FC2ブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

-件のコメント

コメントの投稿

新規
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

-件のトラックバック

トラックバックURL
http://clowncraown.blog90.fc2.com/tb.php/109-a3d92d8c
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

魔法少女リリカルなのはギャルゲーテイストSS『Künftiges Erwartungsbild』 十五話『眠れない二日間』(21)

『交換戯言日誌』は・・・・・・
 『魔法少女ろりこっとん プロジェクト』。通称『ろりこっとんプロ』
 並びに『砲撃文庫』・『創刊砲撃マ王』を応援しています

おはようございます。雪奈・長月です。

過去の部分が読みたい方は『戯言劇団』へ。(改名しました)
ある種のカオス空間なのでご注意下さい。
基本的に『交換戯言日誌』で掲載した分の保存庫でありますが・・・・・・
今回はとある方のSSを掲載いたしました。
興味のある方は、『演目:梟戦記』にどうぞ。

他に何かありましたら、『幻想寓話』へ。
匿名でも構いません。ご自由にお使い下さい。
使う場合、スレッドは出来るだけまとめていただけるとありがたいです。



魔法少女リリカルなのはギャルゲーテイストSS『Künftiges Erwartungsbild』 十五話『眠れない二日間』(21)

〈零時五十五分 はやて〉

 時空管理局陸士部隊捜査課が出店している【甘味処『華鳥風月』】。
 その暖簾をくぐって、藍色の色無地を着た二人の局員が店内から出てきた。
 一人は捜査課を率いる若き女性の部隊長。八神はやて二等陸佐。
 もう一人は主に彼女の秘書をしているリインフォース・ツヴァイ空曹長。
 二人は少し遅めの息抜きを行う為に外へ出てきたのだ。
 痺れさせるような外の冷気が店内の熱気で火照った身体を冷やし、たるみかけた心を改めて引き締め直してくれた。
 割と空気が澄んでいるからきっと、星が良く見えるだろう。
 口から真っ白な息を吐き出しながらはやてはリインに言う。
「そういやぁ……リイン」
 いきなり掛けられたはやての声にリインは小さく首を傾げる。
「何ですか? はやてちゃん」
「あけましておめでとう」
 ちょっと遅れてしもうたけどなと、おかしそうに含み笑いするはやて。
 ほんの数分だけポカンとするリインであったが、それが新年の挨拶だと気づくと口元をほころばせて笑った。
 それはまるで太陽のように明るい笑顔であった。
「えへへっ…今年もよろしくですっ! はやてちゃん」
「ああ、よろしくや」
 リインの笑顔にはやては唇をほころばせ、綺麗な笑顔を浮かべるはやて。
 そして【甘味処『華鳥風月』】の軒下からぼんやりと空を見上げる。
 夜の空は靄のような黒い物に覆われ、星一つも見えなくなっていた。
 隣でリインがはやての袖を摘みながら少し怯えたような声を上げる。
「はやてちゃん…リイン、何か嫌な感じがするですぅ……」
「……あたしもや」
 はやてはあの黒い靄を見ていると妙に心がかき乱されるような感じがした。
 この世界の存在そのものに絶望し、滅茶苦茶に壊してしまいたいという衝動に襲われるようであった。
 ある種の誘惑に、はやては激しくかぶりを振る事でそれを思考の外に振り払う。
 その時、はやての脳裏に浮かんでいたのは―――冬の空に消えてしまった、銀髪赤眼の少女。
 あらゆる魔法がそこに蒐集されている古代遺失物。『夜天の書』の管理を行う為に生み出された人格。
 はやての側に付き従い、共に歩むべきはずだった祝福の風。
 ―――『夜天の王に祝福をもたらす風』リインフォース。
 今、はやての隣にいるリインの姉に当たる存在であった。
 彼女は歪まされた『夜天の書』の防御プログラム、『闇の書の闇』がもう二度と復活しないように、管理人格である自らの存在も一緒に消滅させた。
 はやてはその光景を今でも忘れない。それはまるで数秒前にあった事のように覚えている。
 灰色の雲から舞い落ちる粉雪。展開されたベルカ式の魔法陣。周囲には自身を主と呼ぶ騎士達。その左右には友人であり、戦友である少女たち。中央には銀色の長い髪が印象的な少女。
 泥まみれになり、芋虫のように無様な格好ではいつくばりながらも彼女を求めて名を呼び続けた自分。
 涙や泥で顔がグチャグチャになった自分の頬に触れ、ぎこちなく浮かんだ彼女の精一杯の笑顔。
 空から雨のように降り注ぐ雪に溶けていくように消滅していく彼女。
 そして―――あの雪の日に泥だらけになって立てた一つの誓い。
 『夜天の王』夜神はやては黒き靄によって穢れた夜の空を見ながら思ふ。
 彼女の存在を犠牲にして残されたこの世界の価値は生贄となった者に値しているのだろうか―――と。
 もしかしたら、全ての存在は『世界』や『神』と形容する存在にもてあそばれているのかもしれない。
 中途半端に幸せという物を与えられ、愛しき存在などをあっさりと奪い取られてしまう。
 そんな醜くも穢れきった価値無き世界など滅んでしまえば良いのではないだろうか―――
 再び、はやてはかぶりを振る。今度こそ世界の終焉を望む思考を振り払う為に。
 世界に終焉の鐘を撃とうとした悲しき超古代融合騎―――『第六世代 亜人魔神器リラダンデバイス』。
 『長距離広範囲戦術殲滅式ヴァイスヴェルト』を操る少女。
 ナタネ・ナターリエ・ヴァイスヴェルトと相対したのは誰でもない、はやてとリインであった。
 その戦いの果てで、友人である戦友である高町なのはは言った。

