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「竜の風詩」Another Song 01

こんばんは。
雪奈・長月です。
今回は過去に書いていたSSのリメイク版を掲載いたします。
ある意味でオリジナルです。原作が知りたい方は、『竜の風詩』と検索してください。



 目の前が赤い。それは炎の赤であり。血の赤。そう。目の前の全てが赤に染まっていた。
 その中で一人の少年が歩いていた。目は深紅で髪は蒼い。穿いているズボンに無数の切れ目が入っている以上に、着ている衣服は既にボロボロで身体を保護する用を成していない。
 血気が無くなって白くなるほど強く握られた手には一振りの太刀が握られていた。峰や柄は蒼天の様に蒼く、刃は霧をそのまま閉じ込めたかの様に白い。
 赤い世界を歩く彼は満身創痍であった。その上、身体には奇妙な現象が起きて
いた。太刀を握る腕には奇妙な紋様が浮かび上がり、もう片方の腕にはウロコが出来ていた。それらの浸食範囲は徐々に広がっていき、既に首から下が紋様とウロコで覆われていた。
 それでも彼は足を止める事無く進み続ける。
 そして彼は扉に辿り着く。扉には「第零番研究室」と刻まれていた。
 彼は横へ無造作に太刀を振るった。その軌跡をなぞるように切れ目が入り、地響きのような音を立てながら崩れ落ちた。
 彼は無言で研究室の中に入る。
 そこには大きなモニターと無数のキーボード。そしてそれに背を預けるように一人の男がいた。モニターには画面一杯に数式が羅列し、今も起動している。
「……お前らの言う…「悪魔の樹」…は……これで終わ…りだ……」
 男は彼に言った。口からは血が垂れていた。
「しかし……これで終わらせてたまるか……」
 そう言って男はキーボードのキーを叩き壊すような勢いで押した。モニターにとある一文が浮かぶ。
「コード……アルカディア……」
「今の世界を破壊し……新たなる世界を構築して上書きする…創世…プログラム……さ…馬鹿な奴らが作ったプログラムが…ここで役立つ…とは……な」
 それが最後の力であったのか、男はそのまま倒れた。
 彼は男に駆け寄る。しかし既に男は息を引き取っていた。
「コードアルカディア……発動します」
 機会音声がプログラムの発動を告げた。
 モニターから光が放たれ、部屋を飲み込んでいく。彼もまた、光の中に飲み込まれていった。
 光の中で彼は絶え絶えになりながらも小さく呟いた。
「……零……夏…」
 この瞬間、ドラグードの世界が終わりを告げた。
 そして新たなる世界が構築され、再びドラグードの世界が始まった。



 港町ポトルトップに至る街道を一人の旅人が歩いていた。
 きっと砂漠を歩いてきたのだろう。フード付きのマントを頭から着ているせいで顔はおろか、身体の一部すら見えない。
 小柄な身長から判断するに、年齢は十四歳か十五歳ぐらいであろう。
 マントの上に出ている身体の線も全体的に細身で性別の区別もつかなかった。
 旅人が無言で街道を歩いていたその時、叫び声が響いた。
「トラック襲撃者だぁ!」
 その叫び声でゆっくりと視線を後ろに向ける旅人。
 少し離れた街道でトラックが男たちに襲われていた。
「……」
 旅人はマントの中で身体を動かし、腕を突き出す。出てきた腕に握られていたのは深紅の拳銃であった。無言でもと来た道を戻る。
「お前等が保護した孤竜を寄越せや!」
「この仔は渡さないッス!」
 そこには犬型の獣人とニット帽とスカーフで目の部分以外を隠した男たちがいた。どうやら男たちは犬型の獣人が抱きかかえている「孤竜」なるものを狙っているようだ。
 旅人は無言で男たちの方へ歩み寄る。そして一人の背中に銃口を軽く押し付けた。
「早く渡せっ!」
「イヤッス!」
 男たちは犬型の獣人に対して激高しているのか、誰も旅人に気づいていなかった。
「……アイギス」
