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魔法少女リリカルなのはギャルゲーテイストSS『Künftiges Erwartungsbild』 十五話『眠れない二日間』⑱

こんばんは。雪奈・長月です。

今夜は日曜日。
現在、涼香様の時空管理局ラジオ進行中!
ひとまず涼香様は自身の身体をご自愛ください。
そしてココに来る皆様も身体に気をつけて下さい。

私は少し悟りらしき物が開けました。
Chronicle*SCREAM』のStay様に感謝ですね。
それでも、時々腹痛で起きてしまったり、鬱に陥って色んな物に現実逃避してしまったりする事には変わりないですが。



過去の部分が読みたい方は『戯言工房』へ。
ある種のカオス空間なのでご注意下さい

他に何かありましたら、『幻想寓話』へ。
匿名でも構いません。ご自由にお使い下さい。

悟りは少しだけ開けたのですが、寂しいのと内容に自信がない時期が続いたので・・・・
進行はまだ少し遅いです。頑張らないと・・・・・・・
それでは更新です。





十五話『眠れない二日間』⑱

〈零時十七分 【喫茶「白桜雪」】〉

「くそっ……何で、深夜なのに人が多いんだよ……」
 ヴィータはホールでウェイトレスをしながら悪態をつく。
 初詣の帰りに軽く騒ごうと考えているのか、店内には沢山の人が来ていた。
「しょうがないよ。大晦日だもん」
 そう言ってヴィータに微笑むなのは。しかし疲れているのか、顔には疲労の色が浮かんでいた。
 額に汗が浮かんでいるなのはに、ヴィータは何も言えなくなってしまう。
 そして自身が悪態をついた事にある種の罪悪感を感じた。
「……すまねぇ」
「? なんで、ヴィータちゃんが謝るの?」
 罪悪感の余り、頭を下げるヴィータになのはは首を傾げる。
 なのはに不思議に思われても、謝らないといけないとヴィータは思った。
 少し考えてからなのははヴィータの肩に手を置き、笑みを崩さずに言った。
「後もうちょっとだから頑張ろ。ヴィータちゃん。それと――」
 恐る恐る顔を上げるヴィータに、なのはは笑みを深める。
「あけましておめでとう……ヴィータちゃん。今年もよろしくね」
 そう言ってヴィータから離れ、厨房の方へ歩いていくなのは。
 ヴィータはエプロンの裾を強く掴み、顔を上げて怒鳴った。
「なのはっ!」
「ん? なにかな?」
 不思議そうな顔をするなのはにヴィータは言った。
「今年もよろしくなっ!」
「うんっ♪ 今年もよろしくね」