 この世界にも幾万の想いが在り、時には触れ合ったりぶつかりあったするけど―――
 ―――その中の幾つかは何処で繋がり、その想いを伝えるように続いている
 もしかしたら、それが―――
 ―――この世界にある価値の一つかもしれない……と

 だから、はやてとリインも『夜天の王に祝福をもたらす風リインフォース』の想いをこの世界に続けさせる為に歩き続ける事にした。
 この醜くも穢れきった価値無き世界が、本当は綺麗で少しだけ優しい世界かも知れない事を伝えるために。
「そろそろ中に入ろか。寒くなってきたわ」
 はやては両手をゴシゴシと擦り合わせながら呟く。
「はいですっ! はやてちゃん」



〈一時 神無月神薙〉

「神薙さん、神薙さん。起きて下さい」
「ん~?」
 とあるビルの一室。ベッドで眠る女性を揺り起こそうとする黒髪の少女。
 少女は邪魔にならないように黒い髪を後ろで一つにまとめ、鳥居の紋様らしき赤い刺繍の入ったエプロンを付けていた。
 部屋の外から漂う和風ダシの良い匂いからして、調理をしている途中で女性を起こしに来たのだろう。
 絹のように滑らかな黒髪をベッドに広げ、白襦袢の合間から雪のように白い肌を晒しながら眠る女性の姿は一種の造形美を感じさせた。
 美術家が見たら喜び勇んで、絵画や像などの作品を造るだろう
 しかし神薙と呼ばれた女性は寝返りを打つだけで全く起きようとしない。
 軽くため息をつき、頬を朱に染めながら少女は神薙は顔を寄せる。
 その頬は火照っているかのように赤く、目は微かに潤んでいる少女からは妙に官能的な雰囲気が醸し出されていた。
 少女が神薙の寝ているベッドに手をつく。スプリングの入ったマットと年季の入ったベッドがギシっと軋むような音を立てる。
「ん~。むぅ…」
 しかし耳元で軋むような音がしても馴れているのか、神薙は一向に目を覚まそうとしない。
 果実のように瑞々しい少女の唇が神薙の唇―――ではなく、耳に近づいていく。
 そして少女は口付けをするかのような距離にまで唇を近づけ、神薙の耳元で囁いた。
「……ヤらないか?」
「むしろ、おねがいしますっ!」
 わずかに熱を帯びた少女の言葉に神薙は目をカッと開いて身体を起こす。
 周囲を見回し始める神薙。起きたとは言え、まだ寝ぼけているようだ。
 そんな神薙に少女は笑みをこぼしながら挨拶をする。
「ふふっ……明けましておめでとう御座います。神薙さん」
「うん。今年もよろしく―――マドカちゃん」
 神薙は嘘の言葉で安眠を邪魔された事に不貞腐れているのか、少し言葉の響きに刺々しさがあった。
 明らかに不機嫌そうな顔をしている神薙にマドカは少し困ったような顔をする。
「一時過ぎに初詣へ行くから起こして欲しいと言ったのは神薙さんじゃないですか」
「あっ、そうだったぁ……ごめん。忘れてた」
 徐々に意識が覚醒してきた事によって寝る前に言った事を思い出し、神薙はバツが悪そうな顔をする。
 マドカはそんな神薙に微笑みかける。それはまるで愛しい子供を見る母親のよう。
 年齢は神薙の方が上であるので、それはとてもちぐはぐな感じであった。
 エプロンの紐を解きながらマドカは神薙に言った。
「火を止めてくるので、それまでに着替えて下さいね」
「ん……分かったぁ…りょ~かい……」
 上げた手を軽く振りながら返す神薙にマドカはクスリと笑う。
 そしてマドカは調理したままであろう台所へと小走りで走って行った。
 カツカツと靴底で床を叩く音が遠ざかっていくのを聞きながら神薙は部屋の窓を開け、入り込んだ冷たい外気で身体を微かに震わせながらものんびりと空を見上げる。
 こんな寒い日ならば澄んで見えそうな空は黒くて濃い靄が掛かり、紺色のピロードの上に散らばる宝石のように綺麗な星の光すらも遮っていた。
 下からは阿鼻叫喚が聞こえ、いろんな臭いが入り混じった臭気が上ってくる。
 そんな空を見上げながら神薙は楽しそう声で独り言を呟いた。
狂気まみれの殺し合いカルネヴァニーレの鐘は鳴らされた―――という事かな?」
 口元にも楽しげな笑みが浮かび、目にはある種の狂気が入り混じっている。
 まるで思いついた悪戯を実行する機会を待っている子供のようであった。
 しかし悦楽という狂気に彩られた神薙の呟きに答える声は無かった。
 神薙は寒さから来る身震いか高揚から来る武者震いか分からないが、その身体をブルリと震わせる。
 そしてマドカと初詣に向かう為に白襦袢を脱ぎ、外出用の服装に着替え始めた。