 中性的な声が旅人から紡がれると同時に銃爪が絞られる。それと連動して撃鉄がシリンダーの尻部を叩く。
「うっ……」
 銃口から弾が撃ち出されてから数秒遅れて、男が呻き声を上げながら倒れた。
「何だぁ!」
 リーダーらしき男が旅人を見ながら声を上げた。
 予想だにしなかった状況に陥った事により、男たちは動揺する。
 旅人はその隙を見逃さずに間髪を入れずに銃爪を引き絞った。撃鉄が落ちる音
はするのだが、発射音や発射時に起こる閃光がなかった。
 しかし旅人に銃口を向けられ、引き金を引かれるたびに男が一人。また一人と倒れていく。
 ついにリーダーらしき男だけが残された。
 銃口を向ける旅人に男は訊ねた。
「おぃ。お前の望みは何だ」
「……」
 何も言わず旅人は銃爪を絞った。不可視の弾は男の腹部に着弾し、身体の自由を奪い取った。
 周囲に倒れた男たちを見ながら犬型の獣人は旅人に問う。
「こ……殺したんッスか?」
「殺してはいません。一時的に身体の自由を奪っただけです」
 旅人はマントの中から中性的な声で答えてから訊ねた。
「一つお聞きしますが、ポイルトップでは密猟者に懸賞金は掛けられていますか?」
「一応は掛けられているッスけど……」
 犬型の獣人は旅人の問いに困惑しながらも答えた。
「ありがとうございます」
 旅人は今も地面に倒れている男たちをまとめながら獣人に礼を言う。
「もしかして……一人で全員を運ぶつもりッスか?」
「そうですが」
 旅人は不思議そうに小さく首を傾げた。
「一人じゃ無理ッス。ポイルトップで良ければ連れて行くッス。良いッスよね?」
 犬型の獣人はトラックの方に目配せをする。
 頭を下げる事で運転席に隠れて一部始終を見ていたのだろうと思われる人間の男は無言で頷いた。
 強盗団が「孤竜」と呼んでいた緑色の生き物を片手で支えながら犬型の獣人は旅人に手を差し出す。
「ニエルッス」
 旅人はニエルと名乗る獣人の前でフードに手を掛け、後ろに下ろす。
 そしてニエルに手を差し出した。
「幽霧霞といいます」
 フードを外した旅人の顔を見つめながら呆然としているニエル。
 目の前にいるニエルに幽霧は首を傾げる。
 ニエルが呆然としているには理由があった。何故なら幽霧の顔がとても綺麗だったからだ。
 茶色の髪は肩の辺りで切り揃えられ、瞳は吸い込まれそうなくらい深く澄んでいる。
 そしてその肌は大理石のようにきめ細かくて滑らかな白い肌をしていた。
 顔や身長からして、少女とも言えるが、華奢な身体をした少年とも言えた。
 とにかく幽霧と名乗る旅人は中性的すぎる容姿をしていた。
「どうかしましたか?」
 首を傾げながらニエルを見つめる幽霧。ニエルは、それから数分経ってから我に返る。
「あっ。ごめんなさいッス。ちょっと貴女の顔に見とれてたッス」
「そうですか……まぁ、馴れてますから」
 幽霧は一瞬だけ複雑そうな顔をしたが、微かに笑みを浮かべながらニエルの手を握った。



 港町ポイルトップ。
 市場は近くの港からもたらされる魚介類や遠くから仕入れられた野菜や果物で賑わっていた。
 幽霧はリンゴやハムの入った紙袋を左腕に抱え、右手にトマトを握って歩いていた。
「流石、港町ですね。流通の良さが半端じゃない……」
 買ったトマトをかじりながら呟く幽霧。数分前まで冷水に浸かっていたトマトは太陽の光を浴びて輝いていた。
 約一時間前に捕まえた人たちは『ギラナ』という有名な孤竜専門の強奪団だったらしく、竜保護協会から多額の褒賞金が幽霧に贈られた。そのお金で食料を購入したというわけだ。
「それに……竜や獣人も平等ですね」
 周囲を歩いている竜や商人らしき獣人を眺めながら幽霧は感嘆する。
 幽霧はポイルトップに着くまでに沢山のものを見てきた。
 竜を神と崇める村。
 正反対に竜を災害の根元として排他する町。
 獣人を醜きものとして差別する町。
 挙げ句の果てには、竜や獣人を玩具として戦わせたりする都市まであった。