〈零時三十分 時空管理局放送スタジオ〉

「ここでお知らせです」
 数時間前に査察部のお店でけしからん空気を醸し出していたクロエがお知らせの広告を詠み始める。
「まずは起床から就寝までの生活をサポートする【ちゅるや百貨店】からのお知らせです。
 【ちゅるや百貨店】では、大晦日&元旦フェアを開催中。【ちゅるや百貨店】名物のスモークチーズも二割引となっています。
 これを期に【ちゅるや百貨店】のスモークチーズをご賞味あれ」
「あそこのスモークチーズは美味しいんですよね。
 前にギンガさんと食べた事があります。蔵那さんはどうですか?」
 何故かスタジオ内でお雑煮を作っていた涼香はクロエに尋ねる。
「私は親が送ってくれましたね。
 はい。流石、【ちゅるや百貨店】名物のであるあのスモークチーズは美味です」
 尋ねられたクロエも【ちゅるや百貨店】のスモークチーズの味を思い返しながら答える。
 その味を思い返しながらクロエは次の広告を読み上げようとした。
「次も民間のお店です。【居酒屋「苺壱枝」】………」
 送られてきた広告の文章を読み上げた途中で、クロエの口が止まった。
 涼香を除く放送スタジオにいた全員がクロエの硬直に首を傾げた。
「蔵那さん。読み上げて下さい」
 我に返ったクロエは送られてきた広告の文章を読み上げる。
「……【居酒屋「苺壱枝」】からのお知らせです」
 これには涼香とクロエ以外の全員が硬直した。勿論、休憩にラジオを聞いていた局員たちも。
 【居酒屋「苺壱枝」】…それは、時空管理局内でも噂が絶えないお店の名前。
 諜報部部隊長の雪奈・長月と開発部主任の雫・鏡月が営むお店であった。
 まさか、諜報部と開発部のトップが個人的に出店をするとは思わなかった。
 それに、数日前に配布された出店リストにも【居酒屋「苺壱枝」】の文字は無かったはず。
 動揺が視聴者に伝わらないようにクロエは続きを読み上げる。
「一月三日に店内で隠し芸大会を行います。
 興味のある方はお越し下さい。ご来店をお待ちしています。【居酒屋「苺壱枝」】店長。月城天音…………」
 のほほんとしている涼香以外は安心で胸をなで下ろした。
 どうやら、噂のお店と同名であるだけで雪奈と雫が民間の店だと言って出店しているという予想は外れたようだ。
 餅を焼きながら涼香はのんびりと言う。
「あのお店は、最高ですね。平等なルールが定められていますしね」
 行った経験があるような涼香の言葉にクロエは首を傾げる。
「涼香さんは行った事があるんですか?」
「ええ。あのお店は諜報部部隊長の雪奈さんたちご用達ですから。
 あの店でおきたことは殺人以外は口に出してはいけないというルールのおかげで、芸能人も時々いるんですよ」
 楽しそうに笑いながら答える涼香。
 クロエはその内容に内心、凄まじい居酒屋だと思った。
「次は【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】………査察部の店ですね。
 【メイド&執事喫茶「Oberste Erbe」】では、【ちゅるや百貨店】名物のスモークチーズを使ったメニューも揃えております」
「査察部の部隊長が作るケーキは美味しいのに、いらない小細工も入るようですね~」
 涼香はかなりの毒舌で言った。その顔は無表情であった。
「それに、スモークチーズは酒の肴ですよ。
 喫茶と言いながら、酒でも出すのでしょうかね~?」
 毒舌でまくし立てる涼香。査察部に嫌な思い出でもあるのだろうか。
 涼香は焼いている餅から離れ、机に置かれた広告を読む。
「次からは私が読みますね。えっと。自然環境保護隊からです。
 自然環境保護隊では、温かいシチューや飲み物を売っております。
 目玉メニューは、「豆腐腐炉」です。是非ともご賞味あれ」
「………………」
 これには涼香とクロエはコメントのしようがなかった。
「つ………次の宣伝は、次元航行部隊からです。
 【イタリアンレストラン「光の女神てんし」】では、【ちゅるや百貨店】のスモークチーズを使ったピザを十二時から三時間ごとに限定三十枚販売します。
 ギャルソン姿のフェイト・T・ハラオウンに萌えたい方も是非お越し下さい」
「あのスモークチーズを使ったピザとは贅沢ですね。
 でも、フェイト・T・ハラオウンに萌えたい方とは凄いことを言いますね」
 クロエの意見には、涼香も苦笑しながら頷く。
「では、現在来ている部隊別の宣伝はこれで終わります。
 次はお便りです。
 PN.月読八景さんからです。弥刀さんは何故、二等空尉から二等陸士に降格させられたのですか?」
 クロエは思い出すように言う。
「確か……経歴偽造の関係だったと思います」
「いや。一番の原因は……」
 涼香がクロエの話に口を出した。
 クロエは冷や汗をかき、溜め息をつきながら言う。
「女性関係ですね。確か……七股でしたっけ?」
「いえ。十五股です。
 諜報部の手に掛かれば、疑惑からたった三日で判明しましたからね」
 二人とも、かなり遠い目だ。
「まさしく、「障子に盗聴機有り」…「諜報部に隠し事は出来ない」の象徴ですね」
 クロエは再び、深い溜め息をつく。
「さて、次のお便りはPN.憂いの貴婦人さんからです。
 涼香様。私の為に毎日お味噌汁を作って下さい」
 硬直する涼香。
「モテモテですね。涼香さん」
 クロエは涼香を冷やかす。
 涼香は顔を赤らめながら、こう言った。
「私は陸士部隊に所属しているギンガ・ナカジマ捜査官の所有物なので、お断りさせていただきます」
「「ぶふうっ!」」
 一種の爆弾発言な告白に、広報部。視聴者。全員が――噴いた。
 涼香の所有者であると宣言されたギンガも働いているお店でそれを聞いて、驚きと恥ずかしさで持っていたお盆をひっくり返す。
 ワタルが路上で膝をつき、レキは呑んでいた飲み屋でビンテージ物の酒瓶を落としかけるなど、各地で騒ぎが起きた。
 涼香もまさか、自分の人間関係が騒ぎを起こす事になるとは思わなかっただろう。
「べ、べつに私が卑猥な事言った訳じゃないんだからねっ!? 言い方を卑猥に思うみんなの心が汚れてるんだから!!」
 そんなこんなで、時空管理局の商業合戦も正月にさしかかった。



