Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

-件のコメント

コメントの投稿

新規
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

-件のトラックバック

トラックバックURL
http://clowncraown.blog90.fc2.com/tb.php/117-a531a96c
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

フェイトコミュ & クラナガン自然公園攻防戦

時空管理局ラジオも遂に、100回突破ですね。
五回ぐらいから聞いてますが、まさか100回も行くとは思いませんでした。
私のSSはやっと十五話ですね。早く事件解決しなくちゃいけませんね☆
では、がんばっていきましょう♪




〈四時二十五分 幽霧〉

 三人が此処で仕事をする旨をシャーリーが伝え、飛び入りで仕事をする許可を貰ってきた。
 元々、幽霧とアルフィトルテは此処で仕事をする事は決まっていたし、老若男女からもそれなりに人気がある雫が無償で仕事してくれるとなれば、許可する理由はあっても断られる理由はなかった。
 シャーリーは三人に行う仕事の分担について伝える。
「鏡月先輩は私と一緒にホールの方を頼みます。幽霧くんは、とありあえず……フェイトさんを起こしてきてくれないかな?」
「……何かあったのですか?」
 確かに幽霧も、ホールでフェイトの姿がない事は気になっていた。
 勿論、キッチンで作業をしているのではないかと幽霧は考えていた。しかし、人ごみにいても分かるような美しい容姿の彼女がいないのはおかしい。
 フェイトがホールで活躍する事で客寄せを行うのが有効だと考えるのが普通であろう。
 声や滑舌が悪いわけでもないし、ティアナのようにぎこちない笑顔しか出来ないわけでもない。
 ほとんど万能に近い彼女の身に一体、何があったのだろうか。
 シャーリーは深く考え込む幽霧に苦笑しながらも答えた。
「ちょっと、色々とあってね……その疲れで寝ちゃっているのだと思いますよ」
「……なるほど」
 その言葉に幽霧は納得した。ウェイトレスとしての仕事。合間に行うコンサート。
 そして―――時折、壊れる次元航行部隊所属の局員。レン・ジオレンス。
 考えないといけない事が一杯で、それらがフェイトの精神をすり減らしていたのだろう。
「分かりました」
「ひとまず、休憩室のどこかにいると思うから……お願いね」
「……はい」



