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  • 2009-01-29
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魔法少女リリカルなのはギャルゲーテイストSS『Künftiges Erwartungsbild』 十五話『眠れない二日間』⑮

こんばんは。雪奈・長月です。

今夜は日曜日。
現在、涼香様の時空管理局ラジオ進行中!
ひとまず涼香様は自身の身体をご自愛ください。
そしてココに来る皆様も身体に気をつけて下さい。

私は少し悟りらしき物が開けました。
Chronicle*SCREAM』のStay様に感謝ですね。
それでも、時々腹痛で起きてしまう事には変わりないですが。



過去の部分が読みたい方は『戯言工房』へ。
ある種のカオス空間なのでご注意下さい

他に何かありましたら、『幻想寓話』へ。
匿名でも構いません。ご自由にお使い下さい。

悟りは少しだけ開けたのですが、寂しいのと内容に自信がない時期が続いたので・・・・
進行はまだ少し遅いです。頑張らないと・・・・・・・
それでは更新です。





十五話『眠れない二日間』⑮

 クラナガンの空を疾駆する黒い影。
 それはメイド服を纏う女性。スカートの裾と共に漆塗りの黒髪と髪を縛っている臙脂色のリボンが風ではためく。
 時空管理局第二十一番特別編隊。通称『ナイツ』ブレイブ分隊隊員。恭耶陸曹長。
 それが彼女の名前と役職であった。
 彼女は建物の壁を蹴りながら自由自在に宙を舞う。
 宙を舞うように走る彼女は黒い軌跡を描く。
 そして彼女は大晦日でありながらも司令部で警護任務のサポートを行っているオペレーターに指定された場所へとたどり着く。
 指定された場所には陸士部隊特別救助隊のスバル・ナカジマが倒れていた。
 恭耶はスバルを抱き上げる。抱き上げたその身体は異様に軽かった。
 腹部からはおびただしい出血痕があり、既に目の焦点が幾分か合っていない。
 口からはヒュウヒュウと笛のような音を出していた。
「スバル・ナカジマ一等陸士っ!」
 掛けられた声に気づいたスバルは恭耶に顔を向ける。
 しかし目はまだ焦点が上手く合っていないような感じであった。
 きっと今のスバルは話しかけてきたのは誰なのか分かっていないであろう。
「…あの子…を……助けてあげて………」
 それだけ言って、スバルの意識は途切れた。
 スバルの手が地面に落ちる。
「恭耶陸曹長っ」
 武装した局員がスバルの方に駆け寄ってきた。
 どうやら敗北したスバルの救援に来たようだ。
「……スバル・ナカジマ一等陸士を頼みますわ」
 駆け寄って来た局員にスバルを預け、恭耶は走り出した。



〈二十三時五十五分 綺璃斗〉

 自らの身体ごと恭耶を串刺しにした少女は暗い路地裏の壁伝いに移動していた。
 目の前には光があり、それは後もう少しで表の通りに出れることを意味していた。
「ゲボッ! ゲボッ! グウェェェ…」
 少女は激しく咳き込み、口から黒い何かを吐く。
 その黒は薄暗い路地裏の中でも判別がつくくらい黒く、妙に粘り気があった。
 吐き出された黒い物体がまるでヘドロのように地面や建物の壁にへばりつき、外観的にも雰囲気的にも少しずつ汚していく。
 そんな濃厚な穢れと狂気に満たされていこうとする空間に一つの声が混じる。
「―――やっと見つけましたわ」
 女性でありながらもまだ二十歳に達していないだろうと思われる声が響くとほとんど同時。
 空気を切るような音と共に少女の身体を無数の何かが貫く。
「まあ、普通でない空気を辿っただけですが」
 貫かれた痛みが熱さとなって少女の神経を走る。
 痛みと共に少女の身体は動けなくさせられてしまっていた。