 涼香の『私は陸士部隊に所属しているギンガ・ナカジマ捜査官の所有物』騒動から約十分後。
「みなさぁ~ん! お雑煮が出来ましたよぉ」
 焼いた餅に透明な出汁をかけたお雑煮をお盆に乗せてやってきた。
 そして、涼香の一言によって広報部に所属する局員の目が変わる。
 あと一日ぐらい放送しないといけないという現実によって身体疲弊していた局員たちの目が、食料を求める獣のようなギラギラとした目に変わる。
 ぎらついた局員たちの視線に涼香は本能的に喰われると感じた。
 しかし、局員たちは涼香ではなく鍋の方へと向かって行った。
「はは……皆さん。おなかが空いていたんですね」
 クロエは苦笑しながら涼香のお盆に乗ったお椀と箸を取る。
「そりゃあ、そうだろ……二日間も缶詰だぞ…」
 ちょっとやつれた顔でジンナイも涼香の持つ盆から取ったお雑煮をすする。
「……そういえば、市街ではテロみたいな事が起きてますよね」
 私も出ましょうかと、自身のデバイスである『偽からすのしっぽブレード』を取り出すクロエ。
「そう言ってサボる気かっ!」
 ジンナイはそう言って、口に箸を咥えながらあいた手でクロエの後頭部を叩いた。



〈零時三十五分 綺璃斗〉

 新たなる力で身体がたぎっているような感触を感じつつ、少女は狂気で狂う人たちが蔓延る歩行者天国を歩いていた。
 そこは錆びた鉄のような匂いや鼻の奥がつんと痺れるような甘ったるい奇妙な臭気が濃厚に入り混じった世界。
 ある意味でその世界は一つの天国にして地獄であった。
 歩行者天国を歩む少女の背中には小さな羽根が生え、身体中に黒い線が刺青のように浮かび上がっている。
 狂気で開放された人たちが放つ狂気が黒き靄となって、少女の身体に吸い込まれていく。
 吸い込んだ黒き靄で少女の肌に浮いた線が濃くなり、背中の羽は肥大する。
 今の状態ならばどんな魔導師が向かってきても、彼女ならば勝てるだろう。そして彼女もそう考えていた。
 ある種のうぬぼれた感情に酔って歩いている内に少女はとある場所にたどり着く。そして同時に息苦しさに似た物を感じた。
 そこは『蒼天零月しんらばんしょう』の蒼月と『黒の花嫁イヴ・リリス』を身に宿す零夏が初詣をしに行った神社であった。
 神社の前に立てられた真っ赤な鳥居から二人の男女が何か話をしながら出てくる。
「零夏。これからどうする?」
「甘味処を出している部隊があるらしいので、そこに行きませんか? その……お汁粉でも」
 一人は藍色の細長い袋を持った蒼月。もう一人はまだ少し肌が上気している零夏。
 その光景はとても仲睦まじく、こんな状態でなかったらつい頬を緩ませてしまいそうな暖かみのある風景。
 黒目と白目が逆になった目を細めながらを少女は零夏を注意深く観察する。
 恥ずかしそうに頬を桜色に染める零夏の白い手や細い首筋から紋様が浮かび上がっている。
 身体の半分以上が『神よ。何故、私に重荷を課したマグダラ』の能力と化している少女は理性ではなく、本能的に零夏はどういう存在なのか判断した。
 彼女は自分と同じ『先天性古代遺失物能力者インヒレント・ロストロギア』であり、自身にとっては高級なエサであると。
 夜露に濡れる彼女から漏れ出るその匂いは歓喜で身体が震えそうになるくらい甘くて、むせ返るような濃厚があった。
 きっと彼女の能力を吸収すれば、自身に宿る能力がより強くなると思った。
 零夏の『黒の花嫁イヴ・リリス』から薫るその匂いへ吸い寄せられるように少女は疾駆する。
 だから少女はその存在に気づかなかったのかもしれない。
 ほとんど生まれたてに近く、まだ未成熟な能力を有する彼女をずっと守り続けていた能力者の存在に。