 木製らしき扉をゆっくりと開き、部屋の中へと入る幽霧。
 休憩室と呼ばれているからか、色んな物が所狭しと置かれていた。
 壁にはロッカーが置かれ、テーブルや長椅子が置かれている。部屋の中を真っ白な光を放つ蛍光灯が照らしているのが、どちらかというと暗い印象を抱かせた。
 ホールは幻想的という雰囲気であったが、休憩室はその夢の後と言った物寂しさを浮き彫りにしていた。
 部屋の奥に置かれたソファーで、フェイトは眠っていた。そのまま寝てしまったからだろう。着衣が少し崩れていた。
 ソファーの横で床に膝をつく幽霧。それはちょうど、寝ている彼女と同じくらいの顔の位置であった。
 ほっそりとしたフェイトの頬を幽霧は指先でそっと撫でた。その頬は確かに温かかった。
「んっ……んっ! ん……」
 撫でられた頬がくすぐったいらしく、フェイトは息を漏らしながら身をよじらせる。
 そこで幽霧は立ち上がり、フェイトを起こす為に軽く揺らす。
「……執務官。ハラオウン執務官」
 しかしフェイトは起きようとしない。割と眠りが深い方なのだろうか。
 よくよく考えれば、次元航行部隊は『休める時に休め。休まないと命取りになる』という格言が存在するくらい任務が大変という事で有名な部署であった。
 だから、次元航行部隊所属の局員は何時でも何処でも眠れるという眉唾物な噂が存在する。
 しかし幽霧もまさか、その噂が本当であるとは思わなかった。
 それでも、フェイトを起こさないといけない事には変わりない。
「……フェイトさん?」
 さっきより少し強くフェイトの身体を揺らす。しかしそれでも起きる気配はない。
 そろそろ強く揺らさないといけないと幽霧がそう考えた時であった。
「ん~?」
 呻き声を上げながらフェイトがゆっくりと瞼を開く。紅玉を思わせる深紅の瞳に幽霧の顔が映る。
 どうにか起きただろうと、安心する幽霧であったが―――そこで安心してしまった幽霧の考えが甘かった。
 身体を起こしたフェイトは幽霧を向くと、まるで子供のように楽しそうに笑った。女神の様な美しさと優しそうな雰囲気がフェイトのイメージであるがゆえに、流石の幽霧もその子供っぽい笑顔に見惚れてしまう。
 そして幽霧の首に腕を回したフェイトはその肩に額を押し付け、メイド服に顔を擦りつけ始めた。予想もしなかったフェイトの奇行に、幽霧は成されるがままにされてしまっていた。
 ある程度幽霧の着ているメイド服に顔をこすり付けて満足したのか、瞼を閉じたフェイトは再びソファーに身体を倒してしまう。それも、幽霧に腕を回したままでだ。
 幽霧は倒れたフェイトに引っ張られて、一緒に倒れこんでしまう。
 それは端から見ると幽霧が寝ているフェイトに覆いかぶさっているとは言えなくもない状態と化していた。
 また寝始めてしまったフェイトに抱きつかれたままの幽霧は思った。
 管理局内で『金色の閃光』として有名なフェイトは割と寝ボケたりする事が多く、抱きつき癖のあるタイプなのかもしれない―――と。
 そんな事を考えつつ、幽霧はフェイトの寝顔を眺める。
 老若男女から人気があり、女神の様な美しさと優しそうな雰囲気を漂わせているのがフェイトの一般的なイメージだろう。
 しかし寝顔は年相応なものを感じさせず、どちらかというと女性になる途中の少女であるかのような印象を幽霧に抱かせた。
 年上の女性に言うような言葉ではないが、純粋無垢で無邪気な子供であるかのように思えた。
 強く抱きつかれているせいで抜け出せない幽霧は無表情の状態でフェイトが目を覚ますのを待つ。
 できれば、誰か入ってこない事を祈りつつ―――



