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[C210]

ラストが衝撃的でなおかつ多くの技が出てきた会でしたね
まだ途中と言うことであまり多くコメントできませんが、雹嵐さんの今回は見せ場が多かったと言う気がします。
其処が十分面白く存在感があってよかったです
では、次も期待しています
  • 2010-06-06
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『クラナガン自然公園攻防戦』⑰

すみません。最後と言いながらも終わりませんでした。
色々と先延ばしをしつつの状態ではありましたが、次回が本当の『クラナガン自然公園攻防戦』の最終回です。





『クラナガン自然公園攻防戦』⑰

 〈月城流礼技『鎧装心衣ガイソウシンイ』〉を開眼したギンガが誘拐犯のデバイス『エクセレス』を破壊し、身体が再生出来なくなるまで力を吸い尽くして彼を倒して逮捕する少し前。
「な・め・ん・な・やっ! 秘技☆桃尻弾頭が崩し……ピーチ彗星ぇぇぇっ!」
 冬秋と雹嵐は靄によって作り出した軍団を殲滅しつつ、その主である天使に攻撃を仕掛けていた。ほぼ無限に湧いて来るその黒い群れは彼がいくら潰し、彼女が能力で吹き飛ばそうとも、まるで死と言う概念が存在しないかのように何度も蘇ってきた。
 人間くらいの大きさをした大剣を持って切り込んできた黒い敵の攻撃を凌ぎ、それを踏み台にして冬秋はまるでロケットかなにかのように空高く跳躍。天使より高く飛んだ所で強引に両足を折りたたんだ上に両腕でしっかり固定し、三角座りの格好で相手へと突っ込んでいく。その姿は彗星か流星のようでもあった。
 天使は黒い靄を集束させて黒い防御壁を幾重にも展開。しかし隕石よろしく落下の勢いに任せて落下してきた冬秋の突き出された尻は展開された黒い物を容赦なく破壊し、相手の綺麗な顔に衝突したかと思うとそのまま地面に落とす。
 冬秋とその尻に押しつぶされていた天使の落下地点でうごめいた黒い軍隊は轟音と共に黒い靄へと返って巨大なクレーターが完成するが、空へと登っていったその黒い靄が集束して瞬時に天使と潰されたものたちの身体を構築する。
 戦闘時間を重ねるごとに修復速度が早くなり、まだ近接武器の方が多いとはいえ兵士たちの持っている武器も徐々に凶悪化して行く事に雹嵐も苛立っているのだろう。彼女は拍手を打ってから符の創造と展開の過程を省略して言霊のみで能力を発動させる。
「……雑魚が邪魔ね。滅符『事象否定』」
 雹嵐の背中に居た黒いものが九つの尾を持つ狐のような影に変化し、顔を黒い空に向かって声高らかに吠える。涼やかな空に狐の鳴き声が響きまわり、そしてクラナガン自然公園を囲むようにして八本の白い柱が立つ。それは天使のいる位置を易々と越える長さで、まるで天に向かって伸びる伝説の塔を思わせた。
 中心らしき場所にも白柱がたったとおもうと、柱が白い線で繋がれて上空に八角形の魔法陣が展開される。魔法陣が展開されると同時に黒の軍隊が持っていた武器が崩れ、彼らが纏っていた靄と共に白い柱に飲み込まれていく。
 身体を構築する為の物質であり、身体や武器を進化させる為の物である黒い靄を持っていかれたせいか、柱の近くにいた者から順に倒れこんだ。倒れた時には既にその兵士から黒い靄が失われ、黒い軍隊の一体から普通の人間へと戻っていた。
 靄を吸い込んだ柱が白から黒に変色する頃には従えていた黒の軍隊が人間に戻ってしまったのをみて、黒い靄の供給を再び増やす為に天使は空にあるものから狂気の孕んだ漆黒の雨を降らそうとする。
 しかし雹嵐は大きな音を立てて再び手を打ち合わせ、数にして十以上の印を素早く組んでからもう一度拍手を打ってから新たなる技を発動。
「時よ、止まれっ! あなたは美しい! 止符『針の無い時計』」
 彼女が銘を告げると同時に黒い柱の繋いでいた線が板状のものに変わって壁を作り上げる。そして再び彼女が手を打つと黒い軍隊の兵士だった者たちの身体に何かで包み込まれ、冬秋が大きく手を打ち鳴らした事によって発生した見えない膜らしきものが降って来た黒い雨を弾いて彼らたちを防護する。
 狂気の雨を浴びても起き上がる者が誰もおらず二人によって精神侵食攻撃を易々と弾かれた事に対して顔に驚きの表情を浮かべている天使に向かって、雹嵐は口の端を上げて挑戦的な表情を浮かべて答えた。
「貴女と私たちでは……年季と経験キャリアが違うのよ」
 そう言って天使を挑発させる彼女であったが、言い終えたかと思うと軽く舌打ちしれてから空に浮かぶ天使を睨みつけながら忌々しげに毒づく。
「でも……やっぱり、能力で無効化レジストされるわね」
 実を言うと彼女が先刻展開した〈滅符『事象否定』〉と〈止符『針の無い時計』〉。前者は範囲内にいる相手の持つ特殊能力から身体能力までを一定期間まで強制的に戻し、後者は一定時間のみではあるがその動きどころか『時』までも強制的に止める技であった。
 〈滅符『事象否定』〉で一日ぐらい巻き戻すように設定したにもかかわらず相手は今も能力を失って墜落する事もなく、〈止符『針の無い時計』〉で『時』はおろか身体の動きすら止められた様子は無い。
 そこで考えられるのは天使――綺璃斗の『神よ、何故私に重荷を課したマグダラ』もしくは彼女の中に宿っていた『聖王』の『聖王の鎧』と思われし能力と魔力によって防がれたという事。