「こんばんは」
 少女の目の前に現れたのは顔に微かに笑みが浮かんでいる恭耶。
 左手に棒状の物を持っている以外は何かの武装をしているようには見えない。
 身体が動かない状態でも恭耶を倒すために少女は口を開く。
 周囲にへばりついている物が靄へとなり、球体となって少女の口へと集束していく。
 恭耶は笑みを崩さずに開いていた右手の親指を立て、ゆっくりと曲げた。
 その瞬間、ピィンっと何かが張り詰めて切れる音がした。
 少女の作り出した球体が開放されるとほとんど同時。
 ひゅんという風切り音を立てて少女の右足が落ちた。
 片足が落ちたことで少女はバランスを崩し、解放された黒い閃光は恭耶の脇にあった壁をえぐった。
 そして滑らかな断面図を作って落とされた足は靄へと還った。
「やっぱり推測通りでしたか」
 恭耶は靄へと還った少女の足を見ながら呟いた。
「肌に食い込んで浅く傷が入る程度の威力まで勢いを殺しましたのに落ちるなんて……貴女。身体が」
 黒い靄が恭耶によって切断された少女の右足に集まって新しい足を作り出した。
 その足は真っ白で瑞々しく、恭耶によって数秒前に切り落とされたとは思えなかった。
 しかしその足も生えた瞬間には恭耶の不可視な攻撃によって再び身体を動けなくされてしまう。
 恭耶によって切断された足をまるで何も無かったかのように修復された事。
 そして数分前に少女の口から出てきたのが赤い血液ではなく、黒いヘドロ状の物である事が指す事。
 それは彼女の身体から何から何までが能力に乗っ取られ、身体の構成すら変えられてしまっているという事であった。
 彼女が彼女で無くなり、古代遺失物と同等かそれ以上の能力を暴走させた状態で行使するだけの歩く肉袋となっていく事。
 彼女となりかけている能力は歩き続ける。
 宿主の望んだ能力とはまるで対極の位置にいる能力を持って世界を狂わせるために。
「まあ、頭と心臓以外は大丈夫そうですし……」
 恭耶は残りの四指もゆっくりと曲げていく。
 そのたびに何かが切れ、何かが張り詰めていった。
 笑みを深くした恭耶は握り締めた右手を一気に引いた。
「いっぺん、身を削いで下さいませ―――根絶無惨カオティックインフェルノ
 きぃぃぃんという耳鳴りがした後、少女の四肢を貫いていた何かが肉を切り裂いて外へと出る。
 それによって少女の身体には無数の深い切れ目が入る。
 傷口からは赤い肉がこびりついた真っ白な骨やぶよぶよとした黄色い脂肪が外気に晒された。
 しかし恭耶の発動した〈根絶無惨カオティックインフェルノ〉の効果はまだ終わってはいなかった。
 ジュッと何かが焼けるような音をした瞬間、そこで少女の身体をまだ貫いていた何かが爆発する。
 その爆発によって少女の四肢は内側から弾け飛び、表の通りへ強引に吹き飛ばされる。
 恭耶は瞬時に結界を展開する事で難を逃れた。
 裏路地から爆風によって叩き出された少女は歩いていた人たちに衝突する。
 衝突した人たちは上に乗った少女から離れようとする。
「あらら……加減を間違えましたわ」
 恭耶はまるで料理を間違えたような口調で少女へと歩み寄る。
 路地裏からは黒い霧が噴出し、少女の腕や足の付け根へと集まる。
 強い風が巻き起こり、止んだ頃には少女の四肢は元通りになっていた。
「やっぱり、身体自体が能力と化して来ましたか」
 これは厄介ですわと恭耶は呟き、周囲で遠巻きに見ている通行人たちに呼びかけた。
「今すぐここから退避して下さい! 時空管理局特別措置第六条により、警邏任務に出ている陸曹以下の局員は私に従ってください」
 四肢を再び得た少女は人の山から降り、周囲に漂う黒い霧を集め始める。
 少女から一種の危険性感じた民間人たちは慌てて恭耶と少女の方から逃げる。
[恭耶陸曹長。私たちはどうすればよろしいでしょうか?]