「ん……?」
 目覚めたフェイトは妙に良い匂いがする事に気づいた。それの正体を確かめるために、ゆっくりと瞼を開ける。
 そこにあったのは無表情の幽霧の顔。目が死んでいる様には見えないが、そうすれば良いか分からなくなっているようにも思えた。
「……おはよう。幽霧くん」
「……ええ、おはようございます。フェイト・T・ハラオウン執務官」
 苦笑いをしながらも挨拶するフェイト。やっぱり自分の寝相が悪威勢でこんな状態になっているのは恥ずかしい。
 幽霧は能面のように感情を表情出す事無く、何事もなかったかのように淡々とした口調で挨拶を返す。
「えっと……あのっ……えっと……」
 寝ぼけて行った事だとは言え、間近にある幽霧の顔にフェイトはドキマギしてしまう。時間が経つごとに胸の鼓動が自然に早くなっていく。
 幽霧が男と言う異性の存在と言うのもあるのだが、外見上は女性であるフェイトですら見惚れてしまうくらい綺麗な顔つきをしている。
 血が通っていないかのように白く、ほとんど生気を感じさせない肌。
 フェイトを見つめる幽霧の瞳はあらゆる物の奥の奥まで見抜いてしまうかのような深い黒の瞳。そのままその澄んだ瞳の奥に吸い込まれてしまうような印象をフェイトに抱かせた。
 しばらく見つめていたくなる誘惑に駆られるような綺麗さを持つ幽霧と間近で見詰め合うと言う状況に、仕事が忙しすぎてそういう経験がないフェイトはうろたえてしまう。
 しかし幽霧本人はそれに気づいていないらしく、じっとフェイトの方を見ている。
 少しでも気を紛らわせる為に、フェイトは頬を紅潮させながら幽霧に話しかける。そこで回している腕を解けば良いものの、その腕は今でも幽霧の背中にあった。
 それに思い至らないくらい、フェイトは動揺していると言う事なのだろう。
「君を抱っこしながら寝ちゃってたみたいだね」
「ええ、そうですね」
 それに対して、幽霧は表情を変える事無く淡々とした口調でフェイトに返す。諜報部での仕事上、こういう状況に陥る事に慣れている事なのだろうか。
 会話が続かない状態で見詰め合うという状況に耐え切れないらしく、フェイトは慌てながら幽霧に訊ねる。
「えっと……あのっ……今、何時?」
「四時四十五分です」
 時計を見ていないにもかかわらず、幽霧は機械のように淡々とした口調で時間を読み上げる。
 一時間半も寝てしまっていたという失態に気づくと同時に、起こしに来た幽霧を抱きしめながら寝てしまった事に恥ずかしくなってしまうフェイト。
 顔を真っ赤に刺せて、しどろもどろになりながらもフェイトは幽霧に謝る。
「そっか……えっと……あの……ごめんなさい」
「出来れば、背中に回している腕を解いて頂けると……」
 その一言でやっと幽霧に抱きついたままだと気づいたフェイトは驚きの余り、悲鳴を上げながら腕を解く。
 耳元で大きな悲鳴を上げられたにも関わらず、幽霧は嫌な顔一つもせずにそのままフェイトから離れた。
 フェイトは熱くなった顔を片手で抑えつつ、ソファーからゆっくりと身体を起こす。足を床について立ち上がり、歩き出そうとした所で急に足取りがおぼつかなくなる。
 咄嗟に幽霧はバランスを崩して倒れそうになっているフェイトを抱きかかえた。
 身長的にはフェイトの方が高いからか、端から見ると幽霧に圧し掛かっているような感じになってしまう。
 局内で人気があるフェイトを抱きかかえると言う、彼女のファンには垂涎物の状態であるにもかかわらず表情を変えない幽霧。淡々とした口調で、大丈夫ですかと無事を確かめる。
 フェイトはちょっと不恰好でありながらも幽霧に抱きかかえられている事に、再び頬を紅潮させて驚きながらも頷く。
「まだ少しぼんやりとしていただけだから」
 出来るだけ冷静を保ちながらそう言って、幽霧の腕の中から抜け出そうとするフェイト。
 その時、フェイトの耳元で幽霧は確かめるように聞き直した。
「……本当に大丈夫ですか?」
「っ! なっ、何を言っているのかな? 私は大丈夫だよ」
 幽霧にそう言うフェイトなのだが、内心にある物を言い当てられたらしく。その動揺が言葉の中に現れている。
 無言で慌てふためているフェイトの目を覗き込む幽霧。
 全てを見通した上で全ての事象を清濁問わず飲み込んだような深い色をした黒曜石のような瞳。その中に宿るそれはまるであらゆるあらゆる物を煮詰めてドロドロしたような混沌。
 しかし戦闘を行う時にしているあの死んだ魚の目のような無機質で濁ったような目ではなく、どんな物でもそのまま受け入れようという優しい気持ちも感じられる瞳であった。
「あのっ! えっと……あっ……あのっ!」
 その目に見て何を思ったのか、フェイトは言うのを少し躊躇っているような口調で幽霧に言った。
「何ですか?」
「その……もう少し……こうしていてくれませんか?」
 フェイトの言葉に対してすぐには何の反応を示さない幽霧。
 変な事を言われて、呆れているのではないかと考えてしまうフェイト。拒絶されると言う考えから来る恐怖か、フェイトの身体が小刻みに震え始める。
 しかし、フェイトの予想はすぐに否定された。
 幽霧は手の位置を少し変え、腰の辺りに腕を回す。そしてフェイトの頼みを了承するかのようにその身体を抱きしめた。
 壊れ物を扱うかのようにそっと抱きしめられたフェイトの口からすぐに消え入りそうな声で言葉が紡がれた。