 
〈一時十九分 【中華『覇道軒』】〉

 たった一人の対象を拘束―――および撃墜。
 その為に様々な局員が投入され、返り討ちにあったり逃走を許してしまったりしているその裏―――
 豪勢な料理を食べて新年を祝いたいと考える者が多いのか、管理局の局員が出している店の中は初詣を終えた客でごった返していた。
 首都防衛部隊が出店している中華飯店―――【中華『覇道軒』】もその一つであった。
「お待たせした。麻婆茄子と麻婆豆腐だ」
 注文された料理を届けに行くシグナム。そこのテーブルにいた男と子供はシグナムの胸を食い入るように凝視する。
 シグナムはその男と子供の視線が凄く恥ずかしかったが我慢し、笑顔を浮かべて耐えた。
 男とその子供がシグナムを食い入るように見つめているのには着ている服装にあった。
 シグナムの着ているユニフォームは白いインナーに紅いエプロンドレス。足首まである紅いスカートには片方だけ太ももの付け根の位置までスリットが入っていた。
 そのスリットから黒いガーターストとオーバーニーソックス。そして黒い下着が動いた時にチラリと見えるようになっている。
 女性専用のユニフォームは胸元と足を強調するようなデザインで作られている為、年齢問わず男性の目を釘付けにしていた。
 きっと目を皿にしながら女性局員の動く様を追っている男性客たちは注文した料理の味など分かっていないであろう。
 ほとんど視姦されながらホールで仕事をさせられる女性局員は溜まった物ではない。
 男は鼻の下を伸ばしながらシグナムのロングスカートに入ったスリットを注視している。
「何見てんの!」
 しまいには隣にいた妻が男に平手打ちし、呆然とする男を罵倒する。
 子供は目の前で男を平手打ちした母親から目をそらしながらほとんど涙目で麻婆豆腐を食べている。
 涙目になっているのはきっと、頼んだ麻婆豆腐が辛かったと言うだけではない事は間違いない。
 シグナムは苦笑いを浮かべながら、修羅場と化したテーブルから離れる。
 そして他の局員はどうしているのか見るために何気なく周囲を見渡す。
「お待たせしました。杏仁豆腐です」
 目に留まったのは、中年の女性たちのいるテーブルに杏仁豆腐を出しに行った男性局員。
 首都防衛部隊の中で策士と謳われる局員―――葵葉鷹斗一等空尉であった。
 女性たちは鷹斗の凛々しい顔に見惚れ、感嘆の声を漏らす。
「ありがとうね。あら。いい男前」
「ありがとうございます」
 笑みを全く崩す事無く、鷹斗は女性たちに杏仁豆腐を出す。
 しかし女性たちの視線は杏仁豆腐ではなく鷹斗の方に向いている。
 流石、首都防衛部隊に所属する局員たちから『女殺し』と噂されているのは伊達ではない。
「出来れば、名前を聞いて宜しいかしら?」
 その笑顔のとりこになったのか、頬を微かに染めた女性の一人が尋ねる。
 嫌な顔もせずに鷹斗は顔に微笑みを浮かべながら答えた。
「葵葉鷹斗と言います」
「あら。男前は名前も格好良いのね」
 そう言って、女性たちは笑う。
「お褒めいただき、光栄です」
 鷹斗は女性たちに向かってニヤリと笑う。その笑みには肉食獣のようなワイルドさがあった。
 その光景をぼんやりと見ていたシグナムは思った。
 嗚呼、また鷹斗という『女殺し』が張った巣にまた獲物が引っかかってしまったと。
 というか首都防衛部隊で命を賭けて戦うより、ホストクラブで女性を悦ばせている方が似合いそうだと。
 シグナムがそんな事を考えながら立ち止まっている所に鷹斗が声を掛けて来た。
「恥ずかしいとは言え、仕事を疎かにするのはどうなのでしょうか? シグナム二等空尉」
「すまない。ちょっと考え事をしていたんだ」
 少し苦し紛れであるかもしれないが、鷹斗にそう答えるシグナム。
 鷹斗も、そうですかと返しただけこれ以上は問い詰めてくる事は無かった。
 杏仁豆腐を食べている女性たちを眺めながら鷹斗の手腕を思い返したシグナムは鷹斗をからかうように率直な感想を口に出した。
「相変わらず、良い落としっぷりだな」
 シグナムの言葉に鷹斗は悪戯を思いついた子供のようにニヤリと笑う。
 そして軽くシグナムの穿いているスカートの視線を落とした。
「シグナム二等空尉たちが稼いでいるのと比べたら、微々たる物です」
 スリットから見える太ももに突き刺さった鷹斗の視線とその言葉で何を言いたいのか分かったシグナムは顔を真っ赤にする。