「民間人の誘導を行い、完了と同時に結界の展開と交通規制をお願いします。範囲はこのポイントから周囲百m」
 ナイツのオペレーターを仲介して割り込んだ陸士部隊隊員の念話に恭耶は的確に指示を出す。
[了解。恭耶陸曹長も気をつけて]
 そこで陸士部隊に所属する隊員からの通信が終了する。
 恭耶が空を見上げると羽を生やした少女が黒い霧を集束させて巨大な円錐を幾つも作り上げていた。
 恭耶は右の手首を捻り、指を小刻みに動かし始めた。
 キリキリという奇妙な音がし始める。
「させませんわよ♪ 不破流飛針術…刻絃。」
 右手を握り、勢い良く後ろに引く恭耶。
 魔法による迷彩で隠されていた鋼糸が油断した少女の四肢を絡め取り、少女の白くて細い首を絞め上がる。
「くっ…あっ…」
 少女の口から息が強引に吐き出される。
 動くたびに鉄線が少女を締め上げ、思考を徐々に希薄させていく。
 そして円錐の形が崩れていき、鋼糸で絞められた部分から血の代わりに黒い靄が出てきた。
「くっ……」
 鋼糸を持って少女を束縛する恭耶の額からも冷や汗が流れる。
 片腕だけでは自由になろうと暴れている少女を束縛しきれなくなってきたと言うのもあるが、首に絡まっている物でうっかり首が落ちないかが心配であった。
 一応は捕縛用の鋼糸で束縛しているだが、それで首が落ちないとは限らない。
 手元にある鋼糸を少しずつ伸ばす事で気をつけてはいるのだが、恭耶も内心ではひやひやしていた。
 混乱で避難の誘導も滞っているらしく、なかなか人が減らない。
 早く避難して欲しいと恭耶は心の中で強く祈る。
 今もなお、鋼糸で四肢と首を絞められているのにも拘らず少女は楽しそうな笑みを浮かべた。
 霧が少女の周囲に集まり、黒い霧を纏う漆黒の鮫を作り出す。
 それはスバルと戦った時に見せた〈破軍鮫陣ストレイト・オーヴァ〉の模倣。
 少女が吼えるのを合図に、黒の鮫は鋭い牙を見せつけるように大きく口を開けて恭耶へと迫る。
 半分は弾丸のように突っ込み、残りの半分はその身を跳躍させて自重で相手を潰しにかかった。
 落下しながら突っ込んできた鮫たちが恭耶の身体に圧し掛かり、粘り気のある物体に変化して身動きを取れないようにする。
 更に周囲から霧を集束させて無数の球体を創造し、恭耶を狙って落とす。
 球体の半分ぐらいが地面にめり込むくらいの威力を孕んだ球体が恭耶の頭を打ち、意識を刈り取っていく。
 戦況は恭耶が優勢であったさっきと打って変わり、今は少女が優勢であった。
 しかし恭耶は少女を束縛する鋼糸を緩めようとはしない。
 半分以上、意識が無くなり掛けている恭耶の耳に念話による通信が入る。
[恭耶陸曹長。民間人の避難完了いたしました]
「……了解」
 恭耶がそう呟くのとほとんど同時。
 足元に魔法陣が展開される。
 三角形を形作る線には特殊な文字が刻まれ、中心にはベルカを象徴する剣十字。
 角の部分には特殊な記号が刻まれた円状の魔法陣。
 その魔法陣は接近戦の魔法に特化したベルカ式の魔法陣。
「汝の軌跡に星の輝きあり。その軌跡は世界を切り裂く流星となり、世界に刻まれた軌跡が我が存在を証明する―――」
 魔法陣から無数の黒い球体が生まれ、恭耶の周囲をぐるぐると回り始める。
 その球体の軌跡は魔法の詠唱通りに少女が作った黒い塊を切り裂き、恭耶の身体を自由にした。
黒斬糸ライナーデッド・デアストリーム
 自由になった恭耶は少女に指を指して魔法を完成させる。
 黒い球体は尾を引きながら弾丸の様に勢い良く少女の方へ飛ぶ。
 少女は恭耶の動きを封じていた黒い物体を靄へと還し、槍に生成し直して射出。
 球体は向かってくる槍を回避しながらも引いた尾でそれを切り裂く。
 槍の中にも〈黒斬糸ライナーデッド・デアストリーム〉を回避して進んでくる物もあり、恭耶はそれを後ろに跳躍する事によって回避する。
 着地と同時に恭耶はそこで左手に握っていた棒状の物を右手に握る。
 それは恭耶が『孔鬼斬貫刀』と呼んでいる野太刀であった。
「唸りなさい―――孔鬼斬貫刀」
 〈黒斬糸ライナーデッド・デアストリーム〉の核である球体を潰して消滅させた空中の少女に恭耶は居合いの如く刀を引き抜く。