 しかしそんな事を考えている暇も与えないように天使は能力を展開して黒い靄を集束させた球体を大量に生み出す。無数のスフィアを瀬にする姿はまるで、彼女の背中に今では禁止されている質量兵器の一つである重火器装備の軍団がいるような光景であった。
 先刻、虚空から召喚した杖を握り締めた右腕を冬秋たちに向けて突き出した天使は静かにその銘を告げる。
「万華鏡ノ如く無数にアる世界の彼方ヨリ来ヨ。万雄ノ騎兵。エインフェリア」
 天使の中に宿っていた能力が彼女の身体をあらかた掌握してしまったのだろう。冬秋と雹嵐を苦しめた〈ミストルティン〉の詠唱の時より遥かに滑らかな口調で、聖王教会にいる聖歌隊を思わせる綺麗な声で広範囲爆撃魔法発動と言う名の処刑開始の一言が紡ぎ出される。
 杖の先を地上へ向けた天使が発動すると同時にスフィアが二人の方へ飛び、そこから更に魔力弾が二十弾近く射出される。さっきまでのものよりは目が粗いが、数と範囲だけは比べものにならないものであった。
 ライブ会場ごと吹っ飛ばそうとしているのではないかと思うその数に目を張る冬秋と雹嵐であったが、すぐに笑みを浮かべてそれらを迎撃しにかかる。
 目を瞑りながら柏手を打った雹嵐はまるでオーケストラの指揮者のように両手を軽く上げてから新たなる技を発動させる。
「氷嵐『それは舞い散る桜のように』」
 彼女の足元に八角形の魔法陣が展開され、そこから白いものが吹雪のように吹き荒れる。それによって天使の放った魔力弾が局地的に起きた嵐に飲み込まれていく。吸い込まれなかったものは白いものが付着してからほぼ一瞬で凍りつき、内部で凍りつかずに残留している魔力が暴走して内部から砕け散っていった。
 白い物質の範囲外にいるものも迎撃する為か、〈氷嵐『それは舞い散る桜のように』〉の効果がまだ発動している状態で新たなる技を起動。
「居抜かれしは神速の刃。放ちたれし刃は芒雷の如く。刃雷一閃……偽符『撫で斬り』」
 能力で作り出した符を雹嵐から渡された冬秋がそれを握って居合いのような構えを取ると、手から光があふれ出て刀身部分の長い刀が生み出される。そして刀を召喚すると同時に、冬秋は鞘に納められていた刀を勢いよく引き抜いた。
 左斜め下から右上斜めにかけて白銀の閃光が駆け抜け、その一本の銀閃が向かってくる天使の〈エインフィリア〉に終止符を打つ。扇状に放たれた一撃は先刻の攻撃の射程外にいた魔力弾を衝撃波で切断し、それの爆発で近辺でまたもや射程外にいたものもまとめて誘爆させる。
 しかし天使は爆発によって生じた靄を自らの能力で一つにまとめて球体を形成。それを魔力を集め、放出する為の核にして広域空間魔法を発動させた。
「森羅万象あらゆるものよ、闇に染まり……虚無に沈め。そして深淵の闇に住みし、大いなる獣の贄となれ。ディアボリック・エミッション」
 闇の球体は周囲の魔力を吸って巨大化しながら冬秋と雹嵐の方へと向かってくる。外部に向かって発せられる衝撃波で二人の身体は吹き飛ばされそうになるが地面に踏ん張り、天使の〈ディアボリック・エミッション〉と正面から向かい合う。
 お互いに背中を重ねるように立ち位置で刀を突き出した冬秋の右腕の上に雹嵐が自らの左腕を乗せ、向かってくる闇の塊を打ち砕く為に最も適した技を迎撃の為に展開する。九尾の狐の影から発せられた鋭い鳴き声と共に彼女の足元に魔法陣が展開され、そこから勢いよく溢れ出てきた真っ白な符が重ねられた二人の腕に張り付いていく。
 雹嵐の魔法陣から白い符が出なくなった頃には突き出された二人の腕が音叉のような形をした砲撃兵器に変わっていた。その形状はまるで今から世界すら焼く尽くすくらいの力を孕んだ炎を吐き出そうとする竜の頭を思わせた。
「哀しみのない世界に至る為の福音となりなさい……砲刀〈レーヴァテイン〉」
 彼女の命令と共に白竜の口から真っ白な光が漏れ、二人の突き出した砲撃兵器に触れる直前で咆哮と共に吐息が吐き出された。天使の放った魔法から伝わって来た衝撃波以上の衝撃が発射の反動として、冬秋と雹嵐の身体に圧し掛かる。反動に耐える為に震えている身体が僅かに軋むような音を立て、吹き飛ばないように踏ん張っているからか地面に足がめり込む。
 吐き出された閃光は〈ディアボリック・エミッション〉の核を討ち抜くどころかそのまま貫通し、天使の身体を飲み込もうとする。しかし天使は杖を持っていない左手を開いてポツリと呟いた。
「……掌握支配コンプレクティ・リアクト
 天使の左手を護るように少し黒ずんだ色をしている虹色のベルカ式魔法陣が展開され、彼女を消し飛ばす事ができる位の威力はゆうにある白い光が飲み込まれていく。流石に威力や勢いまでは殺せないのか、左肩から黒い靄がまるで噴水のように噴き出している。
「まずっ……」
 自分たちが彼女に対して何をしてしまったか気付いてしまった冬秋が口を引きつらせて呻いた時には既に天使が〈砲刀『レーヴァテイン』〉から発射された白い閃光を全て飲み込まれてしまった後であった。
 天使は身体から光を神々しく放ちながら杖を寝かせるようにして宙に浮かべ、大きく手と腕を開いて声高らかにまるで歌うように詠唱を開始する。
「太陽と月は二つの狼が飲み込み、終焉の笛は高らかに鳴らされた。暴虐の狼フェンリル神の王オーディンを喰らい、大いなる蛇ミドガルズオルムはその毒を持って雄々しき神トールを殺す。地獄の乙女ヘルは死者を率いて来訪し、戯れの神ロキ守護の神ヘイムダルと殺し合う。いつかは訪れる彼の終末の時。天地万物は意味無きものと化し、予言は覆り、虚言ごとくに砕け散る」