「……ありがとう」
 四分か、五分ぐらい経っただろうか。ずっとよしかかっていたフェイトが幽霧に声を掛ける。
「幽霧くん。もう良いよ……」
 身体を離そうとするフェイトだが、幽霧はその背中に回した腕を緩めて離そうとしない。
 腕の中から抜け出そうと身体を動かすフェイトの耳元で幽霧が囁いた。
「……本当に大丈夫なのですか?」
 顔は無表情である事は変わりないが、幽霧の口から紡ぎ出された言葉の響きはフェイトを心配しているようにも思えた。
 その一言にフェイトの背中がビクリと震える。その顔はまるで自身の心中を読まれたかのようであった。
 フェイトは少し慌てながらも幽霧に言う。
「だっ、大丈夫だよ。幽霧くんも心配性だなぁ~」
 慌てながらも答えるフェイトに流石の幽霧も、もう大丈夫だと思ったのかゆっくりとその腕を緩める。
 開放されたフェイトはそのまま歩き出そうとするのだが、すぐに身体がよろけてしまう。
 咄嗟に幽霧は滑り込み、フェイトの身体を再び抱きかかえる。
 言った矢先にまた幽霧に抱きかかえられた恥ずかしさで顔を赤らめながらフェイトは申し訳なさそうに言った。
「……ごめん」
「別に構いませんが」
 肩にあごを乗せているフェイトを横目で見ながら幽霧は淡々した口調でそう返した。
 腕を背中に回して軽く叩く幽霧にフェイトは再び消え入りそうな小さな声で言った。
「出来れば……話も……聞いてくれない?」
 フェイトにそう言われた幽霧は何も言わなかったが、首を軽く縦に動かして了承する。
 そんな幽霧にフェイトは妙な安心感を感じた。なのはの少しずつ受け入れるような感じでもなく、はやてのように優しく受け入れるような感じでもない。
 どちらかというと、自身が晒した分だけ無条件に受け入れてくれるような感じであった。
 フェイトは幽霧によしかかりながらゆっくりと話し始める。
 まずウェイトレスという不慣れな仕事を行いつつも部下たちをまとめなければならない事。
 疲労を感じていても来店客にはそれを見せずに楽しませないといけない事。
 少し前から様子がおかしいレン・ジオレンスをどうすれば良いか分からない事。
 考えないといけない事が一杯で、どうすれば良いか分からないのだとフェイトは幽霧に告げた。
 フェイトは猫のように頬擦りしながら幽霧に弱音を吐いた。
「私ってだめだなぁ……どうしても、我慢できなくて……」
 明らかに弱気になっているフェイトの頭にゆっくりと手を伸ばす。そしてフェイトの頭をゆっくりと撫で始めた。
 まさか年下の幽霧に頭を撫でられるとは思わなかったフェイトはキョトンとする。
 幽霧はフェイトの頭を少しぎこちなく撫でながら語りかけるように言った。
「良いんです。それで」
 その言葉にフェイトは少し驚いてしまった。弱気から出た言葉をまさか、他人に肯定されるとは思ってもみなかったからだ。
 年上の女性の頭を撫でながら語りかける幽霧の姿はまるで自分より小さい子供と接しているかのようであった。
「人は周囲に迷惑をかけながら生きる生き物です。申し訳なく感じるなら……その分、頼られるようになれば良いんです」
 自身の言った言葉に軽く苦笑しながら幽霧はフェイトの綺麗な金色の髪を梳いていった。
 髪が櫛に引っかかってフェイトが痛がる事と髪を傷める事がないように注意しているのか、時間をかけて丁寧に手櫛を入れて滑らせていく。
 櫛が髪の中に入って滑るのが気持ち良いのか、軽く伸びをするフェイト。まるで猫のようであった。
 髪の毛を梳きながら幽霧はフェイトに語りかけるように言った。
「フェイト・T・ハラオウン執務官は頼られているけど、余り甘えられる人がいないから……疲れているだけです」
 自分で良ければ言って頂ければ手伝いますからと無表情でありながらも幽霧は付け加える。
 きっと相棒であり、専用デバイスであるアルフィトルテからママと呼ばれて慕われている幽霧はあやすのに慣れているのであろう。
 その口から紡がれる言葉は機械のように単調な口調でありながらも、フェイトの髪を梳くようにぎこちなく撫でる手は母親という感じがした。
「そっか……」
 フェイト自身は母親であるプレシア・テスタロッサに頭を撫でられた記憶はない。あったとしても、それは姉であるアリシアの記憶だろう。
 しかし幽霧の手つきはぎこちなさを感じさせながらも、フェイトの脳裏にはプレシアに撫でられた時の記憶を呼び覚ました。
 それは植え付けられたアリシアの記憶だと分かってはいるのだが、フェイトは心地よさと同時に熱くなった涙腺が緩みそうになっているのを感じた。
 しかし此処で泣いてしまったら、幽霧を困らせてしまうとフェイトは思った。外見上は周囲の事など、どうでも良いように思っているように見えるが意外と優しい所がある。
 出来るだけ涙を見せないように幽霧の肩に顔を擦りつけながらフェイトは言った。
「ありがとう。私はもう、大丈夫だから」
 もう大丈夫だと思ったらしく、今度は幽霧から離れていく。
 顔を上げたフェイトは休憩室の扉へと歩いていく。おぼつかなかった数分前とは違い、その足取りは確かな物になっていた。
 扉を開ける前にフェイトは後ろに振り向き、幽霧の方へ手を差し出した。
 幽霧に笑顔を向けながらフェイトは言った。
「それじゃあ……一緒にいこっか」
「はい」
 差し出されたフェイトの手にそっと手を重ねた幽霧はそう言って頷いた。