 空中にいる少女と恭耶には距離がある為に刃が届かないのは誰が考えても分かる事であった。
 そして次の瞬間に起きた予想外の現象に誰もが仰天したであろう。
 野太刀の所々に切れ目に似た物が入り、黒い魔力をワイヤーの代わりにして刃と刃を繋いだ連結刃となる。
 まるで指揮棒を振るうかのように『孔鬼斬貫刀』を握った腕を大きく振るう事で斬撃の軌道を不規則にする恭耶。
 射程範囲が伸びた連結刃は難なく届き、少女の服や羽を切り裂いた。
 翼を失った少女はぐしゃりと耳障りな音をた立てて地面へと堕ちる。
「さて、踊りましょうか」
 よろめきながら起き上がろうとする少女に恭耶は右目に手を当てて哂った。
「―――第一開放」
 足元に再び魔法陣が展開される。
 魔法陣の形状には何ら変化は見られないが、色が徐々に変化していった。
 黒い線がより濃厚な黒へと変わり、剣十字と角に描かれた円の中心にある記号が血のような赤に染まっていく。
 魔法陣の変化に呼応するかのように街灯の光に反射して輝いていた黒髪が光すら吸い込んでしまうような深い黒に変わる。
 右目を覆っていた手を徐々に頬の方へ下げていく恭耶。
 現れたのは鮮血や燃え上がる炎を思わせるような深紅の瞳。
「この状態は身体が疼く位、感情が高ぶるので御座います。だから―――」
 恭耶は履いているブーツの爪先で地面をトントンと蹴りながら淡々と言った。
「―――踊り殺されないで下さいませ」
 何気なく恭耶は足を前に踏み出す。
 少女の目がその姿を捉えたのはその一動だけであった。
 次の瞬間には少女の前から消え、次に恭耶の姿を捕らえた時には間合いを詰められていた。
 『孔鬼斬貫刀』の刃が少女へと近づく。
 咄嗟に少女は靄を集束して漆黒の壁を形成し、恭耶の振るう刃を防御する。
 しかし少女が展開した壁の向こうにいた恭耶は魔法を発動した。
「――穿糸スティング
 その銘が紡がれた瞬間、黒い靄の壁を黒い線が突き破り、少女の腕に突き刺さる。
 その痛みによって意識をそらされ、集束していた靄が霧散する。
 恭耶はその隙を見逃さずに少女へ切りかかった。
 咄嗟に少女は剣を生成してその刃をしのごうとするが、『孔鬼斬貫刀』はそれを物ともせずにその剣を切断。
 少女も一刀両断しようとするが、生存本能に従って後ろへ大きく跳んで回避。着ている服に切れ目が入る程度にとどまる。
 着地すると同時に少女のスカートがストンと落ちる。
 それによって太腿の間、内肌の付け根にある白い布地が露になる。
 しかし少女は自身の内股を隠そうとせず、ぼんやりと恭耶を見ている。
 戦闘をする意志はまだあるのか、足元に黒い靄が集まっていく。
 何かやばそうな予感がした恭耶は『孔鬼斬貫刀』を納刀して少女に突っ込む。
 射程範囲ギリギリまで接近して居合い抜きを行おうとした時。
 恭耶より先に少女がアクションを起こした。
「Корона Тьмы」
 紡がれた言葉に従うように黒い靄が円環となり、巨大な棘が全方位に突き出す。
 棘は周囲の建物や木々にも突き刺さり、周囲を損壊させていく。
 発動した状態の形状は少しは慣れて見ると、それはまるで王冠のようであった。
 突き上げるように出てきた棘に恭耶は軽々と打ち上げられる。
 そして棘が出現させる事で恭耶を突き上げた円環がガリガリと音を立てながら回転し始めた。
 まるでその棘を摩擦させて物体を切り刻むミキサーのように。
 恭耶はその回転する円環に落ち、突き出た棘によって腹部を削られて再び天高く打ち上げられる。
 高速で回転している円環にゆっくりと右手を突き出す少女。
 黒い円環は少女を傷つける前に靄へと帰り、新たなる形を作り出す。
 少女の手に握られているのは細長い定規みたいな物。
 その正体は打ち上げられている恭耶がよく知っている物。
 接近戦で扱われる武器の一つ。とある世界のとある国で作られた芸術品にして武器――。
 ―――刀。
 鞘を握るような形で握った左手で刀を入れ、右手は刀の柄を握る。
 恭耶が落ちて来た所で刀を握った右手を左から右へ振り抜いた。
「Молния в темноте」
 抜刀する事で切れた傷口から出た黒い血か靄か分からない物で滑らせた刃で落ちてきた恭耶を切る。