 自身と同類の気配を感じた蒼月は袋に巻かれた緋の紐を口に咥え、引っ張る事でその封を解く。
 紐が解かれた事によって袋から現れたのは藍色の長い柄と柄頭らしき物。そして少しくすんだ金色の板。
 親指を板にかける事で棒を袋から少し抜き出す蒼月。向かってくる少女から醸し出される狂気が棒状の物に吸い込まれていく。
 振り向き際に蒼月は空を薙ぐような感じで無造作にその棒を下から上に振り上げた。
「蒼天零月……参乃陣。四刃『八咫の黒』」
 袋の中から姿を現せた棒状の物は良く見ると、細長い定規みたいな感じであった。
 その正体は少女が少し前に交戦した恭耶と言う女性が主に得物として扱っていた接近戦用の武器。
 とある世界のとある国で作り上げられた一級品の芸術品にして、それを所有する者に相対する存在を分かつ為の武器―――。
 ―――刀。それも、野太刀に分類される程の長大な長さを持った刀であった。
 野太刀の奔った軌道に沿って集束した狂気が巨大な黒き刃となり、零夏に向かってくる少女に襲い掛かる。
 少女は黒い刃に切り上げられ、野太刀の軌跡に沿って宙に打ち上げられる。
 重力に従って地面に落ちた少女に蒼月は野太刀を袋の中にあると思われる鞘に収めながら言った。
「一回目は見逃してやるから、今すぐ消えろ。二度目は―――」
 蒼月は納刀した野太刀の鯉口を切り、殺気を放ちながら宣告した。
「無いと思え」
 その殺気は数秒前に蒼月が抜刀した刃の様に冷たくて鋭い。
 少女が下手な動作を取れば、蒼月は容赦という不純物を持たずにその無垢なる刃を振るうであろう。
 生存本能的に危険を感じたのか、少女は背中から羽を生やしてその場から離脱。
 鯉口を切った野太刀を再び袋の中に収め、緋色の紐で縛る事によって封をする。
「……蒼月?」
 袋に封をしてから少女が飛び去った先を睨みつける蒼月に零夏は心配そうな声を出す。
 そんな彼女に蒼月は苦笑し、髪が乱れない程度に優しく零夏の髪を撫でた。
「じゃあ、その甘味処でも探しに行くか」
「……はい」
 零夏は髪を撫でられる恥ずかしさからか、頬を赤く染めつつ頷いた。