〈四時二十八分 クラナガン自然公園〉

「千歳。琴羽。はよ逃げや」
 天使と対峙する冬秋は背後にいる千歳と琴羽に言った。二人に何かあったら、彼女たちのマネージャーである弥生に怒られかねない。
 その上、冬秋は対峙している黒い天使から二人を守るために此処まで来たのだ。流石にそういう事態は冬秋も避けたい。
「でもっ!」
「はよぉせえっ!」
 ステージから降りる事を躊躇っている二人に冬秋は怒鳴った。
 観客のいる前でステージから退散するというのは二人のプライドに反するというのは冬秋も分かるが、それは命あっての物だ。不慮の事故で死んでしまっては意味はない。
「千歳ちゃんっ! 行きますよっ!」
 いつもは千歳の意志に従っている琴羽が強引に手を引いてステージ裏へと連れて行く。
「冬秋っ!」
 ステージ裏へと行く直前。千歳が冬秋に声を掛けた。
「……なんや?」
 冬秋は二人の方を振り向かず、天使を睨みながら言葉を返す。
「……負けないで」
「ああ、分かったで」
 背中を向けながらもそう言った冬秋の言葉で安心したのか、千歳と琴羽はステージの裏へと入って行った。
「さぁ~て」
 冬秋は自身の得物で軽く肩を叩きながら笑みを浮かべた。口の端を吊り上げ、歯を剥き出しにして笑う様は獰猛な獣を思わせた。
「やろか……徹底的にな。腕の一本や二本、覚悟しとけや」
 しかし天使は何の反応を示さない。ただ、冬秋を瞳に写しているだけであった。それは強者の余裕にも思えたし、冬秋の事など相対するに値しない矮小な存在と思っているように見えた。
 しかし排除しないといけない存在であると認識はしたらしく、天使はゆっくりとその右手を突き出した。
 それに従って、黒い靄によって精神を狂気に侵された人たちが身体をフラフラと揺らしながら歩いてきた。
「まずは人海戦術かいな」
 そう言いながら笑みを崩さない冬秋からも余裕のような物が見て取れた。
 狂った者たちの第一陣がステージへとよじ登って来るのを眺めながら冬秋は釘バットのグリップを握りなおし、片足を足を高く上げる。
 身も心も狂気に満たされた者たちが襲い掛かろうとした瞬間、冬秋は上げていた力強く踏み下ろし、力強く握った得物を豪快に振り抜いた。
「世界の果てまでイってこいやあぁぁぁぁぁっ!」
 冬秋の豪快なフルスイングを打ち込まれた人は盛大に吹っ飛ばされ、宙に浮いている天使の方へと飛んでいく。
 天使は周囲の靄を集束させて、前方に黒い盾を展開。飛んできた人から身を守る。
「まぁだまだいくでぇ~!」
 楽しそうに笑いながら冬秋は襲ってくる人たちを容赦なく打ち飛ばしていく。しかし狙う位置はあくまで腹部のみで、頭や胸部などの部位には当たらないように注意しながら打ち込んでいった。
 十五分くらい経過したクラナガン自然公園の特設ステージ前にはこんもりとした人の山が出来上がっていた。
「まだまだやるかぁ~? 天使さまぁ~♪」
 鮮血で真っ赤になった釘バットで肩をトントンと叩きながら、冬秋は天使を挑発するように笑った。