 展開された魔法陣の大きさとそこに集束されていく魔力と黒い靄。彼女の口から紡ぎ出される詠唱の長さ。それから判断するに、直射型の貫通破壊型集束砲撃魔法を発動させようとしているのは明らかな事であった。放たれたら最後、クラナガン自然公園は火の海になる。もっと悪ければ、その威力によって蒸発させられて骨すら残らない所までいくかもしれない。
 今ならまだ冬秋の〈月城流衝技『祓禊フッケイ』〉で押さえこめるのかも知れないが、大きな公園一帯を火の海に変えれそうなものがもし爆発したら洒落にならない。
「……創符『黄泉津比良坂』ぁ――っ!」
 せめて主と自然公園にいる一般人だけは守るために雹嵐は能力を用いて結界を展開。結界を展開すると同時に結界の外と中で空間を断絶し、天使と自分たちがいる一定範囲を現世から僅かにずらす。
 天使と冬秋、そして自分を含めた三人の次元だけをずらす事に成功した雹嵐はひとまず深い息を吐き出す。実を言うとこの技は一定空間を結界で囲って現世から僅かにずれた次元に持っていったり、『別次元のものに干渉できない』と言う概念をもって攻撃を防ぐという彼女の中でも稀少な技である。しかしその代償として展開しているだけで身体に相当な負担が圧し掛かるのだ。
 その上、今は使用者である雹嵐を含めた三人と他の人間で区別して次元をずらしたのだからその負荷はいつも以上にきついものだった。麻酔もなしで頭を開かれ、熱く熱したものを突っ込まれているような激痛を感じながらも彼女は自分が生き残る為になさねばならない事を行う。
「さらば光輝に満ちた世界。微塵となって砕けるがいい。さらば、栄華を誇る彼の栄光。歓びのうちに滅ぶがいい。全ての存在と可能性に、慈悲深き優しい終焉を―――神の住みし楽園の終わりラグナロク
 天使が発動した魔法を解き放ち、冬秋が〈月城流衝技『祓禊』〉で打ち消そうと手を打ち合わせようとする前に、雹嵐はそれらをかぶせるように技を発動させる。
「絶符『因果拒絶』」
 雹嵐の背後にいる九尾の狐が鳴き、彼女は作り出した白い符を天使の魔法に向かって飛ばす。符が虹色の閃光の閃光に触れた瞬間、
 それがまるで天使が〈神の住みし楽園の終わりラグナロク〉を撃とうとした事も無かったように綺麗に消失する。
 天使の放とうとした直射型の貫通破壊型集束砲撃魔法が消滅したのを確認すると同時に口から血を噴いた雹嵐は崩れ落ちた。背後にいた狐も形が崩れ、彼女の影の中から子供が弾き飛ばされたように勢いよく飛び出て来た。
 使用者が倒れた事によって技が維持出来なくなり、硝子が砕けるような音を立てて雹嵐が発動した〈創符『黄泉津比良坂』〉が崩れる。
「おい、大丈夫なんかっ!」
「はははっ……ちょっと、ハッスルしすぎた」
 いきなり喀血して倒れた雹嵐を抱き上げる冬秋。彼に抱かれた彼女は口の端から血を垂らしながら苦笑する。苦笑する彼女の顔はまるで蝋のように真っ白で、本当に生きているのか冬秋も思わず疑問を持ってしまう。
 雹嵐は展開しているだけで身体に過度な負担が掛かる〈創符『黄泉津比良坂』〉を展開しながら、技自体を消滅させる力を持ったカウンター技である〈絶符『因果拒絶』〉で体力やいろんなものをごっそりと持っていかれたのだ。体調を崩して倒れてもおかしくない。
 身体が衰弱して気を張っている力もないのだろう。冷静沈着で誇り高い女性と言う高い仮面が外れた雹嵐は自身の身体を抱く冬秋に向けて弱々しい笑みを浮かべて言った。
「あ~。ちょっと、サボるからその間は頼むね」
「了解や」
 冬秋は彼女の少し弱気な笑みに対し、今から遊びに出掛ける子供のように楽しげで太陽のように明るい笑みを浮かべながら返しつつ地面に下ろす。それに安心したのか、雹嵐はゆっくりと瞼を閉じる。
 ここにいるのは危険だと判断したのだろう。相棒としてさっきまで雹嵐と融合して戦っていたと思われる小さい子供が彼女を担いで、少し引きずるような格好で彼女の主がいる後方まで下がっていった。
 此処から先は一人で戦わなければならない冬秋はふと空を見上げる。いつの間にか黒い靄は無くなっていて、僅かに空が白みはじめていた。
 もうすぐ夜が明けるのだろう。どんな事があろうとも暗い夜がかけて明るい朝が来るように、あと少しでこの戦いも終わる事を心の中で祈りながら冬秋は天使の方を見ながらニヤリと笑いながら言った。
「さて、頑張るか」
 そう思った矢先であった。服装が変わったギンガが文字通り、足で空を切りながら天使へと突っ込もうとしていたのだ。〈月城流礼技『鎧装心衣ガイソウシンイ』〉で黒い靄を取り込んでこうなったと言う事は、
「やめろやっ! 姉ちゃんっ!」
「貴方も分かっているのですか? どうにかして、此処でこの人を倒さないと……この先生きのこれません」
 誘拐犯を倒した後の高揚に飲まれかけているギンガには冬秋の声など届かなかった。

 そして……彼女は天使の腕で胸を貫かれた。

 単純至極であった。身体を沈めるようにして突っ込んで来たギンガの拳をかわし、天使は彼女の胸に黒い靄を纏って黒く染まった貫手を叩き込んだ。ただそれだけの事であった。
 天使の放った一撃は彼女の胸を貫き、心臓すら貫通して背中から手が突き出ていた。ギンガは顔を苦痛に歪ませながら喀血し、脊髄反射で身体を跳ねさせながら身体を再生しようとする。
