は青年の耳元で言う。
「痴漢をすると言う事は後で如何なってもええと言う事だよなぁ~お兄さん。」
 掴まれている青年は悲鳴を上げることしかできない。
「こんないたいけなお姉さんたちを脅しおって。男がすることやないで~。
 あんたらはそんな事をせんと女一人引っ掛けられんかい?」
 その声は怒りに満ちていた。
「とりあえず、次の駅で降りようかぁ。」
 ちょうど電車が停車し、電車の扉が開く。
 少年に首を掴まれていない青年たちは痴漢していた女性たちを押しのけて逃げようとする。
 しかし、逃げれるはずもない。
「この女の敵!」
 ある少女が青年の手首を掴み、捻り上げる。
 そのまま、青年を駅のプラットホームに地面に這い蹲らせる。
 少年は呟く。
「春夏姉ぇ…………」
 青年の手首を掴みながら春夏と呼ばれた少女は微笑む。
「水臭いわよ。冬秋お兄様。痴漢を捕まえるのなら、捕まえるといえば良いのに。」
「そうだぞ。冬秋。」
 サングラスをかけた男は言う。肩や腕には気絶した青年たちがぶら下がっている。
「親父…………」
「あの………」
 女性たちは冬秋と呼ばれた少年に声をかける。
「なんや?」
 冬秋は首を傾げる。
「ありがとうございます。」
 その言葉に冬秋は照れくさそうに顔を赤らめる。
 青年二人の首を掴んだままプラットホームに降りる冬秋。二人に言う。
「ええよ。ワイがしたくてした事やし。
 それと………着直した方がええよ。」
 冬秋の顔は何故か赤い。
 女性二人は首を傾げ、自身の服を見る。そこでやっと気づき、女性たちも顔を赤らめる。
 かなり過激な痴漢されていたせいで、ところどころがはだけていたからだ。
 着なおした二人に冬秋は言う。
「お時間あったら付き合ってくれへん?」
「え?」
 驚く二人。新手のデートのアプローチ方法だろうか?でも、今日は重要な仕事が。
 冬秋は苦笑する。
「こいつらを駅長に突き出さんとあかんから。」
 そこで二人は納得した。
「それとも今から仕事か?なら、行かんとマズいからええけど。」
「いえ。私たちも行かせて頂きます。」
 女性たちも電車を降りた。
「じゃあ。行こか。」
 三人は捕まえた青年たちを引きずりながら、駅長室に歩いていった。
 女性たちも三人について行く。

「すまんなぁ~。時間とらせてしまって。」
 冬秋は二人に頭を下げる。
 駅長室で調書を書くのに少し時間がかかってしまったからだ。
「いいえ。まだ時間がありますので。」
「そうです。気にしないでください。」
 二人の女性は笑顔で言う。
「そういえば、お二人さんはどちらへ?」
「クラナガンのテレビ局ですが………」
「クラナガンですか。なら。大丈夫です。」
 冬秋はおもむろに携帯電話を取り出す。女性二人は首を傾げる。
 ある人の携帯電話に電話をかける。
 10秒くらいして、やっと相手が出る。
 [ナンですか?ミスタトウちゅう。]
 [トウちゅうじゃなくて、トウシュウやアホ。]
 冬秋は電話の相手に悪態をつく。
 相手は悪態をつく冬秋を気にせず、尋ねる。
 [……デ。ナンだい?]
 [ワイの信念で通勤中の人に迷惑をかけた。ちょっと助けて欲しいんや。]
 [ん~。今、ヘンナヒトニ追いかけられてる。
  「どこに行くのは勝手だが、俺の前を走るのは許さねぇ!」
  「アナタガカッテに追いかけてクルだけでSHOW!!」 ]
 受話器の向こうから荒々しい叫び声が聞こえる。
 あっちも大変なようだ。
 でも、冬秋は発破をかける。
 [撒いてこいや。あんたの鉄馬はそんなものなんか?]
 [ん~。ワカッタYO!で、ワタシは何をシロト?]
 [女性二人をクラナガンのテレビ局まで。]
 相手は尋ねる。
 [ソノ人たチハベッピン?]
 [勿論。綺麗なお姉ちゃんたちや。]
 冬秋はニヤリと笑う。
 [ワタシのコルシカで3分でクルからマットって。デハデハ。マタアトでコウてう。]
 [トウシュウやアホ!!]
 そう言って、携帯の会話が切られる。
 冬秋は携帯電話を畳み、二人に言う。
「後、3分すれば来るそうです。まことに申し訳ありません。」
 再び二人に頭を下げる冬秋。
 何度も頭を下げられると罪悪感を感じるらしく、二人とも首を振る。
「良いのですよ。気にしないで下さい。」
「えっと、お名前を聞いてよろしいでしょうか?」
 片方の問いに対し、冬秋は服の裏ポケットから紙片を取り出し二人に渡す。
「こういうもんです。」
「人材派遣会社「仲間(ファミリー)」……?」
 その紙片には『人材派遣会社「仲間(ファミリー)」』とだけ書かれていた。
「ええ。本当に困ったときにはご連絡下さい。」
 冬秋は笑顔で言う。
 その時、タクシー乗り場のタクシーのスペースに一台の車が止まる。
 車の窓が開き、紋付の羽織りを着た金髪の白人が現れる。
「あれが僕の知り合いです。あの車に乗って頂ければ、クラナガン辺りなら15分くらいで着けると思います。
 乗り心地は少し悪いですが。」
 説明した後に少し苦笑する冬秋。そして、二人をその車に乗せる。
 冬秋は運転手である白人に言う。
「ナオン。すまへんがちょ~っと頼むな。」
「エエって。ええッテ。ワタシNO国ハべっぴんな女性をヘルプスルことは男の
誇りダ。」
 ナオンと呼ばれた白人は親指を立て、冬秋に言う。
「まあ。ナオンの国についてはよお分からんが、頼むな。」
「マカセロ。」
 冬秋とナオンは拳をぶつけ合う。
 最後に冬秋は後部座席に座っている二人に言う。
「まあ。縁と言う物が在ったら、また会いましょう。
 そのときは一種のどん底ですが。」
 そう言って、冬秋は笑う。
「最後に名前を聞いても宜しいでしょうか?」
 女性が冬秋に言う。
「ハッシャするよ。」
 ナオンはエンジンを踏む。
 冬秋は頬を掻きながら言う。
「×××××」
 その言葉は風の音でうまく聞こえなかった。
 ナオンが運転する車はクラナガンのテレビ局へと走っていく。

「さて。これからどうすっかな。」
 冬秋は頭の後ろで腕を組みながら言う。
「団長と冬秋お兄様のお知り合いに会いに行かないといけないんじゃないの?冬秋お兄様。」
 春夏がサングラスの男に肩車をされながら冬秋に言う。
「痴漢撃退という緊急ミッションコンプリート。これからのミッションはここから、ランニングでクラナガンに行く事だ。」
 男はそう言って、春夏を肩車したまま走り出す。
 冬秋は苦笑し、肩の長細いバックを担ぎなおして走り出した。



〈【甘味処「華蝶風月」】 10時20分〉
「いらっしゃいませですよ。」
 入ってきた家族連れの客をリインフォースⅡが出迎える。
 紫紺の色無地に白いエプロン。和風給仕の様な出で立ちだ。やっぱり、はやてのお手製だろうか。
「何名様ですか?」
「三名です。」
 客はリインの問いに答える。
「三名様ですか。じゃあ、こちらですよ~。」
 リインは客を空いている席に案内する。
 1分位たった後、はやてがオシボリとお品書きを持って客の席にやってくる。
「お客様。オシボリをどうぞ。メニューは何にしますぅ?」
 笑顔で尋ねるはやて。
 その笑顔に父親と子供は顔を赤らめる。
 母親は机の下で夫の足を踏んだ。父親は歯を食いしばりながら我慢する。
 夫の足を踏みながら母親は言う。
「冷たいぜんざいを一つ。それとお汁粉を二つです。」
「畏まりました。しばらくお待ち下さい。」
 はやては笑顔でその場を立ち去る。はやてが立ち去ったにも関わらず、母親は力を入れて夫の足を踏んでいた。

「お待たせしましたぁ。葛切りでございます。熱い黒蜜に付けて食べて下さぃ~」
 神威は笑顔で葛切りを運ぶ。
「随分と慣れとる様やね。神威さん。」
 はやてが神威に言う。
「まあ………諜報部は経験が全てやから。」
「納得したわ。幽霧くんがええ例やね。」
 苦笑するはやて。
「幽霧を例にしたらあかんわ。はやてさん。幽霧まで行くとやばいさかい。」
「そうなん?」
 キョトンとして、首を傾げるはやて。
 神威はそんなはやてにちょっと見惚れる。
「まあ。仕事頑張ろうな~」
 そう言って、はやては仕事を再開する。
 はやての後ろ姿を神威は食い入るように見る。特にお尻の部分を。
 実はさっきから見ているのだが、下着の形が全く出てこない。
 そこで神威は判断した。
 今日のはやて二等陸佐はきっとTバックか下着をつけていないと。
 ニヤリと笑う神威。明らかに悪巧みを考えている顔だ。

 神威は何気なく、はやてのお尻を撫でる。
「ひゃうっ!」
 はやては可愛い声を上げる。
 撫でた時に下着の触感がしない事から、やはりはやては下着をつけていないだろう。
 はやてのお尻を撫でた神威は撫でた手をニギニギしながら笑う。
「やっぱり予想通り、良いお尻や。」
「もう………」
 珍しく顔を赤らめるはやて。
 やはりやる事は慣れていても、やられる事は慣れていないのだろう。
「きゃっ!」
 突然向こうで声がした。
 はやてと神威は声のする方に走る。

そこには後ろから女性局員の首に腕を回し、締め上げている男がいた。どうやら、強盗のようだ。
 強盗は言う。
「この店とおまえ等の所持している金。全額出しやがれ!」
 現場は騒然とする。
 強盗は更に叫ぶ。
「さもなくば、こいつの首の頸動脈を切り裂いてやる。」
 そう言って、強盗は女性局員の首にナイフを突きつける。
 神威は、はやてに尋ねる。
「あの人って、武装局員?」
「いや。普通の事務をする局員や。」
 それを聞くと、神威は強盗に歩き出す。
「何する気や?」
 尋ねるはやて。
 神威は平然とした顔で言った。
「強盗をつぶしたる。」

 強盗は人混みから誰かが自分の方に来るのに気がついた。
「その人を離して貰おうか。おに~さん。」
 神威は笑う。その笑顔は異様に黒い。
「来るな。近づいたら…………」
「そん時はおに~さんの無事は保証せぇへんよ。」
 そう言って、近づく神威。
「おに~さん。」
 神威は強盗に言った。
「覚悟が足らん。」
 一瞬にして距離を詰め、片手でナイフを持った腕の手首を握る。
「ぐひぁ!」
 そして、握りつぶした。強盗の口から悲鳴が漏れ、ナイフが手から落ちた。
 締め上げられていた女性局員はその隙に逃げる。
 女性局員が逃げると同時に神威はもう片方の手で強盗の服を掴む。
「痛いと思いますが、まあ。あんたが悪かったという事で♪」
 神威は笑顔で強盗に一本背追い。
 店の宙を強盗の身体が舞い、地面に叩きつけられる。
 強盗が気絶したことを確認すると、神威は締め上げられていた女性局員に駆け寄る。
「大丈夫?」
 強盗のナイフが色無地と女性局員の肌を切り裂いていたからだ。
「大丈夫です。」
「なら良かった。」
 神威はほっとする。
「こっちも完了や。」
 はやては神威に言う。
 気絶した強盗は男性局員によって締め上げられていた。
「皆さん。ご迷惑をお掛けしたことをお詫びいたしやすう。」
 神威は客に頭を下げる。
 客からは惜しげもない拍手が送られた。

 休憩室では神威とはやてが休憩を取っていた。
「ありがとうな。神威。」
「なんや?突然。」
 はやてが当然そんな事を言うので、神威は緑茶を飲みながら首を傾げる。
「私の大切な部下を助けてくれてありがとうという事や。」
 ちょっと顔を赤らめ、笑顔で笑うはやて。
 神威は緑茶を飲みながら言う。
「まあ…………どうしたしましてや。」
 緑茶を飲み終えると突然立ち上がり、はやてに言った。
「じゃ…………ご褒美を」
「えっ………はい?」
 はやてが言葉を出すか出さないかの内に、はやては神威によってソファーに押し倒されていた。
「神威…………?」
「大丈夫。男みたいに痛くしないから・・・・・・力を抜いて。」
 何かやばそうな感じのするはやてを尻目に、はやての着ている色無地をはだけさせる。
 神威によって、はやての肌が露わになる。肌は白磁器のように白く、滑らかできめ細かかった。
 はやての鎖骨に口付ける神威。そして、はやての肌を強く吸う。
「ふっ………あっ……………」
 はやての口から甘い鳴き声が漏れた。
 同時にはやての肌に紅いキスマークが散らされる
「ふふふ………………いい鳴き声や。」
 羞恥で顔を赤らめるはやてを見て、神威は楽しそうに笑う。
「はやてさんが悪いんよ。はやてさんが可愛い鳴き声で鳴くから、食べちゃいたくなっちゃうんや。」
 神威は淫蕩に満ちた笑みを浮かべながら言う。
 いろんな意味で窮地に追い込まれるはやて。大丈夫なのだろうか?
 まさか襲う事はあっても襲われるとは思わなったので、ドキドキするはやて。
 はやての顔は神威をより発情させる。
「いただきます。」
 神威がはやてに覆いかさぶさろうとした時、背後で声がかかった。
「………………何をしていらっしゃるのですか?神威さん。」
 それと同時に神威の後頭部に硬い何かが押し付けられる。
 はやては呟く。
「幽霧くん………」
 そこにいるのは幽霧であった。
 幽霧は神威の後頭部に拳銃型のアルフィトルテを押し付けながら尋ねる。
「こんにちは。はやてさん。
 神威さん。なんか襲うまで後、5秒の体勢なのは何故でしょうか?」
「ははは………」
 苦し紛れに苦笑する神威。それに対し、無表情の幽霧。
 神威がはやてを襲うまであと5秒なら、幽霧が神威を殺るまであと1秒。
「とりあえず…………この体勢を何とかして下さい。」
 そう言って、アルフィトルテの狙いを外す幽霧。
「なんとかするわけないやろ!」
「其は悪夢の銃弾」
 瞬時に狙いを合わせ、幽霧はアルフィトルテの引き金を引く。
 謎の銃弾を叩き込まれた神威は前に倒れる。
 幽霧は倒れた神威をひっぺ剥がし、はやてに聞く。
「大丈夫でしたか?」
「幽霧くん…………」
 はやては幽霧に抱きつき、腰に腕を回す。
 神威さんの本性が怖かったんだろうなと思い、はやての頭を撫でる幽霧。
 そこで急に背筋に寒気が走った。
 いつの間にか服の裾から手を潜り込ませて、腰を撫でられていた。
 はやての冷たい手と直接素肌で腰を撫でられている事により、幽霧の背中に寒気が走る。
「あ~。幽霧くんの腰を撫でたら、落ち着くわぁ。」
「抱きつくのは良いですが、腰を撫でないで下さい……………ひゃうっ……!」
 幽霧は女の子みたいな声を上げる。
 数分後、休憩室からはやてと幽霧が出てくる。
 はやてがやけに爽やかであるのに対し、幽霧の顔は妙にやつれていた。
「さて、頑張ろうな♪幽霧くん。」
「はい…………」



〈放送スタジオ 11時30分〉
「そろそろ、お昼も近づいてきましたね~」
 涼香のお腹も鳴り始めた。
「ここでお知らせです。」
 クロエがお知らせの広告を読む。
「まずは起床から就寝までの生活をサポートする「ちゅるや百貨店」からのお知らせです。
 「ちゅるや百貨店」では、大晦日&元旦フェアを開催中。「ちゅるや百貨店」名物のスモークチーズも二割引となっています。
 これを期に「ちゅるや百貨店」のスモークチーズをご賞味あれ。」
「あそこのスモークチーズは美味しいんですよね。
 前にギンガさんと食べた事があります。蔵那さんはどうですか?」
 クロエに尋ねる涼香。
「私も親が送ってくれましたね。
 あのスモークチーズは美味です。」
 尋ねられたクロエも「ちゅるや百貨店」のスモークチーズの味を思い返しながら答える。
 思い返しながらクロエは次の広告を読み上げようとした。
「次も民間のお店です。【居酒屋「苺壱枝」】…………」
 広告を読み上げた途中で、クロエの口が止まった。
 涼香を除く放送スタジオにいた全員がクロエの硬直に首を傾げた。
「蔵那さん。読み上げて下さい。」
 クロエは涼香の言葉で我に返る。
 そして、読み上げる。
「【居酒屋「苺壱枝」】からのお知らせです。」
 これには涼香とクロエ以外の全員が硬直した。勿論、休憩にラジオを聞いていた局員たちも。
 【居酒屋「苺壱枝」】………それは、時空管理局内でも噂が絶えないお店の名前。
 諜報部部隊長の雪奈・長月と開発部主任の雫・鏡月が営むお店。
 まさか、諜報部と開発部のトップが個人的に出店をするとは思わなかったからだ。
 クロエは続きを読み上げる。
「店内でアマチュアのコンサートを行います。
 興味のある方はお越し下さい。ご来店をお待ちしています。【居酒屋「苺壱枝」】店長。月城天音…………」
 涼香以外は胸をなで下ろした。
 どうやら、予想は外れたようだ。
「あのお店は、最高ですね。平等なルールが定められていますしね。」
 涼香の言葉にクロエは首を傾げる。
「涼香さんは行った事があるんですか?」
「ええ。あのお店は諜報部部隊長の雪奈さんたちご用達ですから。
 あの店でおきたことは殺人以外は口に出してはいけないというルールのおかげで、芸能人も時々いるんですよ。」
 笑いながら答える涼香。
 クロエは内心、凄まじい居酒屋だと思った。
「次は【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】………査察部の店ですね。
 【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】では、「ちゅるや百貨店」名物のスモークチーズを使ったメニューも揃えております。」
「査察部の部隊長が作るケーキは美味しいのに、いらない小細工も入るようですね~」
 涼香はかなりの毒舌で言った。その顔は無表情であった。
「それに、スモークチーズは酒の肴ですよ。
 喫茶と言いながら、酒でも出すのでしょうかね~?」
 毒舌でまくし立てる涼香。査察部に嫌な思い出でもあるのだろうか?
「次からは私が読みますね。えっと。自然環境保護隊からです。
 自然環境保護隊では、温かいシチューや飲み物を売っております。
 目玉メニューは、「豆腐腐炉」です。是非ともご賞味あれ。」
「………………」
 これには涼香とクロエはコメントのしようがなかった。
「つ………次の宣伝は、次元航行部隊からです。
 【イタリアンレストラン「光の女神」】では、「ちゅるや百貨店」のスモークチーズを使ったピザを12時から3時間ごとに限定30枚販売します。
 ギャルソン姿のフェイト・T・ハラオウンに萌えたい方も是非お越し下さい。」
「あのスモークチーズを使ったピザとは贅沢ですね。
 でも、フェイト・T・ハラオウンに萌えたい方とは凄いことを言いますね。」
 クロエの意見には、涼香も頷く。
「では、現在来ている部隊別の宣伝はこれで終わります。
 次はお便りです。
 PN.月読八景さんからです。弥刀さんは何故、二等空尉から二等陸士に降格させられたのですか?」
 クロエは思い出すように言う。
「確か………経歴偽造の関係だったと思います。」
「いや。一番の原因は…………」
 涼香がクロエの話に口を出した。
 クロエは溜め息をつきながら言う。
「女性関係ですね。確か…………七股でしたっけ?」
「いえ。十五股です。
 諜報部の手に掛かれば、疑惑からたった三日で判明しましたからね。」
 二人とも、かなり遠い目だ。
「まさしく、「障子に盗聴機有り。」「諜報部に隠し事は出来ない。」の象徴ですね。」
 クロエは再び、深い溜め息をつく。
「さて、次のお便りはPN.憂いの貴婦人さんからです。
 涼香様。私の為に毎日お味噌汁を作って下さい。」
 硬直する涼香。
「モテモテですね。涼香さん。」
 クロエは涼香を冷やかす。
 涼香は顔を赤らめながら、こう言った。
「私は陸士部隊に所属しているギンガ・ナカジマ捜査官の所有物なので、お断りさせていただきます。」
「「ぶふうっ!」」
 一種の爆弾発言な告白に、広報部。視聴者。全員が…………噴いた。
 涼香の所有者であると宣言されたギンガも働いているお店でそれを聞いて、驚きと恥ずかしさで持っていたお盆をひっくり返す。
 ワタルが路上で膝をつき、レキはビンテージ物の酒瓶を落としかけるなど、各地で騒ぎが起きた。
 涼香もまさか、自分の人間関係が騒ぎを起こす事になるとは思わなかっただろう。
 そんなこんなで、大晦日も正午にさしかかった。