 そう考えると、ここは小さな港町であるらしいが、平等で平和なようだ。
 トラブルが余り起きていないようなので、治安が悪いようには見えない。きっと良い自警団がいるのだろう。
 幽霧はぼんやりとそんな事を考えながら歩いていた為に前方から歩いてきた少
女に気がつかなかった。
「きゃっ!」
 少女も幽霧に気づいていなかったらしく、そのまま二人はぶつかり合う。踏みとどまるために身体が力み、幽霧は右手に握っていたトマトを握りつぶしてしまった。
 食べかけのトマトが汁と種を撒き散らし、幽霧と少女を汚す。
「えっと……大丈夫ですか?」
 幽霧は手に付いたトマトの汁を着ているマントで拭い、少女に手を差し出す。そこでやっと少女を見た幽霧は息をのむ。
 海の蒼さをそのまま閉じ込めたような綺麗な瞳に、漆を塗ったかのような艶やかな長い黒髪。
 肌は精緻な蝋人形のように白く滑らかで、身体は腰が細いからか膨らんだ胸と
尻の部分をより強調している。
 目の前にいる美少女という言葉でしか形容出来ないくらいの容姿であった。
「すみません……」
 少女は幽霧の差し出した手を握る。その手が触れた瞬間、幽霧の身体に電撃のような強い痺れが走った。
 そして奇妙な映像が脳裏に浮かび上がる。
 目の前にいる少女の身体中に禍々しい模様が浮かび上がっている姿が。海の蒼さを閉じ込めているような瞳が鮮血を固めて創ったような真紅の瞳に変わり、目からは涙が止まる事なく溢れ出ていた。
 しかしいきなり起きた頭痛によって、その映像はかき消されてしまう。
 自分の身体の事であるのに、幽霧は脳裏に浮かんだ映像と頭痛の理由が分からなかった。
 いきなり頭を押さえながら膝を突いた幽霧に不穏な空気を感じたのだろう。少女は幽霧の肩を持つ。
「大丈夫ですか?」
 幽霧は顔を青くしながらも首肯する。徐々に謎の頭痛も収まっていった。
 少女はよろけながら立ち上がる幽霧を心配そうな顔で見ながら立ち上がった。
「では……自分はこれで…」
 いきなりぶつかった上に心配までさせてしまったことに申し訳なさを感じながらもその場を後にしようとする幽霧。
 しかし少女は立ち去ろうとする幽霧を放っておかず、今も微かによろけている
身体を支える。
「えっと……」
「まだ身体が変なら、無茶をしないで下さい」
 困惑している幽霧に少女は苦笑した。「とりあえず…休める所に」
「すみません……」
 幽霧は申し訳なさそうに頭を下げ、少女に身体を少し預ける。
 笑顔を浮かべながら少女は幽霧に言う。
「じゃあ、行きましょうか」
「ありがとうございます。えっと…」
 名前を聞いていなかった事を思い出して言いよどむ幽霧。
 苦笑しながら少女は自己紹介をした。
「申し送れました。私の名前は零夏と言います。気軽に零夏と呼んで下さいね」
「……幽霧霞です。どう呼んでも構いません」
 やつれたかのように自己紹介する幽霧。
「じゃあ、幽霧さんと呼ばせて貰いますね」
 こうして幽霧と零夏は人ごみの多い道を歩き出した。



 幽霧が零夏によって連れて来られた先は、牙竜亭という飲食店だった。
 店内は大勢の客で賑わい、青い髪の少女が忙しなく働いている。
 テーブルの一つに幽霧と零夏は座っていた。
「落ち着きましたか?」
「……はい」
 冷えた水を嚥下し、深く息を吐いた幽霧は零夏の問いに首肯する。
「それは良かったです」
 そう言って零夏もグラスに注がれた水を口に含んだ。
「いきなり気分を悪くなられたので驚きました。私が何かしてしまったのかと思
いました」
「すみません。いつもなら、こんな事など起きないのですが」
 気恥ずかしそうに紅潮した頬を掻く幽霧。そんな幽霧に零夏はクスクスと笑った。
 恥ずかしさを紛らわせるためか、幽霧はグラスに口を付ける。
「そういえば、砂漠を越えてきたような格好ですが……」
 幽霧の格好に興味が向いたらしく、零夏はフード付きのマントをじっと見ている。
「……自分は」