 しかし貫いた腕を引き抜く時に天使は身体を再生させようとしているギンガの心臓も引きずり出して一息で握り潰す。握りつぶされたそれから、よくそんな小さい物に入っていられたのだろうかと不思議に思えるくらいの黒い靄が一気に噴き出して再び空を濃厚な黒に染め上げる。
 腕を引き抜かれたギンガはそのまま引き寄せられるように地面へと落下。冬秋は慌ててその落下点へと走り、ギリギリの所でキャッチして彼女の身体を両腕の中に収めた。
 まだ身体に残っていた靄によってギンガの胸に空いた穴が急速に塞がれて行く。心臓もしっかりと修復されたらしく、彼女の身体を支える冬秋の腕にもその鼓動が伝わってきた。
「ベルカ式大量殺戮系戦術武装。第壱殲滅術式――『黄金の劫火を纏いし、破滅と災禍の英雄譚ニーベルンゲン・ヴォルスングサガ』。発動における武装の形成および、起動」
 足元に黒い物が僅かに混じった虹色の魔法陣を展開して遥か高みにたたずむのは黒髪を夜風になびかせる羽根の生えた少女。黒い靄によって再び隠された天上の楽園を背に向けた背徳者は、今もなお夜空に浮かぶ突きを背にして一心に地上を見降ろす。口元には優雅な微笑みがたたえられ、白目と黒目が反転した瞳はまるで情事を前にした乙女のように期待と興奮で潤んでいる。
 それは今から行う殺戮が彼女にとっては自らを快楽の渦へと溺れさせる情事と変わりない行為であると言わんがばかりに。
「……かくして人は星に至る。不滅への道はかくのごときものである」
 彼女を倒そうとここまで必死に喰らい付いて来たギンガすらも絶望の色を浮かべているにもかかわらず、冬秋の顔に浮かんでいるのは諦めの色ではなく自身が最後には勝利を信じているような笑み。歯を剥いて笑うそれはまるで満身創痍でありながらも生き延びる為に狩りへと向かう獰猛な肉食獣を彷彿とさせた。
 矢のつがえられた弓が打ち起こされる。世界終焉とまでは行かずとも、自然公園どころかクラナガンの半分は焼き尽くされようとしているにもかかわらず――可能性を信じ続ければ限界を突破出来る事を信じて疑わず、自らの命すら躊躇う事無くその一発勝負の賭け金に乗せてしまう愚者の独白は続く。
「正直言うとなぁ……ワイは
 自分の肉体と頭を弄くって、『世界を殺す毒』とほざく奴も
 『聖王』とか、『覇王』とか、『魔王』とか、『冥王』とか、嬉々として口にする奴も気に入らん」
 吐き捨てるように言う冬秋の表情からは怒っている事が見て取れるのだが、その口から出てくる声は周囲にいる者たちに対してどこか落胆しているような感じを漂わせている。
 ギンガには彼が何を言いたいのか全く分からなかったが、しかしそういうのは並大抵の理由からではないと言う事だけはしっかりと感じ取る事が出来た。
「はなっからそういう運命や道しかねぇへんと決め付けて、未来への可能性をはなッから信じようとせえへん」
 そう言って身体から沸々と湧き上がる苛立ちを押さえ込むように葉の奥で歯軋りをする冬秋。その瞳はどこか悲しげで、涙がこぼれ出しそうであった。
 魔導師と互角に渡り合っているにもかかわらず一般人と名乗っている冬秋の言葉に、人となりを知らない人には『化け物』と呼ばれても可笑しくない正真正銘の戦闘機人であるギンガにも流石に思う所があるのだろう。悲愴な面持ちで目に少しだけ涙を浮かべながらも無言で彼の言葉を耳を傾けている。
 隣にいるギンガに注目されているにも関わらず、冬秋は腹にあるものを押し殺しながら言う。さっきまであったものなどなかったかのように、目には全てを焼き尽くすような怒りに満ちていた。
「ふざけんなや。そんなの、ワイが許さん」
 時間が経つごとに冷える所か逆に煮え立つものを押さえ切れなくなったのか、冬秋は燃え上がるような怒りを声に滲ませながら足元の地面を踏みつけ始める。
「例え『世界を滅ぼす毒』だと口々に言われても、世界を救う薬になってもええやんか。強いと言われている魔導師が一般人に負けてもええやないか」
 世界を焼く炎の如く煮え滾る憤怒に身体を震わせ、血の涙すら流さんばかりの悲嘆に心を震わせる冬秋。その姿はまるでこの世界がつまらなくて仕方ないと叫んでいるかのようであった。
「血反吐吐かされ、身も心も壊され、色んなもんを無様に踏み躙られても、自らの望む結末に至る可能性を信じて動かんとあかんのや」
 冬秋の言葉に、彼の腕の中にいるギンガは不安な面持ちで訊ねる。
「怖く……無いのですか?」
 やはり心臓を貫かれた事が参っているのだろう。まだ身体が修復できるくらいの量があったから良い物の、下手したらここで死んでいたかもしれないのだ。それに加えて天使が放とうとしている魔法が半端じゃない事があるのだろう。その表情は暗い。 
 冬秋はお姫様抱っこしていたギンガをゆっくりと地面に下ろし、まるで彼女とその後ろにいる人たちを守るようにその前に立った。そして鉤状に曲げた両手を手の平で重ね合わせて引っ掛け合わせるようにしてから離し、身体の前で左右の腕を左右非対称に円を描く。両手が胸の前に来るたびに組み合わせては離し、反対に回すという動作を何度もゆっくりと繰り返しながら彼女の問いに答える。
「何とかせなと思ってもなぁ……勿論、怖いわな。これでも、人間やし。しかし、それを踏み越えて行く力と可能性があるから……人間やないか?」
 そう言っている間にも冬秋の周りには周囲に散らばっていた黒い靄や魔力が集まっていく。腕を大きく動かしながら彼はギンガに尋ね返す。
「あんたは勝てるから戦うんか? ちゃうやろ?