〈羽ver 12時23分〉

 捜査課では警備に廻る部隊と店で働く部隊に別れていた。
 大晦日といっても、いや、むしろ大晦日だから犯罪は起こるだろうという配慮だ。
 その中で羽は警備に廻る部隊に振り分けられていた。
「あ~あ、何で僕はこんなに運がないんだろ。せっかくいろんなとこで祭りをしてるのに……それに、行きたいところもあるし。」
 羽は勤務中だがうなだれてしまっている。
 そうしていると後ろから背中をおもいっきり叩かれた。
「っっっっ!」
 羽は声にならない悲鳴を上げ、背中を反らす。
「なんや、塩らしいやないの。」
 羽は声がした方向へ振り向く。
「神威さん、痛いんですけど。」
「そないな背中見たら叩きたくもなるよ。まあ、ほんまに羽かっちゅうんは自信あらへんかったけどな。」
「どこか変わったところ、ありましたか?」
「それはな~…」
 神威はそう言いながら両手で羽の顔を固定し、顔を近づけていく。
「ちょ、ちょっと神威さん!?」
 どんどんお互いの顔の距離が近づいていく。
 もう少しで顔がぶつかるというときに神威が顔をずらし、羽の顔の正面から避けて、ピアス穴の空いた羽の右耳を甘噛みした。
 羽の脊髄に寒気に似た感覚が走る。
「んっ、くっ、んぁっ。」
 羽は艶っぽい声を出している。
 神威はその声を聞き、耳たぶに空いた穴を中心に歯を使ったり、舌を使ったりして攻め始めた。
「んっ、んんっっっ…。」
 神威は同時に羽の着ている制服のボタンを外し始めて、二個ほど外すと服の中に手を入れて弄っている。
「か、神威さん…。」
 羽は声を絞りだし、神威の名を呼んだ。
 神威は耳から口を離し、囁き始めた。
「羽がいつもと違うのはこ・こ・だ・よ、いつものピアスをしてないんだ~。」
「っっ!」
 神威の言う通り、年末年始と言うことで羽はピアスを外していたのだ。
「それに一回あのピアスの住人が独占しとる羽の耳を食べてみたかったんよ~。形もいい具合やしね。」
 神威は羽の耳を一舐めして言う。
「う、ぐっ、離してくださいっ!」
 羽は力を振り絞り、神威を引き剥がした。
 というより神威を押すことを推進力にして羽が動いたと言った方が正しい。
「なんや~、うちのテクで腰がガタガタやないの~。」
「う、うるさいですよ。」
「もうちょい楽しませてくれたってええやん、なかなかいい声で鳴いとったんやし。」
 羽は神威から距離をとろうとしている。だが足に力が入らない。
「なんや~? 足に力入らへんのやない?」
「そ、そんなこと、それよりどうしてここにいるんですか。」
「ああそれか、ほんまは店の方で人手が足りんから誰か引っ張って来いゆう話やったんよ。せやけど羽を見とったら、止まらへんねん…。」
 神威は恍惚とした顔で羽に近寄っていく。
 羽は逃げようとするが足に力が入らない。立っているのもやっとの状態だ。
 一歩一歩神威は羽へと近づいていく。
「もうちょっとぐらい、食べさせてぇや…。」
「うっ、神威さん…。」
 神威は羽にしなだれて首に舌を這わせる。
 「ん~、ええねぇ首も。」
「う、んっ…。」
 そのまま神威の舌は耳へと動く。
「ま、また耳、なん、です、かっ、んぁっ。」
「ほんまに羽はいい声で鳴いてくれるなぁ、攻めがいあるわ~。」
 そう言って、舌先で羽の耳をなぶる神威。
「そうなんか~、羽は耳や首があかんのか~。」
「そ、そんなこと……え!」
 いきなり声をかけられ驚く羽。
 そこにいたのは、はやてだった。
「なんや、はやてやないの、一緒にやらへん?」
 羽は凍りつき、神威は依然として舐めたり噛んだりしている。
「今日の獲物は羽やったか…。」
「はやて、うちは今めっちゃ楽しいねん。たとえ雪奈さんが呼んでいようと止められへん…。」
「さっき呼んではりましたけど?」
 神威は羽を舐めるのを止めた。何故か汗がだらだらと垂れ流している。
「そらほんまかい!あかん!どこで呼んどったんや!?」
「そりゃあお店に決まってますやん。」
「いつ!」
 声からして、明らかの焦りまくっている。
「さっき。だから呼びに来たんですよ。」
「う、くぅぅぅ、背に腹は代えられへん、またあとで続きしよな、羽。ほんまにあかんわぁぁぁ!」
 そう言うと神威は羽を解放し、走ってどこかへ行ってしまった。
「羽、大丈夫か?」
 解放されて足下から崩れ落ちた羽にはやては駆け寄る。
「いえ、あまり大丈夫とは言えませんが、なんとか。」
「そうか、なら私と第二ラウンド、いってみいひん?」
「ええ!」
「ふふふ、冗談やって。」
 はやてはけらけら笑っている。
 羽の方は余裕もなくへたり込んでいる。
「もう、そんな冗談はやめてくださいよ~。」
「せやけど…。」
 はやては話しながら羽の耳に触れる。
「ピアスがないんは新鮮やね。」
 はやては耳をつまみ、揉み始めた。
「うっ、う…ん。」
「なんやほんまに弱かったんやな、耳。」
 まだ揉んでいる。
「は、はい、昔から、なん、です、よっ。」
「へぇ~。なんやろ、楽しなってきた。神威さんの気持ちわかるわ、羽ええわぁ。」
「あ、んっ、あのっ、そ、そろそろ、離して、くだ、さいっ。んぅっ。」
 途切れ途切れに言う羽。声も少し高いので、女の子みたいだ。
 端から見ると男装をした少女と少し年上の女性がいけない事をしている様にしか見えない。
「え、う~ん。でも最後にちょっとだけ、イタズラしてもええよね…」
 はやては耳を離し、羽が安心した瞬間に、少しはだけている胸元から首筋をつたって耳まで一舐めした。
「んうぁぁっ。」
 羽は気を抜いていたせいか少し大きめに声を出してしまった。
「はやてさん、ずるいですよ…。」
 羽ははやての不意打ちを受け、ぐったりしている。しかもうっすらと涙目だ。
 はやて自身ももうちょっと羽で遊んでいたいと思っていた。ミイラ取りがミイラに鳴ってしまう事も分かっている。
 でも、もうちょっと羽をいじりたい。
「あの、はやてさん?」
 はやては頭を抱えて自問自答していた。
「あ、ああ、大丈夫や。」
 はやては自身にさっきのが最後だと言い聞かす。
「?」
 羽ははやての顔を凝視し、不思議そうな顔をしている」
 はやては生唾を飲み込む。
「ほなら、早く店の方にいこか。」
 不思議そうに見つめる羽のせいで、はやての襲いたいという衝動は収まるどころか強くなる。
「ちょっと、手を貸してもらえませんか、疲れちゃいました。」
 羽ははやてに手を伸ばす。
「あ、うん、ええよ。」
 襲いたいという衝動を必至に押さえながらはやては羽の手を取って引き上げた。
 羽はよろよろと立ち上がり、はやてに支えを求めた。
 はやては羽に肩を貸した。すると羽は組んでいる肩を中心にくるりと回り、はやての耳の裏側辺りに口付けて強く吸い上げる。
「ちょ、な、ふぁ…。」
 はやては力の抜けた声を出している。
 羽が少し口を離して今まで口を付けていた部分を軽く舐めた。
 そこには紅いキスマークが散らされている。
「ふ、あぁん。」
 はやてはより大きく喘いだ。
 羽は顔を離すとまた回り、もといた場所に戻った。
「な、羽…。」
 はやては顔を真っ赤にして羽にキスされたところをさすりながら少しうつむき気味にしている。
 羽は赤い顔でにやにやしている。
「仕返しです。」
「な…」
 はやての頬が林檎のように赤くなる。
「僕ばっかりやられて公平じゃないですから。」
「だからって…キスなんて…」
「見えませんよ。」
 笑顔で言う羽。
「へ?」
 はやては首を傾げる。
「髪に隠れてますから。」
「な、なんや。ってそういうことやなくてやな…」
 しどろもどろになるはやて。
「もっとしたほうがよかったですか?」
「ば、ばかなこと言わんといて!」
はやては羽の笑顔に頬を真っ赤にする。
 二人は肩を組みながら店へ向かった。
 その顔は真っ赤だったという。



〈自然環境保護隊 12時47分〉
 弥刀は幽霧にたずねた。
「ねぇ。ちょっと聞いていいかな?幽霧。」
「なんでしょうか?」
 メイド服を着た幽霧が弥刀に反応する。
「なんで、僕は豆腐と一緒に煮られているのかな?」
「さぁ?何ででしょうかね?」
 幽霧も首を傾げる。
 何故か弥刀は巨大なドラム缶に入れられ、そして一緒に豆腐を入れられていた。
 看板には「豆腐腐炉」と書かれていた。
 もうひとつの謎は。
「何でこうも僕の身体をダシにしたスープが売れるんだ?」
 シチューやヒツジ汁を差し置いて、「豆腐腐炉」の売れ行きが好評なこと。
 買うのは主に女性局員。男性局員も頼むのだが、何故か黒い笑顔で熱々の「豆腐腐炉」を所望する。
 幽霧はアルフィトルテに『其は白き炎』を起動させ、ドラム缶を熱する。
「ぶあちっ!」
 弥刀は余りの熱さに悲鳴を上げた。
 「豆腐腐炉」を注文した男性局員たちは黒い笑顔でニヤニヤしながらそれを眺める。
 もしかして、それが狙いなのだろうか?
「そういえば、長月部隊長からこれを渡されたのですが……………」
 懐からCDを取り出す幽霧。
 幽霧が取り出したCDをミラが受け取り、プレイヤーでかける。
 プレイヤーから曲が流れ始めた。
「作詞作曲は雪奈・長月諜報部部隊長。歌い手は奈賀ニシキ。
 歌います。「豆腐腐炉」販売促進宣伝曲「豆腐腐炉の作り方」。
 大きな鍋に弥刀二等陸士入れて~一緒に豆腐を入れる~そして~煮る~豆腐腐炉~豆腐腐炉~ダシは弥刀二等陸士~」
 プレイヤーのスピーカーから大音量で歌が流される。
 通行人はプレイヤー。そして、ドラム缶で煮られている弥刀を見た。
 その数秒後、客が殺到した。
「誰かは言う~いっそ弥刀二等陸士を煮殺せと~三角関係どころの話じゃない~ニ股~?いいや~十股以上さぁ~」
 殺到する中、歌は続く。
 ドラム缶の中で、弥刀は頭を抱える。
「弥刀二等陸士の恋人は~萌夜~ノイン~結衣~涼香~ギンガ~リンディ~クロエ~ナタネ~キャロ~ルーテシア~上げたらきりがない~」
 男性局員は弥刀を睨み付ける。
「弥刀二等陸士に恋人はいない~いるとしたら~愛人くらい~でも所詮は飯炊き女~ちなみにおっぱいフェチ~」
 次は女性局員が弥刀を睨み付けた。
「煮殺せ~煮殺せ~弥刀二等陸士を煮殺せ~」
 男性局員が腕を上げた。そして、腕を大きく振る。
「いつか~包丁で~ぶっすりさぁ~ちゃちゃんちゃん!」
「(ミーンチ!!ミンチ!!いっそミンチ!!)×5」
 局員たちは何かに取り憑かれたかの様に曲げた左腕を上げ下げするという行為を繰り返す。
 その隣では「豆腐腐炉」が売れ行きを伸ばしていく。
 呆然とそれを見る弥刀と幽霧。
「ごめん。逃げて良い?」
「自分は知りませんよ。」
 ため息をつきながら幽霧は弥刀に言う。
「じゃあ。逃げる。」
 そう言って、弥刀はドラム缶から逃走する。
 抜け出す直前に首にかけていた専用のデバイスを起動し、その場から逃走した。
 しかし、弥刀は気づいていない。自身がどんな格好をしているか。
 ひとまず、幽霧は自分の所属する諜報部の部隊長に年話を送った。
 [長月部隊長。]
 [ん?何ですか?幽霧霞三等陸士。]
 [弥刀二等陸士が逃走を行いました。]
 雪奈は笑顔を浮かべる。その笑顔はかなり黒い。
 そして、分かっているのに幽霧に尋ねる。
 [どんな格好をしていた?]
 かなり困惑しながらも幽霧は答えた。
 [顔を蝶型のマスクで隠して、下半身を天狗のお面で隠してました。]
 [そっか。報告ありがとう。]
 雪奈は幽霧の念話を切る。
 とりあえず幽霧は仕事を継続する。

「ふふふ…………はははははははは!!!」
 幽霧との念話を切った途端、雪奈は笑い出す。
「ゆ………雪奈様?」
 側にいた雫は唖然とする。
「気にしないで。雫。」
 雪奈は涙目で楽しそうに言った。
 そして、雪奈は楽しそうに呟いた。
「さて。報告しないとね。」
 楽しそうに黒い笑みを浮かべながら雪奈はある場所に念話を繋いだ。

「はあ。はあ…………」
 弥刀は荒い息を吐く。
 [やっほ~♪]
 突然、雪奈の念話と魔力で構築されたウィンドウが出現する。
 弥刀は突然の事に驚く。
「雪奈さん!?」
 [やっほ~弥刀二等陸士………いや。弥刀容疑者。]
「はい!?」
 弥刀は仰天する。
 二等空尉から二等陸士に降格していたときも驚いたが、いつの間にか容疑者になっていた今回の方が驚きは大きかった。
 弥刀は雪奈に尋ねた。
「何故ですか………………雪奈さん………………」
 一瞬だけきょとんとして、また黒い笑顔で雪奈は笑う。
 [あれ?弥刀は気づいていないんだ。]
「はい?」
 弥刀はそこで初めて自分の格好を見る。
 一瞬だけ唖然とする。そして叫んだ。
「ナンじゃあこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
 今、弥刀は顔をパピヨンマスクで隠し、下半身を天狗のお面で隠すという格好であった。
[今の状況について、五分の一は理解できた?]
「ハイ。ジュウブンニ。イヤ。ゾンブンニリカイデキマシタ。」
 余りのショックに弥刀の言葉が片言だった。
[その所為で、弥刀が指名手配されちゃったんですよね。存在自体が猥褻物陳列罪で♪
  だから、頑張って逃げるように。]
「了解。ついでに理由をお願いします。」
 本当は聞きたくなかった。でも、聞かないといけなかった。
 [局員は事故に見せかけて、弥刀を殺したり襲ったりするから。
 民間人はきっと、指名手配の人物として弥刀を捕まえにかかるだろうね。」
 雪奈は楽しそうに笑う。
[じゃあ。死亡と貞操を守るために頑張って逃げてね~。]
 そう言って、笑顔で雪奈は念話をぶっ千切った。
「何だって!?雪奈さん!?雪奈さん!?」
 弥刀は慌てて念話を雪奈に繋げるが、繋げるたびにぶっ千切られた。
 とりあえず、弥刀は他の人に見つかる前に逃げることにした。
 今ここに、弥刀の全てを賭けた鬼ごっこが幕を開けた。



〈雪奈&雫 13時05分〉
 諜報部の部隊長である雪奈と開発部主任の雫は、お昼の合間にある場所へ足を運んでいた。
 二人が足を運んだ先は、一軒の大きな居酒屋であった。
 雪奈は準備中の札がかかっているにも関わらず、居酒屋の戸を開けて入る。
 その居酒屋の看板には、【居酒屋「苺壱枝」】と書かれていた。
 店内には大きな舞台が置かれ、厨房では19歳くらいの女性一人が調理をしていた。
 女性は茶色の髪の左右にリボンを結んでいる。
 雪奈と雫はその女性に声をかける。
「こんにちは~」
「こんにちは。」
 調理をしていた女性は顔をあげる。
「あっ。雪奈さん。それに雫さんも。」
 女性は調理を止め、雪奈たちの前に走る。何故か、何もない所で転倒した。
 雪奈たちはその光景に吹き出す。
 軽く苦笑しながらも女性の方に駆け寄り、彼女を起き上がらせる。
「閣下も相変わらずだね~」
 雪奈は女性の顔を持っていたハンカチで拭きながら言う。
 閣下と呼ばれた女性は頬を赤らめた。
 そして、困ったような声で言う。
「雪奈さんまで、私を閣下と呼ばないで下さい。
 私には、月城天音というちゃんとした名前があるんですよぉ……」
 なんだか、泣き出しそうな声であった。
 雪奈は彼女の頭に手を乗せ、髪型が乱れない程度に撫でる。
「分かってるよ。天音。」
「本当にですかぁ~?」
 目には涙が浮かんでいた。
「ほんと。ほんと。」
 そう言って、天音の涙も拭き取ってあげた。
「君の弟子も来るんだから。ほら。立つ!」
 雪奈は天音を立たせる。
「すみません。無様な所を見せちゃって。」
「良いよ。気にしないで。」
「そうですよ。」
 天音の頭を雪奈と雫は左右から撫でる。
 そこでやっと雪奈は本題へと入った。
「打ち合わせ通り、準備は出来ているよね?」
「ええ!はい!!」
 天音は頷く。
「じゃあ。最終確認ね。
 夜9時からコンサートというか、飛び入り参加の隠し芸大会の開始。時間は大晦日の夜9時から2日の夜24時まで。
 その間だけはカメラの持込を許可。ただし、盗撮関係のカメラは撤去対象。
 私と雫は【居酒屋「苺壱枝」】の一号店に回るけど時々、合間を縫って見に来るよ。
 こっちが終わったら、私たちも合流するから。」
「はい。分かりました~」
 天音は頷く。
 雪奈は二人に言う。
「じゃあ。フルスロットルで頑張りましょう。」
「「はい!!」」



〈【イタリアンレストラン「光の女神(てんし)」】 1時29分〉
 そろそろお昼ご飯の時間が終わる時刻に差し掛かり、客足もまばらになってきた。
 フェイトはどうしたものかと悩んでいた。そして、ため息をつく。
「どうしたのですか?フェイトさん。」
 休憩中のレンがフェイトを話し掛ける。
 フェイトは軽く手を振りながら、ちょっと苦笑する。
「今から夕食の間まで、どのような方針で行こうかなって。」
 そこで、レンはフェイトにこんな提案をした。
「フェイトさんがピアノを弾くのはどうでしょうか?
 ほら。前にみんなの前で弾き語りしていた事がありましたよね?」
「レンさん………よく、そんな昔の事を覚えていますね…………」
 フェイトは頬を朱に染めながら、苦笑いをする。
 確かにレンの言うとおり、フェイトが次元航行部隊の全員の前でピアノの弾き語りをした事がある。
 でもまさか、お店に訪れた客の前でする羽目になるとは思わなかったのだろう。
「やってみませんか?フェイトさん。」
「でも、私の弾き語りなんて…………」
 フェイトは自信がないらしく、頬をより赤くする。
「じゃあ。こいつも歌わせれば良いですよ。」
 近くで話を聞いていた男性局員がフェイトに言う。
「実はこいつ、歌うのが巧いんですよ。
 時々、便所で発生練習するくらいですから。」
「そうなんですか?」
「は……はい…………」
 いきなり自分の話題を振られてドキマギするレン。
「ちょうど、ピアノも置いてありますしね。物は試しで。」
 何故か、ウィンクまでしてきた。
 これはやらなければいけないらしい。
「レンさん。物は試しでやりませんか?」
 フェイトはレンに言った。
「フェイトさんがそう言うのなら…………」

「今から、局員による曲の演奏を始めたいと思います。」
 フェイトとレンに歌うよう提案した局員が客たちに声をかける。
 客はピアノのある方を見る。
 フェイトが十指を鍵盤に置き、ピアノを弾き始めた。
 レンもそれに合わせて歌い始める。
 曲は店内がイタリアンレストランという事で、イタリアの民謡であるカンツォーネ。
 店内はフェイトの澄んだ歌声とレンの低い歌声が響く。
 客は二人の歌声に引き込まれていく。

「どうにか成功しましたね。」
 厨房裏でミネラルウォーターを飲みながらフェイトは言う。
「そうですね。」
 レンはチョコレートをかじりながら空を見る。
 店内で演奏をしたのは割と好評で、30分ごとにやることになった。
 つまり、今は休憩中だ。
「そういえば、レンさんって歌うのが巧いのですね。」
「ええ。まあ…………」
 フェイトに誉められて、レンは少し照れる。
「やっぱり、喉が良いのでしょうか?」
 そう言って、フェイトはレンの喉を触る。
 フェイトの指は少し冷たくて、滑らかだった。でも少しくすぐったい。
 微かに密着している所為か、フェイトの柔らかい身体の感触や甘い匂いを感じた。レンの心拍数も上がっていった。



〈【喫茶「白桜雪」】 13時30分〉
「よーしバトンタッチ、後は任せた!」
「ちょ、おい! 逃げんなタコ!」
 せわしなく動く厨房の中。ヴィアフは時間きっかりに仕事を終えると、厨房を飛び出していった。
 残った仕事はすべて、交代のヴィータに押し付けて。
 厨房から逃げながら服を脱ぎ捨てている辺り、ヴィアフがよほどウェイトレス姿が嫌いであることがうかがえる。
「ったくあのバカっ!
 ……ってああ!!
 フライパン火にかけっぱなしじゃねーかぁあ!」
 ダッシュでフランパンに向かい、菜箸を片手に調理を始める。
 周りは片付かない料理だらけ。全く何も言わないまま、さっさと逃げてしまったのだ。
 普段は頼れる姉御だと言うのに、こういうときは自分中心になってしまうのだからやってられない。
「まあヴィアさんのことだし、仕方ないよ。」
「仕方ないとか言うな、ったくよ……なんでお前が厨房に回んなきゃいけない状況になってんだ?」
 なのははレジ打ちと注文を受けていたのだが、時間を見計らってここにやって
きた。
 あの格好でヴィアフが耐えられるとも思えず、どうせ何も片付けずに脱兎のごとく逃げるのだろうと予想していたのだ。
 案の定、それがそのまま現実となっている。
「まあ、あとできっちり絞っておくから。」
「ヴィアフの奴も、なのはには頭あがらんのな……。」
「そりゃあ……ね?」
 過去にいろいろ痛い目に遭わされたことのあるなのはにとって、ヴィアフを弄るのはこれ以上なく楽な事だった。
 あまり気は進まないが、仕事に支障が出てしまうのはいただけない。
 なのはとヴィータで周辺を整理しつつ、仕事を進めていく。なんだかんだで、料理も運ばれていき、調理も上手く行っている。
 結果オーライというものか。ここ最近でヴィータが料理を覚えた事で、厨房の回転はとても良くなっている。
「さて、そろそろ片付いたみたいだし、私はまた戻るね?」
「おう、頑張って来い。こっちは任せとけ。」
 ヴィータは胸をグーの手で叩き、ドンと来い、といった雰囲気をかもし出す。
 頼りになる反面、ほとんどない胸を叩く姿はある意味滑稽である。それを言う
と本人がキレ出すため、誰も言わないのだが。
 なのはは軽く汚れを払い、そのまま注文を受けに行く。
昼時の喫茶店は、非常に忙しい。
 更衣室で悠々と着替えるヴィアフは、そんな厨房の様子も知らずにいた。



〈無限書庫 1時37分〉
 無限書庫は大晦日であるにも関わらず、局員が激務に追われていた。
「う~。一向に終わる気がしないわよ。」
 一向に減っている気がしないノルマの量に萌夜は嘆息する。
「五月蝿いですよ。姉さん。口を動かす暇があったら、手を動かしてください。