 その軌跡はまるで定規を当てたのごとく綺麗な一文字。
 右肩から左脇腹にかけて斜めに綺麗な直線が入れられる。
 それは少女が数時間前に交戦した和泉アサギが使う〈ブリッツ・リヒト・シュトライヒェン〉に酷似していた。
 恭耶はアサギの技を模倣した斬撃によって大きく吹き飛ばされる。
 恭耶は地面を五回ぐらいバウンドし、しばらく地面を転がる事で止まる。
 肩を押さえながら立ち上がった恭耶は呟く。
「う~ん。やっぱり学習しているのかしら……うくっ!?」
 状況を整理する為に呟く恭耶。頭に激痛が走ると同時に身体の力が一瞬だけ抜ける。
 元々、恭耶は体内にある魔力の量が普通の魔導師より少ない。
 数分前に行った『第一開放』によって恭耶は髪に圧縮させて溜め込んだ魔力を開放させたのだ。
 しかし圧縮した魔力を開放する時に気分が異常に高揚する上に、カートリッジと言う便利な物があるから身体に圧縮した魔力を無理に溜め込む必要が無いという二つの理由によって技術を使用する者は少ない。
 だが、そこまでしないといけないくらいまで恭耶は魔力の内臓量が少ない。
 そして今、髪に溜め込んでいた魔力が尽きた事が原因で一瞬だけ虚脱状態に陥ったのだ。
「はっ。ふっ……」
 深呼吸した『孔鬼斬貫刀』の柄を握り直して少女と対峙する恭耶。同時に激しい頭痛と一緒に本能が理性を押し退けて暴れ出そうとし始める。
 溢れ出すような感情が恭耶の頭と身体を激しく揺り動かす。
 気を抜いたら数秒も掛からずに恭耶を狂気へと誘うであろう。
 耳元で何者かが恭耶の力んだ心を溶かすかのように優しく囁く。
 自身の欲望をさらけ出し、本能のままに動けば良い。
 歯を食いしばりながら恭耶は少女の能力を悟った。
 狂気などの感情を周囲から無制限に集束させ、それを手足のように操る能力。
 少女と対峙した者は身体と心を蝕む狂気に耐えながら戦っていたと言う事になる。
 今、彼女と対峙している自分自身もこうなのだ。民間人がこの狂気に冒されたら大災害になる。
 そう思った恭耶は『孔鬼斬貫刀』を握りながら自身の身体に封じた魔力を開放していく。
「くっ。ふっ……第二、解、放…」
 右目の下に赤いラインが涙のように流れて、身体に広がっていく。
 恭耶は地面を蹴り、少女に接近する。
「我が輝きは星となりて、汝に突き刺さる。我が想いに星の輝きあり。その輝きが我が存在を世界に証明する―――」
 その詠唱に従い、左手に宿った分の魔力が小さな球体となって恭耶の周りを回し始める。
 少女は靄を集束させ、宙に無数の杭を生み出す。
 狙いは勿論、向かってくる恭耶。
 人間が発音するような言葉と違う音を合図に漆黒の杭は射出される。
 恭耶は大きく回旋させながら『孔鬼斬貫刀』を振り回して杭を切り払う。
 切り払われた杭は黒い靄を上げながら空気中に溶けていく。
 されど向かってくる恭耶に少女は再び靄を集束させて杭を生成。
 その隙に恭耶は魔力で脚部の運動能力を強化して大きく跳躍し、空中で月面宙返りしながら魔法を発動。
「――穿糸スティング
 恭耶の周囲に漂っていた球体は黒い針となって少女へと伸びる。
 しかしその針を少女は余裕で回避。
 それに恭耶はニヤリと笑って魔法の銘に一言付け加えた。
斬鞭ブレイドウィンド
 黒い線は鞭のようにしなり、刃となって少女に斬りかかる。
 生成された杭は恭耶の〈穿糸斬鞭スティング・ブレイドウィンド〉によってバラバラに切り刻まれ、少女の服すらも切り裂いた。
 恭耶が着地する頃には少女はほとんど全裸の状態で、肌に出来た無数の切り傷からは黒い靄が吹き出ていた。
「…左腕分消費ですか。これはごさ…うっ…」
 一息つこうとした瞬間、恭耶の身体が自身の意思に反して動こうと暴れだす。しかしどうにか意識で身体を押さえ込む。
 その隙を見て少女が恭耶の懐にするりと入り込み、右手を突き上げる。踏み込んだ脚がアスファルトの地面をトンと軽く鳴らす。
 同時に繰り出された掌底が少女の胸板を直撃する。
 それによって恭耶の身体は数秒間だけ宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられる。唯一の救いはギリギリで受身を取れたことだ。