 通さないといけない意地があるから戦うんやろ?
 何度負けても、何度苦汁を舐めても、何度無様に足掻いても戦い続けるんやろ?
 戦う理由を忘れたらあかん」
 前で腕を回す事による魔力等の集束を辞め、大きく腕を広げた冬秋は
「月城流礼技『太陰合一タイインゴウイツ』」
 勢いよく両手を叩いて拍手を打った。両手の間に溜まった空気が破裂したような鋭くて澄んだ音が響き渡り、周囲の空気をびりびりと痺れさせるような余韻を残しながら少しずつ消えて行く。
 天使も大規模な攻撃魔法の最終工程に入ったらしく、彼女は左手を突き出して宣言する。
「荘厳な金の城も、闇夜も尚深い深遠の如き深き奈落も、なべて平等に燃やし尽くす」
 左手の先に魔法陣が展開され、空にある黒い靄が集まって巨大な長弓が形成される。右親指を黒い弦にかけてから両腕をゆっくりと上げ、左手を押し出すようにして前に持っていく。左手の動きに付随して黒が混じった虹色の魔法陣も動き、弓を引き終えた所で黒い矢が出てきて弦に装着される。
 黒くて巨大な炎で燃えている鏃が冬秋たちのいる地上に向けられているそんな状況であるにもかかわらず、自らの身体の中に集束させた魔力や黒い靄を取り込みながら彼は言った。
「大人は子供が『夢』を見れるようにせな、あかんのや」
 言葉を噛み締めるように言う冬秋の顔には苦渋の色が浮かんでいた。ギンガの使った〈月城流礼技『鎧装心衣ガイソウシンイ』〉は靄や魔力を取り込んで上乗せする事によって自らを強化する技であるが、彼の〈月城流礼技『太陰合一タイインゴウイツ』〉はそれの上位技で自らの中に渦巻く精神力や生命力と融合させる技であった。
「ようにするに……誰かの道を守りたいと思い……」
 取り込む痛みはギンガ以上であり、それに加えて性質の違うものが反発しあうのを強引に押さえ込んでいるにも関わらず冬秋の口は止まらない。
「その道を、守れるように、なって、やっと大人と言うことや」
 意識とかが飛びそうになるのを奥歯を強く噛んで堪え、落ち着いた所で彼は後ろにいるギンガに向かって言葉を紡ぎだす。それはまるで死ぬ前に自らの根幹にある大切な事を誰かに伝えようとしているかのようであった。
「……誰かに『続き』を与え、守れる事が出来るなら……」
 そしてギンガも軋むような音を立てながら身体が黒く染まっていく冬秋の姿を見ながら彼の言う言葉の一語一句を漏らさないように聞いていた。聞こえてくる音からして彼の姿が痛々しい事になっているのに、それでも彼女は目を離す事が出来なかった。
 何故なら彼は『英雄』だと感じたからだ。身体が徐々に人間じゃないものに変わりつつも、自身の胸に宿る物を忘れる事無く自我を保ち続けているのだ。それはまさしく、信仰に値するものであった。
「その為なら、ワイは死んだってかまへんっ!」
 身体どころか顔まで真っ黒に染まった彼はそう言って再び手の中にある空気を破裂させるように力強く打ち鳴らす。
「いつかは勝つ。いつかは乗り越える。そして、その為の最善の努力を尽くす」
 拍手と共にジャージの下に着ていたシャツが弾け飛び、黒い靄に浸食されてそれに代わったかと思うと彼の身体の中に飲み込まれる。それと共に身体中の黒が急速に引いていき、両拳と両足。そして心臓の部分に集まって黒い円のような紋様となった。
 片足を前に出して地面を強く踏みしめる冬秋。地面にヒビが出来るくらい力強く踏み鳴らすと同時に彼の足元に円環のような出来たかと思うとそこから強い風が吹き荒れ、羽織のように纏っているジャージや周囲の物を巻き上げていく。
「限界を飛び越える。今出来る進化の可能性を登り詰める。それが……」
 冬秋は打ち合わせて閉じていた手を開き、胸を開くと共に両腕を大きく広げた。そしてその状態で胸が膨らんでそのまま破裂するのではないかと思うくらい肺一杯に黒い靄を彼は口から直接吸い込み始める。
 黒い靄が渦を巻きながら中心にいる冬秋の身体に浮き上がった黒い天に吸い込まれて行き、ギンガの中にあった物もいつの間にか彼女の左手に浮かんだ黒い点から黒い液体となって流れ出して彼の身体に吸い込まれていく。
 口にも入っていくそれを鯨飲するかのように喉を鳴らして飲み込んだ冬秋は口が裂けているのではないかと思うくらいその両端を吊り上げ、相手を威嚇するが如く歯を剥き出しにして今にも涎を垂らさんとばかりに愉悦に満ちた表情で笑った。
「人間と言うもんやっ!」
 彼の背中は語っていた。何処までも真っ直ぐ進み、何処までも己の意思で進み続ける事を。
 たとえそれが、あらゆる困難と辛苦が待ち受ける道であろうとも。
 少しでも踏み止まってしまったら……前に進む事を諦めてしまえば、きっと自らの目指す理想の姿はきっと夢幻の如く霞んで見えなくなってしまうだろう。ギンガにはそう思えた。
「我等は世界の涙を止める者。世界は重く、人一人もそれ同等に重い。だが、我等は行く。どんな時でも前に行く覚悟しか、我等は持たぬ。自らの心も、身体も傷つくことを我等は厭わない。我等が守らねばならない本質を見極め、その為に傷つくことを恐れたりなどしない。我等はそれを守るために全力で立ち向かおう。我等の胸にあるのは、鋼より固き覚悟と限界すら超越してみせる炎の如き熱い信念のみ。真っ直ぐ前を見て、諦めないで進むのみ。例え、どんな不条理な壁があろうとも戦い続ける。我等は可能性をもって、あらゆる限界を超越する者。……月城流絶技『心想鋼錬シンソウコウレン燈華神鬼トウカシンキ』」