 ユニフォームのスリットによる色気仕掛け染みた方法によって集客が出来、急速に売り上げを伸ばしているのだと鷹斗は暗に言っているのだ。
 それは一見、女性局員の恥を忍んだ頑張りを褒めていると聞こえるが―――。
 シグナムに男性客たちの舐め回すような視線を思い出させる事が目的であった。
 意外と鷹斗は周囲に『女殺し』やら『腹黒策士』と茶化されるのが気に入らないようだ。
 これ以上、余計な事を口にしたら、確実にいらない事を突っ込まれるだろうと判断したシグナムはそのまま閉口する。
 鷹斗はその閉口を何か考えているのだと察したらしく、シグナムに訊ねた。
「もしかして、えゆ三等空尉の事ですか?」
「まぁ……な」
 さっきは咄嗟に答えたものの、暴走している魔導師の拘束及び撃墜の任務に駆り出されたえゆ三等空尉が気にならないわけではない。
 遠巻きに見ていた民間人の話や搬送されて行ったスバルの事を聞くと、やはり大丈夫なのか流石のシグナムも心配になってしまう。
 戦技教導隊の戦闘狂で有名な和泉・篠鷹ペアから逃げおおせ、民間会社に所属している魔導師と引き分け、特別救助隊のスバルと時空管理局第二十一特殊編隊の局員を返り討ち。
 そして今は航空武装隊の一等空士、とある陸士部隊の一等陸士、首都防衛部隊のえゆという共同戦線で対象を交戦中。
 戦歴から見れば、並大抵の局員が束になって掛かっても逆に返り討ちにされる程の相手であると判断できる。
 シグナムの独断でランク付けするならば、魔導師ランクはAA相当であろう。
 本気で戦うと街が一つ消し飛びかねないAAAランクと戦闘までは行かないとしても、ほとんど急造のスリーマンセルで勝てるだろうか。
 どんどん悪い方向に思考が動いていくシグナム。
 そんなシグナムに微笑みながら鷹斗は言った。
「きっと、えゆなら大丈夫ですよ」
 鷹斗の口から出た名前にシグナムは驚きで顔がピクリと動く。
 目の前にいる葵葉鷹斗一等空尉は誰に対しても階級を付けて呼ぶ事を忘れない模範的な局員だとシグナムは同僚から聞かされていた。
 そんな鷹斗がまさか、えゆ三等空尉を呼び捨てで呼ぶとは思ってもみなかった。
 予想外の事に驚いているシグナムに鷹斗は更に笑みを深める。
「えゆと自分は訓練校で同期でしたから。少し体を良く言うと―――」
 シグナムの前で少し考えるような素振りを取ってみせる鷹斗。
 良い謳い文句を思いついたらしく、鷹斗は楽しげに微笑みながらシグナムに言った。
「葵葉鷹斗一等空尉とえゆ三等空尉は同期の桜―――ってやつです」
 心の底からえゆを信用しているのだなと、シグナムは微笑んでいる鷹斗を身ながら思った。
 えゆは同じ部署の同僚であるが、シグナムはそこまで信用する事は出来ていなかった。
 これも長年の付き合いという縁がなせる業なのだろう。
 そこでシグナムの脳裏に浮かんだのは、過去に出会った何組かの仲間たちの姿。
 『エースオブエース』と謳われる高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。
 『ストライカーズ』にならんと修練を続けているスバル・ナカジマとティアナ・ランスター。
 そしてシグナムが主と慕う八神はやてとその従者たる存在であるリインフォース・ツヴァイ。
 最初の一組が出会ったきっかけはとある古代遺失物を巡っての闘争。
 若い一組は陸士訓練校からの腐れ縁。
 最後の一組は雪の舞うとある冬の日の喪失から始まった。
 出会いの形や付き合い方はそれぞれであるが、根本にある物は共通している。
 それは―――お互いを信じ、お互いに自身の全てを預けあう事。
 きっと、鷹斗とえゆも三組と似たような物があるのだろう。
「やはり、お前には敵わないな。葵葉鷹斗一等空尉フライハイヴィント
「―――お褒めの言葉として、ありがたくいただきます。シグナム二等空尉ベルカヴァレリエ
 ポツリとシグナムが口に出した言葉に鷹斗は目を薄く細めながらそう答えた。
「お前ら……突っ立ってないで仕事しろ。オーダーが溜まるだろうが」
 餃子定食と北京ダックを運ぶ寒天がシグナムと鷹斗に言った。
 忙しいからであろうか。紡ぎだされる言葉の中に殺意らしき物が入り混じっていた。
「あっ! はい」
「了解だ」
 鷹斗とシグナムは足早と厨房へ走っていった。