 天使によって武装や能力を強化された誘拐犯とそのデバイスである『エクセレス』と交戦しているギンガの戦況は最悪としか言いようがなかった。
 ギンガの体力と精神力は天使の〈狂気の猟犬イレフンテ〉と〈罪の雨シュルトレーゲン〉によってじわじわと削られていっていた。
 冬秋を倒す方に天使の気が行っているのか〈罪の雨シュルトレーゲン〉は既に解除されている。
 しかし〈狂気の猟犬イレフンテ〉は解除されておらず、身体を動かすたびに靄でできた狗の牙が食い込んでいく。
「くっ……」
 痛みを耐えるギンガに向かって、『エクセレス』は人差し指を向ける。指先に魔力弾が生み出され、手や腕の周りにも真っ赤な光を放つ球体が幾つも生まれる。
 ―――狙うは勿論、天使の攻撃によって満身創痍のギンガ。
 生み出された魔力弾は高速回転しながら、機関銃のような勢いでギンガの方へと放たれた。
 ギンガは咄嗟に防御魔法を展開。前方に展開された魔法陣が『エクセレス』の放った魔力弾から身を守る。
 何か硬い物を削るような音を奏でながら、赤い魔力弾がギンガの展開した防御魔法に叩きつけられた。
 疲弊した身体に圧し掛かるような負担をギンガは必死で耐える。
 機関銃のように連射された魔力弾をどうにかしのいだギンガは防御魔法を解除。
「ラディカぁール……ネぇイルっ! リッパぁぁぁぁぁぁっ!」
 ギンガの防御魔法が解除されると同時に誘拐犯が身体を回転させながら突っ込んできた。
 攻撃に転化しようとした矢先に来た誘拐犯に対処する事が出来ず、頬に蹴りを打ち込まれたギンガは吹っ飛ばされる。
 そしてそのままギンガは無様に地面を転がされた。
「ハッハー! 俺のコックで元気を注入してやろうかぁ~!」
 呻き声を上げながら身体を小刻みに痙攣させるギンガを眺めながら、誘拐犯は高らかに哄笑する。
 誘拐犯の〈ラディカル・ネイルリッパー〉によってボロ雑巾のようにされたギンガは立ち上がろうと身体を動かす。しかしもぞもぞと動くその動きは芋虫のように無様であった。
 身体の節々が軋み、頭が揺れるのを感じながらもギンガはどうにか立ち上がる。
 しかし身体の震えは止まる事を知らず、今にも倒れてしまいそうな感じであった。
「エクセレスっ! クっレイジぃトレインっ!」
 徹底的にギンガを倒そうとする誘拐犯の命令に従い、『エクセレス』は背中からロードしたカートリッジを排出。同時に足元に魔法陣を展開する。
 そのまま『エクセレス』は両手を地面につき、展開した光の道に屈むような姿勢で構えた。
「てぇいっ!」
 号令に従って光の道を作りだした魔法陣の持つ物体加速の効果が発動し、『エクセレス』の脚部や背中から魔力が放出。
 魔力放出の勢いに物体加速の効果が上乗せさせた『エクセレス』は満身創痍でありながらも立ち上がったギンガへと突っ込んだ。
 意識が希薄となっていたギンガは肩を突き出しながら突っ込んで来る『エクセレス』を回避する事が出来ずに、そのままはね飛ばされた。
 そこで『エクセレス』の陰に隠れて共に突っ込んでいた誘拐犯がギンガに迫撃を行う。
「きらめいてっ! ボクのたまぁ~んっ!」
 靄で作られた黒い鎧が右腕に集中し、黒い物が混じった赤い魔法陣が展開される。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……うっ!」
 苦しげな吐息を吐き出しながら右拳の先に黒い球体が精製される。
「はっはぁ~! ケフィアを愛そぉぜっ! ヘドニズム・エジャキュレイションっ!」
 誘拐犯が魔法を銘を紡ぎ出すと同時に黒球が撃ち出され、ギンガの胸部にめり込ませ、その身体を地面へ撃ち落とした。
 ギンガは背中を地面に叩きつけられ、身体の中にある呼気を強引に吐き出される。しかしそれだけで球体が消滅する事無く、どんどん膨張していく。
 膨張するたびに地面にめり込んでいき、それ自体から放たれる衝撃波が周囲に存在する物を壊していく。身体に圧し掛かられているギンガは悲鳴を上げる事も出来ずに埋まっていくしかない。
 半径二mぐらいまで膨張した球体の一部とギンガが地面に埋まった所で、誘拐犯は指を鳴らしながら叫んだ。
「はじけてぇ……ボクの青春乱舞ぅ~♪」
 妙に言語がおかしい誘拐犯の言葉を鍵にして、膨らんだ球体が爆発する。