 その技の銘が告げると共に冬秋は大きく胸を開き、両手を力強く打ち合わせて拍手を打つ。彼の周りで吹き荒れていた風が止み、そして大爆発を起こしたかのようにその身体から目に見えない何かが勢いよく放出される。
 目の前に広がるその光景に唖然とするギンガ。何故ならば彼女の見ている前で〈月城流絶技『心想鋼錬シンソウコウレン燈華神鬼トウカシンキ』〉を発動した彼の身体から爆発的に魔力や黒い靄とも違うものが息を詰ませるほど濃厚に放出されただけではなく、その周囲の空間すら歪んでしまっていたからだ。
 何かが強引にゆがめられ、何か背中がぞっとするような感覚に支配されているその場の中心にいる彼の姿はさっきと少し違っていた。四肢の甲にある黒い点からその付け根辺りまでにかけて炎を思わせる紋様が刺青のように浮かび上がっており、身体から陽炎のような物が出て羽織のように着ているジャージを揺らしながら空間をゆがめている。
 その技に込められていたのは意思。何かを為そうとする鋼鉄の意思。その想いによって――身体を金剛の石を越える硬さのものへと錬成し、その身体に宿りしその心を全てを燃やし尽くす炎とし、神と鬼の如き力を得る。
 信念は炎に似ている。何故ならば炎と言うのは破壊と再生の象徴であるからだ。劫火の如く燃え滾る信念は相手の持つ鋼の如き固き信念をも融かし、何も残さないくらいまで焼き尽くして破壊する。幾度も目の前にある不条理や壁などに負けてその心が折れて潰えようとも、僅かでも信念が残っていればそれを燃やし、折れた心を鋼の如く何度も鍛え上げ、不死鳥の如く何度も蘇る事が出来るのだ。
 その胸に宿るものを絶やさない限りは死ぬ事など無いと言えるのならば、後は死に物狂いで、あらゆる煩悶を押しつぶして前に進むしかない。
 相手が災厄を撒き散らすのであれば、こちらはそれ以上の暴力でことごとく叩き潰し尽くせばいいのだ。
 今も彼の進化に驚くギンガに冬秋は言った。
「耳をふさいどきや……月城流極技『禍津祝詞マガツノリト』」
 息を吸い込み始める冬秋を見て、ギンガは慌てて耳を塞ぐ。彼らから離れていた雹嵐も耳を押さえるギンガから何かを感じ取り、『八卦九宝』の能力で外部干渉完全遮断型の広域結界を展開する。
 黒い空で弓を引く天使が矢を放つのとほぼ同時。冬秋は開いた両足を踏みしめ、周囲の空気すら大きく振動させるのではないかと思うくらい大きく力強い咆哮を上げた。
 暴徒鎮圧用の音響爆弾などまだ可愛い音の出る玩具と思えるくらいの音と衝撃波がクラナガン自然公園と空を揺るがす。そんな音を放出した冬秋のすぐ近くにいたギンガは自らの身体の中にあるものが軋むどころか粉々の微塵になり、急に身体が液体に変わったかのように激しく揺さぶられるような感覚を味わっていた。
 天使の放った矢も冬秋の放った音によっていきなり空中で停止し、表面がまるで沸騰しているかのように泡立ち、その衝撃波に散らされて形が構成出来なくなって行く。矢が完全にその音によって消失した所で冬秋は発するのを止める。
 周囲には〈月城流極技『禍津祝詞マガツノリト』〉によって引き千切られ、飛び火したもので燃えていた。いつの間にか足が地面にめり込んでいた冬秋は口から血を噴水の如く勢いよく吐き出しながら地面に倒れる。身体も所々内部出血を起こしていたり、鋭利なもの出来られたような傷が出来ていた。
「全く……今日は、死ぬのに良い日や」
 展開した技の効果だろう。天使の〈黄金の劫火を纏いし、破滅と災禍の英雄譚ニーベルンゲン・ヴォルスングサガ〉を破壊するために放った〈月城流極技『禍津祝詞マガツノリト』〉で身体がボロボロになったにも関わらず何事も無かったかのように冬秋は立ち上がり、近くで燃えている火で何処からか取り出した煙草に火をつける。
 そしてタバコを銜えた冬秋は天使に向かって大きく跳躍。ギンガは耳を塞いでも脳を揺さぶるくらい響いた彼の音で身体が動かなかったが、身体を倒す事で左拳を地面に叩きつけて〈ウィングロード〉を発動して冬秋をアシストする。
 〈ウィングロード〉を踏み砕きながら高く跳躍した冬秋は右肘を後ろ限界まで後ろに持っていき、全身を使って引き絞った右腕を天使に叩き付ける。しかし天使は咄嗟に防御用の魔法を展開してそれを防ぐが、耐久性の面で脆かったのだろう。肘までが彼女の魔法陣を貫き、彼の身体が空中で止められた。
 冬秋はそこで止まる事無く突き刺さった右肘と魔法陣の所に指を突っ込んだかと思うと強引にその隙間を広げようとする。魔法陣を歪ませながら亀裂を広げていく彼の姿に恐怖心を感じたのか、瞬時に展開した防御魔法を解除しようとする。しかしそれが逆に仇となり、冬秋は天使の腕を掴んだかと思うと一気にその腕を引っこ抜いた。
 ギンガが追加で展開した〈ウィングロード〉で重なっている箇所を二・三箇所ぐらい破壊したところで冬秋の身体は止まった。引き千切った天使の腕を胸部の黒い円に押し付けたかと思うとそのまま何事も無かったかのように飲み込まれていく。
 いきなり片腕を肩の辺りまで一気に持って行かれたにもかかわらず、隻腕の天使は杖を突き出し、射撃魔法を展開。機関銃よろしく息もつかせない速度で虹色の魔力弾が発射されるが、冬秋は豪雨のように降り注ぐその中をあえて突っ込む。