「うぃ~」
 手と目は作業の集中しているノイン。見る見るうちにノルマが消化されていく。
 妹に咎められ、萌夜も作業に集中する。
「ノイン。こちらの作業は終わりました。」
 ナタネは整理し終えた書類をノインに渡す。
「すみません。ナタネさん。愚姉のしないといけない作業を手伝わせてしまって。」
 書類を受け取り、ナタネに頭を下げるノイン。
 ナタネは無表情な顔でノインに言う。
「いえ。私も無限書庫の住人でありますので、これくらいなら。
 それに、司書長があんな感じでは大変でしょう。」
「ええ………」
 ノインは作業を止め、溜息をつく。
 二人の視線の先には無限書庫の司書長であるユーノがいた。
 椅子ごとバインドを掛けられながら。
 さかのぼる事、数時間前。
 前日に全員でシフトを決めたのに、司書長であるユーノが逃走を図ろうとしたからだ。
 理由は、なのはが所属している戦技教導部隊のお店に行く為。
 作業の進行が滞るのも困るので、無限書庫に所属している局員全員でユーノを止める羽目になった。
 最終的にはナタネの手を借りて、ユーノをバインドで椅子に縛り付ける事に成功した。
 そして、現在にいたる。今は機械のように作業を行っているが、いつ何処でまた逃走を図るか分からない。
 まあ。この状態で逃げれるかは謎であるが。
「ナタネさん。ご苦労様です。」
「ありがとうございます。」
 相変わらずの無表情でナタネはノインに礼を返す。
「ナタネさんはこの後、どうするのですか?」
「何も考えていません。」
「じゃあ。無限書庫から出て、なのはさんのお店に行くのはどうでしょうか?」
 ナタネにそんな事を提案するノイン。
 無表情であるのは変わりないが、ナタネの頬に朱が微かに差したのをノインは見逃さなかった。
 萌夜が更に畳み掛ける。
「こんな時くらいしか会う暇が無いわよ。」
「………分かりました。」
 頷くナタネ。
 そして微かに笑顔を浮かべて、二人に言った。
「では、いってきます。」
 ナタネはそう言って、無限書庫の出入り口へと歩いていく。
「……………」
 二人はナタネの微笑に見惚れてしまった。
「そう言えば言い忘れていました。」
 ナタネはいきなり振り向く。
 いきなり振り向かれて、萌夜とノインは驚く。
「萌夜。貴女の恋人が危ないです。」
「はい!?」
 萌夜はナタネの発言に驚く。
「私はこれで。」
 それだけ言って、ナタネは去って行った。
 ナタネが去った後。
「ねぇ~。ノイン~」
 萌夜は猫なで声でノインに話し掛ける。
「書類が終わるまでは逃がしません。」
 ノインはそう言って、デバイスを起動した。
 勿論、萌夜が逃走を図らないように。図ったら、5時間位は監禁しよう。
「ねぇ。ノイン。」
「何ですか?仕事終わらないと出しませんよ。」
 ノインは書類に目を通しながら言う。
「終わったら、良いわよね?」
「ええ。」
 その言葉で萌夜の目が変わった。
 瞳孔が細くなり、目の前の書類に集中する。
 しばらく経っただろうか。
「終わったわよ。」
 萌夜はノインに書類を渡す。
「約束は約束。私はもう行くわよ。」
「ご苦労様です。」
 ノインは萌夜の書類を読み通す。
 なかなか丁寧に書かれている。これなら、いつもの様に添削する必要はないだろう。
 読み終えてノインは溜息をつく。そして呟いた。
「姉さんにはいつもこんな感じでやっと欲しいモノですね…………」
 そう呟いた後、背を伸ばして作業を再開した。



〈【喫茶「ファミグリィア」】 1時58分〉
「いらっしゃいませ。ご主人様。」
 幽霧は黒いメイド服で客を出迎える。何故か、頭には髪の色と同じ焦げ茶色のネコミミを付けながら。
 現在、幽霧はスカリエッティとナンバーズが出店しているメイド喫茶「ファミグリィア」で仕事をしていた。
 割と評判は良いらしく、席は満席だ。
「すまないな。幽霧くん。」
 スカリエッティがカウンターで幽霧に言う。
 どうやら、ネコミミメイドの事を言っているらしい。
「いえ。良いです。慣れてますから。」
「そうだったね。じゃあ、幽霧くんは五番テーブルにこのオムライスを頼む。
 ヴィヴィオは十五番テーブルにこのチョコレートケーキを。」

 スカリエッティは幽霧とヴィヴィオにオムライスとチョコレートケーキを渡す。
「了解しました。」
「うん。わかった。」
 幽霧とヴィヴィオは指定されたテーブルにメニューを持っていく。
「ご主人様。オムライスです。」
 幽霧は男性の前にオムライスを置く。
「オムライスには何と書きますか?」
「嵯峨野と書いてくれ。」
 少し老けている男性が言う。言動からして、メイド喫茶は初めてなのだろうと感じ取れた。
 幽霧はケチャップを取り出し、綺麗に「嵯峨野」と書く。
 隣でメニュー待ちをしているカップルも、綺麗にオムライスの上に書かれた「嵯峨野」の文字に驚いている。
 嵯峨野と名乗った男性はカップル以上に驚いていた。
「すまないが少し聞いて良いか?」
「何でしょうか?」
 銀色のお盆を胸元で持ちながら首を小さく傾げる幽霧。化粧や格好が相まって、愛らしい。正直、誰が見ても女にしか見えないだろう。
 男性は言う。
「この店では、君たちメイドが食べさせてくれるとは本当かね。」
「はい。ご主人様。」
 幽霧は笑顔で笑う。
 その笑顔で男性は頬を赤くする。そして、恥ずかしそうに言った。
「すまないが一口だけ、食べさせてくれないか?
 実は………そんな事をされるのが夢だったんだ。」
 幽霧は男性の告白に少し驚いた顔をしたが、微笑みながら男性に言った。
「ご主人様の為なら喜んで。」
 男性の向かいに座り、オムライスをスプーンで取る。
「ご主人様。口を開けて下さい。」
 少し頬を紅潮させながら、幽霧はスプーンを差し出す。
 あまりの可愛らしさに男性は唾を飲んだ。
 意を決して、男性はスプーンを口に含む。
 幽霧は男性に問う。
「美味しいですか?ご主人様。」
 笑顔で尋ねる幽霧に男性は顔を赤らめながら激しく頷いた。
 周辺で見ていた客は羨ましそうであった。

 幽霧と男性を羨ましく見ているのは客だけではなかった。
 ノーヴェは幽霧を見ながら、どんな客にも笑顔を見せることが出来る幽霧を羨ましく感じていた。
 なぜか上手く他人に笑顔を見せる事が出来ないとノーヴェ自身も考えているからだ。
 胸にモヤモヤとした感覚を抱えながら、ノーヴェは仕事をする。
 その時、店のカウベルが鳴る。
「お帰りなさいませ……」
 ノーヴェは硬直する。
「おう。ノーヴェ。ちゃんとやってるか?」
「こんにちは~」
 そこにいたのはゲンヤとはやてだった。
「ちゃんとやってるか?ノーヴェ。」
「まあな。」
 ノーヴェは二人をテーブルに案内し、注文を取る。
 側では、幽霧が忙しなく、走り回る。
「幽霧ちゃ~ん。僕にもオムライス~。」
「は~い。」
 様々な所から呼ばれている。
「凄いな。」
 ゲンヤは呟く。
「まあ。幽霧だからな…………」
 苦々しそうに言うノーヴェ。そして、ゲンヤに尋ねた。
「やっぱり、おっさんも幽霧みたいにしている方が良いと思うのか?」
 ゲンヤはノーヴェの問いに驚く。すぐに苦笑し、ノーヴェの頭に手を乗せる。
 そして、ノーヴェに言った。
「ノーヴェはノーヴェらしくやれ。無理に人のまねをしなくても良い。おれは別にノーヴェみたいなやつも嫌いじゃないからな。」
 そう言って、ゲンヤはノーヴェの頭を撫でる。
「おっさん………」
 ゲンヤにそう言われて、ノーヴェは胸にあったモヤモヤが取れたような気がした。
 はやては注文するメニューを決めたらしく、顔を上げてノーヴェに言う。
「ノーヴェ。あたしはミートパスタを頼むわ。」
「おれはコーヒーだけで良い。」
「かしこまりました。ご主人様。」
 その顔はノーヴェは気づいていないが、晴れやかで綺麗な笑顔であった。



〈レキver 14時35分〉
 お昼寝をしていたレキは妙な感触で目が覚めた。
 それは柔らかくて温かい何かに後頭部を乗せているような感触。
 瞼を開くレキ。
 そこには、クイントの寝顔が。
 どうやら、膝枕をされているらしい。
「……………」
 急に額から冷や汗が噴出した。
 これは夢だろうか?
 それとも、妄想がかなりイタい領域まで達してしまったのだろうか?
 もしかして、雪奈が作った『全ては遥か遠くの理想郷』をラッパ飲みしたのだろうか?
 考えてもキリがない。
 古典的だが、なんとなく頬をつねってみた。すごく痛い。
 夢ではないと分かると、凄く恥ずかしくなった。
 そして、レキは慌てて飛び起きる。
「ん………レキ?」
 レキの所為でクイントも起きたようだ。
 クイントは瞼を開く。まだ少し寝ぼけているらしく、瞼をこすっている。
 正直、レキはその仕草が可愛いと思った。
 でも瞬時に理性がレキを現実に引き戻す。
 夢ではないと分かったものの、レキはまだこの現実を信じられなかった。
 何故なら、クイントは既に死んでいるからだ。
 雪奈の気まぐれがない限りは………まさか。
「クイントさん。すみませんが、事情を聞いてよろしいでしょうか。」

「これだよ。」
 クイントはレキに手紙を渡す。
 手紙にはこう書いてあった。
「やっほう。レキ。
 諜報部の雪奈です。」
 やっぱり、元凶は雪奈らしい。
 更に文章は続く。
「君に早いお年玉をあげようと思います。まあ。予想は付いていると思うけど、クイントさんがレキへの早いお年玉だよ。
 異界のちょっとした魔法でね。元旦の夜24時まで、クイントさんを現界させれるようにしました。
 まあ。楽しんで下さい。
 では。良い正月を。」
 レキはクイントを見る。
 クイントは少しだけ頬を紅潮させ、笑顔で言った。
「まあ。そういうことだね。」
 レキは雪奈の気まぐれに感謝した。
「さて。じゃあ。行きますか。」
 そう言って、レキは立ち上がった。
 クイントはレキの行動に首を傾げる。
 レキはクイントに手を差しだし、笑顔で言った。
「僕とデートをしませんか?クイントさん。」
 クイントは少し驚いた顔をする。でもそれは一瞬だけ。
「はい………」
 頬を紅潮させながらレキの差しだした手に手を乗せて、クイントは頷いた。
 レキはニヤリと笑い、クイントの手を引く。
 そして、一瞬にして立ち上がらせた。
「じゃあ。行きましょう。クイントさん。」
「うん。レキ。」
 二人は並びながら、外に出た。



〈弥刀ver 2時49分〉
「アンリミテッドエッジ!」
 弥刀は走りながら、デバイスを起動する。
 計17本のナイフが裏路地まで弥刀を追ってくる者たちを足止めした。
「シュヴァルツシルト!」
 幽霧から習った空間式の「シュヴァルツシルト」を起動する弥刀。
 裏路地に刺さったナイフを中心にして、魔法が起動した。
 弥刀を追うものたちの身体に過剰なまでの重力がのし掛かる。
 走りながら、弥刀は空間式の「シュヴァルツシルト」を教えてくれた幽霧に感謝した。
 パピヨンマスクを顔につけて下半身には天狗の仮面を付けるというかなりイタい格好をしている弥刀。
 簡単に捕まると大体の人は考えていた。
 しかし、弥刀は今までの知識を総動員して既に約2時間も逃走していた。

 廃屋で仮眠を取る弥刀。少しでも体力を回復させるためだ。
 弥刀の使用するデバイス「アンリミテッドエッジ」は6666本のナイフからなる物量戦専用のデバイスがあるが出来るだけ、乱用は避けたい。
 その上、肉体的にも精神的にも疲労が重なっていた。
 誰かが近付いて来る足音と気配を感じた弥刀。
 弥刀は瞼を開き、走り出す。
 廃屋から出た途端、巨大な刃が断頭台の刃のように降ってくる。
 弥刀は間一髪でよける。
「やっぱり避けましたか………………」
 一撃で人間すら縦に一刀両断出来る半月斧。いわゆるバルディッシュを構えながらメイド服の少女が言う。
 それは自然環境保護隊最年少の局員。結城優衣三等陸士。
 別名。『自然環境保護隊の女王』
「何故、君が……………?」
 優衣は微笑みながら言う。
「勿論。貴方を捕まえる為ですよ?」
 かすかに首を傾げる優衣。しかし、半月斧を持って微笑まれたらかなり怖い。
「じゃあ。その手に持っている半月斧は何なのでしょうか?」
 弥刀の問いに優衣は笑顔で笑う。
「元だとは言え、貴方は二等空尉。
 私はバルディッシュ型デバイス「コウライ」まで出さないと無理のような気がするので。」
 そう言って、優衣は「コウライ」を構える。
 弥刀も「アンリミテッドエッジ」を起動した。
 一気触発の雰囲気。その空気を破る者が現れる。
「必殺!南瓜……………」
 その者は優衣の背後で両手を上げた。しかし優衣はその者の存在に気付かない。
「鋏!!」
 一気に優衣の顎の付け根に左右からチョップを叩き込む。
 優衣は顎の付け根に鈍痛が走る。
「ぐへぇ!」
 優衣の口から女の子らしからぬ声が出た。
 そして、地面にごろごろと痛そうに転がる。
「行くわよ!!」
 優衣の顎の付け根にチョップを叩き込んだ者が弥刀の手首を掴んで走る。
 弥刀はその人に引っ張られるままに走る。

「はぁ……はあ………はあ……………」
 弥刀は荒い息を吐く。弥刀を引っ張った人も荒い息を吐いている。
「大丈夫?弥刀。」
「萌夜………………」
 そこにいたのは無限書庫の職員であり、弥刀の恋人である久世萌夜であった。
 弥刀の姿を見て、萌夜はため息をつく。
「ナタネが警告してくれたけど、遅かったわ。もう、弥刀が凄い姿になってる。」
 そう言って、弥刀の身体を触る萌夜。
 手つきが妙に怪しいのは気のせいだろうか。
「萌夜…………そんなとこ……触らないで……………」
 撫で回す様な萌夜の手つきに悶える弥刀。その声は女の子のようであった。
 萌夜は弥刀の声で我に帰る。そして、弾かれたかのように離れる。
「ご……ごめん…………」
 弥刀に謝る萌夜。
 どうしようもなく、弥刀は頭を掻く。
「とりあえず、バリアジャケットを解こうよ………………
 ………この格好はセクシュアルハラスメントだよ。」
「じゃあ。解く。」
 弥刀はバリアジャケットを解く。
 バリアジャケットを解くとパピヨンマスクが外れ、天狗のお面がタオルに変わる。
 巻いていたタオルが外れる。出してはいけない物が露わになる。
「ツチノコおばけぇ~!!」
 萌夜の顔が見る見るうちに紅潮していく。
 そして、弥刀の頬にビンタをした。
 乾いた音が裏路地に響いた。



〈レキver 3時00分〉
街中をお互い手を繋ぎながら歩く、レキとクイント。
「何処に行きましょうか ? 」
少々硬くなりながら話すレキ、それに対してクイントの表情は柔らかい。
「ん、レキが行きたい所で良いよ。」
優しく応えるクイント。しかし、レキは困った顔をする。
「そうですね…まぁ適当に…」
頭の中では公園に向かう事を考えていた。しかし公園に行きましょうと少々良いにくかったので適当という、なんとも雑な言い方をしてしまった。
「だけど、こうやって二人で歩くのって久しぶりね。」
「そうですね、随分とこんな事は無かったですね。まさかこんな事が起きるなんて、思ってませんでしたから。」
少々笑いながら話すレキに対して、クイントの頬が多少紅い。
そうやって話していると、街中から外れ公園が見えた。
「適当と言っても、実は公園だったのね ? 」
「ははは、まぁそうなりますね…」
そう言って、二人で公園内に入ろうとすると、中で騒がしい音がする。
「のおぉぉぉおおりぉぉぉぉう!」
「はぁぁぁぁあああぁあ!」
しかも、剣が交わる金属音が鳴り響く。
「クイントさん。」
「……うん。」
レキが鋭い眼付きでクイントの前に立ち、クイントが少し後ずさりする。
「見せ付けてやる、私の確信をおぉぉぉぉぉ!」
「打ち砕いてやる、俺の自慢のこの腕でええぇぇぇええ!」
一人は女性だろうか、巨大なバレル砲を構え、もう一人は男、左腕が独特の腕をしており、人間の腕ではない事は確かだった。
すると、女性はバレル砲を男に向けて発射すると、男はその異様な形をした左腕で、発射された砲撃と激突させる。
「クロスレイス、カートリッジフルドライブ!」
「老王!」
男の腕と女性が撃った砲撃が強烈な光を発する。
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
レキとクイントは少し距離を取っていたが、この強烈な光に眼をくらませる。
「……ぅぅ……大丈夫ですか、クイントさん ? 」 「ぅ、うん、なんとか…」
ゆっくり眼を開けて公園内を見ると、先ほどまで居た女性と男の姿は無かった。
「あの人達は、何だったのかな ? 」
「さぁ、少し遠くて顔まで分かりませんでしたからね…」
二人とも少し唖然としながら公園内にゆっくりと足を踏み入れる。
公園内は、あの戦闘があったとは思えないほど綺麗だった。
そして、二人は近くに設置されていたベンチに座る。
「………すみませんね、折角ゆっくりしようと思ってたんですが。」
「うんうん、平気よ。レキこそ大丈夫 ? 」
「はい、大丈夫ですよ。」
公園内は静かだった。街中のあの騒がしさとは大違いだった。
小鳥か、ふくろうの鳴き声が微かに聞こえる。
「そう言えばレキ、お店は大丈夫なの ? 」
「ぇ、いやぁ大晦日はお休みです。それに、クイントさんとこうやって一緒に居られるなら、お店なんかお休みにします♪」
クイントが心配そうに聞くが、レキは嬉しそうに応える。その笑顔はかなり嬉しそうな笑顔である。
「でも…私、心配だっわ。」
「ん ? 」
少し俯くクイント、レキはそれを見て少し驚きながらクイントの方を見つめる。
「「J ,S事件」。レキ、必死だっから…」
「ぁ、ははは…」
レキは「J ,S事件」の頃の自分を思い返す。あの頃の自分は、かなり無茶をしていた。
クイントが、それを上から見ていたのかと思うと恥ずかしくてしょうがない。
「すみません、心配させてしまって…」 
「ううん、良いの。レキがあんなに逞しくなってたなんて、私知らなかったから。」
クイントの瞳から少しばかり涙が…
「あれは…えっと…あれは、兄貴のおかげです。」
「ワタルさんの ? 」
「はい、兄貴は…俺を導いてくれたんです。自分が何をすれば良いのか、何処へ向うべきか、それを兄貴が導いてくれたんです。兄貴が居なかったら、今頃俺は…」
軽く苦笑いで話すレキ。それを聞いたクイントは眼を丸くした。
「という事は…レキはまだまだ、なのかな ? 」
「ッ、ぁ、えっと…」
クイントの悪戯に動揺して、あたふたするレキ。それを見てクイントはクスクスと笑顔を浮かべる。
「ふふふ、冗談よ。レキは逞しくなったわ♪」
「そ、そうですかね ? 」
少し疑いながら、苦笑いで話すレキ。しかし、クイントは何か嬉しそうな顔だった。
「そろそろ、どっかに移動しますかね ? 」
「今度は何処に連れてってくれるのかな ? 」
ベンチから立ち上がり、手を差し伸べるレキ。それに大してクイントは笑顔でレキの手に掴まる。
「それはまた、適当に♪」



〈【喫茶「白桜雪」】 15時15分〉
「ふぅ、あと15分だねー。」
「疲れたー……誰かさんのせいでな……。」
「うるせ! 文句あるなら制服選んだ奴に言いな、全く……。」
 一応、15時半までが時間になっている。なのはたちも時間を空けたいだろうということでの気遣いだ。
 ヴィアフは着替えを終えた後、暢気にお客として来店。マトモに昼飯を注文する始末だ。
 それでも、比較的調理に労力を要さないものを選んだのだから、ヴィアフとしては親切にしたつもりである。
「少しは感謝しなよ?」
「するかアホが!」
 ヴィータがふくれっ面で、カウンタ越しにヴィアフと話をしていた。
 一瞬、仲が悪そうな二人だが、これでもなのはと同じぐらい仲良しだったりもする。
 なんだかんだで気が合うのだろう。見守るなのはも笑顔だ。
「……お昼はちょっと大変だったけど、でも結構のんびりできたね。」
「まあなぁ……こういうのもたまにはいいかもな」
 ふと時計を見る。時間の経過は遅く、先ほどからまだ1分しか経っていない。
 店内には客もそこそこ居るものの、昼のようなラッシュではないため、他のスタッフでどうにかなってしまっているのが現状だ。
 とは言ったものの、一応金をもらって働いている以上、なのはやヴィータも動いてはいるのだが。
「なんにしても、他の子等は他の子等でつるんでるし、アタシらはアタシらしかあいてないしねぇ?」
 ヴィアフがぼそりと呟いた。
 たとえこのまま時間が過ぎても、付き合える人はこの3人しか居ないのだ。遅くなったところで、人は変わらないのだから大して問題は無い。この三人でも十分楽しいのだから、他の人は他の人でつるんでいても十分だ。
「終わったらどこか出かけようよ。」
「そうだなぁ……久々になのはの実家とか?」
「お、いいねぇ。なのはんちでカウントダウンかー。」
 なのはも頷いている。そんなに帰る機会もなく、あまり顔を出していない。
 年末年始ぐらいは帰ってもいいだろう。
「でも、大晦日が終わったらまた仕事なんだよな………」
 ヴィータの一言にヘコむなのはとヴィアフ。
「まあ。頑張るしかねぇだろ。
 一回終わったら、なのはんちに行くことで良いだろ。」
 ヘコむ二人を見ながらヴィータは言う。
 なのははもう一度頷くと、実家に行く事を決める。
「ふぅー……あと13分、早く経たないかねぇ?」
「それよかお前はさっさと食え。」
 目の前には満載の料理。……13分経つのを待つより、食べた方がよっぽどいいというものだ。
 ヴィアフは箸を取ると、適当につつき始めた。
「うん、うまいね。」
 ……それからまた、三人は雑談に興じるのだった。