 胸に射撃魔法を喰らったような痛みを感じつつ恭耶は起き上がろうとする。
「体術の模倣まで行うなんて……どこまで」
「Бешеные собаки」
 少女の傷口から出ていた靄が集束して犬の形を取り、起き上がろうとする恭耶を押し倒して噛み付いた。
 メイド服を貫いて恭耶の柔肉に牙が食い込む。傷口から狂気が流し込まれ、恭耶の思考を少しずつ溶かしていく。
 恭耶が動こうとするたびに犬の牙が身体に食い込み、身体の自由を奪っていった。
 しかし少女は傷口から黒い靄を噴出しながら恭耶を眺めている。
 その目からは感情が全く感じられなす、ただ見ているだけのような感じであった。
 嫌な予感がした恭耶は逃げようともがくが逃げる事は出来ない。
 黒い靄の濃度がある程度まで濃くなった所で少女は口を動かした。
「Дожди преступности」
 黒い靄は細い針となって恭耶に喰らい付いている犬ごと刺していく。
 その針が恭耶に降り注いで刺していく勢いはまるで豪雨。
 針は刺し傷から身体の中に溶けていく激痛と狂気で恭耶を蝕んでいく。
 肌は徐々に黒ずんでいき、身体も言う事を効かなくなっていく。
 恭耶は身体を動かせないまま、降り注ぐ黒い雨と自身の身体に美味しそうに噛んでいる犬を眺めていた。
 出血のせいで徐々に恭耶の身体が冷たくなっていく。
 まるで雨に打たれてずぶ濡れになっていくかのように。
 視界も少しずつ暗くなり、遂には闇に閉ざされてしまう。
 徐々に思考までもが緩慢になっていき、全てが闇に同化して溶けていく。
 恭耶の意識はここで途切れた。
「アはっ♪」
 黒い犬に身体中を貪るように噛み付かれ、黒い針の雨に身体を打たれている状態でありながらも、恭耶の口から楽しそうな笑い声が漏れた。
 恭耶はもう一度楽しそうな声を上げた。
「あhaはhaはぁっ!」
 そして真っ黒に染まった腕を震わせながらも上げ、噛み付いている黒い犬の首を掴む。
 果実を握り潰したような耳障りな音と共に犬の首はへし折られ、恭耶の身体には泥みたいな黒いな黒い物体をぶちまけられる。
 犬の首を握りつぶした腕を突き上げた状態で仰向けに倒れたまま恭耶は小さく呟いた。
「汝の軌跡に星の輝きあり。その軌跡は世界を切り裂く流星となり、世界に刻まれた軌跡が我が存在を証明する―――黒斬糸ライナーデッド・デアストリーム
 恭耶の腕の周りを黒い球体が強く発光しながら線を引く。
 球体は何度か地面をバウンドしつつも恭耶の周囲に線を引き、その線に沿って切れ目が入れられていく。
 あらかた破壊し終えた所で恭耶は起き上がる。
 その口は横にした三日月のような笑みで歪み、目は片目が白目と黒目が逆になっていた。
 露になった部分からは黒い線がタトゥーのように走っていた。
 噛み付かれた後をなぞりながら恭耶は言った。
「これが貴女の全力? もっと楽しませて下さいよぉ……欲求不満になっちゃうじゃないですかぁ」
 小さく赤い舌を艶かしく出し、履いているブーツで地面をトンと叩く恭耶。
 少女は咄嗟に待機させていた槍群を開放し、恭耶を狙ってそれを射出。
 破砕音を立てながら地面に槍が大量に突き刺さるが、恭耶の姿は無い。
「こちらですわぁ~。お嬢様っ♪」
 笑みを顔に貼り付けながらそう言った恭耶は少女の手首を左手で掴んで引き寄せ、『孔鬼斬貫刀』を握っている右腕の肘を少女の前腕に叩き込む事で恭耶は容赦なく骨を折る。
 グシャと言う耳障りな音と骨を壊す感触に恭耶は全く顔色一つ変えずに、そのまま腕を再び振り上げてから少女の腹部に『孔鬼斬貫刀』を突き入れた。
 腹部を焼かれるような激痛に少女の意識が一瞬だけ彼方に飛びかける。
 しかし恭耶は少女が気絶する事を許しなどしなかった。
 左拳を少女の鳩尾に捻じ込み、右腕に溜め込んでいた分の魔力を一気に開放する。
 ―――御神不破我流『破砕掌』
 それは集束した魔力で強化した拳を相手に叩き込む技であった。
 鳩尾を突かれる事で呼吸を止められ、〈破砕掌〉によって胸元で指向性の爆弾が炸裂したかの如き威力を叩き込まれた少女は吹き飛ばされる。