 指を曲げて振り上げた右腕を向かってくる球体に叩き付けるように力強く振り下ろす冬秋。手の甲に出来ていた円から出てきた黒いものが彼の手を覆い、巨大な鉤爪へと姿を変えたそれが天使の展開した弾幕の一部を抉り取った。しかしそれでも無事ではなかったらしく、黒手を構築していた黒い靄の結合が解除されてた上に天使の放った大量の魔弾を一度に破壊した時に発生した衝撃で〈ウィングロード〉まで戻されてしまっていた。
 天使は既に次の攻撃へと準備を移しており、彼女の前方に展開された魔法陣が強い光を放ち始める。溜めの状態に入ったと判断した冬秋はそのままギンガの作った紫の道を蹴り砕いて力強く跳ぶ。そこには無謀とも言えるがそれを行う事を全く恐れない勇気があり、自らの背中に背負った信念を持って愚直なまでに自らを前へと推し進める事に対する誇りのようなものが見えた。
 空戦魔導師のように空を飛ぶ術を持たず、踏みしめる足場もないにも関わらず跳んだ冬秋を天使は愚かだと笑うかのように口を歪める。そして多重展開していた虹色の砲門を解き放ち、自殺志願者に向かって魔力弾を機関銃よろしく撃ち出す。
 端から見れば自殺行為に見える行動を取ったにも関わらず冬秋もまた楽しげに笑っていた。その目には諦めなど全く持って存在せず、まるでこの戦いを楽しんでいるかのようにも見えた。固く握った左手を振り上げ、飛んで来た魔力弾に向かってタイミングよく振り下ろす。そしてその破裂の勢いを利用して天使の形成した弾幕の軽く上に飛んだかと思うと、そのまま彼女の撃った弾を飛び石にして跳んで遊ぶが如くその上を凄い勢いで跳びながら疾走しているのだ。
 踏み抜いた虹色の弾が後ろで爆発して行っているにもかかわらずまるで遊んでいるかのように楽しげに弾幕の上を跳んでいく冬秋の姿を下から見ていたギンガは余りの常識外れっぷりに唖然とし、開いた口が塞がらずにいた。
 天使の元へたどり着いた冬秋は拳を振り上げ、叩きつけた彼の拳が――彼女を地面に叩き落としたかと思われた。しかしまるで実体など存在しなかったように天使の身体をすり抜けてしまう。その上、真っ黒な輪が彼の胴に巻きついたかと思うと空間固定型の捕縛魔法が発動したかのようにその場に縫い止めてしまう。
 捕縛すると同時に彼の周りを全方位囲むように球体状に魔法陣が展開され、真ん中にいる冬秋の身体を貫かんと魔法陣の中心にある魔力球が周囲の魔力や靄を吸って肥大化して行く。ギンガは脳裏に彼の身体が蒸発してなくなってしまう光景が思い浮かび、背筋が凍りついたかのように寒くなった。
 ギンガが何も出来ないまま目の前で人が消えて行くかもしれないと言う恐怖に悲鳴を上げそうになった時、展開された陣の中心で撃たれるのを待つのみであった冬秋が声高々に吠える。
「……アマラっぁん口伝!」
 まるでその声が合図であったかのように虹色の魔法陣から光線が発射される。
真っ赤な太陽を褒め称えよハッレェールヤっ!」
 一瞬、身体を折り曲げて小さくしたかのような仕草を取ったかと思うと冬秋は声を張り上げて四肢を突き出して大きく身体を開いた。その瞬間、ふいに何かが空間を突き抜けた後に少し遅れてから周囲のものが爆発と共に吹き飛んだ。まるで冬秋を中心にして太陽か超新星が誕生したかのような現象に、ギンガは一瞬だけ意識が遠くなると共に目の前に起こる現象から逃避したいと言う衝動に駆られ始めた。
 明らかに人間どころか魔導師の枠すらも余裕で超越している冬秋にギンガが現実逃避を仕掛ける中、当の本人はまだお腹に巻かれた黒い物を拳で何度も叩いていた。先程の〈真っ赤な太陽を褒め称えよハレルヤ〉に耐え切ったとは言え、既に脆くなっているそれは軽く叩いているだけで亀裂が入っていき、遂には砕け散って冬秋の身体を自由にした。
 そのまま重力に引かれて落下した冬秋はヒビを入れながらもギンガが展開してくれた〈ウィングロード〉に轟音を立てて着地。そのまま空の方を見上げる。
 霧散していた黒い物が渦を巻きながらも一つに集まっていき、天使の身体が再形成される。そしてつい先程、冬秋に破られたにもかかわらず馬鹿の一つ覚えのように射撃魔法の魔法陣を多重展開。既にボロボロに近い紫色の道の先に立つ冬秋に向かってまたもや爆撃を喰らわせる。
 今度はある程度不規則な速度で飛んで来る虹色の魔力弾に対して冬秋が選んだ戦法。それは、強行突破と言うある意味で原始的かつシンプルなものであった。
 自身に当たらないものをあえて無視し、自身に当たるものは黒い点から身体の中に取り込んでいく。それでも駄目なものは痛みを我慢してぶつかっていく。明らかに特攻としか言えない戦術ではあったが、魔導師ではない冬秋が天使を自らの戦術に引きずり込むには最早そうするしかない。
 冬秋が獣の如く吼えながら腕や足を振り回して天使の弾幕を突き抜けた所で、天使が靄を集束させて新たなる攻撃を発動。杖を握った拳の先で集まっていた黒い塊から棘のついた巨大な角柱を突っ込んでいるに向かって突き出す。しかし彼は全身で受け止め、強引によじ登ったかと思うとそのまま棘を殴りつけた拳で圧し折りながら駆け上る。
 上り詰めた冬秋を待っていたのは天使の杖。引き千切られた腕は既に修復され、振り抜かれたそれは彼の顔面に叩きつけられた。それでもここまで天使と張り合っていた冬秋が吹っ飛ばされる程やわではなく、彼女の突き出したそれの棘を掴んで耐えた。