〈【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】 3時47分〉
「よろしくお願いします。」
 幽霧はヴェロッサに礼をする。
「こちらこそ。」
 ヴェロッサは微笑む。その笑顔は黒い。
 その笑顔に首を傾げる幽霧。
 幽霧の仕草にヴェロッサはときめく。
「まず、何をすればよろしいでしょうか?」
「着替えないとね…………」
 ヴェロッサが幽霧の肩に触れようとした。
「セクハラ禁止だとさっき言いませんでしたか?ヴェロッサ・アコース査察官」
 背後でヴィアッリが笑う。
 ヴェロッサは壊れた機械のようにギチギチと擬音を立てながら後ろの振り向く。
 そこには綺麗な笑顔を浮かべたヴィアッリが。
 ヴェロッサの背中に冷や汗が流れる。
「私が更衣室連れて行きますよ。」
「幽霧くんは男の子…………」
 一応、幽霧の性別が男と知っているヴェロッサ。
 というより、むしろ幽霧みたいな子が男の子じゃないわけがない。
「連れて行きます。」
 ヴェロッサを睨み付けるヴィアッリ。
「…………分かりました。」
 睨み付けるヴィアッリにヴェロッサの背筋が寒くなる。
「行きますよ。諜報部所属の幽霧三等陸士。」
 幽霧の背中を押し、ヴィアッリは更衣室へと連れて行く。
「ここが更衣室です。」
「ありがとうございます。」
 幽霧は更衣室の入り、服を脱ぎ始める。
 更衣室に入ったヴィアッリは服を脱いだ幽霧を見て、驚いた顔をした。
「本当に男の子?」
 幽霧の胸は膨らんでいるし、女性用の下着をはいている。
「これ………開発部で作った偽物なんです。下着は女性用の服を着るときの為にはく事を強要させて…………」
 頬を赤らめ、困り果てる幽霧。その仕草がとても可愛らしい。
 ヴィアッリは本気で幽霧の性別が気になった。
「幽霧三等陸士の性別って、どっちですか?」
「男です。」
「本当に?」
 幽霧の身体を睨みながらにじり寄る。
「はい………」
 ヴィアッリの視線と気迫が怖かったが頷く。
 視線を外すヴィアッリ。
「信じますが、信じられないというのが正直な所ですね。」
 幽霧はヴィアッリの一言にヘコんだ。下着姿で床に手と膝を着き、倒れる。
 ある意味、すさまじい光景だ。
 すさまじい状態で幽霧はヴィアッリに尋ねる。
「………………自分は男性用を着るのですか?女性用を着るのですか?」
「………男性用で良いですよ。」
 何故か同情する気持ちが湧き上がって、ヴィアッリは幽霧に男性用の制服を渡した。
「ミルフィーユを一つ。」
「了解いたしました。」
 幽霧は客に笑顔で一礼し、厨房にオーダーを持っていく。
 フロアの床をヒールの踵で叩く音が響く。
 ほとんどの客は幽霧に注目している。
「ねぇ。あの子………可愛くない?」
「そうだな。」
 性別は男であるが女性みたいな見た目の幽霧が男性用の制服を着ているからか、それが客にと
って新鮮のようだ。
 開発部が作った偽物の乳房はカッターシャツを押し上げ、強制的にはけと言われた女性用下着がパンツにラインが出ている。
 客の中には手で鼻を押さえている。何故か指の間から何か赤いものが出ていた。
「幽霧くうぅぅぅん!!」
 遂に理性が切れたらしく、幽霧に襲い掛かるヴェロッサ。
 しかしその手は幽霧には届かない。
 何故なら………
「何をしていらっしゃるのでしょうか?ヴェロッサ・アコース査察官。」
 ヴィアッリが笑顔で脚甲型デバイス「ネオヴァ」を展開していたからだ。
 足全体に深紅の脚甲が装備される。
 一瞬にしてヴェロッサの顔が引きつった。
 ヴィアッリはヴェロッサを蹴り上げる。
 身体を蹴り上げられたヴェロッサに「ネオヴァ」のヒールが叩き込まれた。
 叩き込まれる速度が速すぎて、残像しか見えない。
 残像が増え、動くごとにヴェロッサの身体はボロボロになっていく。
「幽霧くん!」
 ヴィアッリはボロボロのヴェロッサを幽霧の方に蹴り飛ばす。
 渾身の力で幽霧はヴィアッリにヴェロッサを蹴り返す。
 空中にヴェロッサの身体が舞う。
「鋼…穿………」
 ヴィアッリが装備する「ネオヴァ」の足元にベルカ式の魔法陣が浮かぶ。
「鋼穿脚……鋼穿脚だけは勘弁して下さい!」
「脚!」
 ヴィアッリは渾身の力でヴェロッサに蹴りを叩き込む。
 「ネオヴァ」に刻まれた溝が空気とぶつかって空気の槍を作り出し、空気の槍がヴェロッサの腹部に刺さる。
 空気の槍が突き刺さった数秒後にはヴェロッサの腹部に「ネオヴァ」の爪先が突き刺さる。
 そしてそのままヴェロッサは吹き飛ばされた。
「そこ!扉開ける!」
 怒号にお会計にいた局員は慌てて、店の扉を開ける。
 ヴィアッリに吹き飛ばされたヴェロッサは開けられた扉に吸い込まれるように入った。
「…ジャ………ジャックスポット。」
 客の一人がその凄まじい光景を見てつぶやいた。
 全員が思った。セクハラしたら確実に殺られる。
 扉を開けた局員はちらりとヴェロッサの惨状を見る。
 吹き飛ばされたというより、蹴り出されたヴェロッサは向こうにある店の壁にめり込んでいた

 向こうの店の店員と客は唖然とする。
 壁から人の頭が突き出てればそりゃあ怖いだろう。



〈ナタネver 3時50分〉 
 【喫茶「白桜雪」】の前でナタネは困惑していた。
 顔は勿論、いつもの様に無表情。しかし、いつ入ったら良いかと悩んでいた。
 入り口の側の席でなのはたちが楽しそうに談話をしている。
 一人は八神はやてを守る守護騎士のヴィータだと分かったが、もう一人が誰だか分からなかった。
 なのはたちは会話に夢中でナタネには気付いていない。でもいつ気付くか分からない。
 ココまで来たのだから、入ってしまおうとナタネは考えた。でもこのままだとバレる。
 ナタネは髪を一つにまとめている髪飾りを解く。
 そして、衣装も少し変えて黒のツーピースにする。
 多少の変装して、ナタネは【喫茶「白桜雪」】に入る。

 お店のカウベルが鳴った瞬間、なのはは空気が一瞬にして変わったのを感じた。
 入り口を見るなのは。
 そこにいたのは、一人の女性であった。
 本物の銀で作ったかのような白銀の髪。豊満な肢体を包むのは漆黒のツーピース。
 無表情で無機質な顔つきから、知的で冷たいような感じがした。
 その見た目は人目を引き、なのはの見える限りの客は全員がその女性に注目している。
 女性は店内を歩く。歩き方もエレガントで格式高そうな感じがした。
 なのはたちの隣の席にその女性は座る。
「ご………ご注文は何にいたしましょうか?」
 オーダーを取る局員の背筋が張られ、声から緊張している感じが伝わる。
 女性はオーダー表を眺め、注文をする。
「エスプレッソを一つ。」
「え………エスプレッソを……御一つ…ですね。」
 緊張のし過ぎで局員の動きがカクカクになっていた。
 なのは周辺に座っている客すら背筋が伸び、動きが機械のようになっている。いろんな意味で怖い。
 ヴィータは何故か、ガタガタ震えている。
 それに対し、ヴィアフはその女性を睨みつけていた。
「なのはぁ。」
「何ですか?ヴィアさん。」
 女性を睨みつけながらヴィアフは言う。
「あいつさぁ。いけ好かないから喧嘩売りに行って良い?」
「はい!?」
 突然そんな事を言い出すヴィアフに驚くなのは。
「だってさぁ。空気読めなさそうじゃない?」
「……………」
 ガタガタ震えているヴィータもだが、かなり滅茶苦茶な事を言うヴィアフをどうしたものか悩むなのは。
 その時、エスプレッソを飲んでいるその女性がなのはたちのほうを見る。
「なに?あたしになんか用?」
 女性にガンを飛ばすヴィアフ。
 ヴィアフにガンを飛ばされている女性はエスプレッソを飲みながら、無表情でなのはたちを見る。
「だから何?」
 エスプレッソを飲みながら見つめてくる女性にイライラして来たらしく、声に怒気が混じり始めてきた。
 女性は飲み終えたエスプレッソのカップを置き、伝票を持ってカウンターに行く。
「やっぱりいけ好かねぇっ!」
 ヴィアフは八つ当たりの如く、机を叩く。
 身体の震えが多少残っているらしく、肩を抱きながらヴィータは言う。
「畜生。久しぶりに身体が震えやがった。
 なんだろ。あいつ…………なんか懐かしいがしたんだがな。」
 いきなり席を立つなのは。そして、二人に行った。
「ごめん!ちょっと、あの人と話してくる!!」
「ちょっ……なのは!!」
 そう言って、なのはは【喫茶「白桜雪」】から出る。

 さっきの女性は規律正しく、人込みの多い道を歩いていた。
「ナタネちゃん!」
 なのはの叫びに女性は立ち止まり、なのはを見る。
 そして無表情面のまま、なのはに言う。
「お久しぶりです。なのは。」
 ナタネとの距離を詰めようと手を伸ばすなのは。しかし、その距離を詰める事は出来ない。
 人ごみで上手く動けないというのもあるが、ナタネの目がなのはを拒絶していた。
 目は言っていた。近付かないで欲しいと。
 その目はまるで、自分に近付かない事を懇願しているようであった。
 なのははナタネに手を伸ばす事を止め、腕をダランと下ろす。
 その目はとても切なそうであった。
 顔には全く出さないが、ナタネは切なそうな目をするなのはを苦しそうに見る。
 そして、ナタネはなのはに言った。
「また会いましょう。なのは。」
 腕を上げるなのは。腕を振りながらなのははナタネに言った。
 その顔には微かに笑顔が浮かんでいる。
「またね。ナタネちゃん。」
 ナタネはなのはに背を向け、人ごみに紛れる様に歩いていく。
 なのははナタネが人ごみに紛れて見えなくなるまで、ずっとナタネの背中を見ていた。



〈涼香&ギンガver 3時57分〉
「蔵那さぁ~ん。
 スタンバイお願いしま~す!」
 裏方がクロエを呼ぶ。
「はぁ~い!」
 スタジオでイベントのプログラムを読んでいたクロエが顔を上げる。
「頑張りましょうね。涼香さ…………」
 そう言って硬直するクロエ。
 涼香が座るパイプ椅子には巨大なテディベア。首にはプレートが。
 書いてあったのは………………
「一時間後には帰ります。」
 クロエの肩が震える。そして叫んだ。
「………涼香様のばかあぁぁぁぁ!」

「涼香さん。」
「なんですかギンガさん。」
 涼香はのんびりギンガと道路を歩いていた。
「何か聞こえませんでしたか?」
 ギンガの言葉に涼香は首を傾げる。
「何も聞こえませんでしたが。」
「私の気のせいでしょうか………………」
 ギンガも首を傾げる。
 どうやら、クロエの心の叫びがギンガに届いたらしい。
 しかし、涼香には届かなかったようだ。

 二人はのんびりとクラナガンの街を歩いていた。
 実に恋人らしい風景である。涼香はクロエに仕事を任せて仕事を抜け出した所為で、クロエがスタジオで泣きそうになっているが。
「私の顔に何かついてますか?」
 じっと自分を見ながら歩いている涼香に気づき、尋ねるギンガ。
 涼香は微かに笑いながら、ギンガに言った。
「いえ。メイド服のギンガさんも可愛いなぁって。」
 ギンガの頬が一瞬にして赤くなる。
 実はナンバーズの出店している【喫茶「ファミグリィア」】の制服を着たままなのだ。
 涼香が来店した途端、ナンバーズが笑顔ギンガの肩を叩き、涼香の方に背中を押した。
 来店している客もギンガに向かって爽やかな笑顔を浮かべ、親指を立てる。
 原因はギンガも分かっている。
 さっきのラジオで出た「涼香はギンガの所有物」宣言だ。
 それ以前に、時空管理局ラジオのリスナーの間ではギンガが涼香の恋人である事は常識となっている。
 今日の発言が遂に決定打となったらしい。
「笑顔でそんな事を言わないで下さい。恥ずかしいじゃないですか…………」
 ギンガはメイド服の裾を掴みながら顔を真っ赤にする。そして俯いてしまう。
 そんなギンガの仕草が可愛かったらしく、涼香は集団の面前でギンガを抱き締めた。
 周辺にいた人たちは歩きながらも涼香とギンガに注目している。
 やはり周辺の視線が気になるらしく、涼香の腕の中にいるギンガは見をよじらせる。
「ちょっ…………涼香さん!離し………」
「嫌です。」
 ギンガを腕の中に収めながら即答する。
 殆ど密着しているせいか、ギンガの匂いが涼香の鼻腔をくすぐった。
 ギンガの身体から薫るのは化粧品のキツい匂いではなく、石鹸の優しい香り。
 その匂いだけでも涼香の頭はクラクラしてきた。
 ずっとこのままの状態でいたいと思ったその時。
「涼香様~!!どこですかぁ~!!いたら連絡してください!!」
 近くのスピーカーから蔵那の声が響き渡る。
 その声は明らかに自棄になっている。
「ゲストにミッドチルダの歌姫えーまひよ~様をお迎えしているのですから!」
 その瞬間、周辺の人の視線がスピーカーに集中した。
 一世に風靡しているえーまひよ~がラジオに出演しているのだ。集中しないはずがない。
 スピーカーからクロエの叫び声が出てきた。
「早く戻ってきなさい涼香様!
 別に一人でひよ~様の相手をするのが心細いんじゃないですからね!
 ひよ~様のスケジュールに乱れが出ないようにする為ですからね!」
 言い方がツンデレっぽいのは気のせいだろうか。
「そんなに急がなくても良いですよ。蔵那さん。」
 スピーカーから柔らかい声音をした女性の声が流れる。
 それはミッドチルダの歌姫えーまひよ~の声だった。
 ひよ~は言う。
「しばらくはスケジュールが空いているので、大丈夫ですよ。
 とりあえず、涼香さんが戻ってくるまで待ちますよ。」
「聞きましたか涼香様!
 えーまひよ~様は涼香様が戻ってくるまで待ってくれるそうですよ。だから早く戻ってきて下さい!」
 ギンガは涼香の方を向く。
「行かなくて良いのですか?」
 涼香は苦笑しながら答える。
「大丈夫ですよ。蔵那さんは蔵那さんなりで何かしてくれるでしょう。
 蔵那さんが成長するチャンスですよ。」
 言うことはかなりまともだが、使う場所を間違えているような気がする。
「それに、積もる話もあるでしょうからね。」
「?」
 ギンガは涼香の言葉に首を傾げる。
「こっちはそろそろ逃げないといけませんね。」
 涼香はいきなりギンガの手首を掴んで走り出す。
 えーまひよ~や蔵那クロエのファンが早くラジオを聞きたいが為に涼香とギンガを追いかける。

 放送スタジオでは、クロエとひよ~が涼香が来るのを待っていた。
 時計をチラチラ見ながら涼香を待つクロエにひよ~が話しかける。
「うん。久しぶりぃ~ラグナ六区さん。」
「!?」
 クロエはいきなり話しかけられた事にも驚いたが、ひよ~の口から「ラグナ六区」という言葉が出たことに驚いた。
「この驚く顔はやっぱりラグナ六区さんだね。」
 ひよ~は少し砕けた様な話し方で笑う。きっとこれがひよ~の地だろう。
「な………何故、その名を………」
 クロエの声は緊張ではない何かに震えていた。
 ひよ~は笑いながら答える。
「涼香さんのラジオを実況する場所で有名人だったじゃないですかぁ~」
 時空管理局に入局する前から涼香はラジオを運営していた。
 クロエはそのラジオを聞きながら会話をする場所で「ラグナ六区」と名乗っていたのだ。
 そこでクロエは「ラグナ六区」としてラジオのネタ振りやラジオの回ごとにサブタイトルをつけていた。
 ひよ~は涼香のラジオにたびたびゲストとして参加していたので、クロエの事を知っていたのだろう。
「書店に行ったら、涼香さんのハプニングをまとめた「ドジっこ大全」と一緒にクロエさんの「サブタイトル集」も売られていたからねぇ~。
 読んだ時点で確信はしていたけど、まさか本当にラグナ六区さんだとは思わなかったよ。」
 ひよ~は微笑みながら言う。
 微笑むひよ~と対称にクロエは泣いていた。
 今ではクラナガンの歌姫であるえーまひよ~が昔とはいえ、自分を知っているとは思わなかったからだ。
 それが嬉しくて、クロエの目から涙が止まらない。
「ほら。泣かないの。」
 ひよ~はクロエにハンカチを渡す。
 ハンカチで涙を拭っても、クロエの涙は止まらなかった。

 涼香とギンガはパブで食事をしていた。
 逃げていたというのもあるが二人は凄くお腹が空いていた。
 ギンガはずっと陸士部隊のレクリエーションや【喫茶「ファミグリィア」】で仕事をしていたし、涼香に至っては自分の作った料理を広報部の局員全員に食べられていた。
 二人は幸せそうにオムライスを食べている。
「涼香さん。」
「なんですか?」
 黙々とオムライスを平らげている涼香が顔を上げる。
「頬にご飯粒が付いてますよ。」
 そう言って、ギンガは涼香の頬に付いているご飯粒を取る。
 そして、パクリと食べてしまった。
 涼香は顔を真っ赤にして、持っていたスプーンを落とす。
 真っ赤な顔で凝視する涼香にギンガは耳まで真っ赤にし、俯いて黙々とオムライスを食べ始めた。
 涼香を捕まえる機会を伺っていたクロエのファンは二人の行った行為の一部始終を見ていた。そして、こう締めくくった。
「あまあぁぁぁぁぁぁぁあいいっ!!」

 食事を終えた二人は砂糖が沢山入った紅茶を飲んでいた。
 ギンガは涼香に尋ねる。
「この後、どうしますか?」
 涼香は顎に指を当てながら考える。
「まあ。一時間後には戻ると言ったので、そろそろ放送スタジオに戻ります。」
 そう言って、涼香は飲み終えた紅茶のカップをテーブルに置く。
「ん~。でも、今の状況で出るのは怖いかな。」
 窓の外を見ながら呟く涼香の意見にギンガも賛成した。
 パブの前には、ひよ~とクロエのファンがズラリと並んでいる。
 このまま出たら、私刑か圧殺をされそうだ。
「とりあえず、お会計をし終えましょう。」
「そうですね。」
 ギンガの意見に涼香も賛成し、席を立ってお会計へと歩く。
 涼香が会計をしているので裏口から出でも大丈夫だろうと思い、ギンガは裏口の戸を軽く開ける。
「………………」
 そして、硬直した。
 裏口にも人が沢山いたからだ。
「ギンガさん。裏口は………」
「裏口もいます。」
「そうですか………」
 少し考える涼香。何か思いついたらしく、ギンガの手首を掴む。
「涼香さん………?」
「如何なる手は………」
 涼香はギンガの手首を掴みながら走り出す。向かうはパブの厨房。
 厨房に入ると、ウェイターや調理人が驚いた顔をした。
 涼香は顎でギンガを示し、片目を瞑る。
 厨房の人たちは笑いながら口笛を吹いて、二人に挨拶を返す。
 二人は厨房を抜け、勝手口から外に出る。
「何だったんですか?今の。」
 ギンガは厨房の人たちが笑いながら口笛を吹いて挨拶を返してきたことに疑問を持ったらしい。
 涼香は楽しそうに答える。
「多分、若い二人の逃避行に賛同してくれたのですよ。」
「はい?」
 楽しそうに答える涼香にギンガは更に首を傾げる。
 裏路地を抜ける二人。そこで誰かが二人に声をかけた。
「やっほぉう!お二人さん♪」
 二人は立ち止まり、声をかけてきた人を見る。
 それはバイクに乗った雪奈だった。
 雪奈はヘルメットを涼香の方に放り投げる。
「一時間経ちましたので、迎えにきました。」
「ありがとうございます。
 じゃあ。ギンガさん。また後で。」
 涼香はギンガの頬に口づけをし、ヘルメットをかぶって雪奈のバイクに乗る。
 雪奈はギンガに軽く手を振り、バイクのエンジンを掛けてスロットルのを開け
る。
 重く猛り狂う獰猛で凶暴な大型肉食獣が放つ咆哮の様な爆音がバイクのエンジンから上げられる。
 涼香は片手を雪奈の腰に回し、片手でギンガに手を振る。
 そして顔を真っ赤にしたギンガを残して、雪奈と涼香が乗るバイクは咆哮の様な爆音を轟きながら走っていった。



〈羽ver 16時03分〉
 羽は甚平に羽織を羽織った姿で歩いていた腰の後ろには、二振りの刀が交差するように付けられている。
 手には、百合の花束が握られていた。
 無言で羽は歩く。
 どの位、歩いただろうか。
 羽はある場所に辿り着く。
 そこは共同墓地であった。
 共同墓地の中を羽は歩く。そして、ある墓石の前で立ち止まる。
 その墓石に刻まれていた名は……「ソラ」
 羽の相棒であり、羽が使っている二振りの内の一振り「ヒメ」の本当の担い手。
 「ソラ」と刻まれた墓石に百合の花束を置き、羽は墓石に向かって言った。
「ソラ………やっと、自分の中で整理がつきました。」
 更に羽は言葉を紡ぐ。
「おかげでやっと僕はソラの墓参りをする事が出来た。
 遅くなってゴメン………ソラ。」
 羽が突然「ヒメ」を抜く。鞘走る音が共同墓地に響いた。
 抜いた「ヒメ」を地面に突き刺し、羽はソラの墓前で誓いを立てた。
「僕が「ヒメ」の担い手になる。そして、僕はソラを越える。
 「ヒメ」を携えてソラが歩くはずだった道を僕が「ヒメ」を携えて歩く。僕がソラのいた証を刻みます。
 だから………上で見ていて下さい。」
 そう言って、羽は黙祷を捧げた。

 羽はソラの墓前でかなり長い黙祷を捧げた後、地面に突き刺した「ヒメ」を抜
いた。
「またいつか来ます。」
 そう言って、羽は「ヒメ」を鞘に納めて、ソラの墓前に背を向けて歩きだした。



〈結城優衣ver 4時23分〉
 自然環境保護隊の結城優衣はする事もなく、メイド服姿で街の中を歩いていた。
 休憩時間を貰ったのは良いのだが、優衣は何をするか思い浮かばない。
 ひとまず、専用のデバイス「コウライ」をメンテナンスに持っていく。

「久しぶり。優衣。そろそろ来る頃だと思っていたよ。」
 優衣専用デバイス「コウライ」の専属メカニックをしている陽は優衣を見て笑った。
 諜報部と開発部はエキストラと警邏任務担当の為、開発部で作業している人は少ない。
 陽の机には組み立て途中の小型ブースト装置が置かれている。
「今回はメンテナンス?それとも依頼してきたブースト装置の増築?」
 陽は小型ブースト装置を組み立てながら優衣に尋ねた。
 指輪として指にはまったスタンバイ状態の「コウライ」を見ながら優衣は言う。
「メンテナンスかな。依頼したブーストが完成しているなら、搭載して欲しいかな。」
「了解。なら工房行かないとね。優衣の「コウライ」は大きいですから。」
 二人は大型デバイス調整用の工房に入る。
「じゃあ。「コウライ」を起動してください。」
「コウライ。」
 優衣は「コウライ」を起動する。優衣の手に巨大な半月斧が握られる。
「相変わらず、優衣の「コウライ」は大きいですね。」
 「コウライ」を眺めながら陽は言う。
 優衣に「コウライ」をデスクにのせさせ、陽はメンテナンスを始める。
「柄の部分に深い損傷は無し。刃は使用による厚みの減少があるが許容範囲。
 搭載済みのエンジンは………優衣。「コウライ」のブーストを酷使しすぎ。エンジンが焼け付いてる。
 エンジン部分は新型エンジンへの変更の余地あり。」
 陽は優衣の「コウライ」のメンテナンスを完了した。新型エンジンを搭載する時の予算を電卓で叩く。
「エンジン以外の部品交換はいらないけど、新型エンジン搭載の予算はこれ。」
 優衣に新型エンジンの搭載に必要な予算を見せる陽。
「うっ………」
 予算の金額を見せられて硬直する優衣。そこには三等陸士の給料三ヶ月分の金額が。
「ツケは………」
「そろそろ身体で払いますか?」
 ニコリと笑う陽。その笑顔はかなり怖い。
「エンジンの修理で………」
 怯えながら答える優衣の言葉に陽は溜め息をつきながら一刀両断する。
「修理しても、ブースト機構を使う「ストームブレイカー」を使ったら死ぬよ?」
「ううっ………」
 かなり涙目の優衣を見て、陽は再び溜め息をつく。
 そして陽は言った。
「分かった。しばらくは今まで使っていたエンジンを改造した物を搭載します。
 それと、優衣。」
 優衣に陽は尋ねる。
「身体は大丈夫?」
 その顔は開発部に所属する「コウライ」の専属メカニックの陽ではなく、優衣の親友である陽の顔であった。
 陽の目はとても心配そうであった。
「優衣の使う「コウライ」のブースト機構を使った「ストームブレイカー」は身体に負担がかかるんだよ。
 エンジンが焼け付くほど酷使したら、「コウライ」が壊れる前に優衣の身体が壊れちゃうんだよ。」
「大丈夫。大丈夫だよ。陽………」
 陽をなだめようとする優衣。
「私は心配なんですよ!!」
 怒鳴り声を上げる陽。そして、優衣の抱きつく。
 優衣は服が濡れる感じがする。どうやら、陽は泣いているらしい。
「陽………泣いてるの………?」
「泣いてないもん…………」
 顔を見せない様に優衣の服に顔を押し付けているが、優衣の服が濡れている事や嗚咽が聞こえる時点で説得力がない。
 困り果てる優衣。
「大丈夫。陽が泣く様な位は無茶しないから。だから泣かないでよ………」
 優衣は抱きつく陽の頭を撫でる事しか出来なかった。