〈零時三十九分 ???Side E.ver〉

 上は二つ名持ちの歌姫。下はアイドル志望。
 アイドルたちが多く集まる街。別名『アイドルの戦場』とも言える街。ファーヴェルプーペェ。
 そんなアイドルの街に店を構えるのが【居酒屋「苺壱枝」】の二号店であった。
 店長である月城天音は、肩には長細いバックがかけたジャージの少年に注文をしていた。
「私は注文していた材料を受け取りに行くから、冬秋君は機材関係をよろしくね」
 そう言って天音はカウンターに乗せていた白いコートを羽織り、真っ白な手袋をその裏ポケットに突っ込む。
 天音は改めて目の前にいる冬秋に言った。
「じゃあ、冬秋君。お願いね」
「閣下モードではない師匠の言動はしっくりこんわぁ…」
 目の前に不可思議な生き物がいるかのように口を半開きにしながら訝しげな顔で天音を見る冬秋。
 何故ならば、初めて冬秋が出会った時の彼女は今のようなのほほんとした感じではなかったからだ。
 あの時の天音はあらゆる物を無意識に屈服させような威圧感を漂わせ、どのような状態に陥っても自身の芯にある物だけは穢される事はない。
 まるで自身が唯一無二の女王だと言っている様な威圧をあえて放つ女性であった。
 冬秋はそんな時の彼女を知っているだけに、今の天音にちょっとした違和感を感じていた。
 その言葉に対して瞼を閉じ、軽くため息をつく天音。
 天音がその瞼をゆっくりと開いた瞬間。春の日差しのように暖かくて優しい雰囲気が、冬の雪のように冷たくて鋭い感じへと反転する。
「じゃあ、こちらの方がお好みかしら? 冬秋」
 漂わせていた空気が変わり、無条件に相手を屈服させるような威圧を放ちながら天音は冷ややかな目で問う。
 対峙しているだけで押し潰されそうな空気。
 抜き身の刀のように鋭くて冷たい視線。
 それらは冬秋が天音と始めて会った時に感じた物。
 天音の問いに肯定するかのように冬秋はニヤリと笑う。
 ニヤリと笑う冬秋に天音は目を半分ぐらい閉じながら言った。
「貴方も物好きねえ」
「ワイの師匠は女の子している時のあんたや無く、サディスティックさ全開なあんたやし」
 実を言うと冬秋は【居酒屋『苺壱枝』】の店長として振舞う天音ではなく、女王然とした雰囲気を醸し出す彼女を師事していた。
 冬秋と同じ考えの人も何割かいるらしく、カリスマ性というものがある今の天音を崇拝対象とする者もいる。
 笑みを崩さない冬秋に天音は威圧を叩きつける様に言った。
「冬秋…折檻して欲しいのかしら?」
 その口から紡ぎだされたのは甘い言葉。
 内容は物騒でありながらも聞く者の頭を溶かし、無条件で頷かせてしまいそうな甘美な毒。
 ある種の誘惑に近い言葉に冬秋は歯を剥きながら楽しそうに笑って返した。
「……あの人たちの言う『ご褒美』は勘弁や」
 天音を崇拝している者の中には踏まれる事によって幸せを見出す者がいるが、流石に冬秋は暴行されて喜ぶ趣味は無いからだ。
 苦笑いしつつ断りを入れた冬秋に天音はつまらなさそうにため息をついた。
「なら、早く行きなさい」
 今すぐ命令に従わないとこの場で容赦なく折檻を開始すると言うような口調の天音に冬秋は苦笑しつつも肩に掛けたバックを背負いなおす。
 そして急かされるように【居酒屋「苺壱枝」】の表口へと歩いて行く。
 出て行く直前で何か思い出したらしく、冬秋は天音の方に振り向いて訊ねた。
「それと……帰りにライブを覗いて来てもええか?」
 天音はその言葉に少し驚いたような表情を浮かべる。
「音楽に興味が無い冬秋にしては、珍しいわね」
「ちょっとご贔屓にしてもろうとるお客さんのライヴやからな」
 あっさりと言ってしまったら天音から茶化される事が予想できた冬秋は、出来るだけ悟られないように言った。
 しかし冬秋の口から出た『ライブ』と『贔屓にして貰っている客』という二つのキーワードで誰を見に行くか分かったらしく、天音はにんまりと笑う。
「あの二人ね……冬秋はどっちが好きなの?」
 数秒前まで醸し出していた威圧が幾分か薄れ、目をキラキラさせながら興味津々で冬秋を見る天音。
 少し照れ臭そうに目を流線型のサングラスで隠す冬秋。
「だから、贔屓になっているお客さんやからや。恋愛感情なんて持ち合わせてはおらん」