 じっとマントを見つめる零夏の問いに幽霧が答えようとしたその時。
 少年らしき声が零夏にかけられる。
「零夏。こんな所にいたのか」
「あっ、蒼月」
 そこにいたのは蒼髪赤眼の少年だった。どうやら零夏の知り合いらしい。
「今からご飯?」
「ああ、リンの里親が変な物を食わせたせいで下痢になってな……ニエルは保護
してきた孤竜の方に回ってるからな」
 蒼月と呼ばれた少年はため息を付きながら答える。
 そこでちょうど幽霧と零夏の注文を取る為に青い髪の少女がやって来た。
「注文は決まりましたか?」
「余りお腹は空いていないから……海草サラダで」
「あぁ、葵さん。俺はドラコッコの唐揚げ定食一つ」
 零夏と蒼月は早々と注文するが、幽霧はまだメニューを選んでいた。
 蒼月に葵と呼ばれた少女は無言でじっと幽霧を見つめる。
 しばらくメニュー表を見回し、幽霧はとあるメニューを注文した。
「じゃあ、超絶牙竜丼で」
 超絶牙竜丼という名前に牙竜亭で食事をしている客がざわめき始める。
「おい……超絶牙竜丼が出たぞ」
「えっ。超絶牙竜丼!?」
「嘘だろ……」
「いいや。マジだ」
「あんな身体が細そうな娘がかよ」
 葵は注文の確認を行う。
「海草サラダに、ドラコッコの唐揚げ定食に……超絶牙竜丼。以上でよろしいでしょうか」
 念を押すような確認に幽霧は首肯した。
「しばらくお待ち下さい」
 そう言って葵は厨房へと歩いていった。
 蒼月は空いている席に座り、零夏に尋ねる。
「買い物に行くと言っていたが、どうしたんだ? 一緒にいる奴も見慣れない顔
だけど」
 蒼月が幽霧を見る視線は微妙に殺気らしき物が感じられた。剣呑な雰囲気を醸し出す蒼月に零夏は答えた。
「市場の通りで少し辛そうにしていたから保護してきたの」
「そうか……」
 零夏の言葉で納得する蒼月。身体から放たれていた微量の殺気が薄れていく。
 片手を自身の胸に当て、零夏は幽霧に自己紹介をした。
「改めて自己紹介させて貰いますね。ポイルトップ第五竜舎で竜保育士をしている栖鴎零夏です。それでこっちが……」
「零夏と同じくポイルトップ第五竜舎で竜保育士をしている蒼月だ」
 殺気混じりの視線で睨んできたさっきとは打って変わり、ニヤリと人懐っこく笑う蒼月。
「階級は私が第三級の竜保育士で、蒼月が第四級の竜保育士です」
 自身が自己紹介をしないのは悪いと感じたのか、幽霧は二人に自己紹介をする。
「幽霧霞です。賞金稼ぎで生計を立てながら旅をしています」
「賞金稼ぎには見えないけど……」
「獲物は?」
 幽霧の言葉を信じられない零夏。蒼月は使用する武器を問う。
 マントの中に手を入れて身体をもぞもぞと動かす幽霧。突き出した手に握られ
ていたのは深紅の拳銃であった。
「銃……瑠奈さんに似たスタイルか…」
 深紅の拳銃を見た蒼月はポツリと呟く。これ以上出している必要がないと判断したのか、幽霧は握っている拳銃を再びマントの中に仕舞った。
 拳銃を仕舞い込んだ幽霧に零夏は質問を重ねる。
「幽霧さんは何で……旅をしているのですか?」
 その問いにはすぐに答えない幽霧。しばらく間を置いてから口を開く。
 ちょうどその時、三人の座るテーブルに一抱えもあるくらいの巨大などんぶりを持った葵がやってきた。
「超絶牙竜丼です」
 テーブルに置かれたそのどんぶりに幽霧だけではなく、零夏たちまで絶句した。器には肉や魚が山盛りになり、ご飯は全く見えない。まるでそれ自体が山のようだ。
 周囲の客も幽霧たちのテーブルに鎮座している超絶牙竜丼を見てざわめき始める。
「相変わらず圧倒されるな……これ」
「そうだね……」
 超絶牙竜丼を眺めながら蒼月は呟いた意見に零夏も同意した。
「制限時間は十五分。制限時間内に食べ切れたら千五百シェル贈呈。食べきれなかったら二千五百八十シェル徴収します……よろしいですね?」
 ストップウォッチを構えながら葵は幽霧に訊ねる。
「はい」
 箸を持った幽霧はその説明に頷く。
「初めっ!」