 爆発した球体は周囲に濃厚な黒い靄と狂気を撒き散らした。爆心地に残ったのは、すり鉢上に削られた地面と身体に無数の傷が出来たギンガだけであった。
 誘拐犯の〈ヘドニズム・エジャキュレイション〉の爆発で、天使の〈狂気の猟犬イレフンテ〉も吹き飛び、数分前には牙が埋まっていた傷口から溢れ出た血によってギンガの身体は真っ赤になっていた。
 『エクセレス』の肩に跳び乗った誘拐犯は自身の血によって作りだした池におぼれるギンガを見ながら再び哄笑する。
「うえっへっへ……オレが突っ込む前から腰がガタガタになってんのかよ……可愛いな……」
 誘拐犯の嘲笑じみた言葉をかけられても、ギンガは身体がプルプルと小刻みに震える程度で立ち上がる事が出来なかった。
 ニヤリと唇を歪ませながら誘拐犯は満身創痍のギンガに止めを刺す為に新たな魔法を起動する。
「さぁ……俺の拳でイっちまえよ」
 右腕に魔法陣を何枚も展開され、その拳の先に黒い物が混じった赤い球を精製される。赤い魔法陣と球体が回転し始め、周囲の靄や魔力が集束していく。
 すり鉢状に削られた地面の底で倒れるギンガを徹底的に叩きのめす為、『エクセレス』肩から飛び降りる誘拐犯。
 それと同時にステージの方から直径十センチぐらいの黒い球体が風を切る様な音を立てながら飛来する。
「ヴァルカアァァァァンソニックウゥゥゥゥゥゥッ……エクシィィィ……ドヴォッ!」
 ちょうどそれは誘拐犯の頬にめり込み、歯を何本かへし折った。それと同時に漆黒の球体が膨張し、爆弾のように中心部から外周部への向きで魔力衝撃が広がっていく。
 ステージから飛んできた謎の攻撃によって誘拐犯の右腕に展開している魔法陣と魔力球が誘爆し、一定空間自体が一個の巨大な爆弾と化した。
 直後、あらゆる音が一つの音によって吹き飛ばされる。空気中に漂う魔力が爆発に飲み込まれ、更に威力が増した魔力攻撃と衝撃波を撒き散らす。
 衝撃波が疲弊したギンガの身体に圧し掛かったが、それでも魔力誘爆に巻き込まれる事だけは避けられた。
 集束した魔力同時がぶつかり合った事による爆発でごく稀に周囲の魔力も飲み込んで爆発するのが魔力誘爆と呼ばれる現象であった。それが一般的に禁止されている質量兵器の一つである爆弾と違う所は空気中の酸素も巻き込んでいる事だ。
 そういう意味では粉塵爆発という現象にも似ており、爆発によって周囲の酸素も一瞬にして奪い取る。酸素が急激になくなる事によって気圧も急激に下げられてしまう。
 幸い、密閉空間で起きたわけではないから真空状態なる事は無い。しかし急激な気圧の変化は疲弊したギンガの内側から肺などの内臓をギリギリと絞り上げる。もっとも、真空状態になったならばギンガの身体は弾け飛んでいたかもしれない。
 その魔力誘爆を間近で喰らった誘拐犯と『エクセレス』はその身体が吹き飛ばされた。魔力誘縛で死ぬかはギンガも良く知らないが、二人が深刻なダメージを受けた事は予想できた。
「……かっ…はっ……」
 ボロボロな身体でありながらも立ち上がろうとするギンガ。所々に出来た傷や身体に蓄積しているダメージで身体が軋むのを感じた。しかしこの事態を止める為に出撃した時空管理局の局員として、ギンガは今の状況を知らなければならなかった。
 ギンガの記憶が正しければ、あれは古代ベルカ式の広域攻撃魔法〈ディアボリックエミッション〉。今は陸士部隊捜査化の部隊長である八神はやて二等陸佐の得意とする魔法だ。
 古代ベルカ式自体、ほとんど衰退した魔道言語だ。今は辛うじて近代ベルカ式として残っているが、魔道言語が多かった昔にあった技術の大体が失われてしまっている。
 管理局内でも扱える物は指で数えられる位しかいないそれをその使い手たち以外の誰かが使用しているとなると、管理局の局員であるギンガはそれを見極めた上で保護して管理しないといけないからだ。
「……ブりっ…ツ……キャリバー……」
〈All right. Master〉
 『ブリッツキャリバー』はギンガの意を汲んで、〈ウィングロード〉を展開。紫色の魔力光を放つ光の道が生み出され、すり鉢状の崩れた地面から抜け出したギンガは空を翔る。
 そしてギンガは自身の想像していた物以上の驚くべき光景を目にする事となった。