〈一時十八分 幽霧〉

 交戦した対象によって腹部に穴をあけられたスバルを医務局に送った帰り道。
 幽霧とアルフィトルテ。そして雫は警邏中の陸士部隊の局員と共に歩いていた。
 何とか無事に元旦を迎えた人々の気分は高揚しているのか、歩行者天国や出店している屋台が賑わっていた。
 そんな熱気を感じられる喧騒の中で幽霧は呟いた。
「スバル・ナカジマ一等陸士が大事に至らなくて良かったですね」
「ひとまずご苦労様。幽霧」
[幽霧。お前には感謝しているよ]
 リアルタイムで指示を受けられるように雫が展開したウィンドウの向こうにいたゲンヤが幽霧に礼を言う。
 約二時間前に民間会社に所属する魔導師のこっとんと交戦中の対象と接触したスバルが彼女の代わりに対象と交戦。
 善戦はしたのだが、対象が最後に詰めを誤ったスバルの腹部に槍を突き刺して逃走。
 このままだと、スバルが出血多量で死亡する危険性があった。
 そこでゲンヤに救援を頼まれた幽霧と雫が現場に到着。
 幽霧の〈其は石眼の魔女アイギス〉によって腹部の貫通痕を強引に塞がれ、スバルは医務局に搬送された。
 担当の医務官の話だと、腹部の傷がふさがれなかったら交戦した現場で死んでいてもおかしくないらしい。
 ゲンヤにとって、ある意味で幽霧はスバルの命の恩人と言ってもおかしくない。
 しかし幽霧は何事も無かったかのように淡々と答えた。
「自分はただ、ナカジマ一等陸士の傷を塞いだだけです。大事に至らなかったのは本人の生命力による物です」
 まるで感謝される理由が無いかのような幽霧の物言いにゲンヤは苦笑いを浮かべる。
 きっとゲンヤは幽霧が感謝の言葉に対して、そう返してくるのは分かっていたけど本当にそう返してくると思わなかったのであろう。
 苦笑いを浮かべながらゲンヤは幽霧に言った。
「なぁ、俺の部隊に来ねぇか? 陸曹として迎えてやるぞ」
 第108陸士部隊へ陸曹としてスカウトする。
 それは諜報部では三等陸士の幽霧にとっては破格の条件。 
「嬉しい申し出ではありますが……丁重にお断りしておきます」
 勧誘の言葉に対して即答する幽霧。その言葉には全く迷いは無かった。
「そうか……」
 即答で断られたゲンヤは少し残念そうだ。
 しかしそこで易々と退く事は無く、ニヤリと口元を歪ませながら幽霧に言う。
「気が変わったら何時でも言え。骨は折れるが、長月と徹底抗戦してやる」
「……考えておきます」
 妙に粘り強く勧誘してくるゲンヤに幽霧は軽くため息をつく。
 そして何気なく空を見上げる。黒い煙らしき物に覆われた空は街頭の強い光に照らされようとも、黒い靄に覆われたその空はとても暗く感じた。
 同時に幽霧は心が騒ぐのを感じた。胸の中で何かドロドロとした物が動き始める。身体も今すぐに動き出したくなるような衝動に駆られる。
「……幽霧?」
 身体が小刻みに震え始めた幽霧に雫は不思議そうな顔で声をかける。
 その凛と澄んだ雫の声で幽霧は我に返った。
 いつのまにかウィンドウの向かいにいるゲンヤや二人と一緒にいる陸士部隊の局員も訝しげな表情で幽霧を見ていた。
「えっと…すみません……なんか変な感じがして」
「……そうですか」
 雫に変な所を見られて、少し恥ずかしくなった幽霧はその気持ちを紛らわせるために再び空を見上げた。
 少し上で緑色っぽい魔法陣がいきなり展開されたかと思うと、虹色っぽい光が発せられる。
 遥か上空では何者かが戦闘を行っているようだ。
 そのまま幽霧は戦況を見るためにその場に立ち止まる。
 立ち止まってしまった幽霧に気づいていない雫と局員は前方へと歩いて行く。
「ママ?」
 一緒に立ち止まったのは良いが、意味の分からないアルフィトルテは小さく首を傾げながら幽霧を見上げる。
 数秒ぐらい経過しただろうか。緑っぽい光がゆっくりと幽霧たちの方へ落ちて来た。
「……」
「幽霧?」
 しばらく歩いてからやっと幽霧がいないことに気づいたのだろう。
 目を細めながら立ち止まり、再び空を見上げる幽霧に雫は再び声をかける。
 しかし今度はすぐに幽霧は雫に対して返事が返す。
「すみません。ちょっとそこで止まっていて貰えますか?」
 瞬時に顔を戻した幽霧はアルフィトルテの名を呼ぶ。
 アルフィトルテはその声に従って、自身の身体を光の粒子に分解。