「陽を泣かせちゃったね。」
 メンテナンスが終了し、指輪型でスタンバイしている「コウライ」に言う。
 あの後もしばらくは陽が優衣の服にしがみ付いて離れなかった。
 優衣自身もまさか、陽がそこまで自分の事を心配しているとは思わなかった。
 陽の泣いた顔を再び思い浮かべると、無茶をしていた自身が恥ずかしくなる。
 心の中で反省しながら、優衣はお姉さまと慕っているフェイト・T・ハラオウンが出店しているお店に行く事にした。
 優衣の使う半月斧型デバイス「コウライ」はフェイトに憧れて開発部に依頼して作ったものだ。
 しかしそのデバイスや戦闘力の所為で『自然環境保護隊の女王』とか呼ばれる羽目になってしまった。でもそんな事を言われても別に気にしない。
 フェイトに憧れて使っているので、全く気にならない。むしろ誇りに思っている。
 優衣は指輪型でスタンバイしているコウライに言う。
「もうすぐコウライの先輩に会えるよ。」



〈『其は約束されし紅の騎士』ver 18時09分〉
 もう既に日が傾いて暗くなった大晦日の街の中を一人の少女が歩いていた。
 漆のように黒くて長い髪。少し幼さの残る顔立ち。しかし身体はほど良く成長している。
 抱き締めると折れてしまうような華奢な雰囲気と大人しくて引っ込み思案のような雰囲気を持ち合わせていた。
 彼女は修道服に似た黒い服を纏っている。その服はまるで、喪服のようだった。
 その服の真ん中には小さな十字架が掛けられている。
「神父様の話を聞いていたら遅く………なっちゃ……った………早く帰らないと……………怒られちゃう。」
 彼女は呟きながら歩みを速める。

 リイィィィィィイン……………………

 突然、奇妙な耳鳴りがした。その音は段々大きくなっていく。そして、大きく
なっていくたびに頭が痛みを訴える。
 彼女は頭を押さえ、道路でうずくまる。しかし、音が止む様子はない。
 うずくまっているのは彼女だけで、人々はそのまま歩いていく。他の人たちには聞こえていないだろうか?
 どうにか彼女は立とうとする。立とうとすると、次はめまいに襲われた。
 頭がグラグラと揺れている様な感じがする。吐き気もする。とてもじゃないが、立ってはいられない。
 音も鳴り止まない。むしろ、大きくなっていく。頭だけではなく、脳まで痛み
で悲鳴を上げる。
 まるで頭の皮膚を引き剥がされ、頭蓋骨を切開し、脳を掻き回されている様な感じだった。
「う………あう……が………はふ………うああううああああああ………」
 痛みと気持ち悪さで彼女は悶え、己の頭をかかえる。
 その痛みが不意に止まる。頭を抱えていた腕を解き、彼女はよろよろと立ち上がる。
 彼女はそこで見てしまった。
 あらゆるものが黒く染まっているのを。
 人も。鳥も。虫も。植物も。大地も。空も。風も。水も。世界も。全てが黒い。
 何もかもが黒い。黒いモノだけが蠢いている。
 それを見るたびに彼女の身体から吐き気が込み上げてくる。
 同時に身体の奥底から、何かが身体の中を這うように込み上げてきた
「う…………………げえっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
 吐き気に耐え切れず、彼女の口から吐瀉物が撒き散らかされた。
 口の中で胃液の酸味で一杯になる。
「はあっ………はっあっ…………は…あ……………」
 彼女はかけている十字架を持ちながら胸を押さえ、呼吸を整える。
 その時、彼女は気付いた。
 自分自身の周辺だけ、黒くなっていない事に。
 彼女は黒いところに手を触れる。触れた部分がいつも見ている道路の部分となる。
 そこで彼女は思った。
 これは神がお与えになった権能だと。
 神がお与えになった事で自身も神の使徒となったのだと。
「あはっ♪」
 彼女は小さく笑った。
 その顔は純粋無垢で妖艶な笑顔であった。



〈其は約束されし紅の騎士ver 18時17分〉
 【居酒屋「苺壱枝」】では雪奈と雫が開店の準備をしていた。
 本来なら、諜報部の部隊長である雪奈と開発部主任である雫はこの店を開いているはずはない。
 しかし【居酒屋「苺壱枝」】をご贔屓にしている常連もいる為、開店しなければならなかった。
 一応は参加申請は出し、許可は貰ってあるので良いだろうが。
 ガスボンベを軽く開けてガスコンロに火を付ける雪奈。慣れているので、実に手際が良い。
 雫は火を付けたガスコンロで寸胴鍋の鍋の中一杯に入っている甘酒を温め始める。
「空も暗くなってきました。そろそろ冷えてきましたね……………」
「そうだね。雫。」
 雫は暗くなった空を見上げ、雪奈は手袋の上から息を吐きかける。
 橙色に燈された周辺の灯を見ながら雪奈は言う。
「そろそろ、温かい食べ物を売る部署が儲けを出す頃だね。
 今ごろ、喫茶店や甘味関係はメニューを温かい物に変えているだろうなぁ。」
 雪奈の予想は完璧に的中していた。特にシチューやヒツジ汁を売っていた環境保護隊の売れ行きが伸びている。
 そして、喫茶店や甘味関係のお店は慌ててメニューの変更を余儀なくされていた。
「こんばんは。」
 早くも【居酒屋「苺壱枝」】お客が来てしまった。
「こんばん…………」
 雪奈は客を見る。そして、ぎょっとする。
「はぁ~い♪」
 目の前には女性が座っていた。真紅のロングコートを羽織り、蒼みがかった黒色の髪をしている。
 その女性の瞳は雪奈と同じ蒼天のように澄んだ蒼色の瞳。顔立ちも妙に似ていた。
「何をしに来たんですか?ワルツハーゲン。」
 睨みつける雪奈。その目は少し怒っている。
 ワルツハーゲンと呼ばれた女性は軽く苦笑した。
「つれないなぁ。すみません。梔子酒「黄華」をお願いします。」
 雪奈が睨みつける事を全く気にせず、ワルツハーゲンは梔子酒「黄華」を注文する。
 グラスに梔子酒「黄華」を注ぎ、ワルツハーゲンに渡す雫。
 ワルツハーゲンは美味しそうに梔子酒「黄華」を飲む。
 雪奈はワルツハーゲンに怒りながら尋ねる。
「本当に何をしに来たんですか!貴女は!」
 声まで荒げる雪奈にワルツハーゲンは言う。
「ん?可愛い妹である雪奈の顔を見に来ちゃダメ?」
 その言葉に雪奈の顔が一瞬にして紅くなる。
 雪奈の姉は、楽しそうに笑う。笑う感じもよく似ていた。
 その光景を見て驚く雫。雪奈に姉がいる事も驚いたが、あの雪奈が手玉に取られているのを見たのは初めてだったからだ。
 雫が驚いている間にも、二人の会話は続いている。
「……………で、本当は何をしに来たんですか?」
「だから、雪奈の顔を見に来ただけだって。それに、昔の様に呼んでくれないの

 緋桜おねえちゃんって。」
 「緋桜」がワルツハーゲンの本名らしい。緋桜は綺麗な笑顔で笑っている。
 雪奈は微かに頬を赤らめたまま言う。
「恥ずかしいから嫌です。」
「むう。つれないなぁ。昔は緋桜おねえちゃん。緋桜おねえちゃん。って、引っ
付いてきたのに。」
 頬を押さえながら激しく身体を振る緋桜。
 緋桜の仕草に雪奈は顔を赤らめる。
「昔の話じゃないですか!!」
「あ~。昔の雪奈が今は…………………!?」
 いきなり立ち上がる緋桜。
 突然の行動に雪奈と雫は不審に思うが、数秒後には二人も驚く。
 二人も異変に気付いたからだ。
 北西の方角で黒い靄が上がり始める。



〈其は約束されし紅の騎士ver 18時23分〉
「はあ………はぐっ!……ぐはっ………ぁぁぁ………にぎっ………………」
 身体の中を這いずり回る深いな物に少女は両手で肩を抱きながらうめき声をあげた。身体からは黒い靄が漏れる。
 うめき声を上げるたび、少女の周辺が綺麗になっていく。
 それと同時に周辺にいた人たちの様子がおかしくなっていく。
 頭を抱えたり、周辺の人を襲ったりしている。
 彼女が神から与えられた権能だと考えているモノの正体は、彼女の身に宿っていた先天性遺失物能力。
 能力の効果は煩悩や悪意を取り込み、浄化して放出する能力。銘は……まだ無い。
 そんな能力でありながらも、撒き散らかされるのはより濃密な狂気。
 彼女は急ぎ過ぎたのだ。この能力の本質は煩悩や悪意を取り込んで浄化。
 一度は他人の悪意や煩悩を請け負わないといけない。その上、人は必ずしも悪意や煩悩を持っている。
 彼女が一度に能力の許容範囲を越える位まで吸収した為に、能力自体が暴走しているのだ。
 悪意や煩悩だけが吸収され、浄化されずに狂気に変換されて撒き散らかされる。
 他人の悪意や煩悩に飲み込まれる中で彼女は呟く。
「神よ…………何故……私に……………重荷を………………課し………た…」
 彼女は飲み込まれた。
 そして、『神よ。何故、私に重荷を課した』が暴走する。


〈其は約束されし紅の騎士ver 18時39分〉
「うーん。」
 緋桜は空を見上げる。いつのまにか北西どころか半分近くが黒い靄で覆われ始めている。
 半分は星が煌びやかに輝く星空。もう半分は濃密な狂気の靄。
 そろそろ、緋桜たちのいる場所すら覆うかもしれない。
 既に緋桜たち周辺にも影響が出ており、頭を抱える人や他人を襲う人が出始める。
「マズいね。」
 雪奈は襲い掛かってくる人を無造作に蹴り飛ばす。
「そうですね。」
 雫は雪奈がK.O.させた人たちを縛りながら頷く。
「やっぱり、生まれたての先天性遺失物能力の子かなぁ。」
「そうだと、そろそろマズいよ。
 まだ雰囲気に呑まれた人が騒いでいる様にしか見えないけど、いずれ上層部も気付く。」
 雪奈の目は一瞬にして、真剣な目に変わる。
「そしたら、上層部直轄の鎮圧部隊が出ますよね?」
「うん。絶対に拘束される。」
 雫の問いに頷く。
 緋桜は尋ねる。
「雪奈。どうする気?」
「鎮圧部隊が出る前に暴走している先天性遺失物能力者を止める。」
 かなりヤバイ事態なのに、雪奈は楽しそうに笑う。
「雪奈だけじゃ間に合わない。」
 緋桜は冷静に判断を下す。
「じゃあ。そんな時こそ、使わないとね。」
「?」
 首を傾げる緋桜。
「私の隠し弾♪」
 そう言って、雪奈は念話を繋ぐ。
「幽霧。仕事だよ。」



〈其は約束されし紅の騎士ver 18時57分〉
「お待たせしました。です。」
 幽霧は【「」】で仕事をしていた。
 服装は至って普通の。
 しかし客のみならず、経営側の局員まで幽霧を凝視している。
 何故なら、幽霧の動作が素人の動きだとは思えなかったからだ。
 客に料理を出す時の仕草。そして声をかけるタイミング。
「私が拾うので、お客様は拾わなくてもよろしいですよ。」
 果てには客の落とした食器を淀みない動きで拾い、瞬時に綺麗な食器を渡す。
 その動作には他の局員は関心する事しかできない。
[幽霧。仕事だよ。]
 突然、雪奈から念話が入る。
 幽霧は一回、近くにいる局員に断ってからアルフィトルテをつれて店の裏口に行く。
 そこでやっと、雪奈の念話に応じた。
[何でしょうか?]
 幽霧の前に魔力で構築されたモニターが出現する。
[君に特別任務だよ。諜報部所属幽霧霞三等陸士。]
[特別任務ですか…………………]
 特別任務という言葉に幽霧の身体は強張る。
 まるで身体の強張る幽霧の心を見透かすように雪奈は言った。
[緊張しなくてもいいよ♪特別任務と言っても、ただの鎮圧だから。]
 雪奈は説明を始める。
[幽霧三等陸士の位置でもわかるように、上空は黒い靄が発生している。
 その靄にいるものは理性や身体に異常が発生する。君はその元凶を捕まえるか止めて欲しい。]
[…………………了解いたしました。]
 少し間を置いて、幽霧は頷く。
 雪奈は笑顔で言う。
[他の人にも声は掛けるから、無茶はしないように。
 派遣業務は出来ないと全体に伝えておきます。以上。]
[了解。]
 幽霧が言うか言わないかの瞬間にモニターは消失し、雪奈からの念話も打ち切られる。
 アルフィトルテを見て、幽霧は言う。
「…………………だってさ。」
 アルフィトルテも内容を把握したらしく、無言で静かに頷く。
 幽霧はアルフィトルテに手を差し出す。
「じゃあ。行こうか。」
「うん。」
 アルフィトルテは幽霧の手に自分の手を乗せる。
 幽霧とアルフィトルテは同時に呪文を紡ぐ。
「「ユニゾンイン」」
 幽霧とアルフィトルテを中心にして、魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣の色は半透明の灰色。
 しかし、その魔法陣の色が段々と変化していく。半透明の灰色から赤色に。赤色から緋色。遂には鮮血のような紅色に変わる。
 幽霧とアルフィトルテがその魔力光に包まれ、変化が起こる。
 光が消えた時、魔法陣には一人の女性が立っていた。
 黒いインナーに紅のスカートとコート。そして、雪のように白い三つ編みの髪と肌。
 瞼が開かれ、そこに収まっているのは鮮血のように紅い真紅の双眸。
 身体は女性であるが、それは幽霧だった。彼女は片手を胸におき、優しく言う。
「じゃあ。行こっか。アルフィトルテ。」
《うん。》
 幽霧の太腿から爪先にかけて魔法陣に似た紋章が浮かび上がり、足元には魔法陣が浮かび上がる。
 彼女は走り出す。暴走した『神よ。何故、私に重荷を課した』を追って。



〈其は約束されし紅の騎士 19時19分〉
 のんびりと道を歩いているレキとクイント。二人には急な用事もないし、急ぐ理由もなかった。
 レキは一等空尉であるが殆どは嘱託騎士扱いであるし、クイントはある人の心遣いで肉体は持っているが既に死んでいる。
「そろそろお腹がすきましたね。」
 腹を押さえながら言うレキ。レキの腹からすさまじい音が鳴る。
 そんなレキを見て、クイントは苦笑する。
「笑わないで下さいよ。」
「だって…………………」
 クイントの苦笑する姿を見て、急に恥ずかしくなったようで顔を真っ赤するレキ。
 端から見るとまるで、恋人同士のような会話だった。
「!」
 いきなりレキの顔が変わる。
 空気も一変する。妙に息苦しい。
 呼吸するたびに喉や頭が痛くなってきた。そして段々、寒気に似た感覚も感じてきた。
 それと同時に何かが近付いてくる感覚も感じる。
 レキはクイントに言う。
「クイントさん。下がってください…………………」
 『絶影』の大鎌形態を展開するレキ。そして、クイントを下がらせる。
「どうやら…………………僕と同類の方の様なので。」
 向こうから何かが歩いてくる。
 革靴の靴底で道路のアスファルトを叩く音だけが周囲に響く。
 レキは向こうから歩いてくる何かに神経を研ぎ澄ます。
 しばらくして、向こうから歩いてくる何かが姿を現した。
 向こうから歩いてきたのは少女であった。ただし、見た目だけで表現するならばの話。
 具体的に言うのならば、少女の姿を象った漆黒の石像であった。
 身体からは真っ黒な靄が途切れず噴き出している。
「う~ん。やっぱり、僕と同じ先天性古代遺失物能力者ですか………………」
 『絶影』の柄を強く握りながらレキは呟く。そして、魔法陣を展開。熱風が発生してレキの頬に傷が入る。
 頬から流れる血液を指にとり、警戒しながらもレキは尋ねる。
「すみません。大丈夫ですか?」
「…………………くぁzxsdcfvtgびゅhにjm、おkk@;・「:\\\}」
 喋るものの、人間が発音するような音ではなかった。
 レキは瞬時に判断した。完璧に暴走していると。
 昔の自分自身と同じように。
 彼女の姿が昔の自分とついダブってしまって、嘆息するレキ。
 そして、自身の持つ先天性古代遺失物能力『煉獄の檻籠』を発動した。
「『煉獄の檻籠』発動。」
 指に取った血液が一気に燃え上がる。レキは彼女に言う。
「さて。ちょっと熱いですが、我慢してくださいね。」

 今、ここで『煉獄の檻籠』と『神よ。何故、私に重荷を課した』の戦いが始まった。

 レキは『絶影』を構え、音もなく少女に接近する。
 そして狙うは少女の昏倒。
 少女の身体に『絶影』の刃が迫り来る。
「zzせxcfちゅbふmmmこおおおお!!」
 突然吼える少女。黒い靄が集まり、黒い槍を形成する。
 その槍はレキの身体へと飛ぶ。
「舐めるなっ!」
 指についた血液を燃焼させるレキ。発生した紅蓮の炎は黒い槍を跡形も泣く蒸発させた。
 その瞬間、レキの身体から黒い靄が噴出する。噴出した靄を少女は吸い込み、嚥下する。
 更に靄の色がより濃い黒となる。
 そして再び、少女は黒い靄から武器を形成する。しかし数はさっきより上。
「zthmん、;」
 形成された武器は少女の合図でレキの方に飛ぶ。
 レキは瞬時に親指の皮膚を噛み切って血液を飛ばす。血液は紅蓮の槍となり、黒い武器とぶつかり合う。
 紅蓮の槍は黒い武器を掃討し、少女へと肉薄する。
「bちkrちゅjtyjぎゅjgyhj!!」
 黒い靄が漆黒の翼となり、宙へと逃げる。
「逃がすかよ!」
 レキは紅蓮の槍を操作して漆黒の翼に突き刺し、片翼を焼き払う。
 片翼が無くなる事でバランスが一瞬だけ崩れる。しかし瞬時に翼を形成する事でバランスを持ち直す。
 しかし、その一瞬はレキの新たな攻撃を行うには十分だった。
 レキは『絶影』の刃に自身の血液を塗り、振りかぶる。
「灰燼に帰せ…………煉獄の…………サイズエッジ!!」
 振り切ると同時に『煉獄の檻籠』を発動。
 炎を纏った衝撃波が打ち出される。
 打ち出された衝撃波は空中にいる少女が纏っている靄を焼き払う。
 靄を焼き払われた事で少女はレキに撃墜されたかのように思われた。
 しかし、まだ甘い。少女は獣の如き動きで綺麗に着地をし、靄を噴出し始めた。
 レキは瞬時に『絶影』の形態を1stから2ndに変更。
 『絶影』は大鎌から手甲に姿を変えた。形態を変更させると同時にレキは少女の所へと走る。
 同時に頬を手甲でより傷つけて傷をより深くする。頬からより勢い良く出血した。
 頬からは勢い良く流れる血液は炎に変わり、カートリッジのシリンダーも高速回転する。
 レキの頬から溢れ出す炎は高速回転するシリンダーに吸い込まれていき、手甲から燐火が漏れる。
「煉獄の…………………紅・砕・滅・閃!!」
 燃え上がる手甲を叩き込むと同時に『煉獄の檻籠』を最大出力で発動。
 黒い靄に包まれた少女が開放された煉獄の劫火で灰燼に帰した。

「レキ!」
 クイントはレキに駆け寄る。レキは傷ついた頬の傷を『煉獄の檻籠』で焼くこ
とで止血する。
「大丈夫?」
 レキの頬に触れるクイント。
「ええ。まあ…………………」
 クイントの指は冷たくて良い匂いがするが止血直後なので少し痛い。
 でもクイントが自身の事を心配してくれる事が嬉しかった。
 レキは苦痛を我慢しながら笑う。
[なんか、良い空気になってますがすみません。]
 突然、レキとクイントの間にモニターが出現する。
 モニターには声は真面目なのにニヤニヤと笑っている雪奈が。
 急に二人は恥ずかしくなったらしく、弾かれたかのように離れあう。
[離れなくてもいいのに。]
 雪奈はニヤニヤと笑う。
[………………で、用件は何ですか?]
 レキは溜息をつきながら聞く。
[いやね~。暴走した先天性古代遺失物能力者がフラついているから、捕まえてもらおうと思って。]
[今、交戦したのですが…………………]
 レキは『紅砕滅閃』を発動した後の焦げ跡を見る。
[えっ!?]
 驚く雪奈。
[でも逃げられてしまいました。]
 確かに焦げ跡は在るが、肝心の少女がいなかった。
[そっか。残念。デートの邪魔をしてごめんね。]
[はい!?]
[じゃあ。良いお年を。]
 そう言って、雪奈は一方的に通信を打ち切った。



〈其は約束されし紅の騎士ver 19時51分〉
 少女は壁に寄りかかりながら歩いていた。喪服に似た黒服は所々が焼き焦げている。
「はあ……はっ………か…………がふぅっ……………」
 口からは荒い息を吐く。その吐息はとても痛々しい。
 レキの『紅砕滅閃』は彼女の身体に纏わりついていた黒の靄を焼き払っていた。
 そのおかげで一時的に彼女は理性を取り戻した。しかし、根本までは焼き払えていない。
「がっ……………」
 彼女の口から血が垂れる。その血は異様に黒い。
 血はアスファルトに落ちた。
「かふ…………」
 『神よ。何故、私に重荷を課した』が再び励起する。
 悪意や煩悩を無制限に吸収する事で再び彼女の身体から黒い靄が噴き出し始めた。
 黒い靄が彼女を包み込む。
「あが………くぁぜrぎゅいl@;p「::」mjhgれdふゅいおp」
 再び彼女は自己の先天性古代遺失物能力に飲み込まれる。
 黒い靄が新たなる姿をとる。さっきは石像のような姿であったが、今度は西洋甲冑を装備したような姿であった。