 頭から血が垂れようとも彼は歯を剥き出しにして笑い、天使の手首を掴んだかと思うとそのまま背負い投げして彼女自らが打ち出した角柱に叩き付ける。彼女の身体を叩きつけられたそれは亀裂が発生すると共に圧し折れ、二人の身体がそのまま地上へと落下して行く。
「今、助けます!」
 冬秋が天使ともつれ合うように目の前で落ちて行くのを見せられ、ほとんど現実から逃避していた意識を戻して我に返ったギンガは咄嗟に〈ウィングロード〉を発動。冬秋と天使をキャッチするように紫色の道を幾つも作り出す。
 しかし生物なら大体が備わっている生存本能からか、咄嗟に天使が重力制御魔法を発動。まるで羽が落ちたがごとく音や衝撃などもなくゆっくりと着地し、ギンガの行動は杞憂に終わるかと思われた。しかし彼女の手首を掴んだままの冬秋が立ち上がったかと思うと身体を半回転し、そのまま槌か杵を振り下ろすが如く力強く天使を背負い投げにして〈ウィングロード〉を叩き付けた。
 足場となっていた紫色の道に身体を打ちつけられる天使。黒い靄を纏わせているせいか、冬秋は肩の辺りまで真っ黒に染まった右腕をそのまま彼女の身体に振り下ろした。天使の防御出来る限界を超えてその身体が靄に変わろうとも、彼は何度も拳を振り下ろし続けてその靄すらも喰らい尽くす。
 身体を破壊されても再構成出来る余剰分の靄も無くなって来たのか、殴られ続ける天使の身体は最早ただその衝撃に応じて跳ねるばかりであった。それでも周囲の散らばる黒い靄は彼女の敵意や殺意を現すかのように棘や槍へと姿を変えて、まるで決められた動きしか出来ない機械のように何度も拳を振り下ろす冬秋の身体に突き刺さっては何度も貫いていく。
 身を削り、命を削り、魂を削るせめぎ合い。それはもはや喜劇と言うには凄惨過ぎて、悲劇と言うにはいささか滑稽すぎた。そこに救いなど一欠片も有り得ず、評するなら拷問にも等しい無間地獄。
「海鳴の猫から見習った必殺奥義っ! 秘技☆『海鳴猫ウミナリネコ』」
 止めと言わんばかりにそう言って、両手を大きく広げて跳躍する冬秋。空中で月面宙返りして頭を下に向けつつ、強引に身体を回転させた彼はそのまま今も身体を動かせないまま〈ウィングロード〉の上で仰向けに倒れている天使に向かって突っ込んだ。
 重力に引かれての落下による勢いと回転を加えた特攻を喰らった天使は口から黒い靄を血のように吹き出し、ギンガの〈ウィングロード〉全体に亀裂が入ったかと思うとそのまま砕け散る。地面の代わりとなっていた物を失った冬秋と天使はそのまま落下して本当の地面へと衝突する。
 衝突した部位は僅かにへこみ、その真ん中には彼の指が根元まで胸に埋め込まれた天使とその上に馬乗りの状態でいる冬秋がいた。これで終わったのだと少し離れた位置でそれを見ていたギンガが思ったその時であった。
「天からの供物。地に捧げられし贄。我はそれらを喰らい、再び天の座へと至る」
 既に動けないと思われた天使が手に向かって両手を上げ、耳元まで裂けているのではないかと思うくらい口元を引き上げた天使がまるで何処にも怪我などないと言うかのように新たなる詠唱を流暢に紡ぎだしたのだ。
 冬秋は彼女の身体に突き刺さった右手の指を引き抜き、肘を引くと共に固く拳を握った彼も呪文を詠唱するが如く呟いた。
「拳を握れ。顔を起こせ。敵を見ろ。引き金を引け。撃鉄を落とせ。火をつけろ。命運はまだ尽きてはいない」
 その詠唱と共に肩の根元まで染まっていた黒が右手の先まで引いていき、最終的に彼の構えた右拳の先に黒い球体が形成される。
「……装填エアハルト・アウフアング。蒼宮直伝……砲拳英弾アルテアーリエ
「ぶふぇっ!」
 その球体を天使に叩き付ける為に勢い良く拳を振り落とす冬秋。それを胸の間に打ち込まれ、彼の手首が埋まった天使は身体の中にあった物を吐き出すようなえずく声を口から漏らす。しかし次の瞬間には愉悦に満ちた笑みを冬秋に向けて浮かべる。

 何故なら――これは、肉を切らせて骨を断つが如き、自己犠牲型の罠カウンターを仕掛けていたからだ。

 彼が叩き込んだ腕から集めた靄や魔力だけではなく、〈月城流絶技『心想鋼錬・燈華神鬼』〉を発動させる燃料となっているものが彼女の中へと吸い取られていくのだ。冬秋は引き抜こうとするが、抜けないように力を入れているのかその力すら吸い上げているのか分からないが抜けないと言う事だけは確か。
 天使の身体が修復されて行くと共に、彼女の顔面に魔法陣が展開される。魔力と黒い靄の混ざり合ったそれの先にあるのは彼女の身体に腕が突き刺さったまま動けない冬秋。既に火の消えた煙草を今も口にくわえた彼は口元を引きつらせながらボソリと呟く。
「うぇっ……まず……」
 そして、彼女の発動した攻撃によって盛大に吹っ飛ばされた彼の身体が空中を舞う。



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1件のコメント

[C210]

ラストが衝撃的でなおかつ多くの技が出てきた会でしたね
まだ途中と言うことであまり多くコメントできませんが、雹嵐さんの今回は見せ場が多かったと言う気がします。
其処が十分面白く存在感があってよかったです
では、次も期待しています
  • 2010-06-06
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