 それでも楽しげに笑う天音。冬秋が微かに動揺したのを面白がっているようだ。
 冬秋は深いため息をついてから言った。
「それに性的な話は昔を思い出すから、あんま好きや無い。師匠には前にも話したやろ?」
 冬秋の脳裏に浮かんだのは過去の記憶。
 よろず屋をしていた義父に冬秋と片割れである春夏が拾われる前の事。
 二人は小さな孤児院で暮らしていた。孤児院はとても小さくて、壁に入った日々を直すお金が無いくらい貧乏であった。
 しかし冬秋はそれでの生活を一度も辛いとは感じなかった。
 何故ならば側には春夏という自身の半身がいて、血は繋がってはいないけど家族がいた。
 ある種の蜜月が終わりを告げたのは、とある男が孤児院に到来した事を起因とする。
 春夏だけが男に引き取られ、冬秋は一人だけ孤児院に残された。
 院長は幸せになる事が出来る場所に行ったのですと諭したのだが、嫌な予感がした冬秋は里親となった男と片割れである春夏を追いかけた。
 何度か二人を見失ってしまったが、冬秋はどうにか男の家へとたどり着く。
 そこで見たものは男に姦通される寸前であった春夏の姿。
 冬秋は自身の半身である春夏が男の欲望とその化身によって穢される事に嫌悪感を感じた。
 そして冬秋は衝動に駆られるままにその男を押し倒し、馬乗りになって殴った。
 ちゃんとした殴り方など冬秋は知らなかった。ただ両手を強く握り、酔っ払って喧嘩する大人たちがやっているのと同じように殴った。
 拳が男の歯に当たって切れようとも、握った拳の骨が軋んで痛もうとも、痛みで拳の感覚が無くなろうとも、傷が拳を握った時の力みで更に裂けようとも、裂けた傷から真っ白な骨が露出しようとも、駄々をこねるように腕を振り回し、握った拳を男の顔面に叩きつけ続けた。
 男の顔面が冬秋の拳でひしゃげて行こうとも容赦なく殴った。
 拳についた血が冬秋の物なのか男の物か分からなくなり、春夏に羽交い絞めにされるまで冬秋は男を殴り続けたのである。
 冬秋と春夏は顔面がボコボコになった男を放置して、その場から逃走。
 その後は未開発地区で物乞いとなり、最終的にはよろず屋の仕事をしていた義父に拾われる事となって今に至る。
「確かに冬秋君が前にそう言っていたね」
 いつの間にか天音の口調が冬秋の言う『閣下モード』の物ではなく、【居酒屋「苺壱枝」】で接客をしているいつもの口調に戻っていた。
 目に悪戯っぽさを宿しながら天音は面白そうに笑う。
「でも、二人は冬秋君を一人の男として好きかも知れないよ? 例え最初が吊り橋効果であったとしてもね」
 相手に畏怖を与える『閣下モード』と人の心を穏やかにさせるいつもどおりの口調が入り混じったような感じの言い方で天音は笑った。
 その響きには何故か天音が今までに歩んできた過去がにじみ出ているように冬秋は感じた。
 冬秋はいつの間にかずり落ちていたサングラスを直し、ニヤニヤと笑う天音に背を向けて言い放つ。
「ワイにそんな甲斐性あるわけない。それに、ワイを未熟者と言う師匠にしては珍しい言動やね」
 天音は自嘲するような冬秋の言葉にとある一言を容赦なく叩きつけた。
「この女泣かせ」
 何の予兆もなく口調が『閣下モード』に戻った天音は目を細め、愚痴を漏らす様に言い放つ。
 ほとんど不意打ちで言われた冬秋はその威圧に呑まれ、ある種の恐怖で背中をビクリと震わせた。
 背中を振るわせる冬秋に天音はクスリを笑い、口調は『閣下モード』でありながらも目に笑みを浮かべながら言った。
「武芸者としてはまだまだ未熟者。でも、漢としては立派な一人前。私が保証するわ」
「そんじゃあ……行って来るわ」
 この月城天音という自身の師匠には勝てないな、と思いつつ冬秋は右手を軽く振りながらクラナガンへと向かった。


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Author:雪奈
「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
物語の続きを作るのもまた……
読んでいる貴方なのです。






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