〈其は約束されし紅の騎士ver 20時03分〉
 神威は一人でする事無くブラブラと路上を歩いていた。
 出で立ちは藍色の色無地に白いエプロン。まるで和風給仕のような姿であった。
「ん~。暇だっ!」
 神威は叫ぶ。
 休憩を貰ったのは良いのだが余りにもいきなりだったので、する事が思いつかないのだ。
 【喫茶「華蝶風月」】に戻るには時間がかなり余っている。
 次元航行部隊の【イタリアンレストラン「光の女神(てんし)」】でピザでも食べよう。
 そして、ギャルソン姿と噂のフェイトを襲おう。
 他人にとってはかなり下らなく、神威にとっては楽しい計画を考えながら歩く。
 神威はいきなり、妙な悪寒と頭の痛みを感じた。同時に何かが近付いてくる気配と殺気。
「ん~?」
 周囲を見回す神威。太ももに隠しているナイフを抜いた。
「くぁえdrftgyひこl;p@:」
 上から黒い何かが降ってきた。
 黒い何かは神威に漆黒の剣を振り下ろす。
「おっととと……………」
 神威はナイフで漆黒の剣を受け止める。同時に片手のナイフで黒い何かの身体を斬り付けた。
 その何かの身体は割りと硬い。甲冑でも付けているのだろうか?
 神威は零距離でアクセルシューターを叩き込む。
 魔力光と電柱の光が黒い何かを照らす。
 その正体は黒い騎士のような姿をしていた。
「ん~?」
 神威はその騎士に蹴りを叩き込み、怯んだ隙にバックステップで下がる。
 そして距離をとりながら騎士を検分する。
 形状は西洋甲冑型。武器はなし。ではさっき受け止めた漆黒の剣は腕だったのだろう。
「んんんんんん~?」
 神威はじっくりと見る。
 西洋甲冑の胸には鎧の形とは違う膨らみがあり、わりとスレンダーなデザインだ。
 そこで神威は判断した。この西洋甲冑の中身は女の子だと。
 神威はニヤリと笑う。そして、左腕を横に伸ばす。
「おいで。レナード。」
 その瞬間、神威の左腕に一人の少女が舞い降りる。
 蒼みがかった白い髪と白いゴスロリ服。瞼に収まっているのは碧の双眸。
「頼むね。」
 レナードと呼ばれた少女はニコリと笑う。そして彼女は口を開く。
 彼女の口から漏れたのは歌であった。とても澄んでいて、とても悲しい歌。
 旋律が紡がれた瞬間、黒い甲冑の少女に変化が起こる。
 彼女の甲冑を構築している黒い靄が煙のように漏れ、そして煙のように薄くなって消えていく。
 神威は地を強く踏みしめ、彼女に接近する。そして、黒い甲冑ごと彼女にドロップキック。
 スピードと体重を掛けた神威のドロップキックで彼女の体は飛ぶ。
 彼女の意識が途切れる事で靄自体が弾け飛んだ。
「ん~。可愛い女の子やなぁ~。」
 神威はレナードを送還したあと、彼女に歩きよりしばしばと気絶した少女の顔を見た。
 白くて綺麗な肌をしている。その顔は天使の寝顔であった。
 神威は呟く。
「ん~。食べちゃいたい。」
 神威は少女の方に駆け寄る。
 その時、少女の目が開く。少女の目がぎょろりと動く。
 彼女は起き上がる。まるで人形のようだった。
 再び『神よ。何故、私に重荷を課した』が励起する。
 励起した瞬間、神威の身体から濃厚な黒い靄が噴き出す。
 彼女はその靄を嚥下して、嚥下して、全てを飲み込む。
 そして、吼えた。
「qwセdtgymスdyscfsぢfsづgfsdfl;P@:『』亜zxセdrftgyhjmk、ぉ;P@:@.;ポリクjyhtgbdcxs座d;gdjっきhj・m;j:、skfpgk・:lkdhsjふぉlh:kj;ljgfjdgkfl;g、うhjmzxshfg;jl;jk@l;;ffffktjj;k:;glfhjふゅdfjsd;flm;、vcぇy!!」
それは一種の歓喜に満ちた声であった。
 散らばった靄さえ、『神よ。何故、私に重荷を課した』は吸収する。
 吸収し終えた時、彼女は堅固なる西洋甲冑を来た騎士の姿となっていた。
 彼女は神威へと肉薄する。そして、漆黒の篭手で神威の顎を打ち抜く。
 顎を打ち抜かれた神威は紙の様に吹き飛ぶ。
 神威の身体が壁に叩きつけられる事で止まる。
 しかし、彼女は更に攻撃を行う。
 殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、切って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴りまくる。
 彼女はしばらくしてから、その場を去る。
 その場には彼女に殴られまくって、痣だらけの神威だけが残された。



〈其は約束されし紅の騎士ver 20時23分〉
 裏路地を二人の恋人が歩いていた。
 初詣に行く途中であろう。女性は着物を着ている。
「やっぱり、裏路地を選んで正解だったよな。」
 青年が恋人に言う。彼女も笑顔で肯定した。
 そのとき、金属がぶつかり合う音がした。まるで甲冑を着た人が歩いている様な。
「なんか。変な音しない?」
「ああ。」
 恋人の問いに青年は頷く。
 向こうから何かが歩いてくる。
 ガチャンガチャンと金属のぶつかり合う音を奏でながら。
 恋人たちは向こうをみる。
 しばらく経った後だろうか。正体が電柱の電灯に晒された。
 恋人たちはギョッとする。
 見たままの言葉を借りるのならば、それは甲冑を着た騎士であった。
 しかし、それを騎士と形容するにはおかしかったかもしれない。
 騎士の甲冑と形容するには禍々しすぎるからだ。そして、禍々しい殺気と黒い靄を噴き上げている。
 あえて言うのならば、悪魔の甲冑。甲冑は恋人たちに歩み寄る。
 手には黒い靄で作った鎚が。
 恋人は逃げる。常識的にも本能的にも危ないと感じたからだ。
 しかし、騎士も逃がさない。見た目は鈍重そうだが、動きは速い。
 騎士は鎚を振るい、青年の背中を打つ。青年は壁に叩きつけられる。
 青年の恋人は自分の恋人が壁に叩きつけられた事に気付かず、とにかく走る。
 とにかく逃げ切らないといけないと心が警鐘を打っていた。
 騎士は見逃す気はまったくない。むしろ壊したい。
 着慣れていないのであろう。青年の恋人は転倒する。
「あ………あっ………あ…………………」
 女性は腕を使ってでも逃げようとする。
 でも、もう遅い。騎士が追いついた。
 黒い靄で作った漆黒の鎚を振り上げる騎士。そして、力任せに叩きつける。
 鎚は這ってでも逃げようとする女性の足を叩き潰した。
 骨が折れたときの不快な音がした。
 女性の口が開く。
「ぎゃああっぁぁぁぁぁっぎゃぁあぁぁゃいじゃいゃぁう!!」
 痛みに悶える女性が撒き散らす声が裏路地に響き渡る。



〈其は約束されし紅の騎士ver 20時44分〉
 チンピラたちが歩いている。その顔は楽しそうだ。
 それもその筈。見知らぬ人をカツアゲした挙句、その人の恋人をその人の前でレイプしたのだから。
「んぁ?」
 一人が何かを発見する。
 それは一人の女性であった。壁にはその女性らしき恋人が壁に打ち付けられて気絶している。
「うぇ……へっ……へ…………………」
 チンピラたちは笑う。こんな所に女が落ちていると。
 さっき強姦した女は不細工であったが、今回は割りと上玉だ。
「おうおう。そこのお姉ちゃん。こんな所で倒れてたら危ないぜぇ。」
 一人が女の顔を持ち上げる。
 泣きじゃくって鼻水や涎が垂れているが、拭えば問題ない。
「オレたちみたいな狼に食われちまうぜぇ。」
 女性に手をかけようとしたその時、頭に衝撃を感じた。
 そして、意識を失う。
「なんだお前は!!!」
 他のチンピラたちが叫ぶ。
 そこにいたのは、漆黒の騎士。騎士が握っているのは大きくて長い漆黒の棒。
 おそらく、最初の一人はこの棒で殴られたのだろう。
 チンピラたちに歩み寄る騎士。
 ナイフを抜くチンピラたち。
 突然、騎士は体重を前に倒し地面を強く踏み蹴る。騎士はチンピラたちに肉薄する。
 そして、持っている棒でフルスイング。
 振り抜かれた棒はチンピラたちを薙ぎ払った。
 何人かは壁に叩きつけられてズルリと落ちる。後頭部からの出血で壁に血が塗りつけられた。
 意識が残っている何人かは激痛に耐えながら、這ってでも逃げようとした。
 しかし、黒い騎士が逃がすはずがない。
 黒い靄から槍が精製され、逃げようとする人たちの四肢を貫く。
「ぐぎゃあぁぁあぁああああああぁぁああぁぁぁあぁさあぁぁぁ」
 チンピラたちの痛みによる悲鳴が不協和音となって響く。
 更に騎士は黒い脚甲をつけた足でチンピラたちの身体を蹴る。
 その就撃によって、骨が折れた。
 醜い悲鳴が更に響く。



〈其は約束されし紅の騎士ver 21時15分〉
 一人の少女が道を走っていた。
 お稽古事の帰りだろうか。手には黒い手提げバックが握られている。
 後ろを見る少女。後ろは闇で何も見えない。しかし、少女の背筋に寒気が走った。
 少女には見えたからだ。闇でも隠せないものが蠢いている。
「ひっ…………………」
 怯える少女。しかし、それは追ってくる。
 少女はそれを撒く為に角を曲がった。
 そこあったのは壁。もう逃げられない。
 しかし既にそれは少女を追ってきた。
 手には錫杖を持ち、黒い靄を噴き出しながら。
「あっ……あ……ああああああああああ!!!」
 ついに彼女を追っていたものが姿を現す。
 理不尽な暴力を振るう堅固なる漆黒の騎士が。
 騎士は錫杖を振り上げる。
「あっ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
 少女は判断した。もう駄目だと。自分はこの漆黒の騎士が振るう暴力によって死ぬのだと。
 諦めて、彼女は目を瞑る。最後までこの漆黒の騎士を見ていたくないから。
 しかし、運命というものは少しだけ非情ではなかった。
「なにやってんじゃ!このウスラボケェ!!」
 背後で何者かが勢いづいたドロップキックを漆黒の騎士に喰らわせる。
 ドロップキックで騎士が倒れる。
 彼女は見た。騎士を倒した何者かを。
 それはそれは関西弁を喋る少年だった。方には細長いバックを担いで騎士を睨みつけている。
「あんさん。なにやっておるん?こんないたいけで可愛い女の子に暴力振るおうとしおって。」
 騎士は何も言わない。その代わり、持っていた錫杖を振り上げる。
 少年は溜息をつく。
「それがあんさんの答えかいな。まあ。ええやろ。」
 そう言って、少年は細長いバックの中身を取り出す。
 抜かれたものは釘バットだった。それもただの釘バットじゃない。
 金属製のバットに大量の釘が打ち付けられたものであった。
 少年はその釘バットを騎士に向け、こう言った。
「ワイがあんさんをボコボコにしたる。冬秋。それがあんさんをボコボコにするワイの名前や。」



〈其は約束されし紅の騎士ver 21時35分〉
 陸士部隊の局員たちは住民から近くで乱闘が起きているという通報により、現場に来た。
 そこで局員たちはありえない光景を目にした。
 なんと、漆黒の西洋甲冑を着た騎士と少年が戦っていたのだ。
 漆黒の騎士は漆黒の金棒。少年は釘バット。本当にありえない。
 釘バットの少年は勿論、冬秋。
「おらぁ!」
 冬秋は釘バットを鎧の胴に叩きつける。その一撃で騎士の身体が傾ぐ。
 金棒を横に薙ぎ払う騎士。
 異様な跳躍力で金棒を避ける冬秋。
 局員たちは本気で我が目を疑った。
 これは現実で有り得て良い物であるのだろうかと。
「おい。」
 背後の局員が魅入っている局員の肩を叩く。
 それでやっと、正気に帰る。そして、戦っている二人に言った。
「戦闘を止めなさい。」
 しかし戦闘は終わらない。むしろ激しさが増す。
 冬秋の釘バットが騎士の金棒を砕く。
 騎士は篭手で冬秋に殴りかかる。
「止めなさいと言っているのが分からないのですか!」
 局員は言う。
 騎士はウンザリした様な仕草を見せた。同時に黒い靄が騎士の全面に集束しは
じめた。
「ざざああxせdcrtfvgびゅhにjm、l。;・・・・・;。lくytbvfdcrxs」
 咆哮と共に無数の黒い棘が生える。
 そして、その黒い棘が撃ち出された。
「効くかい!んなもん!!」
 冬秋は黒い棘を全て打ち返す。
 しかし、局員たちは打ち返すどころか防御することも出来なかった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああああ!!」
 騎士が撃ち出した黒い棘が局員たちの身体に突き刺さる。
「おらぁ!ワイはまだまだいけるで!」
 冬秋は黒い棘を打ち返す。しかし所々、棘が刺さっていた。
 このままでは千日手になると騎士は考え、行き止まりにへたり込んでいる少女に槍を飛ばす。
「っ!この外道が!」
 冬秋は全速力で走り、少女に飛んでくる槍を間一髪で叩き落す。
 間一髪で冬秋が槍を打ち落とした時には騎士の姿はなかった。
「ちっ。にげられたわ。」
 毒づいた後、冬秋は少女に手を差し出して尋ねる。
「ちゃんと立てるか?」
 少女は恥ずかしそうに頬を赤らめ、冬秋に言った。
「すみません………腰。抜けちゃって。」
「そうかぁ。」
 冬秋は屈んで少女に背中を向ける。乗れという事らしい。
 顔まで赤らめる少女。しばらくして、冬秋の首に腕を回す。
「じゃあ。行こうか。」
 そう言って、冬秋は少女を背負いながら立つ。
 少女は冬秋に言う。
「………この人たちはどうするのですか?」
「忘れとったわ。おにいさん方。大丈夫ですか?」
 冬秋は少女を背負ったまま、棘の刺さった局員に尋ねる。
「大丈夫だ。」
 局員は苦し紛れに答える。
「とりあえず、救急車呼んだるわ。この場合は時空管理局やな?」
 冬秋は少女を担ぎながら器用に電話をかける。連絡が終わったらしく局員に言う。
「あと数分したら、救急車が来ます。大人しゅう待っててください。」

「ごめんなあ。怖かったやろ?」
 冬秋は少女に近くの自動販売機で買ったココアを渡す。
「ちょっと怖かったですけど…………ありがとうございます。」
 ココアを渡された少女は笑顔で冬秋に言う。
「まあ。どういたしまして。携帯使う?どうせ、事情聴取させられるさかい。
 親御さんには連絡しとかんと。」
 そう言って、冬秋は少女に携帯電話を渡した。
 少女は冬秋に手渡された携帯電話で電話をかける。
 その間、冬秋は自動販売機で買ったコーヒーを飲みながら一服していた。



〈其は約束されし紅の騎士ver 21時57分〉
[エリオ二等陸士。]
 恥ずかしくてしょうがないが、メイド服で仕事をしているエリオに緊急で連絡が入る。
「何でしょうか?」
 客にヒツジ汁を渡した後、エリオは緊急連絡に対応する。
[緊急任務です。各地で立て続けに暴行が起こっております。
 犯人は単独犯のようです。エリオ二等陸士は犯人の捕まえ、騒ぎを止める事を命じます。
 通ると予測したポイント伝えますので、そこで迎撃してください。
「了解しました!」
[では、通信を終了します。]
 そこで、緊急連絡が切られる。
 エリオは行く前にタントとミラに断った。
「すみません。緊急任務が入ったので、抜けます。」
「がんばってね。」
「はい!」
 エリオ専用のデバイスであるストラーダを起動させ、エリオは走り出す。

 エリオは伝えられた場所で待機する。
 バリアジャケットを着ているので寒くは無いが、予測が外れたのではないかと心配になった。
「My Muster!」
 ストラーダがエリオに警告する。しかし、その時はもう遅かった。
 エリオは身体に何かが突き刺さるのを感じた。
 何故か身体には、漆黒の棘が刺さっている。
「ぐあぁぁぁぁ……………」
 道路に膝をつくエリオ。
 その時、犯人が姿を表す。
 正体は穂先が異様に大きい漆黒の槍を持った少女であった。
 穂先が膨らみ、無数の黒い棘が生える。
 少女はゆらりと棘の生えた穂先をエリオに向けた。
 穂先から棘が撃ち出される。
 全部は当たらなかったが、少しずつエリオの体力を奪っていく。
 少女の口が開く。
「くぁswでrtgyじこlp;@:」
 口から出たのは声ではなく、ほぼ咆哮であった。
 咆哮をあげた瞬間、黒い靄らしきモノが少女の身体に纏わりつく。
 一瞬にして、少女が騎士の姿に変わる。
 騎士は槍を創造し、振り上げた。
「うっ……く………」
 エリオは棘の幾つかを抜き、ストラーダを構える。
 槍を振り下ろす騎士。
 騎士が振り下ろす槍をエリオはストラーダで突く。
 ストラーダで突かれたことにより、騎士の槍が二股に裂ける。
 しかしその穂先の矛先は伸び、エリオの身体に突き刺さった。
「ぐっ…はっ………」
 急所は外れている物の、深刻であるには変わりない。
 騎士は更なる攻撃を加える為に、騎士は鎧を黒い霧に戻す。
 鎧が解除され、少女の姿が現れた。
 瞼を開く少女。少女の目は黒と白が逆になっている。
「ざあくぇrc死vtybhjんmk、p。@lねl;jjgklklk」
 黒い靄は新たなる形をとった。
 靄が集束して、漆黒の巨大な円環と珠を形作る。
 円環は急速に回転し、珠は回転しながら円錐に変化し始めた。
「zzうぇrtgbじょl;。ぶfdssdfちhjdshfきゃふkfdhjkl;」
 ひざまづくエリオを見て、少女の口が綻ぶ。
 円錐は回転しながら、撃ちだされる。
 そして、回転する円錐がエリオの身体を貫こうとした時。
「ディバイン………」
 蒼い何かが閃光のように割り込む。
「バスタアあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 その蒼はエリオを貫こうかとしている漆黒の円錐を打ち砕く。
 打ち砕かれた円錐は黒い靄に戻る。
 そこには重傷のエリオと蒼いバリアジャケットを纏った女性。
 エリオはその女性を見て言った。
「スバル……さん………」
 それだけ言って、エリオは気絶する。
 スバルと呼ばれた女性はエリオを抱きかかえ、道の脇に寝かせておく。
「さぁ~て。」
 スバルはリボルバーナックルを嵌めた手を片手の手のひらに叩きつける。
 そして、少女に言った。
「エリオ。そして、君もあたしが助けるから。」
「……………」
 少女は無言で靄で作られた漆黒の鎧を纏い、騎士の姿となる。
 かすかにスバルは口元を緩ませる。
「……………ちょっと、我慢してね。」
 そう言って、リボルバーナックルを構えるスバル。
 顔は既に幾つもの困難な任務を乗り越えてきた局員の顔になっていた。



〈其は約束されし紅の騎士ver 22時30分〉
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 スバルはリボルバーナックルで、騎士の鎚を打ち砕く。鎚どころか、騎士の両
篭手が弾け飛ぶ。
 その隙にスバルは間合いを詰めようとする。
「あzwsdcrtvgbyhんjmk、ll、kjmhgれsw」
 騎士は鎧から太くて鋭い棘を無数に生やす。
 スバルはバックステップで避けようとするが、間に合わない。
 瞬時にバリアを張り、漆黒の棘を防ぎにかかる。
 バリアを張ったおかげで間一髪の状態で棘を避ける事に成功した。
 しかし時間差できた錫杖を防ぐことが出来ず、吹き飛ばされる。
「ウィングロードッ!」
 スバルは空中でウィングロードを張り、足場を作る。
「ん~。」
 ウィングロードで体勢を整え、スバルは考える。
 この千日手に近い状況をどうするか。
 実はさっきからずっとこの攻防戦が続いているのだ。
 スバルが騎士の武器を破壊して懐に潜り込もうとすると騎士がカウンターで無数の棘や槍を生やして来る。
 逆に騎士の攻撃はスバルが全て迎撃して騎士の武具を破壊する。
 騎士の武具が黒い靄で出来ているが故に何も無いが、そうで無かったら道はかなり凄まじい状況になっていただろう。
「どうしたら良いんだろ…………これ。」
 少し溜息をつくスバル。しかし、悩んでもしょうがない。
 性急ではあるが、使用しないといけないらしい。
 スバルはリボルバーナックルを握る。そして、術式を謳うように詠唱する。
「我は幾千の災いを受け流す者にして、我は幾千の難を穿ち抜く者。我は幾千の万象を断つ……………」
 スバルの魔法が発動する。
 リボルバーナックルのシリンダーが高速回転する。同時に周りに漂う魔力がス
バルの腕に集束する。
 徐々にリボルバーナックルを付けている部分以外も、最終的に肩の付け根ぐらいまで空のような蒼から濃い群青色に染まっていく。
 スバルはウィングロードから飛び降りる。
 騎士はスバルの攻撃を迎撃しようと、巨大な棘を無数に生み出す。
 無数に生み出された棘をバリアでふせぎながらもスバルは突っ込む。
 そして、その蒼く染まった右腕を持って騎士を抱き締めた。
「……………フラガラッハ」
 リボルバーナックルのシリンダーが高速回転する。回転するシリンダーから黒い何かが吐き出される。
 それと同時に騎士の鎧が徐々に無くなっていき、それと比例して、シリンダーの回転する勢いが増していく。
 黒い何かがシリンダーから出なくなったとき、その回転は止まった。
 スバルの腕の中には一人の少女が収まっていた。
「もう。大丈夫だよ。」
 腕の中に収まる少女にスバルは言う。
 少女が不意に顔をあげる。彼女には黒い靄がスバルの背後で集まっていくのが見えたからだ。
「お姉ちゃん!逃げて!」
「え……………?」
 スバルと少女の身体に何かが貫通していた。それは真っ黒な槍であった。
「…………ぐ……………はっ……はっ………」
 喀血するスバル。
 スバルの吐き出した血が少女の顔を汚す。
「お姉ちゃん…………」
 少女の目から涙がこぼれる。漆黒の槍が少女の身体の中に飲み込まれていく。
 眼球が再び、白と黒が反対となる。
 漆黒の槍が完全に少女の身体に飲み込まれたとき、スバルの身体が崩れ落ちる

 少女の口が開く。
「zくぁあくぇrちゅいおぱsdfghjkl;:zcvbんm、。・fvtgbyhぬjみ、こl「:¥」!!」
 それは一種の咆哮であった。しかし、その咆哮には悲哀が混じっていた。

「うっ…………くっ………………」
 エリオは起き上がる。
「スバルさん!」
 そこにはスバル
が倒れていた。
 腹部からはおびただしい出血痕がある。
 エリオはスバルに駆け寄る。
「エリオ……………」
 まだ意識があったらしく、スバルはエリオに言った。
「……あの子……を…………助けてあげて……………………」
 そう言って、スバルの意識は途切れた。