 その粒子は幽霧の手に集まり、人型から拳銃型へと姿を変える。
 幽霧は近づいてくる緑の点に向かって銃口を向け、そのまま引き金を引いた。
 空中で重力制御魔法が幾重にも展開され、緑の点が近づいてくる速度も幾分か遅くなる。
 端から見ると意味の分からない幽霧の行動に局員は首を傾げる。
 雫は幽霧が『アルフィトルテ』の銃口を空に向けて撃った所でそれに気づき、口元を緩めながらそれを見守っていた。
 しばらくすると近づいてくるのは緑の点ではなく、男性局員である事が分かってきた。
 空から人間が落下してきた事に気づいた局員はギョッとする。
 しかし幽霧は表情を変えずに、アルフィトルテを人間形態に戻す。 拳銃の形が崩れて再び光の粒子となり、集まった粒子が幽霧の隣で再び人間の形を取る。
 幽霧は落下してくる男性局員をキャッチするために腕を前に伸ばす。
 同時に灰色の魔法陣が幽霧の足元に展開される。
 落ちてきた勢いで幾分かよろめいたが、幽霧はどうにか落下してきた人間を腕の中に収めた。
「……」
[うへぇ……]
 その光景を見た局員は絶句し、雫の展開したウィンドウの向こうで見ていたゲンヤは変な声を上げた。
 何故ならば、その光景は明らかに落下してきた局員が幽霧に横抱き―――お姫様抱っこされているような状態であったからだ。
 男が男にお姫様抱っこされている光景はとても情けない。しかもそれを女顔で有名な幽霧にされているのだから更に情けなく見えた。
 口から出ている涎が情けなさに拍車をかけている。今は気絶しているから良いが、気がついた時にその状態のままだったら悶死するかもしれないと局員とゲンヤはぼんやりと同じ事を考えた。
 腕の中で気絶している男性局員の顔とダラリと下がったその手に握られた日本刀型デバイスから、幽霧は自身の記憶をたどる。
「航空武装隊の……ミヤモト…一等空士…?」
「ああ、航空武装隊所属のミヤモト一等空士と日本刀型デバイス『鈴音』ですね」
 ―――頭に血がのぼると空気が読めないので有名の、と口元に笑みを浮かべながら小さく付け加える雫。
 その言葉を間近で聞いたゲンヤと局員は背筋に寒気が走った。
「う~ん」
 ミヤモトは身じろぎをし、ゆっくりと瞼を開く。
「大丈夫ですか?」
 お姫様抱っこをした状態で幽霧はミヤモトに訊ねる。
 きっと女の子に抱っこされていると思ったのだろう。幽霧の顔を間近に見たミヤモトの頬が赤く染まった。
「[……うわぁ…]」
 雫の隣で声を上げるゲンヤと陸士部隊の局員。その目は既に乾いていた。
 周囲に気づかずに見惚れているミヤモトに呆れると同時に、無意識で隠れファンを生み出しつつある幽霧の今後が心配になってしまった。
「……?」
 ずっと自身の顔を見つめてくるミヤモトに幽霧は首を傾げる。
 ちょうどその時だった。ミヤモトの首から刺青のような黒い物が登り、顔の片面だけを埋め尽くしていく。それと同時に片目だけ黒目と白目が反転する。
「ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォっヴぉヴぉヴおぉぉぉぉぉぉっ!」
 奇声を上げたミヤモトの身体は大きく飛び跳ね、幽霧の腕の中から抜け出す。
 空中で身体を回転させ、手に『鈴音』を握った状態でミヤモトは猫のように四つん這いで着地。獣のような唸り声を上げながらゆっくりと身体を起こす。
 今のミヤモトは明らかに知性で動く人間ではなく、本能で動く獣のようであった。
 口から涎をたらし、身体を左右に揺らしながら幽霧の方に迫ってくる。
「鏡月主任。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐……お聞きしたい事があるのですが」
「何ですか?」
[……どうした?]
 幽霧は手に魔力を集中させながら、雫とゲンヤに訊ねた。
「この場合……正当防衛って認められるでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。問題は全くありません」
[大丈夫だろう。俺が責任を取ってやる]
 一瞬の迷いも無く即答する雫とゲンヤ。
 きっと二人も今のミヤモトは異常だと思ったのだろう。
 もしかしたら、それとは別に何か思うところがあったのかもしれないが。