 だが恭耶は〈破砕掌〉で吹き飛ばされる少女より早く動き、背後に回る。
 少女の背後で片足に溜め込んでいた魔力を使用して魔法を発動。
 ―――影縫い。
 ―――御神不破我流『漆黒針』
 〈影縫い〉は影を媒介にして相手の動きを止める魔法。
 片や〈漆黒針〉は魔力を固めて針を作り出して射出する技であった。
 その発動に従い、影から黒い槍の状の物が射出され、飛針の姿を取った魔力が打ち出される。
 槍らしき物と針は頭部や胸部などの致命傷になる部分を避け、関節部や腹部に突き刺さった。
 少女が顔面から地面に叩きつけられて動けなくなろうとも、恭耶の攻撃は止む事無く続いていく。
 うつ伏せになった少女の背中をブーツで踏みつけ、恭耶は『孔鬼斬貫刀』を地面に突き刺す。
 『孔鬼斬貫刀』は難なく地面に突き刺さり、時には少女の身体に突き刺さる。
 傷口から黒い靄が噴出し、恭耶の顔に掛かる。
「きゃははは♪ たのしぃぃ~♪」
 そう良いながら楽しそうに笑う恭耶はまるで遊んでいるようであった。
 刃が突き刺さるたびに身体を強張らせて震える少女に恭耶は涎を垂らしながら笑う。
 既に先刻までの凛々しい恭耶と繋げるのは難しかった。
 恭耶は少女の片腕を掴んで強引に捻らせ、肩の関節部分に『孔鬼斬貫刀』を突っ込む。
 そして手首を動かす事で肩をえぐっていく。
 肩の肉が裂け、関節部分の骨をゴリゴリと削っていく感触が『孔鬼斬貫刀』を通して恭耶の手に伝わった。
 その感触が甘美であるかのように恭耶は涎をだらだらと流しながら笑う。
「ビクンビクンして気持ち良いの? 気持ち良いのね。もっとやってあげる」
 恭耶は肩の関節から『孔鬼斬貫刀』を抜き、その刃を何気なく振るった。
「っ!」
 振るわれた刃は少女の上腕の肉を削いだ。
 削がれた肉は飛んでいき、少し離れた所に落ちて靄へと帰る。
「ビクンと身体を震わせて…かわいっ」
 興奮で頬を紅潮させ、熱い吐息を漏らしながら恭耶は『孔鬼斬貫刀』を振るう。
 鋭い刃は少女の肉を豆腐か何かの様に削いでいった。
 真っ赤な血が周囲に飛び散る変わりに黒い靄が噴き出し、削がれた肉は黒い靄へと帰っていく。
 しかし四肢を吹き飛ばされた時のように腕の削がれた部分は修復されない。
 何故ならば少女が肉を削がれた腕を復元する速度よりも早く、恭耶が『孔鬼斬貫刀』を指揮棒の様に振るって肉を削いでいっているのだ。
 ざくろの中身を思わせるような赤い断面と真っ白な骨が覗く。
「楽しいですわぁ~。たまんないなあぁぁっ」
 無意識でだろうが、涙を流しながら身体を振るわせる少女を見て恭耶は笑った。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁ!」
 少女は手負いの獣を思えるような叫び声で吼える。
 靄が集束して無数の棘へと変わり、勢い良く恭耶を突き上げた。
 打ち上げられた恭耶は大きな放物線を描きながら、重力に従って地面に落下する。
 顔面から落下し、額から出血するがその激痛で恭耶は我に帰る。
 そして自身が少女の肉を裂き、骨を削った事が恭耶の脳裏に浮かび上がる。手にはその感触がまだ残っていた。
 恭耶は感触が残る右手をぎゅっと握り締め、血が出るのでは思うくらい唇を強く噛む。
 しかしその間にも恭耶の身体の中にある狂気が主導権を奪い取ろうと中で暴れている。
 恭耶は太腿に巻いたバンドにつけた飛針を抜き、自身の右上腕に突き刺した。その飛針は上腕を貫通して出血させる代わりに、恭耶の意識をより明白にさせる。
 右腕の痛みに耐えながら恭耶は『孔鬼斬貫刀』を握り、片足に溜め込んだ魔力でとある魔法を発動させる。
「我は請う」
 ミッドチルダ式でもベルカ式でも無い独特な形状の魔法陣が恭耶の足元に浮き上がる。
 まるで讃美歌を謳う様に呪文を紡ぎながら走り出す恭耶。
 少女は恭耶が走り出したのを合図に生成していた無数の巨大な黒い棘を射出。
「我が纏うは神を切り裂く疾風なり」
 そのフレーズが謳われると同時に奇妙な紋様が恭耶の全身に浮かび上がり、瞬時にその紋様は消え失せる。
 変わりに棘を蹴って移動する恭耶の速度が増していく。
 少女から見れば恭耶が瞬間移動をしているように見えたであろう。