 葵がストップウォッチを押すのと、幽霧が超絶牙竜丼に箸をつけたのは殆ど同時であった。
 目の前で起こった事態に零夏たちを含む観客は唖然とする。開始を告げた途端、超絶牙竜丼に盛られた具とご飯が凄い速度で減っていくのが。
 明らかに幽霧が咀嚼している仕草をしていないので、目の前の丼に盛られた物を飲み込んでいるように見えた。
 その速度に観客たちはもしかしたら、目の前の少女が超絶牙竜丼を十五分以内に完食するのではないかと思い始める。
 ほとんどが食べる手を止め、超絶牙竜丼に挑む幽霧の方へ目を向ける。
 十分くらい経っただろうか。
「……ごちそうさまでした」
 どんぶりの上に箸を置き、手を合わせる幽霧。
「……」
「……」
 零夏と蒼月などの観客たちだけではなく、葵の顔にまで驚きの色が広がっていた。
「きゅっ……九分五十二秒…」
 葵が宣告し終わるかし終わらないかの間に周囲から歓声が上がる。
「すごいっ! すごいですよ! 幽霧さんっ!」
 そう言って零夏は幽霧に抱きつく。
 目を白黒させる幽霧を蒼月は殺気混じりで睨みつける。
 幽霧に葵は言った。
「十五分以内に超絶牙竜丼を完食したので、千五百シェルを贈呈いたします。そしてお代は完食されたので、結構です」
 葵はそう言って、厨房に溜まっているであろうメニューを取りに歩き去る。
 殺気混じりの視線を向ける蒼月に気づいた幽霧は今も抱きついている零夏に言った。
「すみません。少し恥ずかしいので……」
「っ! すみません…ちょっとはしゃいじゃって…」
 抱きついてから恥ずかしくなったらしく、零夏は微かに頬を紅潮させながら離れる。
「ドラコッコの唐揚げ定食……まだ来ないな…」
「すみません。変な物を頼んじゃって……」
 自身が超絶牙竜丼を頼んだからだと思った幽霧は蒼月に頭を下げる。しかし蒼月は苦笑する。
「貴女のせいじゃない」
 そう言って瞼を閉じる蒼月。
「ねぇ、幽霧さん」
「? 何ですか?」
 零夏はいきなり幽霧に話しかける。
「幽霧さんは何で、旅をしているのですか?」
 驚いた顔をしてから目を伏せる幽霧。テーブルにしばらく沈黙がおりる。
「話せなかったら話さなくても良いんですからっ」
 気まずさを感じた零夏は慌てて幽霧に言う。
 しかし幽霧はその理由をポツリと口に出した。
「自分……少し前から記憶がないんです」
「……え?」
 驚く二人。瞼を閉じていた蒼月までもが驚きで瞼を開く。
 そのまま幽霧は話を続ける。
「廃墟で銃を両手で抱きしめていたのが一番古い記憶です。通りかかった旅の商人に拾われ、色んな所を旅してきました」
 でも未だに自身の事を知る人に会えませんと、幽霧は付け加えた。
 軽い気持ちで訊ねた質問に対し、凄く重い答えを返された零夏は何も言えなくなる。
 蒼月も零夏と同じ心境らしく、俯いているだけで何も言わない。
「ドラコッコの唐揚げ定食と海草サラダをお持ちしました」
 葵が蒼月と零夏の頼んだ料理を運んできても二人は何も言わなかった。それは食べている時も同じで、気まずさだけが三人の間で流れる。
「じゃあ、そろそろ自分はこれで」
 二人が食べ終わったのを見計らって席を立つ幽霧。
 歩き去ろうとする幽霧を零夏は呼び止める。
「幽霧さん!」
「……何ですか?」
 背中にかけられた零夏の声に幽霧は振り向く事で、首だけを二人の方へ向ける。
「まだ泊めるとこを決めていないですよねっ!」
 少し躊躇いがちに零夏は口に出した。
「なら……私たちの所に来ませんか?」
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雪奈

Author:雪奈
「交換戯言日誌」を見に来て下さってありがとうございます。
終焉の引き金を引くのは貴方。
物語の続きを作るのもまた……
読んでいる貴方なのです。






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