 奇声を上げながらその手に握っている『鈴音』を振るミヤモト。
「れう~! れぇうぅぅぅぅぅぅ!!」
 『鈴音』から放たれた衝撃波が幽霧へと襲い掛かる。
 しかし幽霧は命の危険性すらあるのに、表情一つ変えない。
「幽霧三等陸士!」
[―――っ! 幽霧っ!]
 雫のそばで幽霧を見ていた局員とゲンヤが叫ぶ。
 衝撃波が衝突する直前で、幽霧の身体がかすかに震えた。
 それと同時に幽霧の姿がいきなり消えてしまう。
 衝突すべき対象を失った衝撃波は周囲の空気に溶けていくように消える。
 目の前で起きた現象はまるでその者に名付けられた名前を体現しているかのようであった。
 幽霊の様に不気味に。霧の様に希薄に。霞の様に儚く、その身を消す。
「!?」
 予想だにしなかった光景にゲンヤたちはおろか、幽霧と対峙していたミヤモトですら驚いていた。
「歩法―――『虚跳』」
 賑やかな歩行者天国に凛とした声が静かに響き渡る。
 その言葉を言い終わる頃には幽霧がミヤモトの胸部に右手を押し付けていた。
 感情が読み取れない幽霧の無機質な瞳に本能的な何かが警鐘を鳴らしたのか、ミヤモトは足元に浅葱色の魔法陣を展開。
 幽霧はミヤモトの身体に触れながら魔法を発動。
「汝、罪を犯す事なかれ。」
 そのフレーズでミヤモトから発せられた魔力を遮断。
 展開された魔法陣がゆっくりと消えていく。
「汝の身体に杭を打ち、枷を持って汝を縛らん」
 代わりに灰色の魔法陣が展開され、魔力で構築された帯がミヤモトに巻きつく。
 ミヤモトはその帯を外そうと足掻くが、魔法陣から出てきたおびただしい数の帯が絡み付いていく。
 そして幽霧は最後のフレーズを紡ぐ事によって魔法を完成させる。
「咎人を拘束する衣となれ―――咎人の拘束衣バインディングクロウス
 ミヤモトの身体に巻きついた帯が魔法の完成に従って、拘束衣を作り上げる。
 両腕は後ろに回された状態で拘束され、両足をくっつけた状態でおびただしい数の帯で雁字搦めにされる。
 目は帯で強制的に目隠しされ、口には魔力で構成されたボールギャグがはめられた。
 〈咎人の拘束衣バインディングクロウス〉が発動された後、その場にあったのは発動者である幽霧と―――
 SMちっくな格好で拘束されたミヤモトの姿であった。
 流石のそれには周囲で見ていた人たちも絶句するしかなかった。
「……すみません」
「はっ! はいぃ!」
 幽霧に声をかけられた局員は、自身も〈咎人の拘束衣バインディングクロウス〉でミヤモトと同じ事をされると思ったのだろう。冷や汗を流しながら変な声を上げて敬礼する。
 局員の奇妙な行動に首を傾げながら幽霧は訊ねた。
「航空武装隊って、何処で出店していましたっけ?」
 瞬時に答えないとまずいと思ったのか、局員はしどろもどろになりながらも答える。
「えっと……航空武装隊は確か…おせち料理バイキングでしたっけ?」
[……何かシュールじゃないか? それ]
 意味が分からない出店内容にゲンヤは呆れ返りながらも突っ込みを入れる。
「それじゃあ、行きましょうか」
「このまま運ぶんですか!?」
 かなりイタい格好をするミヤモトをそのまま運ぼうとする幽霧に局員は突っ込みを入れる。
 局員はこの格好のままで運ぶのはミヤモトが可愛そうだと想い、目隠しとボールギャグを解除させるために入れたツッコミであった。
 しかし幽霧は別の意味に取ったのだろう。拘束衣で縛り付けたミヤモトを下ろし、近くで屋台を出していた局員の方に走っていく。
 そしてしばらく会話してから、何かを持って戻ってきた。
 なんとそれは、重い物を運ぶために使われる台車であった。
 幽霧はその台車にミヤモトを乗せる。
「それじゃあ、行きましょうか」
 何も知らない民間人はミヤモトの格好が物珍しいのか、通り過ぎる際にもチラチラと見たり持っている携帯デバイスで写真を撮影し始めている。
 このままだと集まった野次馬で、移動するどころの話ではなくなるだろう。
 雫に助け舟を出そうと視線を向けるが、何故か静かな殺気を放ちながら微笑みを浮かべている。下手したら大変な事にもなりかねない勢いだ。
 この状態で、その局員とゲンヤが出来る事は―――
 ―――イタい格好と化しているミヤモトを同情して、手を合わせてあげる事だけであった。