「我が命により顕然せよ」
 吸収した周囲の魔力が恭耶の中で循環し、高速で恭耶の身体を強化していく。
 恭耶は大きく跳躍し、夜の空に袖をはためかせて舞いながらその命を紡いだ。
「―――不破の布」
 体内を循環する魔力と周囲の魔力が集束し、恭耶の服装が魔力で再構築される。
 その身に黒いシャツとスカートに纏い、その上に漆黒のロングコートを羽織る。
 スカートの下にはコートと同じ色の黒いガーターベルトとニーソックス。
 身体だけではなく、着ている服に紋様の様な赤いラインが入る。
 ―――不破の布。
 それは時空管理局諜報部に所属する三等陸士。幽霧霞諜報員が操る魔法の一つ、〈聖鎧布〉に自己解釈と創作を織り交ぜて模倣した魔法であった。
 ただし、幽霧霞の〈聖鎧布〉は聖人の身体をあらゆる災いから守った聖なる布の概念を基に作られた概念魔法。
 恭耶の〈不破の布〉は創作を加えてしまったせいで、幽霧霞の〈聖鎧布〉には幾分か劣っている。
 しかし恭耶の〈不破の布〉は創作によって特化された特性があった。
 服をはためかせながら恭耶は少女に向かって『孔鬼斬貫刀』を振り下ろした。
 しかし少女はそれをバックステップでかわす。
 少女が『孔鬼斬貫刀』を回避した途端、恭耶の姿が消える。
 次に少女が感じたのは、背後から切られるような感覚。
 背後に恭耶がいると思って振り向く少女だが、背後には誰もいない。
「こっちですよ」
 声と共に右腕を切られるのを感じた。
 次は右足。左足。左腕。再び背中。腹部。
 恭耶の姿が掴めないまま、少女はただ切り刻まれていく。
 身体を切られながら少女の口から言葉らしき物が漏れる。
「Корона Тьмы」
 紡がれた言葉に従うように黒い靄が円環となり、巨大な棘が全方位に突き出す。
 今度は幾重にも展開され、中心にいる少女を守るように展開されていく。
 棘は周囲の建物や木々にも突き刺さり、周囲を損壊させていく。
「くっ……!」
 悔しがるような声が聞こえて数秒後。
 地面を軽く踏む音と共に恭耶は少女から離れたい位置に着地する。
 恭耶の発動した〈不破の布〉の特性。
 それは身体に通された魔力で身体強化を行い、速度を限界まで上げている事。
 要するに〈不破の布〉は速度に特化された術式である事であった。
 とある国では『攻撃は最大の防御なり』という諺があるように、相手を瞬時に倒す事が出来れば―――その者は決して破られる事は無い。
 そういう考えの下で〈不破の布〉は生み出されたのであった。
 しかし―――防御が低いと言うのが〈不破の布〉の欠点であった。
 魔力を集束させる能力も備えてはいるのだが、それは全て速度を上げる事に回されている。だから恭耶が出来る事は少ない。
 しかし恭耶はその出来る事の一つを行使する。
 『孔鬼斬貫刀』を逆手に持ち、恭耶は自身の所属する部隊を率いる部隊長から習った魔法を詠唱する。
「この手に宿るのは私が持つ全てにして、残された栄光」
 それは時空管理局第二十一特殊編隊『ナイツ』の部隊長が過去に所属していた遊撃隊の一等陸尉が使っていた魔法。
「私はこの手に宿る栄光の灯を持って、私は自身が歩む道を征く」
 〈不破の布〉の効果も手伝って、周囲の魔力が『孔鬼斬貫刀』に集束していく。
 恭耶は魔力を『孔鬼斬貫刀』に集束させながら走り出す。
「ファング」
 集束した魔力で刃が白く輝く。
「オヴ」
 『孔鬼斬貫刀』の輝きが線となって空気に焼きつく。
「グローリィぃぃぃっ!」
 恭耶は魔力で身体能力を強化した足で跳躍し、空中で逆手に持った『孔鬼斬貫刀』を振り下ろした。
 白い刃の軌跡を描くように集束した魔力が一気に放出される。
 魔力が地面をえぐり、展開されていた結界と空を覆っている雲を割る。
 そして少女が幾重にも展開した回転する棘と恭耶の〈栄光の闘牙ファングオブグローリー〉がぶつかり合う。





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  • 2009-01-29
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