〈其は約束されし紅の騎士ver 22時55分〉
ワタルはふらふらと人込みの中を歩いていた。
 数時間前にはギンガにフラレ、そのまた数分前には『涼香はギンガさんの物』宣言。
 正直、欝だ。大晦日なのに財布も気持ちも極寒地獄。
「はぁ…………………」
 ワタルは溜息をつく。
 口から何かが出ているのは気のせいだろうか。
 吐き出しているのは俗に言うエクトプラズマと言わないだろうか?
 そんなワタルの隣を一人の少女が通り過ぎる。
「!?」
 ワタルは隣を通った少女にありえない気配を感じ、いきなり顔をあげた。
 しかしその少女は既にいない。
 ワタルは彼女を行った方向を追いかける。少女は見つけたが、人込みに邪魔されて追いつけない。
 まさかこんな所で絶影も起動できない。完全に八方ふさがりだ。
 遂には、彼女の姿すら見えなくなった。
 ワタルは溜息をついた。しかし、彼は気付いていない。
 いや。知るよしも無かった。
 もう少し根気良く追いかけていれば、後に続く惨劇を止めれたかもしれない事を。



〈其は約束されし紅の騎士ver 23時09分〉
 【居酒屋「苺壱枝」】の店長である月城天音は買い物袋をぶら下げながら歩いていた。
 本当なら女性一人が持てる量だけでは足りない。
 しかし彼女にはカリスマという物があり、彼女に心酔して無条件で付き従う者達がいるからだ。大体の荷物はその人たちに任せてある。
 だから彼女は料理の隠し味になる材料を買う程度でいいのだ。
 それ以外は彼女の下僕が買ってくるから。
 そのカリスマ性が故に彼女は一部で『閣下』と呼ばれていた。
 しかし、彼女が『閣下』と呼ばれている本当の理由を知るものは数少ない。
 天音は次に何を買おうかとのんびりと考えながら歩く。
 不意に天音は懐かしさを感じた。いや。昔の感覚を思い出した。
 そう。同族と出会った時の様な。
 周囲を見る天音。そして、勘と本能で見つけた。
 漆のように黒くて長い髪。喪服の様な黒い服。
 そして、妙に息苦しい空気。呼吸するたびに喉や頭が痛くなる。そして段々、寒気に似た感覚も感じてきた。
 天音はなんとなくついていってみる。
 しばらくして、路地裏まで辿り着く。
 そこで少女は振り向く。そして怪しげな笑顔で笑う。
 次の瞬間、少女は騎士の姿に代わる。
 どうやらコッチが誘導されてしまったらしい。
 騎士は鎚を作り出し、天音に向ける。
 天音はニヤリと笑う。それはいつもの笑顔じゃない。
 野獣のような殺意に満ちた笑顔であった。
 買い物袋を下ろし、天音はコートの裏ポケットから手袋を取り出す。
 その手袋をはめ、天音は先天性古代遺失物能力『白の魔女』を起動する。
 全ての精神が切り替えられ、『閣下』と呼ばれている本当の理由が証明される。
 彼女は騎士に対して言った。
「来なさい愚民。無様に跪かせてあげる。」
 騎士は天音に鎚を叩きつけようとする。
 その鎚に対して天音は腰を軽く沈め、腰を捻りながら握り締めた拳を迫り来る鎚に打ち込む。
 拳を叩き込まれた鎚は地響きのような轟音を立てて砕け散る。
 砕け散った鎚は白い光となり、腕の中に吸い込まれていく。
 天音は更に迫撃する。
 地を踏み込み、騎士に飛び蹴りを叩き込む。騎士は両手を組んで防御する。
 その蹴撃で騎士の身体が吹き飛ぶ。端から見ると凄まじい光景であった。
何故なら巨大な騎士が二回りも小さい天音の蹴撃で吹き飛ばされているのだから。
 天音は着地と同時に地を踏み込み、騎士に肉薄する。
「ヴァイス………」
 右拳を引くと同時に『白の魔女』の能力を発動し、鎧に叩き込む。
「ファウスト!!」
 大量の熱量を孕む光を纏った右拳が騎士の鎧を溶かし尽くす。
 鎧を溶かされた事によって、少女が姿をあらわした。
 少女は残りの靄を集め、攻撃に転化する。
 靄が集束して、漆黒の巨大な円環と珠を形作る。
 円環は急速に回転し、珠は回転しながら円錐に変化し始めた。
「まだ足掻くのですか。この愚民が。」
 吐き捨てる天音。
 円錐は回転しながら撃ちだされる。
 天音は足幅を大幅に開き、腰を沈めながら捻る。
「白葬突閃」
 握った拳に『白の魔女』の能力を集中させ、円錐を突くと同時に解き放つ。
 大量の熱量を孕んだ白い閃光が円錐と少女を飲み込む。
 光が消えた時、そこには少女の姿はなかった。
「逃げましたか。」
 そう言いながら、天音は能力を解除する。
「さて。そろそろ買う物を買って帰らないと。」
 天音は手袋を外してコートの裏ポケットに納め、買い物袋を拾い上げて歩き出した。


〈其は約束されし紅の騎士ver 23時15分〉
「スバルが重体!?」
[はい。]
 ティアナは【イタリアンレストラン「光の天使」】でスバルが重体で病院に運
ばれた事を知らされた。
[スバル・ナカジマ二等陸士は各地で立て続けに起きている暴行の鎮圧という緊急
任務中に事故で重体となり、時空管理局管轄の病院に運ばれました。
 犯人は単独犯のようです。
 ティアナ・ランスター執務官補佐にはスバル・ナカジマ二等陸士の任務を引き継いでもらいます。了解でしょうか?」
「はい。」
 ティアナは頷き、管理局の出した任務を請け負った。
 オペレーターはティアナに言う。
[緊急任務の内容を説明します。犯人の捕まえ、騒ぎを止める事を命じます。]
「はい!」

「ティアナ。気をつけてね。」
 フェイトはティアナに言う。
 クロスミラージュをチェックしながらティアナは言う。
「大丈夫です。ちゃんと任務は遂行します。
 そしてスバルの仇もとります。」
「頑張ってきてくださいね。」
 レンはティアナの肩を軽く叩く。
「ええ。分かりました。」
 そう言って、ティアナは【イタリアンレストラン「光の天使」】を出た。

 ティアナは瞬時に犯人を発見した。
 犯人である少女はティアナの方に歩いてくる。
 見た目はともかく、身体からは常人ではありえない位の禍々しい空気を放っていた。
「そこの貴女!止まって投降しなさい!!」
 ティアナは少女にクロスミラージュを向けながら勧告する。
 しかし少女は黒い靄を纏いながらティアナに向かって進んでくる。
 口元には壊れたような笑顔を浮かべながら。白と黒が反対になっている眼球は忙しなく動いている。
「ヒャはhさあhsgはdがjdがshdがああああああああああdかsでゃおdまsだsでゃsggだjhだsdかshgdたkdじゃsdがしゃはははははっはsdじゃghさhhさでゃでゃdgはdがhだhだ」
 口からは涎が垂れ、壊れたレコードのような笑い声が響く。
 ティアナは恐怖を感じた。あんなのが人間であるはずが無い。
「はあぁあ!!」
 クロスミラージュの引き金を引く。銃口から弾の球体が撃ちだされた。
 しかし黒い靄が触手のようにうねり、橙色の弾を全て絡め取る。
 その靄は更に伸び、ティアナの身体も絡めとって包み込む。
「がだyrぐぇhfsdyfsづrfせ悪kうぇでゃうぃうrせy夢sdjkkltgrjgyどkfノdfl;gfkxl;hf黒;sdlgkds葬ldfgkdfl;gkd棺gjsdghsdfgsdfysd」
 黒い靄は棺のような匣の形をとる。
 ティアナは棺の中から出ようとするが、匣にヒビを入れる事すら出来ない。
 少女は壊れたかのように笑う。そして、ティアナに狂気を植え付ける。
「キャぁぁDぁぁXだHSヅァfmdンGDFGKDFJ愚dfgkjsdfcfkしづfdkfjsヅ,TFKDJ腐sdfkdht、gkdftgkdfjgfvg期GDFKGDFGFDGJDFGKDFG木FVGF気gf4」
 棺の中からは、ティアナの悲鳴が聞こえた。しかしその悲鳴は人間が発する言語ではなかった。
 ティアナは少女によって、棺の中で悪夢を見せられていた。いや。正確には嫌な思い出を思い出させられていた。
 黒い棺の中の闇が光と時間を奪い、棺の中に充満する狂気がティアナの思い出したくない想い出を引きずり出し、そして幸せな想い出を壊し尽くす。
 少女はティアナの鳴き声を聞き飽きたらしく、棺を圧縮させる。
 圧縮する棺はティアナの身体を潰していった。
 少女が歩き去り、棺が消えた道路。
 そこには、穴という穴から液体をだらしなく垂れ流しているティアナだけが残された。



〈寒天&リンディver 23時50分〉
「あともう少しで新年ですね。寒天さん。」
「そうですね。リンディさん。」
 寒天はリンディとデートしていた。勿論、【中華「覇道軒」】の仕事を抜け出して。
 正確にいうとリンディがお店に来た途端、首都防衛部隊の局員全員で寒天をリンディに差し出した。
 寒天とリンディを送り出す時、首都防衛部隊に所属する局員全員がまるで申し合わせたかのように親指を立てた。
 二人を送り出す局員たちの顔はとてもいい顔だった。

「後、もうちょっとで今年も終わりますね。」
 アナウンスを聞きながら寒天は呟く。
「そうですね。」
 リンディは寒天の横顔を見ながら、無邪気に笑う。
 そして寒天に言った。
「今年もお世話になりました。」
 そう言って、腰を折るリンディ。
 自分に腰を折るリンディを見て恥ずかしくなったのだろう。
 寒天も挨拶し返す。
「こ………こちらこそ。」
 やっぱり照れているのだろう。その頬は仄かに赤い。
「カウントダウンを開始します!」
 アナウンスが入る。
「10!」
 周辺の人たちが腕を振り上げた。
「 9!」
 二人も何気なく腕をあげる。
「 8!」
 寒天の横顔をチラリと見るリンディ。
「 7!」
 その顔は少年のようであった。。
「 6!」
 リンディは意を決する。
「 5!」
 ふと、寒天の名を呼ぶリンディ。
「 4!」
 寒天はリンディの方を見る。
「 3!」
 リンディは寒天の首に腕を回す。
「 2!」
 少し驚く寒天。
「 1!」
 リンディは寒天に顔を近づける。
「Happy New Year!!」
 新年を祝う花火が咲くと同時に、二人の唇が重なりあった。
 内心、ドキドキしながらリンディは唇を離す。
 そして、顔を真っ赤にしている寒天に笑顔で言った。
「今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ……………」
 寒天は顔を赤らめながら、苦笑しながら笑う。
 苦笑する寒天に顔が眩しくて、リンディは俯いてしまう。
 リンディが顔を真っ赤にして俯いてしまったので、寒天も俯いてしまう。
[寒天一等陸尉。]
 オペレーターから緊急通信が入る。
 寒天は顔を上げる。
[なんだ?]
[寒天一等陸尉に緊急任務です。]
[ほう?]
 寒天は緊急任務が入ったことに驚く。
 通常なら、陸尉や空尉の階級を持つ局員に緊急任務が入る事は珍しい事だったからだ。
 それも寒天は首都防衛部隊の一等陸尉。任務はそうとう深刻な事態に陥っていることになる。
「任務の内容は?」
[緊急任務の内容を説明します。各地で立て続けに起きている暴行の鎮圧ならび、犯人の拘束による騒ぎの停止を命じます。]
 緊急任務の内容に寒天は首を傾げる。
「ストライカーのチビ共はどうした?
 その関係ならあいつらの方が得意だろ。」
[スバル・ナカジマ一等陸士。ティアナ・ランスター執務官補佐。エリオ・モンディアル二等陸士は任務の失敗で病院に収容されました。]
「そうか………」
 寒天はまさかスバルたちがやられているとは思わなかったので少し驚く。
 驚きながらも愛用の拳銃を取り出し、カートリッジと特殊弾頭の数を確認する。
 そして、拳銃にカートリッジを装填した。
「了解した。」
[0時05分を持って、寒天一等陸尉に緊急任務を命じます。
では、失礼します。]
 そう言って、オペレーターからの緊急通信が途切れた。
 寒天はリンディに頭を下げる。
「すみません。」
 頭を下げる寒天にリンディは笑顔でやんわりと言う。
「良いですよ。」
 リンディは両手で耳の辺り押さえ、寒天の顔を上げさせる。
 そして。

 ちゅっ………

 寒天の頬に口付ける。
 唇を離し、リンディは笑顔で言った。
「お仕事……頑張って下さいね。」
「はい。」
 寒天はリンディに手を振られながら走り出した。



〈其は約束されし紅の騎士ver 0時43分〉
「お前だな。各地で立て続けに起きている暴行騒ぎの元凶は。」
 狂気を撒き散らかしながら歩く少女の前に一人の青年が現れた。
 その青年こそ、時空管理局首都防衛部隊所属の局員にして、最強の一角。
 『凶弾の暴君』 寒天一等陸尉。
 煙草をくわえ、紫煙を揺らしながら睨みつける。
 周囲の狂気や悪意が黒い靄となり、少女を包み込む。
 同時に撃鉄が落ちるような音が響く。
 黒い靄の一部が吹き飛び、少女の頬に紅い線が引かれ、そこから血が流れる。
寒天の手には一艇の拳銃が握られ、その銃口から硝煙らしき煙を上げていた。
 寒天は頬から血を流す少女に言う。
「てめえを捕まえないと、リンディさんとデートの続きにいけねぇんだよ…………黙って、捕まれ。」
 声には怒気が孕んでいる。デートを中断された事がご立腹らしい。
 無言で少女は黒い靄を纏う。今回は全体ではなく、靄を固めて槍を作り出す。
 寒天は煙草のフィルターを噛み、銃口を少女に向ける。
「それがてめえの答えか。良いだろ。俺がお前にダンスマナーを教えてやる。そして、俺の銃弾がお前を喰い千切ってやる。」
 少女は寒天が言い終わるか終わらないかの内に槍を持って突っ込んできた。
 寒天は間髪も入れず、銃の引き金を引く。銃口からは高速回転する魔弾が撃ちだされる。
 高速で回転する魔弾は少女の肩を撃ち抜く。
 黒い靄が肩に集中するのを眺めながら寒天は言う。
「こんなちゃちな攻撃方法で俺を倒す気かよ。」
 寒天は魔弾をばら撒く。少女の身体の部位に魔弾が正確に撃ち込まれる。
 飛んでくる魔弾を少女は黒い靄で受け止めた。
 しかし靄が受け止めた魔弾の尻に魔弾を叩き込み、無理矢理に貫通させた。
 時には弾が少女に撃ち込まれ、時には少女の肌に紅い線が引かれる。
 寒天は短くなった煙草を携帯灰皿に吐き捨て、少女に言った。
「てめぇ。やる気あんのか?」
 少女は周囲の悪意や煩悩をかき集め、黒い靄にして噴き出す。
 勿論、その黒い靄の中には寒天の煩悩も含まれている。
 その黒い靄が集束し、無数の槍を作り出す。
「やれば出来るじゃねぇか。」
 寒天はニヤリと笑い、薬室で魔弾に回転と魔力を加えていく。
 作り出された無数の槍を少女は射出する。
 迫り来る無数の槍に対し、寒天は拳銃の引き金を引く。
 撃鉄が落ちると同時に耳が劈くような轟音を放ちながら、魔弾が撃ち出される。
 銃口から撃ち出された魔弾はある槍を破壊し、ある槍の軌道をずらし、ある槍を薙ぎ払った。
 威力も音も「ハンドキャノン」と言う枠にすら収まらないくらいの物であった。
 撃ち出された衝撃波で少女に纏わり付いている黒い靄をも吹き飛ばした。その所為で寒天のくわえていた煙草の火も消える。
「ちっ。煙草の火も消えちまった。」
 寒天は片手で少女を拳銃で撃ちながら煙草に火を付ける。
 少女はその隙に新たなる槍の軍勢を寒天に叩き込む。
 無数の槍によって、寒天は串刺しになる事は安易に予想できた。
「はっ。」
 寒天は煙草のフィルターを噛みながらシニカルに笑う。
 飛んでくる槍を踏んで高く空に跳躍する。
 満月の空に『凶弾の暴君』が舞う。月面宙返りすると同時に、空中で腰のホルスターに付けているもう一艇の拳銃を抜く。
 ニ艇の拳銃で無数の槍と少女を撃つ寒天。銃弾が発射される音が途切れる事無く鳴り響く。
 無数の槍が刺さる地面に寒天は綺麗に着地し、一艇の拳銃を腰に収める。
「はっ。こんなものかよ。」
 漆黒の槍が黒い靄に戻る中で寒天は笑う。
 『凶弾の暴君』がカートリッジを装填しながら笑う。
 少女は寒天に恐怖を覚えた。何故なら、今までの相手たちとは段違いであるから。
「やる気がねぇのなら、捕まっちまえよ。」
 紫煙を吐き出す寒天。
 少女は吼える。
「Zクァtfvg謬Hにjm座Sぇええjkml;@『:L手dwさsdkjかsfsdfgksdfsdhsfgdfjsdjdcsッ打者jdhjdghdfjgdfhjfhdjfsdkcfdjskgf腐gdfhjjjjjfdjdjgdkgksp」
 周囲の悪意や煩悩を取り込み、少女は黒くて濃厚な靄を噴き出す。
 寒天は少女の噴き出すものに絡め取られる。
「ふゅjmgty授受jhhjjhhh悪hghsgysgsh者はSファつぁks者だJさJさgdか夢ghファSだKファSじゃ市足fscんふjhfづfhのsd不s中sd黒亜Jだhffッファうyファ葬skhjfふsghh棺ksdgsdhgsjjmんちゃすydふぁtふぁだちゃだjだうhだd!!」
 黒い靄は棺のような匣の形 寒天の中にある想い出も壊されていく。リンディとの想い出を破壊しようとしたとき。
 ついに、寒天がキレた。
「…………人の思い出を汚してんじゃねぇ!!」
 寒天は魔力が残っているにも関わらず、特天を閉じ込めた少女は安堵で壊れた笑顔で笑う。
 口から擦れた咆哮が漏れる。
 中から寒天が現れる。その目は殺意で満ちている。
 寒天は言った。
「人の思い出を汚しやがって………………覚悟は出来てんだよなぁ?」
 身体から狂気や殺気が溢れ出す。
 その狂気や悪意は少女によって、黒い靄に変換されて吸い込まれる。
「亜qzzセdcrtfvg謬HにJもK、pl。@;.:クァウェRチュいおlp;@:

 キレた寒天に恐怖を感じ、少女は無数の槍を飛ばす。
 寒天は飛んでくる槍を特殊弾頭が装填された拳銃で撃ち落していく。
 そして、少女に近付いていった。
 少女は槍を飛ばすことで寒天の歩みを止めようとするが、寒天はその歩みを止
めずに進む。
 時に特殊弾頭を撃ち込んで破壊し、時にマガジンを填め替え、時に身体に槍が
突き刺さろうとも歩む事を止めない。
 少女は寒天の全身から放たれる気迫にたじろぐ。
 銃口を向けながら寒天は言う。
「ダンスは終わりだ。投降しろ。」
 最後の悪あがきなのか少女は拳銃を持つ寒天の肩を狙って、零距離発射で作り出した漆黒の槍を突き刺す。
 寒天は肩の骨が貫通する痛みに耐えながら、少女に銃口を向け続ける。
「やっと。追いつきました。」
 背後で誰かの声がした。
 少女に銃口を向けながら、寒天は後ろを振り向く。
 そこにはユニゾン形態の幽霧がいた。
「寒天さん。」
 幽霧は静かに言う。
「私にこの子を任せていただけないでしょうか?」 少女に銃口を向けながら寒天は言う。
「これは俺の獲物だ。俺の大切な人を汚しやがった。」
「そこは私の顔を立てて。」
 幽霧を睨む寒天。
 どの位経っただろうか。寒天は銃口を向けた状態で言う。
「分かった。俺の部下の中で唯一、個人的な我儘を一度も言わなかったお前の頼みだ。」
「ありがとうございます。」
 幽霧は寒天に礼を言う。
「選手交代だ。精々、尻振りながら無様に逃げやがれ。」
 少女に銃口を向けながら寒天は言う。
 そして、引き金を引いた。
 撃鉄が落ち、銃口から特殊弾頭が撃ち出される。
 時間を空けた為か、掻き集めた黒い靄で受け止められた。
 少女は濃厚な漆黒の靄を纏いながら逃走する。
「幽霧。」
 少女を追いかけようとする幽霧を止める寒天。
「こいつを持ってけ。」
 それはマガジン。それも特殊弾頭が装填されたマガジンだった。
「ありがとうございます。」
 そう言って、幽霧は少女を追う。
 寒天は壁によしかかりながら、煙草を口にくわえる。
 ジッポライターで火を付けた。
 そして、空を見上げながら紫煙を吐いた。