〈一時二十九分 えゆ〉

 ミヤモトが対象に撃墜され、幽霧の発動させた〈咎人の拘束衣バインディングクロウス〉でイタい格好にさせられている間も、えゆとオウルは対象と徹底抗戦していた。
爆砕分裂後、多角砲撃クイックシルバー
 対象に狙いを定め、十分な魔力を溜め込んだところでえゆは矢を離す。
 青い矢は光の尾を空に焼き付けながら対象の方へと翔け登っていく。
 対象は靄を集束させて数箇所から槍を射出。青い矢を破壊しに掛かる。
 えゆの矢は対象の槍によって砕かれたが、破片が周囲の魔力を集束。
 十分な魔力を喰らった破片は青い光線となって、多角度から対象に襲い掛かる。
 迫り来る青い光線に対して、少女の口がゆっくりと動く。
「……罪の雨シュルトレーゲン
 その口から紡ぎだされた銘によって黒い靄は無数の細い針となって豪雨のように勢い良く射出され、襲い掛かってきた青い光線を強引に消していく。
 しかし数発は〈罪の雨シュルトレーゲン〉を潜り抜け、対象の身体に突き刺さる。
 光線は〈掌握支配コンプレクティ・リアクト〉で吸収される事無く、対象の身体に穴を開けていく。
 数分前までは〈掌握支配コンプレクティ・リアクト〉で魔法を吸収されて終わりであったが、ミヤモトが撃墜される直前に零距離で打ち込んだ〈歌姫の楽園ローレライガーデン〉によって起こった変調で対象はそれを使用する事が出来なくなったようだ。
 しかしそれでも対象の持つ能力は健在で、身体を破壊していっても周囲の靄によって片っ端から修復されていってしまう。
「咎人達に滅びの鉄槌を。神の使徒よ集え。世界を革変する御柱となれ。降りよ……聖なる王に祝福を与えし神」
 対象の前方に黒ずんだ虹色の魔法陣が展開され、周囲から魔力と黒い靄を集束させていく。
 巨大な魔法陣と対象の口から紡がれた魔法の呪文によって、また対象の〈クライス・クリストス〉が来ると分かったえゆは再び矢を引き、軌道操作魔法によって矢に特殊なプログラムを組み込んでおく。
「―――クライス・クリストス」
 微かに黒ずんだ虹色の奔流が集束式砲撃魔法となって迫ってくる中、えゆは引いていた矢を解き放つ。
吸収後。五秒後に爆破クイックシルバー
 対象の〈クライス・クリストス〉とえゆの矢が真正面から衝突。
 二人の間に虹色の魔力球が出来上がり、そのまま爆発する。
 えゆはこの爆破から身を守るために屋上で瞬時に結界を展開し、それが壊れて吹き飛ばされないように身体を丸める。
 方向性を失った虹色の魔力が周囲の物体を削っているらしく、ガリガリという音と一緒に粉塵が舞うのを肌で感じ取った。
 その時、えゆから離れた位置で対象の狙撃を行っていたオウルから念話が入る。 
[えゆ三等空尉。大丈夫ですか?]
「こっちは大丈夫。そっちは?」
 丸めていた身体を起こして前を確認するえゆ。
 魔力爆発をモロに喰らったらしく、対象の所々が欠落していた。
 しかし爆風で飛んでいった靄を集める事で、ゆっくりでありながらも身体を修復していく。
[……準備完了です]
 そこで切り札の準備を完了させたオウルからの返事。
 身体を修復できる対象に畳み掛けるなら、間違いなく今がチャンスであろう。
 疲労を訴える頭でそう考えたえゆはオウルに命令を下す。
「今すぐ発動して」
[了解]
 オウルがえゆの命令に返事を返すと同時に準備を得た魔法を発動。
[蒼穹の彼方より来たれ、燃え盛る火聖の大剣。穿て―――交差する緋クロスフレア]
 銘を告げられるのと対象の身体が修復を終えるのはほとんど同時だった。
 対象の周囲に琥珀色の魔法陣が展開され、多方面から棒状の銃弾が射出される。
 その銃弾を回避しようと動く対象であるが、高速で多方向から撃たれているために回避できない。
 撒き散らされた靄すら吹き飛ばされながら、対象の身体は〈交差する緋クロスフレア〉で抉り取られていく。
 ほとんど戦局はオウルたちの方が優勢であったが、えゆは『千早』に魔法の矢をつがえた状態で新たなる魔法を発動する。
「八ツノ首ヲ持ツ大蛇ヲ封ゼシ羽。此ノ矢ニ顕現セン」
 足元に八重の円が展開され、そこから蛇の形をした魔力が出て来た。
 その魔力はえゆの引いている矢に巻きつき、より強い光を放ち始める。
 えゆの魔力で出来た八匹の蛇が矢に巻きついた時には足元にあった八重の円は消え、青い矢は眩しいくらいの光を放っていた。
 オウルの〈交差する緋クロスフレア〉の発動時間が切れると同時に、えゆはその矢を離した。
「―――天乃羽張アマノハバリ
 青い矢は既に身体が穴だらけであった対象の心臓辺りに突き刺さり、首から下を全て消し飛ばす。
 首だけになった対象はそのまま下へ落下していった。
「ふぅ……」
 そこでえゆは『千早』を屋上の地面に落とし、軽くため息をついた。
[えゆ三等空尉]
 ちょうどそこで戦技教導隊で戦略分析官をしているステイ・クラウゼヴィッツから念話による連絡が入る。
「何でしょうか? ステイ戦略分析官」
[対象に撃墜されたミヤモト一等空士だが、ちょうど下で歩いていた局員に回収されたようです]
 ステイの言葉に、えゆは安堵のため息を漏らす。
 死んでてもおかしくないと思っていたが、どうにか生き延びたらしい。
 これは一人欠ける事が無かったと言えるだろう。
[そっちはどうですか?]
「撃墜はしたのですが……」
 えゆは少し歯切れが悪い口調でステイに報告する。
「逃げられたかもしれません」


スポンサーサイト

0件のコメント

コメントの投稿

新規
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

0件のトラックバック

トラックバックURL
http://clowncraown.blog90.fc2.com/tb.php/109-a3d92d8c
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)

Appendix

プロフィール

雪奈

Author:雪奈
「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
物語の続きを作るのもまた……
読んでいる貴方なのです。






無料アクセス解析

最近の記事

FC2カウンター

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。