 今もなお、ステージに立つ冬秋は天使が落としてくる漆黒の球体を金属製の釘バットで打ち飛ばしていた。その球体はまさしく、魔力を『重さ』に変換するという稀少な気質を持つ篠鷹アキ教導官の〈星堕ちつ日スターライトフォーリングダウン〉。
 球体の半分ぐらいが地面にめり込むくらいの威力を孕んだそれを幾つも落とし、付属効果として接触から数秒後に球形の範囲内全てを魔力攻撃する事で天使は冬秋を屈服させた上で狂気を植え付けようとしているようだ。
 しかし冬秋は自身に落ちてくる球体をノックするかのように少女の方へ打ち返す。顔には余裕らしき物があり、まるで球打ちを楽しんでいるようにも見えた。
 打ち飛ばされた球は空中でその付属効果を発動し、漆黒の球体が膨張。爆弾のように中心部から外周部への向きで魔力衝撃が広がっていく。
 それが空中で幾つも発生している為、何度も魔力誘爆が絶えず発生。更に威力が増した魔力攻撃と衝撃波が疾風怒濤の如く撒き散らされる。
 爆発によって周囲の酸素も一瞬にして奪い取られ、気圧も急激に下げられてしまう。真空状態なる危険性は無いのだが、急激な気圧の変化は周囲にいる人たちの内臓を絞り上げる事であろう。
 気圧の低下もそれなりに危険なのだが、疾風怒濤の如く撒き散らされる魔力攻撃と衝撃波もそれなりに危険だ。
 ギンガなどの時空管理局に所属する局員は訓練の中で魔法を叩き込まれるのは日常茶飯事の為、魔力ダメージに対する慣れと言う物がある。
 しかし一般人は純粋な魔力攻撃に対する免疫という物が無い。そもそも、ここまで酷い事態に遭遇する事など余り無いであろう。
 それでも冬秋は楽しそうな笑みを浮かべながら天使の撃ち込んで来る球体を逆に打ち返していく。



スポンサーサイト

0件のコメント

コメントの投稿

新規
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

0件のトラックバック

トラックバックURL
http://clowncraown.blog90.fc2.com/tb.php/117-a531a96c
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

Appendix

プロフィール

雪奈

Author:雪奈
「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
物語の続きを作るのもまた……
読んでいる貴方なのです。






無料アクセス解析

最近の記事

FC2カウンター

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。