〈其は約束されし紅の騎士ver 1時45分〉
 幽霧は少女を追って走る。
 何故か幽霧の太腿から爪先にかけて魔法陣に似た紋章が浮かび上がっていた。
 少女は幽霧を狙って、黒い円錐を無数に射出する。
「アルフィトルテ。」
 幽霧の手にリボルバー型とオートマチック型が複合したような大型拳銃が出現した。
 拳銃の銃杷を握り、引き金を引く幽霧。銃口から紅い一閃が走る。
 紅い一閃は回転しながら飛んでくる円錐を撃ち落とす。
 撃ち落された円錐は地面に突き刺さる。
 幽霧は地面に突き刺さった円錐を蹴り、空中で少女を撃つ。
 少女は靄を集めて黒い盾を作り、魔弾を防ぐ。
 足止めをするために幽霧は少女の前方にバインドを仕掛けた。
 真紅の魔法陣から魔力で構築された鎖が出てくる。
「Q座wTg謬Hにjm、尾kl;・:¥い、くjmyhんtgべdcws」
 少女は靄を鎌に変え、鎖を全て薙ぎ払う。 
「ディヴァインアクセル………シュート」
 幽霧は背後に大量のスフィアが出現し、少女に向かって飛ぶ。
「Qzぇcrtv謬煮も、。P;・;lkjmhンgbfvdcxs」
 少女はカウンターで漆黒の棘を大量にばら撒く。
 カウンター攻撃を防げず、幽霧の身体に棘が突き刺さる。
 幽霧は痛みに耐えながらも少女をアルフィトルテで撃つ。
 高速回転する真紅の魔弾は黒い靄を吹き飛ばして少女の背中に着弾する。
 少女は無様に転倒した。
 起き上がる少女。
「投降して下さい。」
 幽霧は転倒した少女にアルフィトルテの銃口を向ける。
「クァウェrty不意子lp;@:『』:座嗚呼嗚呼sxdcfvgbhンjmk、、喜寿ygtrフェ身kjytrさwwッウェR」
 少女は幽霧を睨みつけながら吼える。濃厚な漆黒の靄は暴風となって、周辺に吹き荒れる。
 次の瞬間、漆黒の暴風が渦を巻き始めた。
 次第に大気の渦が球体のような形を取る。
 バチバチと周辺の砂利が舞い上がって、歓喜の産声をあげた。
 その漆黒の暴風は幽霧に牙を剥く。
 漆黒の暴風は車すら巻き上げる程の烈風の槍と化し、いとも容易く幽霧の身体を吹き飛ばした。
 吹き飛ばされた幽霧は周辺の大木に衝突する事によって止まった。
 幽霧の衝突した大木はあまりの衝撃に、轟音を立てながら折れる。
 すぐに次の攻撃が来ると幽霧は考えて身構えるが、一向に来ない。
 どうやら単発であったようだ。
 しかし、また黒い暴風が集束し始めた。
「アルフィトルテ。レイルブラストモード。」
 拳銃が真紅の粒子と化し、新たなる形を組み上げる。
 真紅の粒子が組みあがり、幽霧の身長以上もある巨大な砲筒を形成した。
 幽霧は砲筒のグリップを握り、魔法を発動させる。
「其は崩滅する雷鎗」
 カートリッジが弾け飛び、カートリッジに内臓されている魔力が電磁波に変換される。
 幽霧は砲筒の銃口を少女と隣で集束する暴風に向ける。その銃口は電磁波で軽く放電する。
「シュート」
 幽霧はアルフィトルテの引き金を引く事で一閃を解き放つ。
 銃口から撃ち出された一撃は空気摩擦で赤熱された橙色の閃光が撃ち出された。
 解き放たれた一閃は空気を押し出し、発射時に立ち込める粉塵すら吹き飛ばす。橙の一閃は一瞬遅れて轟音を起こす。
 幽霧の撃ち出した橙色の一閃は暴風を薙ぎ払う。
 その一撃は周辺に漂っていた黒い靄すら吹き飛ばした。
「はあ………はぁ……はぁ…」
 幽霧は荒い息を吐く。何故なら、暴風の塊を吹き飛ばすために大量の魔力を消費したからだ。
 その上、さっきの一撃がまだ後を引いていた。身体が上手く動いてくれない。
 少女はニヤリと壊れたかのように笑い、黒い靄を纏う。
「クァ枝drftgy富士子P;@dtryhm、lkk、kgytf」
 壊れたレコードのような笑い声を上げる。黒い靄が渦を巻くように少女の身体に纏わり付く。
 黒曜石で作った石像の様な滑らかな黒い肢体。背中には漆黒の翼。ビロードで作ったかのような黒いドレス。
 幽霧は変化した少女を見て呟いた。
「天使……………」
 少女は笑う。その笑顔はとても蟲惑的であった。
 周囲の黒い靄が集束して、二重螺旋が刻まれた円錐を作り出す。
 円錐は高速回転しながら、幽霧へと迫る。
《ママぁ!!》
 アルフィトルテは叫ぶ。しかし、満身創痍の幽霧は膝をつくことしか出来ない。
《……………っ!其は守護と葬祭の紅!》
 強制的にアルフィトルテは魔法を起動した。
 全身に魔法陣に似た紋章が浮かび上がり、足元には真紅の魔法陣が浮かび上がる。
 一瞬にして、主導権を反転した。
 二重螺旋が刻み込まれた円錐と幽霧がぶつかり合う。あまりの衝撃に砂埃が起きる。
 砂埃が晴れた時、そこには一人の女性が円錐を掴んで立っていた。しかし、それは幽霧でなかった。
 その長身痩躯の女性は肌が白い以外が、髪・瞳・ドレス全て真紅であった。
 女性は謳う様に呟く。
「アヴゾォーヴシフト」
 円錐が一瞬にして、魔力に変換される。その魔力は瞬時に女性に取り込まれる。
《あ……………アルフィトルテ………》
 真紅の女性は胸に手を当てて、自分自身に言い聞かせるように言う。
「大丈夫。ママはアルフィトルテが守るから。」
 なんと、長身痩躯の女性はアルフィトルテだった。
 アルフィトルテは少女に言う。
「覚悟してね。アルフィトルテはママのように優しくないから。
 お姉さんの存在要素を全て飲み込んであげる。大丈夫。私の胃袋は宇宙だよ♪」
 アルフィトルテは長いドレスの裾を風に揺らしながら疾駆する。
 疾駆するアルフィトルテを迎撃する為に少女は黒い靄から漆黒の槍を作り出す。
 少女は槍を横に薙ぎ払う。アルフィトルテは上に跳躍する。
「ディヴァインアクセル」
 そして空中で「ディヴァインアクセル」を発動する。
 アルフィトルテの背後の真紅のスフィアが無数に現れた。
「シュートォ!」
 高速回転する真紅のスフィアが少女に向かって飛ぶ。
 少女は槍を横に振るい、飛んでくるスフィアを薙ぎ払う。
 しかし捌ききれず、少女は吹き飛ばされる。
 アルフィトルテは親指。人差し指・中指を立てた。そして言った。
「其は白き炎!」
 指先に魔法陣が展開される。展開された瞬間、その魔法陣に周辺の魔力が指先に集束した。
 集束された魔力は熱量に変換され、指先が純白に発光する。
 指先からは、純白の熱線が少女を狙って撃ち出される。撃った反動により、アルフィトルテの身体が後ろに下がる。
 少女は向かってくる純白の熱線に対し、黒い靄で作った盾を駆使して受け止める。しかし余りの熱量に盾が蒸発した。
 更にアルフィトルテは追撃を加える。
「アイギス」
 アルフィトルテは零距離発射で「アイギス」を発動する。
 少女の身体が硬直する。
 硬直した少女の胸部に手を置き、アルフィトルテは止めを刺した。
「アヴゾォーヴシフト・イロウス」
 その魔法によって、少女の体内を侵食していた濃厚な狂気を全て魔力に変換して吸収した。

「これで大丈夫だね。」
 アルフィトルテは「アヴゾォーヴシフト・イロウス」によって倒れた、少女を抱き上げながら言う。

 リイィィィィィイン……………………

 突然、奇妙な耳鳴りがした。その音は段々大きくなっていく。
《アルフィトルテ!!》
 叫ぶ幽霧。
「ふぇ?」
 少女の瞼が当然開く。そして、言った。
「助けて。」
 開かれた瞼から涙がこぼれている。
 それは懇願の声であった。
「助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。」
 少女の身体から突然放たされた衝撃波にアルフィトルテの身体が弾き飛ばされる。
 突然の事になり、アルフィトルテも防御できずに吹き飛ぶ。
 しかし足に力を入れて踏ん張ったおかげでどうにか踏みとどまる。
 妙な感覚に上空を見上げるアルフィトルテ。
 そして、驚く。上空には黒い靄が渦巻いていた。
「ママ……………」
《きっと核まで吸収できなかったんだ。だから………暴走してる。》
 少女にどす黒くて濃厚な靄が吸い込まれていく。
 吸い込まれていくたびに少女の身体がビクンビクンと跳ねる。その姿は凄く痛々しかった。
 幽霧もアルフィトルテも少女の方に行こうとしても、衝撃波が邪魔をして進めない。
 少女は黒い靄に包まれ、黒い繭のような形をとる。
 そして、繭が割れる。そこから少女が姿を現れる。
 幽霧とアルフィトルテは息を呑む。
 そこにいたのは、少女ではなかった。一人の女性であった。
 漆を塗ったような漆黒の髪。深淵の様な黒の瞳。黒いイブニングドレス。
 まさしく、黒の化身。
「クァzxsdcrチュいおP@;、mkh重ytvfgチュ言うjhtyyyyy」
 口からは人間の発する音じゃない咆哮が発せられる。
 それと同時に今までの事が遊びであったかの様に今までより遥かに濃厚な黒い靄と瘴気が放たれた。
「……………………」
 アルフィトルテも幽霧も少し唖然としていた。
 幽霧は今までより遥かに濃厚な黒い靄と瘴気が放たれる中、アルフィトルテに言った。
《アルフィトルテ……………………》
「なに?ママ。」
《あの子…………助けてって、言ったよね?》
 幽霧の言葉にアルフィトルテは頷く。
「うん。」
《助けよう。アルフィトルテ。》
「うん。あの子を助けてあげよう。
 アルフィトルテも助けてあげたい。」
 二人の意見は完全に一致した。
 幽霧はアルフィトルテの中で左手を胸部に置き、言霊を紡ぐ
《我が身は何も持たない骸の屍》

 アルフィトルテも左手を胸の上に置き、幽霧と同じように言霊を紡ぐ。
「Was ist das Skelett ohne Seufzer der Corpse」
 全身に魔法陣に似た紋章が浮かび上がり、足元には真紅の魔法陣が浮かび上がる。
《その身体は虚で出来ている 》
「Der Korper ist moglich in der imaginaren」
《血は涙で、心は虚無》
「Tranen von Blut, der Geist ist leer」
 幽霧とアルフィトルテがゆっくりと溶け合っていく。
《幾たびの戦場と地獄を越えしも不変》
「Mehrere Diener uber das Schlachtfeld und Holle invariant」
《ただ一度の敗北も無く》
「Aber wenn es keine Niederlage」
 全身に浮かび上がる紋章が光を放ち始める。
《ただ一度の勝利も栄光も無い》
「Aber einmal ist auch kein Sieg Ruhm」
《理解される事も無く》
「Es ist auch verstanden zu werden uberflussig」
《彼の者はただ一人》
「Er ist die einzige Person,」
《虚無と涙におぼれる》
「Drown in Tranen und nihilistisch」
《故にその生涯には》
「Daraus ergibt sich die Lebensdauer」
《悔いも意味も無い》
「Bedauert auch keinen Sinn, 」
 紋章の色が半透明の灰色から赤色に。赤色から緋色。遂には鮮血のような紅色に変わる。
《ただ、約束という盟約の下》
「Allerdings unter dem Bund der Verheisung」
《その身を奮わせる》
「Der Mut zu lernen 」
《故にその銘は》
「Die Inschrift ist folglich」
「《其は約束されし紅の騎士
 Sie haben versprochen, dass die Roten Ritter》」

 真紅の閃光を放ち、一瞬にして姿が変わる。
 真紅の魔法陣の中心には、一人の青年が立っていた。
 黒いインナーに黒い革ズボン。羽織るは真紅の外套。
 三つ編みに編まれた白銀の長い髪。
 開かれた瞼の中に収められるは鮮血を閉じ込めた様な真紅の双眸。
 女性はたじろぐ。青年の身体から放たれる魔力が余りにも凄まじいからだ。

 青年は言った。
「絶対、自分が貴女を助けます。」
 〈其は約束されし紅の騎士〉幽霧霞は女性に宣言した。

 女性は黒い靄を集め、無数の黒い槍を作り出す。その槍の軍勢は幽霧を刺し貫かんと飛ぶ。
 人差し指と中指を立て、幽霧は指を女性に向けながら言った。
「其は掃滅する葬列」
 その瞬間、幽霧の背後に大量の刀剣。その数は、無量大数。
 無量大数の刀剣が女性と槍の軍勢に向かって飛ぶ。
 刀剣は物量で槍を破壊していき、道路を刀剣で埋め尽くした。
 女性は黒い靄の盾で道路を埋め尽くす量の刀剣を防ぐ。
 盾を解除した時、目の前に幽霧が立っていた。
「アイギス」
 幽霧の左腕全体に真紅の紋章が浮かび上がる。
 指先から真紅の魔弾が撃ち出される。
 女性は黒い靄の壁を展開し、幽霧の「アイギス」を防ぐ。
 靄が石の壁となる。
 そして石の壁を貫いて漆黒の槍が幽霧の脇腹を貫く。
 幽霧は脇腹を貫かれていても動じない。
 脇腹を貫く漆黒の槍を掴み、魔法を起動する。
「アヴソォーヴシフト」
 幽霧の脇腹を貫く漆黒の槍は魔力へと還元され、傷跡を魔力で修復する。
 更に幽霧は魔法を発動した。
「其は世界を融かす涙」
 指先から透明な液体がほとばしる。
 その液体は女性の黒い靄を融かし尽くす。
 女性は残っている黒い靄を固め、円錐形にして撃ち出す。
 幽霧は円錐を受け止めたが、吹き飛ばされる。
 道路に刺さった無量大数の刀剣が幽霧の身体を受け止める為に折れた。
 女性は幽霧から距離を取る。黒い靄が女性の前に収束していく。一撃で決めるらしい。
「アルフィトルテ。」
 アルフィトルテの名を呼ぶ幽霧。
《使うの………………?》
「ああ。」
 幽霧の中のアルフィトルテは瞼をつぶり、幽霧に言った。
《分かった。》
 幽霧とアルフィトルテは左腕を伸ばす。
「《其は世界を穿孔する一閃》」
 幽霧の左腕に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣は異様に細かく、特殊な形をしていた。
 右手で肩を押さえ、狙いを固定する。狙いは女性と女性の前で展開されている黒い靄。
 幽霧の魔法が完成する前に女性の攻撃が完成する。
 巨大な円環が完成し、中心には黒い靄が球体となっている。
「Q座wTg謬Hにjm、尾kl;・:¥い、くjmyhんtgべdcws」
 円環から黒い閃光が撃ち出される。
 しかし幽霧の魔法はまだ完成しない。
「《其は世界を穿孔する一閃 第弐毀………》」
 黒い閃光が当たるギリギリで幽霧の魔法は完成した。
「《幻想凍葬!》」
 左腕から真紅の一閃が撃ち出される。
 真紅の一閃が黒い閃光に接触した途端、黒い閃光の動きが止まる。そして、黒い閃光を破壊した。
 幽霧は真紅の一閃が走った跡を走る。
 真紅の一閃は女性の前で霧散する。次に見えたのは幽霧の姿であった。
 女性は攻撃を仕掛けようとしたが、間に合わない。
 幽霧は女性を抱きしめる。女性の身体が幽霧に包み込まれる。
 女性を抱き締めながら、幽霧は言った。
「アヴゾォーヴシフト・イロウス」
 幽霧は女性の身体に宿る先天性古代遺失物能力を魔力に変換して吸収する。
 そして「アヴゾォーヴシフト・イロウス」の効果範囲領域を限界まで広げ、黒い靄を片っ端から魔力に変換して吸収した。



〈其は約束されし紅の騎士ver 4時59分〉
 幽霧は先天性古代遺失物能力を片っ端から魔力に変換して、吸収された少女を見る。その寝顔は年相応の少女の顔であった。
 少女の寝顔を見ながら幽霧はため息をついた。
 ある先天性古代遺失物能力者の所為で肉親を失った事を思い出したのだろうか?
 幽霧は少女をお姫様抱っこをしながら歩き出す。
 その時、幽霧の頬に何かが掠めた。
 幽霧は後ろを向く。
 そこには、二人の女性と一人の青年が立っていた。
 きっと幽霧に向けて撃ったのだろうと思われる女性は幽霧に言った。
「その子を渡して。幽霧。」
 幽霧はその女性を見て驚く。口から出た言葉は………
「師匠………それに秋水さん………」
 なんと、幽霧に立ち向かっていたのは幽霧の師匠である瑠奈と知り合いであった。
 幽霧の師匠である瑠奈は再び言った。
「この子を渡して。幽霧。」
「何故ですか………?師匠………………」
 師匠と呼ばれた瑠奈は幽霧に言う。
「この子の為だよ。幽霧。」
 少女を抱く幽霧の身体が強ばる。
 女性は幽霧に言った。
「幽霧にも分かるよね………………この子が時空管理局に収容されたら、この子がこの子のままでいられない事くらい。」
 師匠である瑠奈に言われなくても幽霧は分かっていた。
 この少女が時空管理局に収容されたら、この少女がこの少女のままでいられない事くらい。
 でも幽霧にはそれ以外には、この少女を守る方法は分からなかった。
「幽霧……………」
 か細い声で幽霧の名を呼ぶ瑠奈。
 瞼を閉じる幽霧。そして、言った。
「分かりました。」
 幽霧は少女を抱えながら、師匠たちの元へと歩く。
「この子を頼みます。」
「大丈夫だ。俺たちがこの子を守る。」
 幽霧は秋水と呼ばれた青年に少女を渡す。秋水は今も眠る少女を抱き抱えた。
「じゃあ、しばらくしたらまた会いましょう。幽霧。」
 そう言って、瑠奈たちは幽霧を置いて歩いていった。
「ママ…………」
 アルフィトルテは同調を解き、幽霧の服を引っ張る。
「泣いてるの…………?」
「!?」
 自身でも気づかない内に、幽霧の目からは涙がこぼれていた。
 その原因はままならないこの世界か?それとも人一人守れない幽霧自身か?
 幽霧は涙がこぼれてないように上を向いて言った。
「もっと、強くならないとね…………」
 上を向いても目からは涙がこぼれた。
「うん。」
 アルフィトルテは幽霧を抱き締め、幽霧の言葉に頷いた。

〈其は約束されし紅の騎士ver 終了〉




〈【喫茶「苺壱枝」】 4時50分〉
「緋桜さん。そして………雪奈さん。雫さん。」
 『神よ。何故、私に重荷を課した』が起こした災害の処理をしてクタクタになっている三人に話し掛ける3つの影。
「………瑠奈……フラン……………」
「それに……………秋水さん………」
 雪奈と雫はその3つの影に驚く。
 それに対し、緋桜は微笑みながら3つの影に言う。
「おかえり。どうにか保護できた?」
「ええ………」
 瑠奈は少し悲しそうに答える。
「こいつだ。」
 緋桜に秋水は抱きかかえていた少女を手渡す。
「ご苦労様。ん?やけに瑠奈は沈んでいるけど、どうしたの?」
 少女を抱きかかえながら緋桜は尋ねる。
 フランが緋桜の問いに答えた。
「私たちがこの子を保護する前に幽霧がこの子を保護していたの。
 それで、瑠奈が幽霧に銃を向けたの。」
「あ~。成る程。」
 緋桜はフランの説明に納得した。
 数年前に瑠奈は幽霧の銃を指南していた。
 だから、瑠奈は愛弟子であった幽霧に銃を向けたと言う事になる。
 師匠に銃を向けられた幽霧も辛かったが、愛弟子に銃を向けた瑠奈も辛かったのだ。
 背中を向けている瑠奈から視線を外した。
「『再誕』起動。」
 そして緋桜は己の先天性古代遺失物能力『再誕』を発動させる。
「埋封式」
 緋桜の両腕に茨の様な紋章が浮かび上がる。
 茨の紋章が緋桜の両腕から剥離し、少女の身体に絡みつく。
 一瞬だけ、少女の身体にも茨の紋章が浮かび上がる。
 顔を上げる緋桜。そして、5人に言う。
「この子の先天性遺失物能力『神よ。何故、私に重荷を課した』の封印が完了したよ。
 でも、いつかは解けるかもしれない。」
「こっちも連絡が入ったよ。」
 雪奈はそこにいる全員に言った。
「大晦日から元旦の早朝までに起きたこの事件を『堕墜した神浄事件』と呼称するそうです。
 そして、この事件は民間には秘匿する方針が決定になりました。」
「遂に…………時空管理局の奴らもオレたちを狙い始めるかもしれないという事か…………」
 秋水は煙草をくわえながら呟く。吐いた紫煙が夜明けの空に揺れる。
 その一言に全員が沈黙した。
「まあ。やるしかないということだね。」
 溜息をつく緋桜。緋桜の一言に全員が頷いた。
 緋桜は煙草を吸っている秋水に言う。
「秋水。ちゃんとクラナガン一帯位は洗浄したよね?」
 その一言に、秋水の背中が震える。
 緋桜は秋水に言う。
「一応は『掃除屋』の名を冠しているんだから、それくらいはしようよ。」
 かなり黒い笑顔の緋桜。
「……………了解。」
 緋桜の笑顔に戦慄しながら壊れた人形のように頷く秋水。
 秋水は背中にさしているデッキブラシを抜く。
 そして、そのデッキブラシの柄で地面を叩く。
 地面を叩いた瞬間、秋水を中心にして巨大な魔方陣らしきモノが展開される。
 その大きさはクラナガンよりも大きい。
「『葬討の炎天使』発動。」
 その一言を呟いた途端、秋水を中心に黒い靄が一掃されていく。
 完全に一掃されたとき、一息つく秋水。煙草をくわえる。
「洗浄完了。」
「OK。」
 緋桜は満足したような顔をする。そして、雪奈と雫に言う。
「あと18時間。頑張ってね。」








え~。ここでプレイヤーと読者各位に依頼です。
本編『Abbildung erwarteten kunftigen』とオマケ『お年玉用SS』のリクエストを下さい。
ダメなら、感想だけでも下さいませ。
コメントや反応の無さに泣きそうです。お願いします。
リクエストと感想があれば、作成の進行が早くなります。
無茶が無ければ、採用もさせていただきます。
キャラクターも募集。
既にいる『Abbildung erwarteten kunftigen』のキャラクターに負けるにも劣らないという自信があるキャラクターをお持ちの方は叩き込みに来て下さい。待ってますから。
では、ここで筆を置かせていただきます。

「戯言書店」 雪奈・長月

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5件のコメント

[C33] おーえんおーえんっ

すみません、コメントするとこわけわかんなくなりました(オイ
そして此処にもコメントを・・・(ぁ

えーいつもいつも(?)雪奈さんの小説を楽しく読ませてもらっています。
正直尊敬、凄いです。
私はまだまだですね。未熟者だ。
それでも雪奈さんは満足いってないのなら(いってたらさーせん)もっと頑張ってください。それなりに応援しますッ!!!!!!!!!
変な感想で激マジさーせんです。m(_ _)m
  • 2008-01-20
  • 投稿者 : 結城
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[C34]

お疲れサンっす~♪♪
何か自分は変態属性のみですねww
期待してますw

[C35]

こんばんは~?

『Abbildung erwarteten kunftigen』には僕も参加させてもらってるわけですが圧倒されっぱなしです。
其は約束されし紅の騎士などのバトルもすごいですし勉強させてもらってますww

あと18時間がんばです。

それでは失礼しました~。
  • 2008-01-20
  • 投稿者 : 羽
  • URL
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[C37]

お疲れ様ですm(__)m
其は約束されし紅の騎士のとこは某英霊が思い浮かび   (・∀・)ニヤニヤしてしまいましたw

これはもう俺もキャラ作って参加させてもらうしか!!と思ってキャラを作ったら・・・・・・強すぎる(・∀・A;
ということで自分の性格ならこうなるかな・・と修正いれたら・・・・・なのは世界じゃ最弱じゃ?ってレベルになりました(・∀・A;

ということで今度メールでキャラ案送りますねーw
  • 2008-01-23
  • 投稿者 : 道@剣製王
  • URL
  • 編集

[C39]

お疲れさまです。
幽霧かっこいいですね、自分もかっこよくなりたいですよwww
すーぱー弥刀タイム期待してます!!頑張ってください
  • 2008-01-28
  • 投稿者 : 弥刀(笑
  • URL
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[T9] フェイトTハラオウン/フェイトTハラオウン

フェイトTハラオウンについて悩みを解決するには、まずはフェイトTハラオウンについての正しい知識が必要です。そこで、フェイトTハラオウンについての情報を集めました! フェイトTハラオウンについて調べて、フェイトTハラオウンに関する悩みを解決しちゃいまし...
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「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
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読んでいる貴方なのです。






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